事件は唐突に
俊貴と美鈴が一緒に昼ご飯を食べた日の放課後。
いつも通り、俊貴と神崎、ノエルがコネクトの部室前へ来て扉に手をかける。そして、扉を開けて中に入る。
「こんにちわー」
「うーす」
2人が部室に入ると、既に残りの3人も集まっていて俊貴達に気づき挨拶する。
『こんにちわ』
「こんちわ」
ふと、俊貴と美鈴の視線があう。
「よっ」
俊貴はニッと笑って美鈴に手で会釈する。
「げ、元気そうね」
美鈴は、俊貴の態度に驚きを隠して答える。
(平然としてる……。ショックのようなホッとしたような……)
美鈴は俊貴の切り替えの早さにモヤモヤを抱く。もうちょっと意識してくれてもいいのに、と拗ねる。1人めちゃくちゃ意識してたのも癪なので、美鈴も何事もなかったかのように振る舞おうとする。
だが、俊貴は意識してない訳じゃなかった。それどころか、意識しまくりでそれを隠すのに必死だった。
(や、やべーよ。心臓が破裂しそうだ。鈴の顔をまっすぐ見れない……)
バクバクと早い鼓動を打つ俊貴の心臓。ほとんど告白に近い話を聞いて、意識しないわけがない。平静を装うのに一杯一杯だ。
『?』
神崎達は、俊貴と美鈴2人の挨拶した後の微妙な空気を感じて不思議がる。
1人、瑠花がニヤニヤしながら俊貴の真横に移動する。ちょいちょい、と手で屈めと俊貴に合図する。
何だろう、と思いながら膝をまげて瑠花の背に合わせて屈む。
屈むと瑠花は俊貴の耳元に手をあててゴニョゴニョと話始めた。
「お嬢様とはどうしたのかな?」
「えっ!?」
ドキッとして思わず瑠花の方を見る。
「おっと、人前でそれは私も恥ずかしいな」
急に瑠花の方を見た俊貴に、頬に手をあてて恥ずかしがる素振りをする瑠花。
「えっ…」
「むっ」
「?」
「あわわ…」
俊貴が瑠花に戸惑い、美鈴がムッとし、神崎がキョトンとし、いちごが頬を赤く染めて慌てだす。あ、これ瑠花といちごは昼の話聞いてたな。ちくしょう、恥ずかしいじゃないか!
「で、どうした? 付き合うの?」
瑠花がわざと耳打ちをやめて普通に喋る。それは当然、部室にいる皆に聞こえるわけで。
「え!?」
美鈴が顔を赤くして驚く。
「っ……」
俊貴も思わず美鈴の方を見てしまい、目が合い頬を赤く染める。
「ええぇ!? な、鳴上くん瑠花先輩と付き合うの!?」
1人状況を理解してない神崎は、勘違いして驚く。普通の反応はこっちだろうけど。
「いや、ちが……」
「鳴上ったら恥ずかしがって返事くれないの」
キャッと頬に手をあてて恥ずかしい素振りをとる瑠花。こ、この人は自分の恥ずかしさより人の困った顔のが優先か。美鈴の名前を出さず自分を代わりにするあたりが、さすがは美鈴の付き人ってところだろうか。
「鳴上くん、瑠花先輩が好きなの?」
神崎が胸の前で指をモジモジとさせて聞く。その切なそうな表情に俊貴は困る。
「ぷ……ぷくくくく……」
その困った顔を見て快感、とでも言いたげに笑いを堪える瑠花。
(こ、この人は……!)
俊貴は、笑いを堪える瑠花に対して、張った押したいという衝動を堪える。
「こうなったら瑠花を一生側に……」
美鈴も何かを呟いたが聞こえない。
「くく……、誰かは確実に傷つくんだ。悔いのない選択をしなよ」
そう俊貴に囁いて、瑠花は自分の机に戻っていった。
「鳴上くん!」
「鳴上!」
「は、はい!」
2人の剣幕にビックリしながら、俊貴は神崎達の方を見る。
「ぶ……」
瑠花が必死に笑いを堪える。
あ、あの悪魔め……。俊貴は2人にこの後質問攻めにあった。
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しばらくしてからミーティングを終え、新しい依頼を決めた。
次の依頼は、物探し。はは、まったく面白くない。
俊貴はそう思いながら、インカムを耳に付ける。
「今度は、神崎といちご、わたしと鳴上のペアで動くわ」
美鈴が明らかな私情を持ち込んでペアを決めた。それに気づかない神崎以外は苦笑いする。
「よろしくね、いちごちゃん」
ニコッといつも通りの笑顔でいちごに声をかける神崎。
「はい、よろしくお願いします」
いちごも微笑んで返事をする。この2人は並ぶと圧巻だな。胸が。
神崎もでかいか、いちごもでかい。ってか、美鈴もでかい。ここの3人並ぶとすごいな。
「あ」
そう言えば、と瑠花の方を見る。微妙に膨らみの見える瑠花のスタイル。
「鳴上、私に劣情を抱くとは、そっちの趣味でもあるのかな?」
再び、瑠花の攻撃対象になる俊貴。瑠花の顔は、胸のことを何とも思っておらず、むしろ俊貴‘で’笑うことしか考えてないようだ。
「んな趣味あるか!!」
俊貴が全力で否定する。
「鳴上……」
美鈴が悲しそうな顔をした。
「おい! 信じてくれないの!?」
「大丈夫だよ! 鳴上くんは瑠花先輩が好きなだけで、小さい子が好きって訳じゃないもんね!!」
いちごに聞いたのか、神崎は俊貴にフォローをする。
「おお、あなたは女神か……」
俊貴はその神崎の眩しさが後光を背負った女神に見えた。
「女神って、鳴上くん」
神崎はアハハ、と苦笑いするが満更でもなさそう。
「ほう、神崎は私を子供体型だと言いたいのかな?」
明らかに神崎にそのつもりはないとわかってるのに、瑠花はニヤッと笑って聞く。この人、ホントにたちが悪い。
「そうじゃなくて、えっと……」
神崎が困った表情をして口ごもる。
必死にフォローしようと言葉を悩んでるんだろう。
「瑠花先輩、神崎をいじめないでください」
やれやれ、と思いながら困った表情の神崎に助け船をだす。助けてもらっといて無視するのは自分の流儀に反する。
「いいの? 神崎は、‘お前’が‘私’を好きだって言ったんだぞ?」
ニヤニヤと笑う瑠花。だが、俊貴はそんな罠には引っ掛からない。
「ええ、好きですよ。同じサークルのメンバーとして。そういうことだろ? 神崎」
俊貴は確認するように神崎の方を向く。
「あれ? 鳴上くんは瑠花先輩が好きだから付き合うって……。あれ?」
神崎がキョトンとする。この子ズレてんの!? 俊貴は、うげっと顔をひきつらせて焦る。
「あれ!? さっき違うって言ったよね!? 俺好きな人は」
「誰なの!」
俊貴の言葉を遮って、美鈴が声をあげた。顔が真剣で、眉がつり上がってる。
その剣幕に押されてか、他のメンバーの視線が俊貴に集中する。
「え……、何これ。何だこの答えろって空気は……」
俊貴はその空気に戸惑いを隠せず、後ずさる。女子の恋に関する話の食いつきの良さ。それを改めて実感するのと同時に、冷や汗を背中に感じる。大人しいいちごまでもが、目を輝かせてこちらを見てくる。
そこへ、今まで黙ってたノエルが俊貴の頭からふわふわと浮かんで、俊貴の前に浮く。
「えー、わたしが見て聞いて感じたことを報告しますとー」
「!?」
ノエルがなぜか俊貴の心境(?)を報告し始めた。それに驚き、脳の回転が止まる俊貴。
「俊貴の中には、気になる存在が何名かいましてー、その人達は結構身近な人でー」
「な、何ですって!?」
「……」
「あ、あわわわ……」
美鈴が思いきり食いつき、神崎は胸の前で指をいじり、俊貴は顔を赤くしてオロオロし始める。こういう時に冷静さを欠き、頭の回転が鈍る俊貴。
(ど、どどうしよう……。このままじゃ公開処刑だ。止める術は何か……。いや、待て。ノエルはなぜ俺の気になる人を知ってる? ユニゾンすると心まで見透かされるのか? いやいや、だったら俺もノエルの心を見れるはずだ。この理屈はおかしい。ならどうしてだ? 何か見落としてる、何かをどこで見落としてるんだ……)
ぶつぶつと呟きながら俊貴が何かを考える。
それに、他のメンバーは苦笑いしつつも、ノエルの方を見る。
ノエルも俊貴はほっとこうと判断したのか、また話し始めた。
「1人は1番身近な人で、もう1人は信頼できる天然な人で、もう1人は子供の頃に助けてもらった人」
ノエルは誤差の全くない答えを述べる。だが、当の本人達は、
『?』
誰? と頭にはてなを浮かばせる。俊貴にどう思われてるのか、そのままずばりを答えたノエルだから、ノエルと俊貴にしか理解できないのは当然だ。
だが、ノエルはまだ喋る。
「最後に小さくてツンツンした人」
ノエルは言ったぞー、とやりきった顔をして自慢気に胸を張る。
「ぷ…ぷくくくく……」
瑠花は誰のことか理解できたようで、お腹を抱えて笑いをこらえる。
結局止められなかった俊貴は、神崎、美鈴と順番に見てプルプルとうつむく。
「うああああああ!!」
悲鳴に近い声をあげて俊貴は部室から走っていってしまった。
「あ、ちょっと! 俊貴さん、わたしがペアなの忘れてない!?」
美鈴が慌てて俊貴の後を追いかけた。
「あれ? いつも美鈴ちゃんは鳴上って呼ぶのに、俊貴さんって言った?」
自分じゃなく人の事には鋭い神崎が首をかしげる。
「さ、さあ姫華さん私達も行きましょう」
いちごがごまかすように、自分達も外に行こうと促す。
「そうだね、行こうか」
ニコッと笑い神崎といちごも部室を後にした。
「周りの環境が変わりすぎて、鳴上自身もまだ整理できてないのか。お嬢様もまだ諦めるには早そうだけど、ライバルは多いね」
1人部室に残った瑠花。パソコンの方に向き、キーボードをカタカタと打つ。
「にしても、向坂千穂をねえ……。ぷくく……、鳴上はやっぱり面白いな」
パソコンのモニターを見ながら笑う瑠花。
モニターには、青い点を赤い点が追いかけて合流していた。
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今回の依頼は物探し。依頼者の落とした小物を探すために、大学内を歩く俊貴と美鈴。だが、2人の間には微妙な空気が漂う。
俊貴はションボリ、美鈴はソワソワしている。
「はあ……、落とし物って何だっけ?」
このままじゃ探せる物も探せない、と判断した俊貴が頭を切り替える。いつまでもションボリしたって答えは出ないしな。
「落とし物はネックレスよ。指輪のネックレストップで、彼氏からもらった大事な物なんだって」
美鈴が羨ましそうに言う。
「美鈴もそういうの好きなの?」
羨ましそうな顔を焦って隠す美鈴を見て苦笑い。別に隠さんでもいいと思うけど。
「好きな人にもらった物ならなんでも嬉しいです……」
モジモジしながらチラチラと俊貴の方を見る美鈴。
「そっか」
頬をかき恥ずかしさをごまかすように前を向く。よりによって、今1番気まずい美鈴とペアになるとは。でも、美鈴が嫌いな訳じゃなくて、むしろ好きだけど、自分の不甲斐なさが頭にくる。
「俊貴さんはわたしのこと嫌いですか?」
不安そうに聞く美鈴。俊貴はその質問にムカッときて、心がズキッと痛んだ。
「っ」
理由は明確だ。嫌ってないのに、嫌いか? と聞かれたからだ。
「嫌いならこんなに悩まない」
俊貴が普段よりも低い声で言った。その声は重く切ない。嫌ってない、むしろ好きな人にそう言われれば誰だってショックだろう。嫌いなら心配しないし、話したくもない。一緒にすらいたくないだろう。
「! ご、ごめんなさい……」
美鈴も俊貴の心を悟ったのか、申し訳なさそうにうつむく。
「いや、気にすんな」
俊貴が苦笑いする。
「でも、答えは出すから待っててくれ」
そう言って、俊貴は微笑む。
「はい、待ちます!」
ニコッと笑う美鈴。その笑顔を見て、本当に申し訳なさを感じる。
「依頼品探そうか」
「はい」
ぎこちない空気のまま2人は落とし物を探して、地面に気を付けながら歩く。
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30分後。
俊貴達はグルッと大学内を1周して、中庭に戻ってきた。神崎達との通信で状況を聞いたが、落とし物は見つかってないらしい。
「どこに落ちてんだよ~」
ベンチに座って空を見上げて文句に近い声をあげる。草の根かきわけて(俊貴だけ)探したのに、全く出てこない。こうなると、ホントに大学内で落としたのかが気になってくる。
「ふう、見つからないのはおかしいわね……」
強気状態の美鈴もベンチに腰をおろし、背もたれにもたれる。その反動で、プルンと弾む胸を俊貴は見逃さない。
「依頼者を疑う訳じゃないけど、場所間違ってる? って思えてくるな」
何も見てないよ、とでも言うかのように平然と話す俊貴。
「うーん、今日は依頼者から話をちゃんと聞いて、明日にしましょう」
美鈴がふー、とため息をつき立ち上がる。神崎達もきっと疲れてるだろうから、ここらで今日は引き上げるべきかもしれない。
「だな~」
俊貴も頷き、立ち上がって伸びをする。そんな2人の元へと近づいてくる人がいた。
「鳴上くん、こんな所で何をしてるの?」
名前を呼ばれた俊貴と、美鈴が声のした方に振り返る。そこにいたのは、風紀委員の黒いジャケットを羽織った向坂先輩がいた。
「あ、向坂先輩。こんちわ」
俊貴は微笑む。それにムッとしながらも、美鈴もこんにちわ、と挨拶する。
「……その子は?」
向坂は俊貴をジト目で見る。だいたい神崎が横にいるのだが、今日は美鈴。しかも、初対面。
向坂は、また違う子を連れてると訝しげに見る。
「私は東郷美鈴。サークル‘コネクト’のリーダーで、鳴上の……」
と、言葉を途中で止めてしょんぼりする。わたしは俊貴さんの何なんだろう、そう思ったら悪い方にしか考えられなくなり、強気がどんどんとしぼんでいく。
「鳴上の、何?」
何? の部分を強調して聞く向坂。それにうっと呻き、ますますしょんぼりする。
美鈴が何だか可愛そうに見えたため、俊貴が助け船をだす。
「美鈴は信頼できる大切な仲間ですよ、向坂先輩」
「そう! 仲間なのよ!!」
俊貴が助け船を出した瞬間に、シャキッと姿勢が良くなり再び強気状態になる。ふふん、と胸を張り高飛車で我が儘そうな雰囲気が醸し出されている。
「ふーん。で何をやってるの?」
急に美鈴に対して興味が失せたのか、向坂は質問を変えてきた。ふーん、って! と、隣で声がしたがとりあえず今はスルーして向坂の質問に答える。
「落とし物探してるんです。指輪のついたネックレスなんですけど、見ませんでした?」
風紀委員なら、もしかして見回りをした時に見つけてるかもしれない。
「指輪のついたネックレス? それならここに」
そう言って、ポケットから銀色の指輪がついたネックレスを取り出す向坂。
「あー! あった!! コレですよ! 向坂先輩!!」
見つからないわけだ。向坂先輩が見つけてたんならどこ探してもあるわけないよな。俊貴はそう思いながら、向坂からネックレスを受け取ろうと手を伸ばす。
が、向坂はサッと俊貴の手の届かない位置へと動かす。
「?」
俊貴は疑問に思いながらもう1度ネックレスへと手を伸ばす。だが、俊貴の届かない位置へと再び動かす。
「??」
俊貴が困った顔をして向坂を見る。
向坂は、なぜかニヤけて俊貴を見る。ど、どSかこの人は……。
「先輩、それを俺に渡してください。風紀委員が落とし物回収するのはわかりますけど、それの持ち主の可能性が高い人を俺たちは知ってます。だから、それを渡してください」
俊貴が困った顔で軽く説明する。それを聞いてた向坂は、ジッと俊貴を見る。
(鳴上くんの)(俊貴さんの)
((困った顔可愛い!!))
美鈴と向坂の思考がシンクロ。ゾクゾクっと2人の背筋に快感が走る。向坂はそれを隠すために、わざとらしくコホンと咳払いして顔を引き締める。
「そ、そこまで言うならどうぞ」
と、俊貴の掌の上にネックレスを置く。わざと指を俊貴の手に触れてから引っ込める向坂。
「ありがとうございます」
そのことを全く気にせずに微笑んでお礼を言う俊貴。
「違ったら速やかに風紀委員まで持ってくること。いい?」
「わかりました」
頷き、俊貴はネックレスをポケットにしまう。
そこで、急に携帯の着信が鳴り響く。その音は向坂の携帯の物で、ポケットから携帯を取り出してボタンを押して耳にあてる。
「はい、向坂です」
向坂が電話に出て話をし始めた。俊貴と美鈴は顔を見合わせて頷き、向坂に軽く頭を下げてから部室に戻ろうとした。だが、それは向坂の驚いた声によって中断させられる。
「何ですって!? うん、うん、場所は?」
向坂の方を向くと、表情が険しくただ事ではなさそうな雰囲気だ。
「怪我人は? すぐ治療班を向かわせます。その2人以外に仲間は? うん、わかった。すぐ応援に行きます!」
向坂は携帯を閉じて、俊貴達の方を向く。
「あなた達はすぐ家に帰りなさい」
「先輩!」
向坂は有無を言わせずに走っていってしまった。ポツンとその場に取り残された俊貴と美鈴。
「鈴、一旦部室に戻ろう」
事件が起きたということは明確だ。風紀委員が治療班を求める時点で、怪我人まで出てる事件だ。向坂から情報を全く引き出せなかったし、情報を得るために部室にいる瑠花の所へ1度戻るべきだろう。
「そうね、今回の依頼品もある事だし、置いてから向かった方がいいわ」
美鈴も頷き、一緒に部室へと走り出す。
どうも。
第1部も佳境に入り、次回から戦闘が始まります。やっとですねー。ちょっと、日常回が長すぎました。
日常回と戦闘回がうまいこと交差するようやっていけたらいいなあ。
言うこと特にないので、ここら辺で。
感想待ってまーす。




