俊貴と美鈴
魔術大学の中庭を1人で歩く俊貴。ノエルは神崎の頭の上で眠ってしまい、そのまま神崎に任せてきた。神崎と佳奈は別の講義のため今はいない。ひなたは最近なぜか見なくなっていた。大学にも来ているのかどうかすらわからない。
「おーい、俊貴!」
何となくフラフラしてた俊貴に誰かが声をかけてきた。俊貴は声のした方に振り返る。そこには茶髪のショートヘアーの青年がいた。俊貴と目が合うと笑って近寄ってくる。
「よ! 久しぶり」
俊貴に手で会釈する青年。
「おう、悠二じゃん。ひさしぶり」
俊貴も悠二と呼ばれる青年に手で会釈する。
彼は紫藤悠二。俊貴とは大学の同じ講義で知り合った同級生。ただ、俊貴と違い魔術科ではなく普通科の生徒で、普通科の講義の時に出会って意気投合し仲良くなった。
「噂良く聞くぞ。派手にやらかしてるみたいだな」
悠二はアハハとイタズラっぽく笑う。
「ま、まあね」
俊貴は苦笑いで答える。噂の広まりは自覚してるつもりだったけど、親友にまで知られてるのはいい気がしない。
「んで、佳奈ちゃんか神崎姫華、どっちが好きかわかったか?」
「んなっ!?」
悠二はニヤニヤしながら聞く。以前、悠二にこの手の相談をしたら思った以上の食いつきで、真剣に考えてくれた。その事もあって、俊貴は悠二に何でも話すようになった。が、俊貴はそれを後悔してた。まさか、こうまで食いついてくるとは思ってなかったから。
「アハハ、その様子じゃまだみたいだな。でも、2人とも人気あるんだ。うかうかしてるととられるぞ?」
そういって、俊貴の肩を叩く悠二。バンバンと音を立てるが、たいして痛くない。
「んなこと言われてもなあ……」
俊貴は苦笑い。わからんものはわからんし。
そこへ聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「鳴上! 良いところにいたわ!」
振り返ると東郷が1人、俊貴達の元へと歩いてきていた。珍しく1人でいる。
「東郷、どした?」
俊貴は東郷の方を向いて聞く。何だろう、サークルの事か?
東郷が口を開こうとした瞬間に、俊貴の後ろにいた悠二が声をあげた。
「なるほどな! お前はその赤髪のかわいこちゃんを選んだわけだな」
勝手に1人で納得して頷く悠二。何を勘違いしたのか、俊貴が好きなのは東郷だと勘違いしたらしい。
「は? いや…」
「わたしをと…鳴上が選んだ? ま、まさか!」
いつも通り腰に手を当てて威厳を醸し出そうとしてるのだが、顔を赤くし眉を吊り下げて戸惑っているためほとんど意味がない。そして、親友はその東郷の様子を見て何かを悟り、俊貴の首根っこを掴む。
「なるほどなるほど。アレだな。いつもの無自覚の女殺しってわけだ。ど突くぞ、お前」
ど突く気は更々ない癖にそう言ってオレの首に腕を回す。
「無自覚の女殺し…」
何か思うところがあったのか、東郷は悠二の言葉を呟く。東郷は理解した。神崎や佳奈は俊貴の‘それ’によって好きになったのだと。
「なんだよ、無自覚の女殺しって…」
俊貴が苦笑いするのを尻目に悠二は再び口を開く。
「お邪魔虫は退散するよ。じゃあな色男!」
「うわ!」
悠二は笑いながら俊貴の首から腕を離し、俊貴の背中を強く押す。その行動は恋に鈍感な親友の背中を文字通り押す物だった。悠二にとっては。
「きゃあ!」
俊貴はそのままの勢いで東郷の胸へと倒れる。それに驚いた東郷はビクッと全身を震わせて声をあげた。
「…じゃ、じゃあ頑張れよ。俊貴」
やり過ぎたと思って苦笑いし、その場から逃げるように後ろを向いて歩き出す悠二。本当は、東郷の前に押すつもりだったのだが、力が強すぎたみたいだ。
悠二によって密着した状態で固まる俊貴と東郷。唖然とする2人だが、俊貴が先に我に返り慌てて顔を胸から離す。や、柔らかくて良い匂いがした…。
「じゃなくて! ご、ごめん東郷」
俊貴が慌てて頭を下げる。頭を下げでもしないと恥ずかしいし、何よりまた胸に視線が行ってしまう気がしたから。
「べ、別に気にする必要はないわ。事故だもの、しょうがないし、むしろもっと…」
ゴニョゴニョと最後の方には小言になってしまい、よく聞き取れなかった。ただ、表情から察すると恥ずかしがってるのはわかる。
「ところで、どした?」
赤くなったままの東郷に聞く。ちょうどいいところにって、声をかけてきたんなら何か用があるんだろう。
「あ、ああ。そうだったわ」
ハッとして東郷が普段の表情に戻る。ここら辺の切り替わりの早さを、俊貴は密かに買っていた。
「あなたも今は1人?」
「うん、1人だけど」
「なら、わたしとお昼ご飯食べない? わたしも今1人でどうしようかと考えてたところなの」
そう言って微笑む東郷。いつもの強気な表情のままニコッと可愛らしく笑う。それにドキッとして、思わず恥ずかしくなる。
「お、おう。いいよ、一緒に食べよう」
俊貴はドキドキしたまま頷く。
「じゃあ、中庭に行きましょう」
「ああ」
俊貴と東郷は横に並んで、大学の中庭へと歩き出す。
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大学の中庭へと移動を終えて、適当にベンチに並んで座る。俊貴は購買で買ったパン、東郷は可愛らしいピンクのお弁当箱を手に持っている。
『いただきます』
2人同時に手を合わせて言う。
俊貴はパンの袋を、東郷は弁当箱の蓋を開けて中身を食べ始める。
「あ、そうだ。前から聞こうと思ってたんだけどさ、いい?」
ふと、何かを思い出した俊貴が東郷の方を向いて聞く。東郷はわざわざ箸を止めて俊貴の方を見て頷く。
「改まって、何を聞きたいの?」
「俺さ、前から気になってたんだけど」
「気、気になってた?」
俊貴の言葉を聞き、ドキドキと胸を高鳴らせる東郷。
(な、何だろ…。前から東郷の事気になってたんだ、とか? あわわ、心の準備がまだ…)
東郷は妄想で1人、照れ始めて両頬を押さえる。俊貴はそれを見て苦笑いしつつも続ける。
「俺と東郷って前に会ったことあるよな?」
「え…」
東郷には予想外の続きの話だったが、胸はドキッとして鼓動が早まる。これはこれで嬉しい。
「覚えてるの?」
覚えてないって言われた時の事が怖くて恐る恐る聞く。胸の前で指をもじもじといじるその仕草に、俊貴は懐かしさを感じる。
「覚えてるって言ったら嘘になる。でも、‘ここ’で初めて会った時の東郷の素振りと、俺の中で東郷の顔見ると懐かしさを感じるんだ」
「……微妙に覚えてる、と?」
全く覚えてないよりはマシだけど、やっぱりショックだったりする東郷。その切ない顔をする東郷を見て申し訳なさを感じつつも、話を続ける。
「本当に微妙にだけどね。ってことは、やっぱり俺と東郷は前に会ってたんだな?」
「ええ、そうよ。わたしと鳴上は子供の頃に会ってるわ」
「子供の頃、か…」
俊貴は思わずうつむく。
子供の頃に遭遇した最悪の悲劇。それが今でも頭をよぎり、俊貴の顔を曇らせる。炎に包まれる家、逃げまどう人々。何人もの騎士が人々を剣や魔術で殺していく。小さな俊貴を守ろうと必死に逃げる男の人と女の人。だが、騎士に追い付かれ、いともたやすく剣で体を貫かれ殺される。小さな俊貴の目の前で。
「鳴上、顔色悪いけど大丈夫?」
「あ…、うん。ごめん、大丈夫」
思わず固まっていた俊貴の顔を不安そうにのぞきこむ東郷に、俊貴は微笑んで返す。東郷に心配させちゃダメなのに。
(? なんでダメって思ったんだ?)
「本当に? 体調が悪なら休んだ方がいいんじゃ…」
それでも、東郷は俊貴を心配そうに見る。
そこで、1つの記憶が俊貴の頭に甦る。
また小さい頃のようで、子供たちが一杯元気に走り回る広場に膝を抱えて座る俊貴。その広場は建物と一体化していて、簡単に言えば保育園や幼稚園のような場所だ。そんな場所で、俊貴は遊ぶ子供達のワニ入ろうともせずにただ座っていた。俊貴の目は子供たちを見るでもなく、ただ地面の一点をジッと見ていた。そこに何かあるわけでもないのに。
そんな俊貴の前に1人の赤い髪の女の子が来た。俊貴に向かって笑いかけ、手を差しのべる。
「一緒に遊ぼ!」
そう女の子は俊貴に言うが、俊貴はチラッと女の子を見ただけで全く動こうとしない。
手を差しのべた状態でしばらく女の子は待つ。だが、俊貴は全く動かない。すると女の子は、手を戻して俊貴の隣にちょこんと座った。俊貴と同じようにボーッと地面を見つめる。
「ねえ、これ楽しいの?」
女の子はただ座ってボーッとしてるのが全然楽しくないため、俊貴に聞く。
「…」
だが、俊貴はなにも答えずにボーッとする。女の子は全く相手にされないことに腹がたってきたのか、俊貴の正面に立ちまた同じ言葉を続けた。
「一緒に遊ぼ!」
その時の俊貴は、目の前で悲劇に逢ったばかりだったためショックで心を完全に閉ざしていた。ほっといてほしい、今は誰とも話したくない。なのに、‘こんな場所’に連れてこられてしまった。ほっとかれない、誰かが構ってくる。それが嫌で1人隅っこで座っていたのに。
「一緒に遊んでくれないと、泣くよ……?」
女の子は無視され続けて限界が来たのか、目に涙を溜めて今にも泣きそうな表情で言う。
「泣きたいのはこっちだっつの…」
俊貴は女の子の表情を見てボソッと答えた。
泣きたい、でも泣けない。泣きすぎて涙は枯れてしまったのか、もう泣けない。
「しゃべった!」
「!」
俊貴が答えたのを聞いて女の子は嬉しそうにピョンピョンその場で跳ねて嬉しそうに笑う。それに俊貴は驚き唖然とする。
そのにこやかな笑顔に、ドキッとした。
「わたしの名前はね」
その瞬間、俊貴の記憶は途切れる。
俊貴は、今思い出した記憶に胸を締め付けられるような感覚を受ける。そして、記憶で途切れた女の子の名前を呟く。
「美鈴」
「え?」
急に名前を呼ばれて東郷は驚き、俊貴をボーッと見る。
「はは、今ごろ思い出したよ。‘あの場所’も‘鈴’の事も」
俊貴が微笑む。頭に引っ掛かっていた何かがやっと1つ外れた。子供の頃の記憶は、悲劇のショックのせいで、殆どが曖昧で朦朧としている。でも、少し子供の頃の記憶がハッキリ思い出せた。東郷の、いや美鈴のおかげで。
「覚えてて、くれたんですね…!!」
美鈴が目に涙を溜めて、でも嬉しそうに笑う。その笑顔が今はすごく懐かしくて、すごく嬉しい。
「今の今まで忘れてたけど、思い出せたよ。鈴のおかげで思い出せた。俺、鈴と子供の頃に会ってたんだな」
胸が熱くなる。
「そうですよ。わたしとと…鳴上は子供の頃に会って一緒に遊んでたんですよ」
完全に昼飯を食べる、という目的が損なわれてるのを全く気にも止めず、俊貴と美鈴は会話を続ける。
「もう思い出したんだ。俊貴でいいよ」
俊貴は優しく微笑む。思い出してなくても、何度も名前で呼ぼうとしてたのに気づいてたからそう言うつもりだったけど、いいきっかけができた。
「俊貴さん…」
やっと名前で呼べた。その事が美鈴にはたまらなく嬉しくて、笑みが自然とこぼれる。
「ごめんな、いままで忘れてて」
俊貴はこの嬉しそうな美鈴の表情に申し訳なさを感じつつも、言葉を続ける。
「子供の頃の俺って腹立つな」
俊貴はアハハ、と自虐気味に笑う。
「初めの方だけだったよ。途中からはちゃんと遊んでくれたし、それに約束もしてくれた…」
「約束…」
胸の前で指をもじもじといじる美鈴。
顔を赤くして恥ずかしがる美鈴に俊貴は何か予感めいた物を感じとる。
(まさか、いやベタすぎるだろ。でも子供の頃の約束だし違うとは言いきれない。もしかするともしかするかも。何より鈴がしっかり覚えてるってことは大事な約束なんだ)
俊貴がハッキリ思い出せない約束を思い出そうと悩むなか、美鈴は俊貴を見てムッとする。
「やっぱり覚えてないんですね…」
眉を吊り上げてしかめっ面をする美鈴。そう言えば、さっきから敬語でいつもの強気じゃなくなってるな。違和感はあったけど、やっぱ演技だったのか。
「ごめん、思い出せたのは鈴と初めて会った時と、その後のちょっとだけで他はまだ思い出せてないんだ」
「小さい頃の事だし、覚えてないのも無理ないですね。何より、俊貴さんが孤児院にいた時間もそんな長くなかったし」
美鈴が悲しそうな表情で言う。覚えてなかった事と一緒にいた時間の短さが悲しかったんだろう。それを見て俊貴の胸は強く締め付けられる。それでも頭の回転は止めない。
「俺が孤児院にいたのはどれくらいなんだ?」
さっきの記憶で見た建物は孤児院か。ってことは、あそこにいた子供達は皆孤児になるのか。鈴も孤児…。俊貴の中に切なさと親近感がわく。
「えーと、1年とちょっとでした。梓さんが高校に入学するのと同時に俊貴さん達は孤児院を出たので」
うーん、と腰に手をあてて思い出す美鈴。腰に手をあてるのが癖になってる。
「そう言えば、姉さんが学校に通ってた頃には今のアパートに住んでたな」
俊貴の姉、梓は高校に行って帰ってきてから家事をやっていた。俊貴と妹はまだ小学生くらいで家事のできるような歳ではなかった。だから、高校生の梓が家事を学校から帰ってきてやっていた。わかってはいたが、やはり姉にかなりの苦労をかけていたんだなと改めて思う。
「今アパートに住んでるの?」
「ああ、そうだよ。今は俺とノエルしかいないけどね」
「……ほぼ俊貴さんだけ」
小声で呟く美鈴。何か真剣に考えてるようだ。
「暇な時に来るか? 飯くらいなら作るけど」
正解かな? と思いながら聞いてみる。たぶん、家に来たいんじゃないかなと思う。
「い、行きます! 必ず行きます!!」
と、美鈴は予想以上の反応をする。そんなに来たいのか、と苦笑いしつつも頷く俊貴。
「ならいつでもおいで」
賑やかな方が楽しいしな。
「はあぁ~」
美鈴はとても幸せそうな顔をする。それを見て美鈴をすごく可愛らしく感じる。
「約束も絶対に思い出すから待ってて」
俊貴は美鈴の頭に手を置き撫でる。美鈴は一瞬驚いたが、すぐに俊貴の手を受け入れて更に顔を緩める。その表情がすごく可愛らしい。
「後さ、俺だけとか、俺といちご達しかいない時は無理に強気なキャラじゃなくてもいいんじゃないか?」
「ば、バレてた!?」
美鈴がガーンという擬音がピッタリな表情になる。やっぱ演技か。
「違和感はあったんだ。強気な癖に、たまにさっきのような泣きそうな顔したり、話し方も強気なんだけど微妙に素の出てる時があった。だから、そのキャラ付けにもサークルを作るのと一緒で意味があるんだなと思ってた」
俊貴の言葉に少しボーッとしてた美鈴だが、突如ニコッと笑って言う。
「流石ね。期待を裏切らないわ」
突然の強気。それにビックリしつつも、俊貴は美鈴の話を聞く。
「やっぱりね、俊貴さんに入ってもらえて良かったわ。サークルのメンバーとしてもわたし個人としても」
そう言って笑う美鈴。その笑顔は作ったものじゃなくホントの笑顔だとよくわかる。
「ただ、約束を覚えてないのが許せないけど」
そう言って、イタズラっぽく笑う美鈴。そうは言っても、覚えてない個とには少なからずショックだろう。
「うーん、結婚とかそんな約束か?」
ベタすぎるよな、と思いながらも何か思い出すヒントがないかと聞いてみる。
「覚えてるの!?」
美鈴が異常な驚きかたで食いついてくる。
ま、まさか当たりだった!? ってか、ベタすぎるだろ!! 子供の頃の俺!!
「いや、覚えてはないけどまさかホントに結婚の約束だったとは……」
俊貴は頭を抱える。この約束を覚えてたってことは、美鈴にとって大事な約束なわけで、その約束を気にするってことは美鈴は俺の事を……。
「っ!」
そう思った瞬間に、俊貴は急激に体温が上昇し始めてきた。隣にいる美鈴の顔を見るのが恥ずかしくなってきてしまった。顔を思わずそらす。
「俊貴さん。わたしは俊貴さんに思い出してもらえただけでも充分です。だから、今すぐ答えを出せなんていいません」
そう微笑むが、切なさと悲しいのが隠しきれてない美鈴。明らかに強がってるのがわかる。そんな表情をさせてしまった自分に腹がたち、でも適当な答えなんて出せないし出したくないから顔がつい険しくなる。
「俺は……」
言葉につまる。何て言えばいい? 何て言えば鈴は納得してくれる? 俊貴の頭の中はごちゃごちゃに散らかり始める。
嫌いじゃない、むしろ好きな方だ。だから適当に返事はできない。でも、‘約束’がある。その約束が俊貴の枷となり悩ませる。約束は守るからこそ約束になる。守れないんだったらただの嘘だ。そう俊貴の中に約束は守らないとダメだという義務感と、今まで約束も美鈴自身の事も忘れてたという事から美鈴に対する罪悪感、美鈴を大事に想ってるからうやむやにできない気持ちとが混在して、答えが1つに絞られ始めてくる。
『付き合う』というものへと。
美鈴は恐らく頷くだろう。付き合ってからお互い会ってなかった頃の時間を埋めて、よく理解しあえばいい。付き合ってから好きになるって事もあるんじゃないか。そう俊貴は思い始めてきた。
でも、違ったら? 美鈴を傷つける。喜ばせといて結局傷つける事になったら? そう頭に浮かんだ瞬間に俊貴は行動に出れなくなる。
「はあ……。逃げてるだけだってわかってんのにな」
俊貴は思わず声にしてしまう。それを聞いた美鈴は不安そうに俊貴を見る。
「ごめんな、鈴。俺はまだ答えられそうにない……」
俊貴は相手を傷つけて、自分も傷つくことが怖くて前に踏み出せない。結局、出てきたのは苦し紛れの後延ばしにすることだった。いずれは答えをださないといけないのに。
美鈴は俊貴の気持ちを悟ったのか、優しく微笑んで言う。
「良いんです。何より突然過ぎた事もあったし、考える時間は必要だから。わたしは待ちます」
「ごめん」
その美鈴の優しさに俊貴は目頭が熱くなる。でも、耐える。ここで泣いたら意味がない。ホントに泣きたいのは美鈴だ。俺じゃない。中途半端な記憶の俺が泣くところじゃない。
「あ! お、お弁当早く食べないと、お昼終わっちゃうわよ!」
美鈴は口調を強気なキャラに戻して、お弁当を食べ始める。気持ちが沈まないように、切り替えをしっかりする。ホントに美鈴は強いな、と俊貴は思う。
「うん、食べよう」
その横顔を見ながら、自分の情けなさを改めて感じ気持ちが沈み始める俊貴。
ぎこちない空気のまま、お昼の時間は過ぎていった。
どうも。
今回は少しだけ昔の話を入れました。
俊貴と美鈴はそれほど長くはないけど、同じ場所で生活をしていました。それを俊貴は覚えてませんでしたが。
そろそろ第一部の物語にも動きがあります。戦闘もバンバン入れてく予定です。ちょっと今まで戦闘が少なすぎましたね。
第二部はそこら辺も意識して書きたいと思います。




