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ユニゾン

 食事を終えて、オレは自分が使った皿と精霊の使った皿を洗うためにキッチンに立つ。


 精霊の方をチラッと見てみる。机の端の方に座って足をブラブラさせている。


 …可愛いな

 思わずそれに癒される。


「ん?」


 オレの視線に気づいたのか、顔を上げて視線が合う。

 ドキッとしながらも、慌てて視線を手元に戻す。


(何だろう。あの人ほんとに今まで見た人と違う気がする)


 傷の治療してくれて、ご飯もくれた。ご飯もわざわざ、私用に小さくしてくれたし。


 オレは洗い物を終えて、水を払ってタオルでふき精霊のもとに戻る。


「ねぇ、聞いてもいいか?」


 座布団の上に座り、精霊に聞く。


 わざわざオレの方を向いてくれた精霊。


 少し警戒を解いてくれたのかな。


「良いですよ。何です?」


 首をかしげる精霊。


「どうして怪我して、木に引っ掛かってたの?それに、傷に残ってた魔方の痕跡。あれは何?」


「あ、えと…」


「あぁ、ごめんね。一辺に聞きすぎたか。…えと、なんで怪我してたの?」


 一辺に聞きすぎたのか、精霊が困った顔をしたため謝り1つだけ聞いた。


「契約を無理矢理結ぼうとした人間に襲われたんです。それで、逃げてる途中に落とされて、落ちた先が魔術都市だったんです」


「無理矢理契約を?」


 なんてヤツだ。

 精霊と契約を結ぶ。それには正規のもので、精霊に認められた者が契約を結ぶ方法と、無理矢理力でねじ伏せて契約をさせる方法がある。後者は、信頼関係が生まれないせいで、色々と支障がでるためやってはならない事と、授業で教わった。それが発覚したら、身柄を拘束されて捕まり監獄に送られる。

 聞いた話だと、無理矢理の契約では、契約の印を結べずにいずれ精霊が消滅するらしい。


「はい。私と契約をしようといきなり攻撃されたんです。私はそもそも力も強くないし、契約を結んでも逆に足手まといになるかもしれないのに」


 しゅんとして落ち込んでしまった。


「…優しいんだね。無理矢理契約を結ぼうとした相手にまで気を使うなんて」


「でも、私はいきなり攻撃してくる人と契約を結ぶつもりはないんで、逃げたんですけど追ってきて、この傷を受けたんです」


 包帯を巻かれた右腕を見せる精霊。


「あの魔力の痕跡は何だったの?」


 治療する前の右腕の傷に残っていたドス黒い魔力の痕跡。黒い色の魔力は、四元素の枠に入らない‘闇’。‘光’と相対する系統で、破壊を象徴するのが闇。再生を象徴するのは光。

 ただ、扱うことができる人間は限られている。


「お気づきの通り、あれは闇の魔力によってつけられた傷です。かすっただけだったんですが、あれだけの傷と痕跡が残ってたんで、相当な力を持ってるんじゃないかと思います」


「だね。治癒魔法が効きにくかったし、殺傷能力を高めてあったみたいでかすり傷とは思えない傷だった。闇系統を自分で改良できるのはかなりの力量だよ」


 四元素とは違い、効果も威力も段違いなぶん、扱うのが難しい2系統。それを自分でカスタマイズしているということは、それだけの腕があることを示している。


「あ、そういえば会った時から魔力があんまり回復してないみたいだけど、その傷のせいでもあるのかな」


「たぶん、そうだと思います。」


 ううむ、そうだとすると外に出すわけにはいかないな。また襲われて契約させられるかもしれないし。でも、一人で留守番させるのも怖いな。


「あのさ、よかったらだけど、魔力が回復するまでここにいる?」


「え?」


「今の状態で外に出すのは心配だし、怪我も治ってないから。でも、嫌なら無理にとは言わないよ」


 ここ、魔術都市なら魔法使いが一杯いて魔力を感知されることはまずないはずだ。


「…」


 オレの顔をジッと見てから視線を足元にうつす。


(確かに、今の弱った魔力と体力じゃ危ないかも。それに、この人優しそうだし、少しは信じられる)


「め、迷惑じゃないですか?」


 不安げに上目使いで見上げてくる精霊。


「大丈夫!オレは迷惑なんて思ってないよ。」


 ニッと笑う。


「じゃ、じゃあお言葉に甘えてもいいですか?」


 もじもじしながらハンカチを持ち上げて聞いてくる精霊。


「いいよ。あ、オレは鳴上俊貴って言うんだ。よろしく」


 自己紹介してないため、今さらながら自己紹介。


「私はノエルです。よろしくお願いします鳴上さん」


 わざわざ同じ目線になるように浮き上がってお辞儀する。


 可愛いな。


「あー、名前で良いよ。鳴上ってちょっと言いにくいでしょ」


「そうですか、わかりました。じゃあ、俊貴」


「おう」


 呼び捨て…、まぁいいか。


 苦笑いしながら頬をかく。


「私も1つ聞いていいですか?」


 ノエルが不安気に聞く。


「いいよ。なに?」


 オレは優しく微笑む。


「俊貴は一人暮らしなんですか?見た感じ誰か一緒に暮らしてる気がするんですが」


 ノエルがキョロキョロと部屋を見渡して言う。


 確かに、一人暮らしとは違う部屋の雰囲気だよな。オレだけなら観葉植物とか買わないし、このソファも買わなかった。リビングの横の部屋なんて女物ってすぐわかるようなぬいぐるみとか、カーペット(ピンク)の色してるしな。


「姉と妹がいるんだよ。今は出てていないけど」


 姉は仕事で今はいない。妹は学校の寮で生活してて今はここに住んでない。実質姉と二人暮らし。


「いいんですか?私がいても」


「いいよ。気にしすぎだよノエルは。それに、二人ともすぐノエルを気に入ると思うし」


 それは励ましとか抜きで言える事だ。


「そうなんですか?」


「そう。だから気にすんな」


 オレはニッと笑う。それを見てノエルもえへへと笑ってくれた。


 窓から見えるその光景を、向かいの建物の上で見下ろす男がいた。


「…主に巡り会ったのか?」


 笑顔で話し合う2人をしばらく見てから、男はその場を後にした。


*****************************************


 翌日。

 カバンにノエルをいれて、大学に向かう。


 家で留守番させようとも思ったけど、襲われたって言ってたからまた狙われないとも限らないし、念のため連れてきた。っても、オレと一緒でも対した事できないんだけどな。戦闘も自信がないわけじゃないけど、所詮学生。そこまでできる訳じゃない。


「俊貴ー、暗いですー…」


 カバンの隙間から顔をヒョコっと出して文句を言うノエル。


「ちょっとだけ我慢してくれ」


 苦笑いして中に戻るよう促す。


 未契約の精霊をつれてるなんてバレたら、なに言われるかわかんないし。


「おはよう俊貴」


 講義室の後ろの席でノエルを隠そうとしてたら、横に佳奈が来た。


「おう、おはよう」


 ドキッとしたが、カバンを足元に隠すように置いて平静を装う。


 やべ、連れてきたの失敗だったかも。


 今ごろになって後悔する。


「どうしたの?何か変よ」


 ぎこちなく返事を返したオレを不思議そうに見る佳奈。


「べ、別に変じゃないよ。」


「…ふーん、まぁいいけどね」


 自分のカバンから教科書等を取りだし始めた佳奈。


 オレも授業の準備するか。


 教科書等を出そうとカバンを開ける。

 中にいたノエルが嬉しそうに顔をあげた。


「出ていいの?」


「ダメだって!」


 バレないようにこそこそ話す。


「?」


 カバンに向かって何かしてるオレを不思議そうに見る佳奈。


「ぶぅ…、しょうがないなぁ」


 頬を膨らませて、教科書等を差し出してくれるノエル。

 ありがとな、と小さくお礼をいって教科書を受け取り机の上に置く。


 はぁ、とため息をつき頭を抱える。


 どうしよう。精霊の魔力の回復って、確か系統にあった場所にいると早く回復するって聞いたな。あとは、契約者がその魔力を補うとかま聞いたけど、ノエルは契約者いないし、何の系統か聞き忘れたからわかんない。

 見た感じ、光の精霊っぽいし、後で屋上に行こう。って、屋上でいいのか?日光がよく当たるし、いいか。


 と、適当に考えて講義終わったら屋上に行くのを決めた。

 そこへ、先生が入ってきて講義が始まった。


*****************************************


 昼の放課。

 いつもどおり屋上に移動してベンチに座るオレと佳奈。


 うかつだった…、佳奈もついてくるに決まってんのに。


 ノエルを光合成?させようと思って屋上に来たが、佳奈がいるのを忘れていた。


「俊貴ー、出てもいい?」


『え?』


 急にカバンの中からノエルが顔を出してきた。ノエルは授業中に眠っていたから、今起きたんだろう。そのまま顔を出して、佳奈の顔を見て慌ててカバンに隠れた。

 それにオレと佳奈は、2人して唖然とする。


 が、先に我に返ったオレは慌ててカバンを掴み、背中に隠して佳奈の方を振り返る。


「こ、これはその…」


 なにか言い訳を…


「今のって、精霊?」


 これは誤魔化せないか。


「…ああ。精霊だ。弱ってるのをたまたま見つけて治療して保護してる」


「見せて」


「ん」


 カバンに手を突っ込み、掌にノエルを乗せる。

ノエルは怖いのか、オレの指にしがみつく。


 そして、そのまま佳奈の前にノエルを出して見せる。


「わぁ!初めて精霊を見た!!」


「ひっ!?」


 急に大きな声を出されたせいで、ノエルがビビり、飛んでオレの頭の後ろに隠れた。


「あらら…、怖がられちゃった」


「そりゃビックリするだろ。ほら、ノエルおいで」


「うん」


 オレには慣れてくれたみたいで平気なのだが、やはり初めて見た佳奈には戸惑っているようだ。


「契約は?」


「してないよ。ただ治療しただけで、元気になるまで面倒見てるだけ。それに」


「契約していないだと?だったら、その精霊をこちらに渡せ」


『!?』


 3人が声のした方に振り返ると、コンバットナイフを手に持った男が1人立っていた。


 赤毛の短髪で、眼鏡をかけている男が俊貴の顔の横に浮かんでいるノエルを見る。


 チラッとノエルの方を見ると、怯えたように震えて顔が青くなっていた。恐怖を感じてるようだ。


「…」


 ノエルの前に歩みでて、壁になる。


「何のつもりだ?」


「悪いけど、あんたに渡す訳にはいかない」


「何故だ?」


「あんたを見てノエルは震えてる。怯えてんだよ。悪いけど、あんたにノエルを渡しても良いことはないって判断したから渡さない」


「ふん。では、奪うまでだ」


 ナイフをオレに向けて、睨み付けてくる。


 それに身構えるオレ。


 が、次の瞬間にオレの視界は揺らぎフェンスに打ち付けられていた。


な、何をされた?


 頭を抱えて目を開けると、オレのいた場所に男がいた。自分の手を見ると赤く血が付いている。頭が少し切れたようだ。痛みで少し集中するのを阻害される。

 オレは、怯えてしゃがみこむ佳奈の方を見る。

 男の目の前に、全身を震わせてオレの方を見るノエルがいた。


「くっ…、ノエル…」


 青い魔法陣を足元に出現させて、男に人差し指を向ける。

 頭がくらくらして演算ができないため、指で対象を指定。


 氷のつぶてを男へと向けて放つ。


「…ふん、ろくに戦った事のない者が私を攻撃しようとはな」


 男が左手を体の前に出した瞬間、対魔法障壁の魔法陣が出現し氷のつぶてを防ぐ。


「…」


 どうする、明らかに力量差があるし本調子じゃない。このままじゃやられる。


 立ち上がり、男の方を見る。


「邪魔するのか?」


「邪魔、するよ。ノエルが怯えてる。あんたについてくことを望んでない。だから、ノエルの意思のためにオレは邪魔する」


 足元に今度は緑の魔法陣を顕わす。

 今度は風。


「ふむ、2系統か。まあまあだな」


 ナイフを逆手に持ち、オレに向けてくる。


「だが、時間はやらん」


「!」


 今度はちゃんと目で追えた。

 ナイフを振り抜こうとしてきたのが見えたため、しゃがんでそれをかわす。


「!…ふん」


 男はすぐに足払いをしてきた。


「っ…」


 それをバックステップでかわし、男に掌を向ける。

 次の瞬間に、強烈な風が男へと吹きフェンスへと叩きつける。


「ぐっ!…風のが得意、か」


 その隙に、オレは佳奈とノエルの元に移動。

佳奈を立たせた。


「オレが何とか時間稼ぐから、先生たち呼んできてくれ」


 足元に今度は青い魔法陣を顕して、男の方を見る。


 そして、男の足元を凍らせる。

 パキパキと音をたてて、男の足が凍っていく。


「氷結魔法!チッ…、思ったより厄介な!それにこの速度…」


 ランク2の魔術師が使える氷結の速度じゃない。

 ふと、気づく。気温が低い。冷たい風が足下から上へと吹いてきていることに。それにより、氷結が早い。


「佳奈早く!」


「う、うん!」


 佳奈は慌てて屋上から出ていった。


「女を逃がしたか。魔法の使い方といい、利口ではあるな。だが!」


 男が足元に黒い魔法陣を顕した。


 そのせいか、氷結の速度が遅くなった。

 レジスト?でも、レジストっぽくないし、あの黒い魔法陣、もしかしたら闇系統っぽい。

 だとしたら…


 更に氷結にかける魔力を増やす。

 このままじゃ時間を稼げない。


「!更に強めただと…」


 肩で息をするオレ。

 魔力は平均より上だけど、それほど強くはない。

 きっついな。


「と、俊貴…」


 ノエルが隣に飛んできた。


「大丈夫、絶対にあの男には渡さない。だから、ここは任せて」


 疲労しつつも不安にさせまいと微笑むが、余裕がない。


(なんでこの人はここまで必死にまもってくれるんだろう…)


 ノエルは俊貴に対する感情が強まってきた。


「この程度っ!!」


 男が無理矢理、オレの氷結魔法を打ち破った。氷の破片が屋上に飛び散る。


「ただの学生と侮ったが、これ以上好きにはさせん!!」


 男がナイフに魔力を注ぎ込む。それにより、ナイフが黒いオーラを纏い、刃が倍程の長さになる。


「破られた…」


 一気に疲労がオレに襲いかかる。


「ふん、魔力が尽きたか?ここまでのようだな」


 ゆっくりとオレの方に近寄ってくる男。


「最後のチャンスだ。生きたいなら精霊を渡せ。」


 オレの首にナイフから伸びた魔力の刃を突きつける。


「…断る」


 一度すーはー、と深く呼吸をして答える。


「じゃあ、殺してから精霊を頂いていこう」


 男がナイフを一気に振り抜こうとした。

 死を覚悟して目をつむる。


「!」


 が、その刃はオレに振られなかった。

 そっと目を開けると、刃は途中で止められていた。

 ノエルがオレの前に立ち塞がっていて、盾となっていた。


「ノ、ノエル…」


「どういうつもりだ?この人間を守るのか?」


 オレからは見えないが、ノエルは恐怖で震えて涙を溜めながら男を睨み付けていた。


「この人は死なせない!今まで会った人間とは違う、私を道具として見ない、対等に扱ってくれたこの人は死なせない!!」


 恐怖で声が震えてるが、言いたいことをちゃんと言い放つノエル。

 その意思を感じとるオレは、そっと地面に手をつく。まだやれることはある。


「…精霊が道具じゃない?何を言っている。精霊は魔力を増幅させる道具だ。それ以上でも以下でもない」


 男が今度はノエルの細い首筋に刃をたてる。


 精霊は契約者に力を与える。そのため、魔力が増幅し、火の精霊なら火の、水の精霊なら水の系統が強くなる。ただ、全ての人間がそうなるとは限らず、波長が合わなければ力を100%引き出せず、下手したら精霊の力に体がもたずに消滅する場合もある。

 それに誰でも精霊と契約することはできない。

精霊と契約できるのは、限られた人間のみ。召喚魔術が使える者や、その召喚魔術師の血縁、適性のあるものでないと精霊と契約すらできない。契約できる人間でも、精霊に認められないといけないので、精霊を使役できる人間は少ない。


 ただ、使える人間が少なくても、精霊は力の弱い微精霊も含めて死んでも森や湖があるかぎり産まれてくるため替えの効く道具として扱われる事が多い。それを嫌がっているため精霊は人を試す。だが、傲慢な者は自分のために精霊を犠牲にして、新たな精霊を得ようとする。


 ノエルもそれを知ってるから、人間に恐怖を感じ接近を拒む。


「どけ」


「どきません!」


 だが、ノエルはオレの前からどかない。怖いはずの人間を庇う行為に出ている。守ろうとしてくれる。それがオレには嬉しかった。

 だから、オレはノエルを守る。怖い人間を、オレを守ろうとしてくれるノエルを失いたくない。


「貫け!」


「なにっ!? 」


 急に氷の槍が地面から出現し、男の腹を突き刺す。


「俊貴!」


「ノエル!」


 ノエルを自分のもとに引き寄せ、すぐに足元に青い魔法陣を出現させて男に手を向ける。


 男の周りに氷霧が舞い始めた。

 空間を氷結させる魔法。


「凍てつけ!」


 男に向けた手をギュッと握る。


 その瞬間に、氷霧が一気に冷えて男の周りの空間ごと氷で閉じ込めた。


 ただ、オレの魔力は限界に近かった。

 それを維持するのに一杯一杯になっていた。


「大丈夫?」


 不安げにオレの前に来たノエル。


「…何とかね。後は、先生が来るまで氷を維持するだけ。だから、大丈夫」


 呼吸が荒い事に気づくが、ニッと笑う。


「…」


 それをまだ不安げに見るノエル。


(この人なら…、俊貴なら私は…)


 ギュッと胸元に持ってきた手を握り、意思を固めるノエル。


 俊貴なら信頼できる。道具として扱わない俊貴なら契約してもいい。


「俊貴、その氷の維持、私も手伝うよ」


 不安げな顔から一転して真剣な表情でオレを見てきた。


「…どうやって?」


 方法はわかってる。でも、それはノエルにとって一生の選択。確認として、聞く。


「私と契約してユニゾンする。俊貴なら信じられる。俊貴なら力をあげてもいい。だから、契約して私に手伝わ」


「そうはさせん」


「!っ…ノエル…」


 オレは、氷を破ってこちらへと向かってくる男からノエルを守るように掌で包む。


「俊貴っ!」


 ノエルが声をあげる。


「ぐあっ!」


 オレは男に思いきり蹴られ、コンクリートを転がってフェンスにぶつかる。更に、ナイフでオレの左腕を切り裂く。


「うああっ!」


「俊貴っ!!」


 激痛に声をあげるオレを何とかしようと掌の中でもがくノエル。


「契約はさせん。貴様を消す」


「はぁ…はぁ…っ」


 再び男がナイフを構えて黒い刃を伸ばす。オレはもう限界が近かった。氷結維持に集中するために魔力を余計に消費したことと、左腕の傷で意識か乱される。


 このままじゃ助けれない。ノエルを助けれない。契約…。契約を結べばノエルを救える?なら、オレは契約を結ぶ。


(俊貴を助ける。私のために傷ついて欲しくない!俊貴を守るっ!!)


 ノエルを助けるために契約すると想うオレと、オレを助けようと強く想うノエル。

 二人の波長がその瞬間に混じり合う。そして俊貴を強い光が包み込む。


「これは、契約の光!?」


 男が慌ててナイフをオレの方へと振り抜く。


「…」


 光を切り裂くように黒い刃が通りすぎる。


 だが、光がおさまった時その場に俊貴が立っていた。怪我は負ってない。黒い刃は俊貴に当たっていなかったようだ。

 

 しかし、俊貴の様子は違った。黒い髪が銀色になり、黒い瞳が青くなっていた。さらに、服装も変わっていた。白いシャツに黒いカーディガンだったのが、黒いインナーと白いジャケット黒いズボンに変わっていた。


「契約…、そしてユニゾンか」


 男が苦い顔をする。


「俊貴はやらせない!」


 オレの口を使ってノエルが言う。


「精霊が表面に出ている、だと?」


「それが何だ。今は自分の心配するべきだろ」


「主人格も表面に出てるとは…」


 ナイフを構える男。


 オレも足元に青い魔法陣を顕す。ただ、それだけなのになぜかさっきよりも余裕がある。なんと言うか体の底から力が湧いてくる、とでも言うのだろうか。まったく負ける気がしてこない。



「また氷の魔法か」


 空間指定の魔法陣がだと思った男がその場から横へと跳んでオレに向かってきた。


「残念ながら、空間指定じゃない」


 右脚を思いきり地面に踏み込み、対物理障壁の魔法陣を展開。


 オレへと飛んできたナイフが魔法陣に衝突。だが、魔法陣を破れない。


「この距離を狙ってた」


「二重魔法陣!?」


 障壁の魔法陣とは別に、青い魔法陣がその後ろに隠れていた。


 男が気づいた時には遅く、障壁に接していたナイフから体の方へと氷結が進んでいく。その速度は、ユニゾン前と比べると2倍以上で腕が既に凍ってしまって動かない。そのせいで腕を引けない。


「まだいくよ」


「!」


 男の左右の斜め上に青い魔法陣が顕れて、氷の槍が4本ずつ出現した。男の直撃コースで狙いをつける。


「貫け!」


 氷の槍が男の腕や脚、体に突き刺さる。


「ぐぅ…!」


 そして、刺さった場所からどんどんと氷結が進む。


「まだだ!」


 男の足元にまた青い魔法陣が顕れる。

 その魔法陣は空間指定。


 氷結の魔法。


「くっ…!ガキどもがっ!!」


「freez world(凍る世界)!」


 一瞬で男を閉じ込める分厚い氷を出現させる。


「…すごいな、ユニゾンって。ここまで氷の強化ができたってことは、ノエルは水か氷の精霊?」


 自分の両手を見下ろす。


『いえ。私は光の精霊です。』


 頭の中にノエルの声が響く。


「光の精霊?あれ、なんで氷が強化されたんだ?」


 光なら光系統が強化されるはずなんだけど、なぜか氷が強化された。


『うーん…、詳しくはわかりませんが、ユニゾンした事によって俊貴の能力にプラス補正がかかって、その分が力として現れたんじゃないか、と思います』


 ステータスの伸びが反映されたってことかな。

だとしたら、納得はできる。ユニゾンで強化されたステータス分、オレが強くなった訳だから元々得意な系統が強くなったのも頷ける。


「俊貴!!」


 そこへ、先生たちを連れて佳奈が屋上に戻ってきた。

 先生たちは氷結した男を取り囲み、佳奈はオレの元に駆け寄ってきた。


「俊貴、その姿!…それに、傷も」


 オレの顔を見て驚き、左腕の傷を見て更に驚く。

 佳奈は慌てて保険医の先生を呼んだ。


「傷は深くはないね。治癒魔法かけるからじっとしててね」


 先生が白衣から杖を取り出して、オレの傷口に向ける。

 先生の足元に白い魔法陣が顕れて、オレの傷を癒していく。


 その時、6人の先生たちによって砕く作業をしていた氷が大きな音をたてて砕けた。


 氷の中から、衰弱した男がその場にた倒れこんだ。


 そして、先生たちによって捕縛され屋上から運び出されていった。

 それを見送っていると、安心したのか、ぼんやりと視界が霞だした。


「はぁ…、何とかなった…か」


 そう呟き、オレの視界は黒く染まっていった。

どうも。

前編にバトルとかないので、後編を早めに上げさせてもらいました。やっとバトル展開です。


おそらく、こんな早い更新速度は作者的に無理なので、少し遅くなるかもしれないですが、これからも読んでもらえると嬉しいです。

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