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問題児との決闘

 精霊ノエルと仮契約をして、襲撃者を撃退した次の日の朝。


 オレ、鳴上俊貴は面倒な事に巻き込まれた。

 いつも通り魔術大学に登校して、講義開始まで連れてきたノエルと話していたら4人の生徒に絡まれた。


「お前、昨日屋上で襲撃されたんだってな?」


 がたいのいい単髪で金髪の男がオレの正面の席に座る。その男の周りに男1人女2人の計3人が、ニヤニヤしながら立ってこちらを見てくる。


「そうだけど、何?」


 ノエルを掌の中に隠すようにして、4人から遠ざけ、露骨にめんどくさいと表情に出す。


「さっきのお前の精霊か?」


「そうだけど、何?」


 同じ言葉で返す。

 この4人は、他の生徒達と違い、なんと言うか浮いているのである。生徒は当たり前、先生にまで絡み、講義を中断させ、挙げ句のはてに攻撃魔法をイタズラに使い、講義室を半壊させた事がある。そのせいで、この講義に出る生徒は次第に少なくなり、先生もオドオドしだすようになった。

 オレと幼馴染みの佳奈はそんな事気にせず講義を受けていた。おそらく、自分達にビビらないオレ達が気に入らなかったんだろう。喧嘩を売るタイミングを計っていた時に、ちょうどよく襲撃される事件を起こした。チャンスと言わんばかりにこの4人はオレに絡んできた。


「何だお前。その精霊、契約してないんじゃないのか?だから、昨日襲われたんだろ?」


「っ!」


 まさにその通りで、契約してない精霊を連れていたために大学で襲撃事件を起こしてしまっていた。

 もう契約してるため、未契約な訳ではないがオレは、未契約で襲われたのが事実なため黙る。

 反論しないオレに更に言葉を続ける男。


「勘弁してくれよー。契約してない精霊を連れてて事件起こされて、講義の中断とかシャレになんねーんだけど」


 と、笑いながら言う。周りの3人も同じように笑う。


「…」


 実際、襲撃事件のせいでその日の講義は中止。生徒は帰宅させられた。こいつらはともかく、他の生徒に迷惑をかけたのは事実なため言い返せない。


「そういやぁ、いつも一緒の女はどうした?」


「…それが今なんの関係があるんだよ」


 オレは男をキッと睨み付ける。


「お前の女か?」


「違うけど」


「なら、俺が貰おう」


 下品な笑みを浮かべる男。


「は?何であんたにやらなきゃいけないのかわかんないんだけど」


 佳奈の事に、この男が干渉してきた事が無性に腹の立ったオレは、言葉を荒げる。


「お?何だ?その態度は。人様に迷惑かけといてそれはねーんじゃねぇの?」


 金髪の男の横に立っていた茶髪の男が会話に入ってきた。


「他の人にそれを言われたなら素直に謝る。でもあんたらに言われたくはない。さんざん皆の邪魔して、いざ自分らが同じ目に逢ったら文句を言う。まぁあんたらにそんな事言っても無駄か」


 はぁ、とため息をつきバレない様に魔法陣を足元に出現させる。4人とも黙らせるためにいい魔法があった。


「鳴上くん、ちょっといいかい?」


 オレが男2人に向けて魔法を使おうとした瞬間に、名前を呼ばれた。そのために、やむをえず魔法陣を消す。

 声のした方を見ると、いつのまにか先生が教壇に立っていた。オレに手招きをしている。


「ハハッ、説教でも食らってこいよ」


 馬鹿にするように嘲笑う男。


「…」


 オレは無言で男を睨み付けた後、先生の方へと歩き出す。その途中で、手の中からノエルを離す。

 ノエルはオレの横をフワフワ浮いてついてくる。


「鳴上くん、今のは良くないよ。彼らが気づいてなかったから良かったものの、気づいてたらどうなってたか…」


 と、心配そうに言う先生。

 オレは魔法を使おうとした事が、先生に気づかれた事に驚いた。


「ただ、君の腹も立つ気持ちもわかる」


「はぁ」


「だから、君たちのためにアリーナを貸しきろう!」


 と、急に大きな声で話し始める先生。


「は?何を言ってんだ?」


 その声と、アリーナという言葉に反応したのか金髪の男がこちらへと向かってきた。


「鳴上くんと、西門路くん。君たちで模擬戦を行おうと言ってるんだ」


「なっ!?」


「へー!たまにはおもしれーこと言うんだな」


 驚くオレをそっちのけて、金髪の男、西門路は面白がりノリ気だ。


「これはおもしれー!おい、お前が負けたら女はもらうからな!」


「ふざけるなっ!オレはやらない!!」


 何で佳奈を賭けて戦わないといけないんだ。佳奈は物じゃない。それに、本人がいないのにそんな事を決めるわけにはいかない。いたにしても、やるわけがない。


「ちょっと待ったぁ!」


 講義室のドアを勢いよく開けて、佳奈が入ってきた。


「その勝負受けるわ!俊貴が負けたら私はあんたの物になる。」


 外から聞いてたのか、佳奈がそう言い放つ。


「はぁ!? 何言ってるのかわかってるのか! お前は!!」


 オレは当然文句を言う。佳奈をこんな奴に渡したくはないため、当然の文句である。


「わかってるよ。で、あんたは何を賭けんのよ?俊貴は私を賭けるのに、あんたは何も賭けんのは卑怯よ」


 オレの方をチラッと見て微笑み、すぐに表情を戻して視線を西門路の方へと戻す。


「ふん。そうだな、俺は大学を辞めよう。まぁ、こんなサボり魔にやられる俺じゃねえから結果は見えてるがな」


 そう言って、高笑いする西門路。周りの連中も笑う。


「…?」


 ふと、肩までで切り揃えられた黒髪の1人の女が辛そうな顔をしてる事に気づくオレ。


「……!」


 その女子と目が合い、すぐに睨み付けられて視線を外される。

 これはめんどくさい事になったな。


「ちょっと! 聞いてたの!?」


 と、佳奈に頬をつねられる。


「い、いふぁい!」


 頬を引っ張られたまま怒られる。


「試合は今日の夕方5時から!場所はアリーナで!!」


「お、おう」


 オレは怒る佳奈に呆気にとられたまま返事をする。


「よし、では講義を始めよう」


 そう言って、先生が教科書を手にとる。

 それを見て、オレ達は席へと戻っていく。


「なんで受けたんだよ」


 オレは佳奈に文句を言う。正直納得いかない。


「何よ、負けるつもりはサラサラないくせに受けないなんてそれでもオトコなの?」


 と、今度はオレに文句を言ってきた。


「…お前を物みたいに賭けたくなかっただけだ」


 嘘はない。実際オレに対する事だったら悩まなかった。だが、オレではなく佳奈だった。それは流石にだまってなんていられない。


「それはありがとう。でも、あいつらを黙らせる良いチャンスよ。ここで黙らせなかったらあいつらはもっと調子に乗るわ。」


「それはそうかもしれんけど…」


 やっぱり納得はできない。オレの中では佳奈がかなり大事な存在になってるのかも。


「それに、あんたが負けるなんて微塵も思ってないしね!」


 ニコッとまぶしい笑顔を向けてくれる佳奈。

 その笑顔が、ウジウジと考えてたオレの気持ちを一蹴した。

 思わずドキッとして呆ける。


「私の運命はあんたに任せた!」


 ニコニコ笑顔でオレの肩を軽く叩く佳奈。


「はぁ…。わかったよ」


 これは何を言ってもしょうがない。いつもそうだ。この佳奈という幼馴染みは、オレの心配なんか関係なしに物事を決める。そしてその尻拭いをするのがオレの役目だ。いいさ、やってやる。あいつらにはお灸をすえるチャンスだしな。


 はぁ、とまたため息をつき気持ちを切り替える。そして、頭のなかで西門路を叩きのめすシミュレーションを始める。


「頼むね、俊貴…」


 オレには聞こえない声でボソッと呟いた佳奈。

 実は、内心かなり困惑していた。正直不安でしょうがない。俊貴の実力は知ってる。でも、不安なものは不安だ。


「俊貴に聞こえてないよ?」


 俊貴と佳奈の間に浮いてたノエルが、佳奈にだけ聞こえる声で言う。そんなことしなくても、オレの意識は脳内シミュレーションに集中してて聞いてない。


「おっと…、ノエルちゃんには聞こえてたか…」


 苦笑いする佳奈。


「良いんだ、聞こえてなくて。私は俊貴を信じてるし、俊貴は私のために頑張ってくれるから」


 えへへ、と照れ笑いする佳奈。


「確かに俊貴なら頑張ってくれそうだけど、いいの?自分を賞品みたいにしちゃって」


「うん、いいの。そうでもしないと、俊貴は本気で戦わないもの。」


「それに…」


 佳奈はノエルに顔を近づけて耳打ちする。


「…! それでこの講義を受けてるの?」


 ノエルは驚き混じりで言う。


「そうなの」


 クスッと笑う佳奈。

 チラッと俊貴を見るノエル。講義を全く聞かずにノートに何かを書きまくっている。脳内だけに留まれず、戦略までも考えはじめていた。


「じゃあ、今日は支援魔法の続きを…」


 準備のできた先生が講義を始めた。


*****************************************


 時間は5時前。空は夕やけで赤く染まって、夜へと変わろうとしていた。


 オレは大学のアリーナに来て、模擬戦を行う時間を待つ。


 アリーナは観客席が二階にある体育館と同じ様な構造をしている。だが、今はそこにはほとんど人がおらず、いるのは佳奈とノエル、そして、西門路の周りの三人がいるだけである。

 アリーナの競技場には、オレと西門路、審判の先生がひとりいる。


「おぉ?ジャージに着替えてやる気満々だな」


 私服のままの西門路が馬鹿にしたように笑う。


「服を汚したくないだけだ。あんたはそのまんまでいいのか?」


「ブハハハハ!俺の心配なんかして余裕だな!!」


 西門路が爆笑する。


「…」


 オレはそれを無視してチラッと観客席の方を見る。その視線の先には、佳奈ではなく西門路の取り巻きの黒髪の女だった。

 佳奈はその視線の先が自分じゃない事に気づきムッとする。そして、その視線の先が自分じゃない女の方で更にムッとする。


(…ここは普通私を見る所でしょ!)


 自分自身を賭けた佳奈。強がってるけど不安で一杯だし、気にしてほしかった。


「はぁ…」


 佳奈の心情に全く気づかないオレはため息をつく。

 先程見た彼女は片凪ひなた。西門路の事が好きらしい。

 でも、ひなたはオレに負けてくれと頼み込んできた。西門路の哀しむ顔が見たくない、と言ってきた。

 だが、オレはそういうわけにもいかない。佳奈のためにも負けるわけにはいかない。オレはその頼みを断った。

 しかし、さらに食い下がるひなた。佳奈の変わりに自分がなるから、と言い出し始めた。

 オレはそれを何とか断り、ここまで来た。


「うっ…」


 すんごい目でひなたに睨まれた。

 オレがおかしいのか?好きな人のために、自分を好きでもない人とくっつけて、役に立とうとする。愛の形は色々あるんだろうけど、オレにはどうも理解できない。


「はぁ…」


 オレはまたため息をつく。


「なんだ?自信がないのか?あぁん?」


 やる気満々で、西門路はズボンのポケットから魔法触媒である黒い指輪を取りだして指にはめる。そして、ドヤ顔をする。


 なんだコイツ。馬鹿なのか?


 オレはそのドヤ顔を無視して、金色の指輪を右の人差し指にはめる。


 それを見て確認した先生が、手に持った杖を上に掲げる。


「準備はいいかい、二人とも」


 オレは、またチラッとひなたの方を見る。


「…」


 うっ…、うる目になってるし…。

 と、とりあえず笑っとこう…


 オレは、ひなたにぎこちなく笑う。

 それをどうとったのか、ひなたはまばゆい笑顔を見せてくる。そして、佳奈は額に血管を浮かべる。

 オレはまた佳奈に気づかなかった。それどころか、ひなたの事しか考えてなかった。

 あぁ、勘違いされた気がする。


「おい!準備できてんのか?」


「うるさいな、できてるよ」


 人がお前のお付きのために考えてんのに何なんだお前は!

と、オレはイラつきを露にする。


「…」


 西門路はいきなりオレへと向かって突進してきた。


「西門路くん!まだ合図は」


「いいです!先生」


 オレは右へと跳んで距離を詰めさせず、更に距離をとる。


「!」


 西門路がそのまま真っ直ぐに突っ込んで、拳を思いきり空ぶる。


「…」


『…』


 急に始まり、全員が黙って見守り始める。


「へえ、反応はいいんだな」


 頭をかきながら振り返る西門路。

 だが、オレはすでに立てた戦略のどれをやるか考えていて聞いてない。

 よし、1つ様子を見てみよう。

 

「…今のなに?攻撃だった?遅すぎてただの移動かと思ったよ」


 ニヤニヤと笑いながら言う。


「あぁ?喧嘩売ってんのか?」


 案の定、西門路はイラつき食いついてきた。


「喧嘩?今その最中じゃないの?あぁ、でも今日は短距離の練習だったっけ?」


「てめえ!!」


 西門路が怒り出し、またオレへと突っ込んでくる。


「その顔、へこませてやらあ!!」


 西門路がオレの顔へと右の拳をぶつける。


 鈍い音がアリーナ中に響いた。


「まだまだぁ!」


 西門路がニッと笑い、オレの胸ぐらを掴み片手でオレの腹を殴る。

 更に、西門路はオレを右足で蹴り飛ばす。

 そして、右手を上に掲げる。


「俺の一発、食らっとけや!」


 西門路の足元に茶色の魔法陣が顕れ、右手に大きな石の槍が浮かぶ。


「あれは中級魔術!?」


 佳奈が驚き声をあげる。

 土系統の中級魔術‘石柱の槍’。学生が習う最も相手にダメージを与える事ができる魔術の1つで、初級、中級、上級の3つのクラスの真ん中。ただ、上級よりも上のクラスがあり、古代魔術、精霊魔術、霊神魔術等がある。精霊の使う物と、ユニゾンした時の魔術が精霊魔術にあたる。


「中級か…、だてに偉ぶって調子に乗ってるわけじゃないってことか」


 オレはゆっくりと立ち上がり、西門路を見る。ただ、昨日受けた頭の傷が開き、少し血が流れてきた。


「おら!食らえ!!」


 立ち上がって血を拭おうとした瞬間に、西門路が‘石柱の槍’をオレへと投げつける。


 オレは肩幅より少し広めに足を開き、両手を前に突き出す。そして、足元に青い魔法陣を顕して、対魔法障壁を張る。


 石柱の槍はオレの魔法陣に直撃。そのまま簡単に打ち消された。


「…なんだ、この程度か」


 オレは肩を回しながら、前へと歩く。


「お、俺の石柱の槍が簡単に防がれた…?」


 西門路が動揺を隠せずに呟く。


「片凪さん、さっきも言ったけど、オレは負ける気はないよ。佳奈を渡すわけにはいかない。だから、本気でやる」


 オレは観客席で見ているひなたに向けて声をかける。


「さっき?」


 佳奈が首をかしげる。ノエルも知らないよ、と首をかしげる。だが、俊貴が先程からひなたを気にしていた理由が何となくわかった。


「…」


 ジッとオレの方を見てくるひなた。


「オレが講義に出ない理由、教えてあげるよ」


 オレは西門路の方を振り返り、足元に青い魔法陣を顕す。


 そして、西門路へと右手を向ける。


「じゃあ、手始めに中級から」


 左手を上へと掲げた瞬間に、大きな氷の槍が掌の上に浮かぶ。さっき、西門路が使ったのと系統が違うだけの中級魔術。


「‘氷柱の槍’」


 その槍を西門路の方へと投げる。


「…!」


 氷の槍が西門路の真横を通りすぎ、そのままアリーナの床に突き刺さり床を凍らせる。西門路は微動だにせず、ゆっくりと氷の槍の方を見た。


「じゃあ、次は上級ね」


 今度は足元に緑の魔法陣が顕れる。


「上級!?」


 観客席でひなた達が驚く。

 俊貴の事をよく知ってる佳奈は自慢気な表情をする。ノエルはキョトンとしている。


「‘荒れる世界’」


 西門路の足元に緑色の魔法陣が顕れる。その魔法陣の範囲内にかまいたちを纏った竜巻が巻き起こる。


「う、うわあぁぁぁ!!」


 あっという間に西門路は竜巻に巻き込まれ、パニックになり叫ぶ。


「もういいかな」


 オレは竜巻がアリーナをぶち抜く前に解除する。


「はぁ…はぁ…」


 全身ボロボロの西門路はその場に膝をつき、オレを睨み付ける。


「ちょっと!あんたの男何なのよ!!」


 取り巻きの茶髪の女が佳奈に驚き気味で聞く。


「何って、学生で学べる攻撃魔術を俊貴は全部マスターしてる。それだけの話だよ」


「はぁ!?全部っておかしいでしょ!得意な系統はともかく他の系統まで理解してるって言うわけ?」


「理解はしてるって言ってた。でも、得意じゃない系統はやろうとすると疲れるからやらん、って言ってた」


「なによ、それ…」


 言ってる事が理解できない。いや、言ってる事はわかる。だが、全系統の上級魔術まで理解してる学生がいるなんて信じられない。

 取り巻き2人は呆然としながらアリーナを見下ろす。


 その取り巻き達とは逆に、ひなたは西門路の事よりも対戦者の俊貴の方に意識がいっていた。なぜか、俊貴が西門路に反撃してからずっと胸が高鳴りはじめている。


「あのさ、オレの得意な魔術って初級なんだよね」


 オレはまた青い魔法陣を足元に展開する。


「ひっ…」


 情けない声を出し、後ずさる西門路。


 そんな西門路の周りに、オレは氷のつぶてを無数に出現させる。


「な、なんて数だ…」


 審判である先生までもが、その氷のつぶての多さに唖然とする。

 確かに、今西門路を囲っている氷のつぶては初級魔術‘(あられ)’。名前の通り小さな氷のつぶを相手にぶつける魔術。対象指定で術者の周りから対象へと飛ぶのに対し、空間指定で指定した場所に粒を出現させて対象に飛ばす。


 だが、普通の‘霰’とは違い粒の大きさ、粒の数が倍以上ある。それに先生が驚いていた。


「わ、悪かった!許してくれっ!」


 無数の氷のつぶてに怖じ気つき、西門路が土下座で許しをこい始めた。


「……」


 オレは黙って西門路を見る。


「もう迷惑はかけない!だから、勘弁してくれ!!」


 西門路が必死に頭を下げる。


「なんだよ、アレ…」


 西門路の情けない姿を見て、付き人二人は完全に西門路を見限った。


「はぁ…」


 オレはため息をつき、魔法陣を切り替える。それにより、西門路の周りに浮いていた氷のつぶてがその場から消える。


「先生、試合終了です」


 オレは先生の方を向いて言う。


「は、はい。では勝」


「んなわけねーだろ!」


 先生の言葉を遮り、西門路が‘石柱の槍’を使おうと魔法陣を顕す。


「遅い」


 それを予想していたオレは、再び西門路を囲むように氷のつぶてを顕す。


「は?」


 思わずすっとんきょうな声をあげる西門路。


「‘氷雨(ひょう)’」


 オレはそんな西門路を無視して、周りに浮かんでいた無数の氷のつぶてを、一斉に西門路へと放つ。


「う、うわあぁぁぁ!」


 断末魔が如く悲鳴をあげてその場に倒れる西門路。


 オレの放った‘氷雨’は西門路の周りを囲んで床に突き刺さる。


「……」


 西門路は完全に今ので気絶してしまった。

 オレは無言で先生の方を見る。

 先生もオレに気づき頷く。


「勝負あり!勝者、鳴上俊貴!!」


 そういって、杖を高く掲げる。


「やったー!!」


 佳奈とノエルが観客席からオレの方へ、‘浮遊’を使って降りてきた。


「さすが俊貴! 信じてたよ!!」


 ニコニコ笑顔の佳奈。


「お前はいつもそればっかだな」


 問題を解決した後、必ずこのニコニコ笑顔でそう言う佳奈。それに慣れてしまってるオレは苦笑いする。

 だが、1つ認識したことがある。

 それは、佳奈をとても大事に想ってる事。戦ってる最中に、なぜ必死にオレは戦ってるんだろう、と考えた。答えは簡単。佳奈が大事だから。

 ただ、今はノエルも大事だ。たぶん、大事なものはどんどん増える、そんな気がする。


「あーぁ、何だよ。あいつ全然大したことねーよ。おい、行こうぜ」


 茶髪の男が気絶した西門路を見て呆れ、ひなたともう一人を連れてアリーナから出ていった。


 オレはチラッとひなたを見るが、こちらを見ることなく出ていった。


「三人とも、西門路くんは私が運んでおくからもう帰ってもいいよ」


 そういって、先生は西門路に‘浮遊’をかけて運び始める。


「じゃあ、お疲れさまでした」


 オレと佳奈、ノエルも先生に挨拶してアリーナから出ていった。


*****************************************


 アリーナから出たら、ひなたが外で待っていた。オレ達に気づき、こちらへと向かってくる。


「鳴上くん」


 ひなたはうつむいてオレの名前を呼ぶ。


「は、はい…。何でしょうか…」


 文句言われる覚悟をしてオレはひなたを見る。


「ごめんなさい!」


 が、オレの予想とは違いひなたは文句でなく謝罪をしてきた。


「はい?」


 ペコッと頭を下げるひなたに唖然とするオレ。


「あんなお願いしてごめん!あたしどうかしてたのかもしれない。あんなやつのために…」


 ひなたはしゅんと落ち込んでしまった。


 オレ達は戸惑いつつ顔を見合わせる。


「えっと、気にすることはないと思うよ。それに、無理にオレと一緒にいる事にもならならずに済んだし」


 あはは、と苦笑いするオレ。


「あ、その事なんだけど…」


 ひなたが気まずそうにモジモジしながら言う。チラチラと視線をオレに向けてくる。


「?」


 オレ達はキョトンとする。


「その…、あたし、鳴上くんと一緒に居たいなぁって思ったんだけど、ダメ?」


 上目使い、頬を赤く染めて聞いてくるひなた。


「むっ…」


 佳奈がそれにムッとして、オレを睨み付ける。


「別に構わないけど、急にどうして?」


 オレはさらっと頷く。佳奈は更に不機嫌になる。


「ホントに!? ありがとう!!」


 ひなたが満面の笑みを見せてくれる。

 オレは思わずその笑顔に見とれる。


「じゃ、今日はごめんね。ありがとー!」


 と、爽やかに走り去っていくひなた。

 オレはボーッとしたまま手を振って、それを見送る。


「…良かったわね。可愛い子がこれから一緒にいてくれるって」


 いつもより低い佳奈の声が後ろから聞こえてきた。


「お、おう。」


 オレはぎこちなく後ろを振り返る。


「さーて、帰ろっと」


 オレを無視して佳奈は歩き出した。なぜか、ノエルを肩に乗せたままで。


「お、おい、待ってよ!」


 オレは慌てて2人の後についていく。


(…まぁ、今回はいいか。私のために頑張ってくれたし、あの子ぐらいは)


 ふぅ、と小さくため息をつく佳奈。


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