表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/14

出会いと始まり

 ボーッと大学の屋上で空を見上げるように眠る青年が1人。フェンスで落下防止された屋上の真ん中の方に設置されたベンチに寝転び、青い空を遮って流れる白い雲を見上げるように眠っている。ゆっくりと吹く風をその身に受ける。


 その風を受けて、黒髪がなびく。

 普通の顔立ちで、特に目立つ印象を受けない顔をしている。


 そこへ、屋上の扉を開けて1人の少女が入ってきた。

 茶髪をポニーテールで束ねて、腰までなびかせる少女が、ベンチで横になっている青年に気づく。


 やれやれ、と呆れながらその青年の元に近寄る。


「またこんなところでサボってる」


 その青年の顔を見下ろす。


 それにより青年の顔のところに影ができる。


「ん?」


 人の気配を感じ、オレは目を開けて顔を覗きこんでる少女を見る。


「おお、佳奈か。」


 ニッと笑って佳奈と呼ばれる少女を見る。


「おお、佳奈か。じゃないわよ。講義サボってこんな所で眠って」


 腰に手を当てて呆れ顔の佳奈。


「ハッハッハ。講義サボりか?佳奈」


 ここにいるということは、佳奈も講義を受けてないんだろう。


「サボりじゃないわよ!一緒にすんな!!」


 あんたとはできが違うの、と言ってぺしっと額を軽くはたかれた。

 痛くないちゃんと手加減された、幼馴染みの一撃。


 額をさすりながら疑問をぶつける。


「じゃあ、なんでここに?」


「お昼なのにあんたは講義出てなくていないし、わざわざ探しに来たの!」


 少し口調を強めて言う佳奈。

 怒ってる。うん、怒ってる。


「ごめんごめん。もうお昼だったのか。」


 よっと上半身を起こし、右手で頭をかきながら左手で携帯を取りだし時間を見る。12時を過ぎていた。


「じゃあ飯行こっか」


 立ち上がり、伸びをして佳奈を見る。


「あ、えと…」


「ん?」


 扉の方へと一歩踏み出したら、佳奈がオレの袖を掴む。

 振り返ると、恥ずかしそうに頬を赤く染めて上目使いでオレの方を見ていた。


「あ、あのね、お弁当作ってきたんだ」


 視線をあちこちにそらしながらも、何度かオレの方を見る佳奈。


「オレのも?」


「…うん」


 今度はうつむいてしまった。


 ういやつだな。


「ありがとな」


 微笑んで頭を撫でてやる。

 嬉しそうに笑う佳奈。


「可愛いやつだな、まったく」


 撫でながら言う。

 すると、佳奈の顔はリンゴのように更に赤くなって、プイッとそっぽを向いた。


「っ!べ、別にあんたのためじゃないんだからねっ!!」


「おお、ツンデレだ」


 ニッと笑う。


「ツンデレじゃない!」


「ぐふっ」


 オレの腹に見事な正拳突きがめり込む。


「な、なんという威力…」


「あんたが悪いんだからね!」


 ふん、と鼻をならして先にベンチに座る佳奈。


 腹をさすりながら、オレもとなりに腰を降ろす。オレの分の弁当を受け取り、お礼を言って包みを開けて、2人で食事を始めた。


*****************************************


 綺麗な銀髪をなびかせて、青い空をかける1人の少女。

 腕に傷を受けていて、赤い血がポタポタと地面へと落ちていく。

 息を切らしながら、必死に前へと飛び続ける少女。


「どうしよう…。このままじゃやられちゃう」


 後ろを振り返り、腕の傷を付けた相手を確認する。


 追ってきてる。


 少しずつだけど、距離を詰められてる。


「このままじゃあの人に契約を結ばれちゃう。それだけは…」


 前を向き、辺りをうかがう。

 だが、周りに広がっているのは白い雲。

 下の方に、大きめの都市があるのが見えた。


「でも、あそこは人間がたくさんいる…」


 逃げれそうな場所はそこ以外に見当たらない。

 後は、山や湖等。そこには魔物が多く巣くっている。


 手負いの状態で、魔物の群れと遭遇したらやられてしまう。


 かといって、あの都市に逃げ込んでも人間と遭遇してしまう可能性がある。遭遇してしまって捕まり、無理矢理契約を結ばれるのは良くない。

 契約するのなら、ちゃんと自分で選んだ信頼できる人間がいい。


 必死に飛ぶ少女の後ろから、風を斬る音が聞こえてきた。


「っ!」


 高度を低くして、その斬撃をかわす。


「きゃっ!?」


 斬撃の通りすぎた風圧にバランスを崩し、落下を始める少女。


 その方向は、あの大きな都市。

 魔術都市として知られている大きな都市へと落下していく少女。


*****************************************


 魔術都市の公園でボーッと空を見上げる。

 この青空は神々が作り出した、とか講義で習ったっけ。


 遥か昔、神々が暇潰しに、と作り出したこの世界。作り出すきっかけは軽いものだったが、海を作り山を作り、自然を生み出した。

 そして、そこから生物を海と山両方に作り出し、いくつもの進化を経て人間がこの世界に生まれた。人間の他にも、海では人魚や海龍族、山では妖精やエルフ等様々な種類の生物が繁殖して増えていった。


 そして現在、この世界はアルカディアと呼ばれ多くの種族が生きている。ただ、昔と違い人間に近い種族が(エルフや妖精、人魚、竜人など)多い。龍等は数が減って、どっかの洞窟に隠れ住んでるらしい。


 このアルカディアの中には巨大な三大都市が存在する。1つは、魔術の繁栄した魔術都市‘トリポリス’。もう1つは機械が繁栄した機械都市‘メガロポリス’。最後に自然が繁栄した都市‘レオディニアス’。


 オレのいる所はトリポリスの外れの方にある公園。大学が外れの方にあるため必然的に外側よりとなる。


 オレは自分の受ける魔術大学の講義を受け終わり、大学の近くにあるわりと大きな公園のベンチに座って、何をするわけでもなくボーッと空を見上げていた。


 オレは、鳴上俊貴。魔術大学に通う魔術師で、21歳。魔術大学に通っている事もあり、魔術師を目指している学生魔導師なのだが、成績は平均的だと思う。得意な系統は風と氷の2系統。

 魔術師の強さは、基本的に扱える系統の数に比例する。系統には、火、水、風、土の4つ。四元素と言われる物で、この四元素の中でも更に細かく分類することもできる。例えば、風に含まれる雷や、水に含まれる氷等。


 その四元素の中の1つの系統しか使えない人は魔術師としてはランクが低い。だが、1つの系統しか使えなくて、その系統だけを極める程にもっていける人物もまれにいる。

 2つは、一般的なランクの魔術師で、だいたいの魔術師がこの位置となる。

 3つは少なくはないが4つと比べるとランクは落ちる。だが、魔導騎士や軍関係となると、3つは普通となる。

 4つ扱えるとなると、将軍やそれ以上の位となり、一国を担う重職に就ける。


 オレは国を担う役職に就こうとも考えてないから正直どうでもいいんだけど。


 逆に、オレは国を担う様な考えを持ってなんかいない。オレはオレの目的を達成する、それだけ。


「そういや、佳奈は今日4限までだっけ」


 幼馴染みの佳奈こと、植村佳奈の今日の予定を思い出す。今日、佳奈は4限までで、オレは3限まで。3限が終わってから公園でボーッとしてることが割りと多い。佳奈は4限目は、医療学とか言ってたかな。


 魔術大学の授業内容は、魔術学園の延長線上のことを習う。高校の授業の延長線上で大学の講義を習うのと一緒。


 専門的な魔術や、学園で教えるのに少し危険な魔術等を教わる。更に、魔術師でも、火力をもって敵を凪ぎ払う砲台の役目となる魔術師。スピードを活かした魔法剣士、治療をメインに行う治癒術師等、様々な派生があり、それをもとに進路を決定する。


 そうやって、軍に入ったり、治癒術師として各地をまわったりする。


「進路、か」


 オレも進路決めないとな。でも、軍に入るつもりはないし、治癒術師として各地をまわろうかな。

 治癒術、できなくはないし。

 でも、戦うことを考えると魔法剣士の方がいいな。


 進路を考えるオレの耳に、激怒した猫の鳴き声が聞こえてきた。


「ん?なんだ」


 鳴き声のする方を見ると、木に向かって猫が毛を逆立てて威嚇をしていた。


 その猫の視線を辿ると、枝に何か白っぽいものが引っ掛かっていた。


「…何だろう、微かに魔力を感じる」


 その木の方に近づき、白っぽいものをよく見ようとする。


「あれ?精霊、かな」


 よく見ると、銀色の髪に白いノースリーブのジャケットと、黒いインナー、黒いホットパンツのような物を身に付けていた。

 ただ、腕に傷を受けているようで血がポタポタと地面に落ちていた。


「怪我してるのか…」


 とりあえず、猫どかすか。このままじゃ、治療できないし。


 そっと、猫を抱き上げる。


「フニャー!」


 抱き上げた瞬間に、猫は矛先をオレに向けて爪を振りかざす。


「うぎゃー!!」


 顔を猫にひっかかれまくる。

 そして、オレの手の中から抜け出し走り去っていった。


「…ちくしょう。おもっきしひっかかれたぞ」


 顔に治癒魔法を使いながら、枝に引っ掛かった銀髪の精霊を掌に乗せる。ちょうど伸ばした掌を占拠する銀髪の精霊。


 ふと、傷を見るときれいに裂けた皮膚から微かに魔力を感じた。


「この傷、魔術によってつけられてる」


 顔の治癒を終え、精霊の腕に治癒魔法をかける。


「魔力がかなり減っちゃってる。少し休ませてあげないと」


 精霊から感じる魔力は弱々しく、目をさます気配がない。

 掌に精霊を乗せたまま治癒魔法をかけて、鞄の方へと歩く。


「とりあえず応急処置はこれでよし。後は帰ってからちゃんと治療してあげないと」


 鞄を開けて、ガーゼと包帯を取りだす。ポケットからハンカチを取り精霊をそこにそっと乗せる。


 そして、ハサミを取りだして、ガーゼと包帯を切りサイズを合わせる。


 おし、バッチリだ。


 腕の傷に消毒液をふりかけてガーゼをかぶせ、包帯でグルグル巻いていく。


「あ。どうやって持ち帰ろう…」


 手に乗せたままってのも人の目があるし、かといってこのままほっとけないし。


「鞄の中に入れとこうか」


 ハンカチを下に敷いて、精霊をそっと静かに置いた。


「急いで帰ろう」


 鞄をたすき掛けして、揺らさないよう気を付けながら急ぎ足で家に向かう。


*****************************************


 大学から少し離れた白い6階建てのアパート。その3階の右の方の部屋がオレの部屋。


 精霊を連れて帰り、慌てて机の上に鞄を置き精霊の乗ったハンカチを取り出して治療をした。



 15分後、治療を終えてソファに一息ついて座る。


「にしても、何で傷を負って木に引っ掛かってたんだろう。魔術都市に精霊がいるって少しおかしいよな」


 膝に肘を乗せて、ハンカチの上で眠る精霊を見る。

 魔術都市は、完全に人間が作った場所。

 精霊は、自然のある山や川等、系統に合った場所にいるのだが、人間の多いこの魔術都市に精霊がいる事がよくわからない。

 人工精霊というのもいるらしいが、研究所から出れないはずだし。


「あ、人工精霊?だとしたら、研究所から逃げてきたのかな?」


 そう思って、立ち上がり精霊を見下ろす。

 掌ほどの大きさで、何かフィギアみたい。

 肌も白くて綺麗で可愛らしい印象を受ける。


「ん…」


 興味深く精霊を見つめていたら、目が覚めたようで、手で目を擦りながら上半身だけ起こす。

 そして、周りを見渡し、オレと視線があう。


「ひっ!?に、人間っ!!」


 オレに気づいた瞬間に、顔をこわばらせて後ずさる。


…ぐすっ。そんな怯えた顔しなくても


 オレのガラスのハートにヒビが入った。


「こ、怖い!あ、あっちいって!!」


 オレに、というか人間に恐怖しているようでハンカチを手に取り体を包み部屋の隅へと飛んでいく。


「…とりあえず、キッチンにいるから、用があったら声かけてね」


 泣きそうになるのを何とか耐えて、ぎこちなく笑みを浮かべてからキッチンに向かう。

 それを戸惑いながらも見送る精霊。


 ふと、自分の腕に巻かれた包帯に気づく。

 そこからはもう魔力を感じない。

 丁寧にガーゼと共に巻かれた包帯。


 顔をあげて部屋を見渡す。

 どこかの施設とは違うようで、普通に個人の部屋のように感じる。後ろを振り返ると、空が赤く染まって夜を迎えようとしていた。


「ここは…、魔術都市?」


 記憶が確かなら、何者かに襲われて逃げていた時に、落とされた場所が魔術都市だった気がする。


 ハンカチを手に持って浮かび上がり、窓から外の様子を見てみる。

 そこには、帰宅途中の学生や社会人が道路を行き交っている。


「魔術都市の中になるのかな。」


 所々で魔力を感じる気がする。

 それも様々な系統、大きさのものを。


 くるっとキッチンの方に振り返り、料理をしているあの人を見る。


 悪い人ではないのかな。研究者って感じもしないし、傷を治してくれた。それに、優しそうな雰囲気がする。


 ボーッとあの人を見つめる。


「…ん?」


 ふと、その視線に気づいたあの人と目が合う。


「!あ、あわわ…」


 慌てて視線を逸らす。

 恥ずかしさと不安で、ハンカチを胸元まであげてうつむく。


(…また顔逸らされた)


 泣きそうになるが、視線を手元に戻したあの人。また料理を始めたようだ。


 気のせいか、泣きそうな顔してた。


 なんか今まで会った人と違う気がする。


「あ、ホットミルク飲む?」


「え?」


 急に声をかけられて、顔を向けるとあの人が私を見ていた。


「あ、それとも他の飲み物がいい?」


 何か有ったかなー、と言いながら冷蔵庫のもとに移動するあの人。


「あ。オレンジジュースがあった!」


 ニッと笑みを浮かべて、オレンジジュースの入ったパックを見せてくる。


 その屈託のない笑顔に思わずドキッとする。


「お、オレンジジュースが…いい」


「!わかった。すぐいれるから待ってて」


 食器かごから、コップを探す。


(うーん、あの大きさにあうコップ…)


 私にちょうどいいサイズのコップを探すあの人。


 私が珍しくないのかな?

 あの人とか部屋を見た感じ、魔術師っぽい。

 魔術師なら私の、精霊のこと知ってるだろうし、特に珍しくはないのかな。

 でも、契約を結ぼうとか考えてるのかな?

 今まで会った人の中では、一番マシな気がする。でもでも…!


 と、私は怪我の治療までしてくれたあの人を疑ってグルグル迷走しだす。その間に、あの人はオレンジジュースを小さなグラスに入れて持ってきてくれた。


「あ、これでもでかいか」


 グラスの大きさが、机の上に立つ私と同じぐらいの大きさで、あの人は苦笑いする。


 うーん、と何かを考えているあの人。


「ちょっと待ってて」


 何か思い付いたのか、あの人は隣の部屋に移動した。


「?」


 しばらくして、あの人が手に小さなコップを持って来た。

 嬉しそうな顔をして、私の前にそのコップを置く。


「どう?このサイズなら飲める?」


 恐る恐る手を伸ばして、コップを持つ。

 ちょうどいいサイズで、重くもなく持ちやすい。


「これなら飲めそう」


 と、思わず嬉しくて笑顔になる。


「やっと笑ってくれた。」


 ニッと笑みを浮かべて、私の方を見るあの人。

 無意識に笑顔を見せてたことに気づき、慌ててうつむく。顔が熱いから、赤くなってるかも…


「洗ってくる」


 私からコップを受けとり、キッチンに向かう。


 そして、またすぐ戻ってきて私にオレンジジュースの入ったコップをくれた。


「どうぞ」


 ニッと笑ってくれる。

 この人は、私に人懐っこい笑みを向けてくれる。


「あ、ありがとう…」


 恥ずかしくてボソッと言う。


「今飯作ってるんだけど、よかったら食べる?」


「え?いいの?」


 オレンジジュースを飲むのをいったんやめて聞く。


「うん。よかったらだけど」


「あ、ありがとう」


「うん。じゃあ、待ってて。」


「わかった…」


 優しく微笑んでくれるこの人に、どこか気をゆるしてるような気がする。

 何だろう。初めて会ったけど、この人は落ち着く。


 自分の心の中の気持ちを考えながら、あの人の作る料理を机の上で待つ。



どうもー!

遂に完全新作を投稿することにしました!

バトルファンタジーを書くのは2度目ですが、しっかり伝わるように書いてきたいです。


一話目バトルないですね。一応前編って事にしてあるので、2話からバトルとなります。


これから更新頻度はわかりませんが、更新はしてくので、読んでもらえると嬉しいです。

誤字脱字等のコメントもいただけると助かります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ