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夕暮れ時。


斉藤は町から帰るところだった。良い刀がないか探していたのだった。

斉藤の数少ない娯楽の一つが刀の物色だった。

永倉あたりは、「実用的すぎる。そんなの趣味じゃねぇ。酒にしろ、酒に」と呆れて言ってくるが。

斉藤は、酒があまり好きじゃない。弱くはない。むしろ強い方だと思う。

だが、飲んだ時の記憶がなくなることがしばしばあった。

自分が自制のなくなるのがおそろしい。

だから、酔いつぶれるほどは、呑まないようにしていた。


「あ、斉藤君だぁ。また街に出てたんだね」


後ろから、声をかけてきたのは、沖田だった。

手に団子串を持っている。また甘味処にでも行っていたのだろう。


「あぁ。あんたか。何の用だ」

「いやぁ、別にぃ、用ってほどのもんじゃないんだけどぉ」


なぜだかにやにや笑っている。


「気持ち悪い。なんだ。はっきり言え」

「あの峰岸君に自ら稽古つけてやっているんでしょ?斉藤君にしては珍しいじゃない。めったに稽古に出ないくせに」

「…あんたにだけは言われたくない」


沖田の稽古嫌いは有名だ。稽古よりも子供と遊ぶ方が好きらしい。

そういうことを憚ることなくやるのが、沖田総司という男だった。


「まぁまぁ。で、なんで稽古つけてやってるの?」


同情してるわけじゃないよね?と沖田の目が語っている。


「あいつの眼、だ」

「はい?」

「あいつは、異常なほど眼がいい。稽古してみて確信した。もしかしたら、あんたの初太刀、かわせるかもしれないぞ」

「…それってほんと?」


沖田の眼に剣呑な光が宿る。雰囲気が変わる。

この男も、斉藤と同じか、またはそれ以上に、剣に対する自負心が高い。


「一度、相手してみるか?」


なんだかおもしろく感じて、唇の端を上げた。これが、斉藤の笑い方だった。


「もちろん。喜んでお相手いたしましょう」


ふざけた口調で、でも真剣な目でいう沖田の姿が、より一層笑いを誘う。


「…っく」


つい、声が漏れた。

隣で沖田が目を丸くしている。


「斉藤君が笑ってる…」

「うるさい。構うな。俺は先に帰る」


明日の稽古が、少し、楽しみだった。


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