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どうしよう。嬉しすぎて動悸が…。

「永倉はああ見えて情に厚い。峰岸みたいな、いかにも訳ありな男といたらほだされちまうかもしれねぇ」


後になって、土方は斉藤に話した。

峰岸の世話を引き受けた3日後の夜のことだ。


「…俺なら、その心配はないと?」

何もかも見透かしているような物言いに、少し反論してみたくなった。


斉藤の言葉に少し笑って、土方は手酌で酒を注いだ。酒に弱い土方はまだ少ししか呑んでいないというのに、頬を赤くしている。


「さあ。俺が知ってる斉藤一は、情で斬るか斬らないか選ぶような男ではないがな。…ほら、お前も呑め」


土方の差し出した椀を受け取りながら、斉藤は思った。

いざとなったら峰岸を斬れ、ということか。だが、いったいなにゆえ…。

疑問が顔に出ていたのだろう、土方は斉藤を一瞥してこう続けた。


「峰岸の目的は仇討だ。そのためだけに新選組に入るってんだから泣かせるほどにまっすぐじゃねぇか。だが、その目的が達成した後、奴はどうなる?」

「目的を失った後、か」

「今まで自分を支えていたものを失うんだからな。長州の奴らにとってこれほど手馴づけがいのあるのもないだろうよ」

「まさか。副長はそこまで考えて」


峰岸が長州の間者となることも考えていたというのか。


「俺は新選組の土方だ。鬼といわれようが、俺は新選組を守り抜く」


土方の目は鋭く、真剣な光を宿していた。

あらためて、目の前の男の偉才に驚嘆する。


「…なんて、な。どうなるかわからん未来の話だ。俺は心配性でな。とりあえず打てる手は打っとかないと気になるのよ。今のところは、普通の隊士だ。鍛えてやってくれ。すまねぇな、斉藤」


目を細めていった土方からは、先ほどの剣呑な雰囲気は消えている。


「委細承知した、副長」




***




「おはようございます、斉藤先生」


朝。井戸のそばで峰岸は洗濯していた。

斉藤がこちらに向かっているのに気付き、挨拶する。


「ああ」


斉藤はうなずくだけの返事をした。それ以外にやりようを知らない。


「先生も洗濯もの何かあれば洗っておきましょうか。ついでですし」


何日か経ち、峰岸もずいぶんここに慣れたようだった。

同年代の少年たちよりは幼い顔立ちだが、よほどしっかりしている。

稽古以外にも、雑用なども自分から進んで行っていた。


「いや。自分の褌くらい自分で洗う」


これだけは譲れない。武士の矜持だ。


「…申し訳ありません。不躾でした」

そう言って、深々と頭を下げる。


「お前は」


きょとんとした顔でこちらを見る。

最初に立ち会った時のあの眼は最近はめったに表れないようだった。


「お前は、よほど良い家族の中で育ってきたのだな」


言った瞬間。峰岸の表情が凍った。また、昏いあの眼にもどる。

斉藤は少し後悔した。だからこういう役目は荷が重いのだ。永倉ならばうまいことやるだろうに。


「悪い」そう言って立ち去ろうとした。


「先生」


峰岸が呼び止めた。

振り返ると、痛みをこらえるようにしてかすかに笑んで言った。


「きっと、先生にはお話しします。今は…無理ですが」


その表情がその年ごろには似合わなくて。


「無理していう必要はない。…俺には関係がないことだ」


そのままいつものように立ち去ろうと思った。だが、ふと思いついて、峰岸に言った。


「それが終わったら、道場に来い。稽古、つけてやる」

「…っはい!」


峰岸は素直だ。そのまっすぐさがなぜだか痛々しいものに感じた。



すみません。褌のくだりが書きたかっただけなんです。

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