コネクト
「はあぁ……、何とかなったー…」
その場にしゃがんで大きく息を吐き、ホッと胸を撫で下ろす。
そんなオレに近寄って、声をかけてくる神崎。
「鳴上くん! すごかったよ!!」
オレの手を取り、神崎は満面の笑みをむける。
「鳴上?」
赤髪の子が首をかしげ、ボソッと呟く。
「俊貴、ありがとう。かなり無茶させちゃったみたいだけどね」
申し訳なさそうに笑う佳奈。
「気にすんな。」
「俊貴…?」
再び、首をかしげて小さく呟く。そして、ハッとした顔になった後、オレへと詰め寄る。
「あなた、名前はなんと言うんですか!」
言った言葉は疑問文なのに、なぜか確信も混ざったような強い口調で言う赤髪の子。
「名前? 鳴上俊貴だけど」
オレはその勢いに戸惑いながらも名前を言う。
「鳴上、俊貴…! やっぱり…」
オレの方を見て微笑む。
「そこの4人! 動かないで!!」
急に聞こえてきた声にオレ達は驚き振り返る。
そこには、6人組みでこちらへ向かってくる集団がいた。入口付近の大きな氷に戸惑ってむかってくる。その先頭に立ってこちらに向かってくる見覚えのある銀髪。風紀委員の向坂先輩だった。
「風紀委員…、魔術対策室か」
向坂先輩や他のメンバーが羽織っている白いコートを見て呟く。神崎に風紀委員の事を少し聞いていたため、コートを見ただけで判断できた。
「あなた達ね! 魔術で戦闘を起こしてたのは……、あれ!?」
向坂先輩がオレ達に気づき、驚いた顔をする。だが、流石は風紀委員と言ったところか。すぐに顔をキリッと真顔に戻す。
「鳴上俊貴、やはりあなたは問題を起こすんですね」
予想通り、オレに攻撃がきた。前に注意されたからな。要注意人物なんだよな、オレ。とりあえず反論を…
「えっとですね、今回は…」
「鳴上くんは悪く無いです! 向坂先輩!」
オレの反論を遮って、神崎がいち早く声をあげた。
「姫華!?」
まさか神崎から反論が来ると思ってなかったようで、向坂先輩がまた驚く。
「私と佳奈ちゃんとノエルちゃんがあの男の人達に狙われてたんです!」
と、神崎が氷付けにされてる男達の方を指差す。
先輩達もそっちを見て、またオレ達に視線を戻す。
「鳴上くんは、逃げようと思えば逃げれました。それでも逃げずに私達を守ろうとしてくれたんです!」
「そうですよ! 俊貴が居なかったら私達どうなってたか…」
佳奈が自分の体を抱いて身震いする。
「むぅ…」
先輩がジト目でオレの方をみる。相当警戒されてんだな、オレは。
「と…鳴上さんの事はいいから、彼らを捕まえるのがあなた達の優先すべき仕事じゃないんですか?」
赤髪の子が腕組をして先輩に言う。
「い、言われなくてもわかってます!」
先輩が後ろの仲間に指示を出し、氷をとかし始める。
「あ、とかしますよ」
オレは氷結を維持していた魔力を遮断して、氷を上からとかしていく。
すべての氷がとけ、衰弱した男達が地面に倒れる。倒れた男達をかかえて、風紀委員のメンバーはこの場所から出ていく。
「鳴上俊貴、次は反省文を書かせますからね!」
まだ言い足りないような表情をしていたが、オレを指で指し、再び警告する先輩。
「わかりました」
素直に頷くオレを、なぜかジト目で見る先輩。訝しげにオレの方を見て、ふんと鼻を鳴らし背を向ける先輩。そして、その場から出ていった。
「オレ達も帰ろう」
「うん!」
「そうね」
神崎達も頷き、オレ達はこの場所から出ていく。その後ろ姿を見送り、赤髪の女子は腕を組む。
「あ、勧誘するの忘れてた…」
*****************************************
翌日。
朝のニュースで昨日の事件の事を報道していた。破壊途中の工事現場で、男3人が現場付近の魔術大学の生徒3人を襲った。その生徒のうち、2名の女子生徒と男子生徒の契約していた精霊を拐おうとしたが、生徒らの抵抗にあい返り討ちにあった。彼らは、魔術都市の浮浪者の様で、金で雇われて犯行を行ったとのこと。その雇った者を現在、魔術対策室と警備隊で調査中らしい。
「…」
オレはそのニュースで疑問を持った。
魔術都市の魔術師で浮浪者は殆どいない。魔術が使える者は、軍や研究機関に優遇されて入れる。他にもギルドに入ったり、傭兵として雇われたりと職にあぶれることは殆どない。それなのに、浮浪者が3人。銀髪の男を対策室が見てない事もあって、銀髪の男の事は何も報道されてない。何か繋がりがあるはず。
それに、男達の雇い主だ。なぜ佳奈達を狙った? 理由が予想できない。魔術大学、魔術師、この魔術都市では珍しいものではない。なぜ、2人だった? いや、オレが知らないだけで他にも魔術師は拐われてたのか? たまたま2人が狙われたってだけなのかもしれない。女って事が、拐おうとした男達に重要だったのかもしれない。
「鳴上くーん!」
テレビを見ながら考えていたら、玄関の方からノックの音と呼ぶ声がした。
その声に、オレはハッと我にかえって立ち上がり、玄関へと向かいドアを開ける。
「おはよう、神崎。早くからどした?」
玄関の前に立っていたのは、神崎。最近知ったのだが、神崎の家からオレの家は近い。そのため、気軽に来なよーって言ったら、いきなり、しかも朝、家に来た。さすがに朝来ると思ってなかったため驚く。
「おはよう、鳴上くん。今日は2限からだったよね?」
「ん? あー、そうだね。今日は2限からだ」
とりあえず入る? と部屋の中に入るか聞くとニコニコ笑顔で、うん、と頷き、綺麗に靴を脱いで部屋にあがる神崎。
…着替えといてよかった。いつも、家を出るギリギリまでジャージやスウェットで、家を出るときに着替える。今日は何となく早めに着替えて洗濯を済ませておいた。これから早めに着替えとこう。
「あ、ニュース見てたんだ?」
テレビのニュースに気づき、聞いてくる神崎。
「うん、昨日の事件のね。」
「あぁ、なるほど。何かわかった?」
「いや、特には。何で2人を狙ったのかなぁ、と思ってたんだ」
「確かにそうだよね。鳴上くんは何で狙われなかったんだろう」
と、顎に指を添えて悩む神崎。
「さぁ? 男はいらないんじゃない? 神崎みたいなスタイル抜群で可愛い子を拐ってやりたかっただけ、とか…」
そう言い、ハッとして神崎の方を見る。鳴上くんもそういうこと考えるんだー、幻滅。みたいな事を言われるんじゃないかと焦る。
「そんな、スタイル抜群じゃないし、可愛くないよ!」
が、返ってきた神崎の返事は予想外のもので、頬を赤く染めて恥ずかしがっている。
「あ、あれ?」
思わず声に出して呟いていた。ま、まぁいいや。
「神崎はスタイル抜群で可愛いよ。嘘じゃない」
「あ…ぅ…」
胸元で指をいじり、さっきよりも照れ始める神崎。
あ、あれ? 真っ赤になっちゃった。
「としきー、ご飯はー?」
オレの部屋からノエルがパジャマのままフラフラしながら飛んできた。
「おはよう、ノエル。」
「ノエルちゃん、おはよう!」
オレ達にムニャムニャしながら、おはよーと返事をする。
オレは冷蔵庫へと移動して牛乳を取り出す。そして、鍋に牛乳を入れてコンロに乗せる。
「神崎もホットミルク飲む?」
「あ、じゃあ頂こうかな」
「あいよー」
あらかじめ2人分いれてたから、そのまま火にかける。
「ココアのがいいか?」
ふと、調理台にあったココアの袋が目に入り牛乳よりいいかな、と聞く。
「ココアのが嬉しいかな」
少し遠慮気味で言う神崎。
「じゃあ、ココアにしとくよ」
ココアの袋を取り、温まって湯気が出始めた牛乳を小さなマグカップに注ぐ。その小さなマグカップをノエルに渡す。
ありがとー、とホットミルクを飲むノエル。
オレはホットミルクにココアの素を入れて軽くかき混ぜる。それをマグカップに注いで、1杯神崎に持っていく。
「はい」
「ありがとう!」
ニコッと笑い、オレからココアを受けとる神崎。
オレは鍋の火を弱火にして、ノエルの朝御飯を作る。と言っても、用意はしてあるため後は器に入れて出すだけ。
「ほら、ごはんだよ」
ノエルに用意したご飯を出す。
「いただきまーす」
両手を合わせてからご飯を食べ始める。
オレはココアをカップに注ぎ、カップをもって神崎達の方に移動する。
「鳴上くん、ココアおいしいよ」
ニコッと微笑んで言う神崎。
「そうか、良かった」
オレも微笑んで言う。ただ、ココアは素を入れただけなんだけどな。
「んで、さっきの話だけど、どした? 何かあった?」
外で立ち話もなんだし、部屋で話そうと神崎を上がらせた時に、朝から来た理由を聞いたらそのままスルーされた。それを話が途切れた今聞く。
「特に理由はないよ。」
と、微笑む神崎。
「ただ、ちゃんと起きてるかな、と思って見に来ただけだよ」
「そっか、ありがとな。でも、朝はほとんど起きてるよ。習慣というか、癖で起きてるんだ」
姉のおかげで早い時間に起きれるようになっちゃってんだよね。
「そうなんだ? さすが鳴上くん。しっかりしてるね!」
感心、感心と満足そうにしてる神崎。
「そういう神崎だって、ちゃんと起きてるじゃん。」
おそらく、神崎のことだからオレよりも早く起きてる可能性だってある。
「私も習慣みたいな物だから…」
あはは、と照れた笑みを浮かべる。
「何か俊貴と姫ちゃんって、仲良いね」
ご飯を食べながら、オレ達のやりとりを見てたノエル。
「うん。鳴上くんは大切なお友達だもん」
神崎がニコッと笑う。
「…そ、そうだね。」
神崎とはちがうひきつった笑みのオレ。何か嬉しいようなショックなような…。
オレの複雑な心情に気づかない神崎は首をかしげて不思議そうにしていた。
**************************************
神崎と一緒に学校に行き、講義を受けて現在は夕方。帰ろうか、と佳奈、ひなたと話してた時に神崎と赤髪の子が合流した。赤髪の子は、昨日と違い、2人連れて来ていた。璃花といちごを連れている。
「えーと、昨日の?」
そう言えば名前を知らない。昨日突然現れたこの赤髪の子。どうやら騒ぎを聞き付けて来たみたいだけど、何もしてなかったような…。
「鳴上くんに用があるんだって」
神崎がオレの横に移動する。そういえば最近は佳奈じゃなくて神崎がよく横にいるなぁ。オレはそう思いながら、ふむと頷く。
「鳴上俊貴、今日はあなたを勧誘しに来たの!」
腰に手をあて胸を張る赤髪の子。
ふむ、でかい。オレは赤髪の子の胸を見てすぐ視線を顔へと戻す。
「勧誘ってサークルか何か?」
大学で勧誘って言ったらサークルぐらいだろう。
「ええ、私が作ったサークル‘コネクト’に入って欲しいの」
「コネクト?」
全然ピンと来ないオレとは違い、どことなく自慢気な赤髪の子。
「そうです! サークルの活動内容は、基本的に魔術大学の生徒からの依頼を受けて解決するというものです。」
「…何か漠然としすぎじゃないか? 依頼の内容を絞らないと探偵みたいな事までやらないとダメなんだぞ?」
「それは承知の上で申請して許可をもらってある。」
璃花が代わって答える。
「承知でって、そんな慈善団体みたいな事をやってなんの意味があるんだ?」
そもそも、生徒の不満等を解消するために大学にも生徒会がある。だから、新たにそんなサークルを作る必要性がない気がする。それともなにか他に目的があるのか?
「生徒会や風紀委員では、規則や手が回らないことがあって受けてもらえない依頼とかを私たちが代わりに受けるんだ。それで困ってる人を助けるのが、お嬢様の狙いだ。」
狙い?
確かに、生徒会や風紀委員だと内容によっては断られる。ペットの捜索とかな。
でも、そんな依頼を受けたって、報酬があるわけでもなし疲労が残るだけだ。あと評判が上がるぐらい…。
「…大学の依頼は評判稼ぎか」
「お、その通り。大学内で確かな実績と信頼を得て、ゆくゆくはこの魔術都市全体から依頼を受ける組織を作り出すのがお嬢様の考えだ」
璃花が満足そうに言う。
試しやがったな…
案の定、お嬢様も満足そうに笑みを浮かべている。しかも、当然とでも言いたげだ。
「ふふ、期待通りね。どう? 入ってくれる?」
「そうだな…。とりあえず、まだ聞きたいことがあるんだが、いいか?」
「何かしら?」
「オレをわざわざ勧誘しに来た理由。それと、評判を稼いで、大きな組織を作る理由が聞きたい」
少なくともオレとお嬢様は昨日初めて会ったばかりだ。お互いの事をまったく知らないのに勧誘に来るか? 目的も目的だ。生徒の依頼をこなし評判を稼ぐ。そしてゆくゆくは大きな組織として活動する、今現在は地ならしのようなものだ。それを今の学生のうちからやるってことは複雑な事情があるんだろう。だから喋らない可能性もあるが。
「じゃあ順番に、あなたを勧誘した理由からね。」
腕を組むお嬢様。
オレは頷く。
「鳴上俊貴、21歳、男。父母、姉妹の5人で仲良く生活していたが、後に子供たちだけとなる。家族で唯一の男で、姉妹をとても大事に思い、姉妹を守るために学生で習える攻撃魔術を四元素すべて理解し記憶、使用することができる。」
『!』
お嬢様の隣にいた璃花がオレの事を話始めた。
「魔術大学創設以来の秀才だが、本人にやる気を感じられず、成績は平均的。アマス教授のアマス研究室に所属し、同研究室の班長神崎姫華によって若干講義に出るようになる。」
それでもまだサボってるがな、と付け足す璃花。
「…」
うーん、どっから仕入れた情報なんだろう。こんな細かいとこまでどうやって…
オレが訝しげにしながらも、璃花はまだ続ける。
「現在、精霊ノエルと契約を交わしユニゾンに成功。得意な系統の水と風を主軸に、器用さと頭の回転の速さを活かした戦闘スタイル。で、戦闘もこなせて頭も働く鳴上を、いろんな依頼に対処するためにサークルへ勧誘した、というわけだ」
「なるほど。んで、どっから仕入れてきた情報?」
細かすぎる情報にオレはたまらず聞く。
「最近目立ちすぎたな。情報なんて掘ればドンドン出てくる」
ニッと笑う璃花。
「なるほど」
苦笑いする。確かに目立ってるな。風紀委員にも目をつけられてるし。
「次は、お嬢様の目的か。お嬢様は、問題の解決に風紀委員や警備隊の人達では間に合わないことがある。そのせいで、鳴上のように事件に巻き込まれる生徒たちが出てくる。それを防ぐためにサークルを立ち上げ、大学で評判を稼ぎ、大学を卒業後に1つの組織として新たに創立する。」
お嬢様は一言も答えれずに、璃花に答えられうる目になる。
「それだよ。なぜ大学卒業してからもそんな組織をわざわざ作りだすんだ? 魔術都市全土から依頼を受けるってことになるんだ。例えるならギルドと同じようなものだぞ」
「そう! それなの! 私はギルドを立ち上げたいの!」
ここぞとばかりにお嬢様が嬉しそうに言う。
「自分のギルドを立ち上げる必要があるのよ…」
が、すぐに声のトーンが落ち、表情もどこか曇る。
訳あり、か。お嬢様だけじゃなくいちごの表情も曇っている。なぜか璃花の表情は変わらないどころか少し笑ってる? この人表情わかんね。
「…ま、そっちの事情は知らないし、今は聞くつもりもないけど、いいよ。サークル入るよ。オレで力になれるんならなりたいし」
今話さないってことは話したくないってことだろうし、ここで深く聞くのは人としてだめだろ。
だが、オレの返事に驚く佳奈や神崎。
「入るの!?」
「おう、入るよ。だって面白そうだし」
「…はぁ」
佳奈は言うだけ無駄だ、と悟りため息をつく。
「ほんとにいいの?」
と、お嬢様が不安げな顔をする。
な、なんで不安げなんだ? いまいちこのお嬢様の性格がつかめないな。
「いいよ」
オレはニッと笑う。
「え? えっと…」
なぜかキョドリだす神崎。視線が定まらずあちこちに移る。何に戸惑ってるんだろう。
「どした?」
「な、鳴上くん良いの? 自由な時間が無くなっちゃうんだよ?」
不安げに言う神崎。あぁ、オレの心配してたのか。
「あぁ、問題ないよ。気にすんな」
心配させないために笑う。
神崎は、オレの顔を見て、むぅーと唸りながら眉間にシワを寄せる。
「…よし! 私も入れてください!」
意を決っしたのか、神崎はお嬢様の正面に立ちサークルに入部希望した。
「え?」
それが予想外だったのか、お嬢様はもちろん、オレと佳奈も驚く。神崎も前にサークルには入らないって言ってたのに、急に心変わりしたな。
「ダメ、だった?」
ガーン、と言う擬音が似合いそうな悲しげな表情になる神崎。
「いいえ、神崎さんが入ってくれるとこちらとしてもおいしいです。断る理由がありませんわ」
お嬢様がニッと笑い神崎もサークルに迎える。
「ありがとう!」
悲しげな顔から一転して満面の笑みに変わる。いえいえ、とお嬢様が微笑む。
「今日はまだ活動はしないわ。活動は明日からで、4限後にここに来て。それからコネクトとして活動していくから」
「明日の活動はサークルの宣伝だ」
「は?」
「え?」
呆然とするオレと神崎を尻目に、璃花達は手を振って歩いていってしまった。いちごは律儀に一礼してから歩いていく。
「…ホントにできたばっかってことか」
オレはため息をついた後、頭をかく。
「そうだね」
神崎も苦笑いする。
どうも。
最近、使ってたノーパソの調子がどうも悪いです。今までは割りとサクサク動いてたのに、最近では処理にすごく時間がかかってフリーズまでするようになりました。電化製品とかよくわからんけど買え時なのかな…。
とりあえず、コネクトロード更新しました。




