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翌日の朝。皆が起きだすにはまだ早い時間。

斉藤・峰岸・沖田は道場にいた。


「峰岸。今朝は呼び出して悪いが、沖田と立ち会ってみてくれ」

「…沖田さんとですか?」


怪訝そうな峰岸。それはそうだ。入って間もない新人が相手できるような男ではない。


「僕が是非にってお願いしちゃって。よろしく頼むよ、峰岸君」


あくまで沖田はにこやかだ。


「峰岸。お前は今回、沖田の初太刀を避けることだけに専念しろ」

「え?」

「というわけで。いくよぉっ」

「っえぇ…!!」


話について行けていない峰岸を尻目に、沖田は軽やかに踏み出し、剣をふるう。

それは、まるで鞭が舞っているかのような錯覚を与えた。


峰岸は、頭の中に閃いた、そのままに、体を動かす。


辛くも避けきれたようだった。

風圧からか、峰岸の髪が数本舞っていた。


「…驚いた。ほんとに避けちゃうなんてね。ねぇっ」


沖田は斉藤を振り向いた。


「なんだ」

「僕、もうちょっと本気だしていい?」


沖田は、まるで新しいおもちゃを見つけた子供のようにはしゃいでいる。


「ちょ、ちょっと待ってください。…って。ええ?!沖田さん?!斉藤先生助けて…!」

「よそ見してる暇なんて、あげないよぉっ!」


途中まで傍観していた斉藤が慌てて止めに入る。


「そこまでだ。十分わかったろう、沖田」

「えぇ、せっかく面白くなってきたところだったのに…」


沖田は頬を膨らませた。まるで幼子だ。


その剣先で固まっていた峰岸は、斉藤に感謝の念を込めた視線を送った。

沖田の本気なんて、避けられるわけがない。

竹刀だからまさか死なないだろうが、痣だらけになることは必至だった。


「沖田さん。さっきのは、偶々です。俺が避けられるわけがないでしょう?」


そう言ってから、後悔した。沖田のまとう雰囲気が変わったのだ。


「…ふぅん。ねぇ、きみまさかそれ本気でいってる?」


眼を眇めて、じっと見てくる。


「この僕が、初太刀を避けられたんだよ?それを偶々だなんて…。いってくれる。いいかい、これからちゃんと稽古しないと…斬るよ」

「…は」


本気の眼だった。なんだこの人は。つかみどころがない。

呆然としていると、


「じゃあ、またね。おつかれさま。もうすぐ稽古、始まるよ」


なんて冗談ともつかないことを平気で軽く言って出て行った。

にっこり笑った顔が、鬼に見えた。


「こわっ」

「少し、済まないことをしてしまったか…」


隣で、斉藤が小さくつぶやいた。


「お前の眼が優れていたので、つい」


弟子を自慢する師匠の心境とはこういうものか、と柄にもなく思った。


「なんなんですか、一体。俺の目、なんか変ですか?」


意味が分からなくて、峰岸は斉藤に尋ねた。


「変だ」


あまりにも直球な答に峰岸は絶句した。もうちょっと、言い方ってものを考えてほしかった。


一方斉藤は、峰岸があまりにも自分の眼について気が付いていなかったことに逆に驚いた。

こいつ、視えてることに気付いていない?


「沖田の太刀筋は、視えて居なかったのか?」

「視えるわけないじゃないですか。おれはただ、避けることに専念しろと言われて、頭に浮かんだままとっさに動いただけですよ」


なにを当たり前のことを、というように峰岸は答えた。


「……」


斉藤は眼を閉じて黙り込んだ。

沈黙は続く。


「…先生?」


自分が何か怒らせるようなことを言ってしまったのか、と不安になって、峰岸は声をかけた。


「…いや。なんでもない。もうすぐ、稽古が始まるから、先に行け」

「わかりました。ありがとうございました」


ぺこりと、頭を下げて峰岸は出て行った。


「…なにが、『普通の隊士』だ」


とんでもない。あいつはいつか化けるぞ。

新選組でも屈指の鬼に。

斉藤は唇の端を上げて笑った。



沖田さん好きの方、すみません。

でも、青藍がチートなのは防御力だけですから!

ていうか、目だけですから!

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