弐
「峰岸といったか。…どこからでも打ち込んで来い。」
新選組屯所の道場。向かい合っているのは、峰岸と、斉藤だった。
あの後、副長である土方歳三に面会した二人だったが、新入隊士の試験の相手は、たまたまその場にいた、斉藤が務めることになった。
「えぇっと、彼、峰岸君だっけ?最初の相手が斉藤君だなんて、運悪いったらないなぁ。けが、しなきゃいいけど。ねぇ?土方さん?」
「斉藤はお前と違って新人にけがさせるような奴じゃないさ。そんなこと言って、お前、面白がってるだろう。あ?総司よ」
「あはっ。ばれてました?」
軽く笑っているのは、沖田総司。いつもいつも冗談を言っては、きゃらきゃら笑っている。隣に座っているのが土方だ。いつも苦虫をかみつぶしたような顔をしているが、試衛館時代からの連中といるときは少し雰囲気が緩む。この時も、普段なら言わない軽口をたたいていた。
「おいおい。あんたらがしゃべってちゃあ、邪魔にしかならねぇだろうが」
永倉がたしなめる。
峰岸と斉藤はといえば、先ほどから動きはない。静かに竹刀を構えている斉藤。
一方、峰岸は例のあの眼で斉藤をにらみながらすきを窺っているようだ。とはいえ、相手は斉藤だ。峰岸は唇を噛み締めていた。
「こちらから行くぞ」
痺れを切らしたのか、一つ息をついて斉藤が動いた。
沖田の剣は猛者の剣だが、斉藤の剣は無敵の剣だ。奴の初太刀は避けられまい。
沖田ではないが、峰岸がけがしないか、永倉は心配になる。
「っ…!」
峰岸は眼を大きく見開いた。
速い。
次の瞬間には胴を打たれていた。とっさにうずくまる峰岸。
道場には斉藤の一太刀の音が響いていた。
「勝負あったな。まあまあといったところか」
立ち上がりながら土方が言った。
「そうですねぇ。自分から打ち掛からなかっただけでも合格ですよ。なんたって相手が斉藤君じゃあ…」
ねぇ、大丈夫?と峰岸に話しかける沖田。
峰岸は、かろうじてうなずいた。少し咳き込んでいる。
「おい、総司。こいつを見てやんな」土方が言う。
「ええぇ。なんで僕が?こういうのって永倉さんの十八番でしょう」
「おいてめぇ喧嘩売ってんのか」
「じょーだんですよ。そんなおこんなくたっていいじゃないですか」
そういって、また沖田はひとりきゃらきゃら笑った。