参
「で。どう思う?斉藤」
ここは土方の部屋。峰岸の世話は沖田に任せて、3人は場所を移したのだった。
「どう、とは」
静かに聞き返す斉藤。さきほどまで手合せしていたとは思えないほどの落ち着きようだった。
この男にとってはこれが普通だが。
「お前が胴で一本取りに行ったからな。俺や永倉は傍から見ていただけだったからわからんが、直接相手したお前なら気づいたこともあるかと思ってな」
そうだろう、永倉、と、土方が同意を求めてくる。
「…あぁ。斉藤なら面で一本取ると思ってたからな」
素直に同意するのも何となく癪だが、そのとおりだった。とにかく土方という男は勘がいい。人もよく見ている。いつの間にか奴の掌の上で転がされていることもしばしばだった。
「俺にもよくはわからない。…ただ」
「ただ?」
「峰岸には、視えて居た、と思う」
少し戸惑ったように、視線をそらす。
「…お前の太刀筋が、か?」
土方の問いに、斉藤は目を閉じた。肯定だった。
「…信じられねぇ」
「本当にそうかは俺にもわからない。とっさに変えたからな。だが、あの眼」
あの、昏い眼。あれは…。
俺と同じ匂いがする。斬りたくて斬りたくて仕方がない俺と。
眼を閉じたまま、斉藤は土方に尋ねた。
「副長。なにゆえ俺に峰岸の相手を?」
土方が、視きっているのではないかと思った。己の内心を。
「ん?そうさなぁ…」
首筋を掻きながらこういった。
「俺の、勘だ」
土方はにやりと笑った。
「勘ってなぁ…。あ、そういやぁ、あいつ、いってたぜ」
あきれたような声音と無表情で永倉が言った。
「新選組に入隊した理由。…仇討だってさ」
まだ若ぇのに、と自身も若者のはずの永倉は言う。
「…仇討、か」斉藤がつぶやいた。
なるほど、それならば、あの眼にも得心がいく。
「まだ若いったって、あいつは17なんだろう?17つったらもう立派な大人だ。仇討だろうがなんだろうがやるだろうよ」
苦りきったような顔で土方が言った。
「だがな、ここは新選組だ。私情で隊務に出られると困る。…斉藤」
「はい」
「お前、あいつの面倒見ろ。これは副長命令だ。」
土方は、峰岸を隊士に認めるらしい。
ほんの少しだけ、斉藤は眼を見開いた。
それを見て、意地の悪い笑みを浮かべる土方。
「なんだ?どうせこういうのは、永倉の役目だろうってか」
図星だった。
永倉の方が、面倒見がいいし、情に厚い。
それに引き替え自分は単独行動の方が多く、実際そちらの方を好んでいた。
「まったく。沖田だけじゃなくお前もかよ。俺はいったいなんなんだよ。世話係じゃねぇっつうんだ」
永倉がふてくされている。
土方はそれを無視してつづけた。
「拒否権はない。頼むぞ」
土方は真面目な目をしていた。この時の彼には、逆らえない。
筋肉バカの原田左之助ならやりかねないが、斉藤は、土方が一度決めたらやり通す男だと知っている。
引き受けるしか、道はなかった。
青藍はほんのちょっぴりチートです。