壱
主人公、峰岸青藍はオリジナルです。
時は幕末。京都の壬生浪士組が新選組と名を変え、京都の治安維持に奔走していたころのこと。
ある夏の日、新選組の屯所に一人の少年が現れた。総髪を無造作にくくっただけの、眼がぎらぎらした少年だった。
「新選組に入隊を希望します!」
屯所の入り口に仁王立ちのまま、威勢よく叫んだ。しかしよく見ると、両足が小さく震えている。握りしめた拳も震えていた。
「おう。入隊希望者か。ま、そんなとこ突っ立ってねぇで入ってこいよ」少年に声をかけたのは、がっしりした長身の隊士。
「俺は副長助勤、永倉新八っていう。おめぇ、名はなんという?」
「…峰岸青藍」少年は永倉を半ば見上げるようにして答えた。彼は同年代の少年たちより少し背が低かった。
「へえ。しゃれた名だなあ」声色は感心した風なのだが、どうも表情が動かない。これが永倉の特徴なのだった。
「まあ、とりあえず、土方さんのとこにでも行くか?新入りの入隊はたいていあの人を通すからな…っと。おぉい、斉藤じゃねぇか。どこ行ってたんだ?」
永倉が呼び止めたのは、これまたすらりとした長身で着流しを悠然と着こなしている総髪の青年だった。刀を体の右にさしている。左利きなのだろう。彼は、長めの前髪の奥からちらりと目を上げて答えた。
「俺がどこへ行こうと俺の勝手だろう」
そう言って、すたすた歩いていく。そんな斉藤を見送り、永倉は肩をすくめていった。
「あいかわらずだなぁ。…ああ、あいつは斉藤。斉藤一。新選組の副長助勤の一人だ。無愛想だが、悪い奴じゃない…と思う」
煮えきらねぇ言い方でわりぃな、と永倉は苦笑した。「いえ」と峰岸は言葉少なに答える。先ほどの威勢の良さはどこかに行ってしまったかのように、さっきから黙ったままである。その眼が暗く輝いているのが、永倉は気になった。
「…年はいくつだ?」とりあえず、当たり障りのないことを聞いてみる。外見からはわかりづらいが、永倉には世話焼きの一面があった。
「17…です」思ったより年上だった。
「なんで新選組に?」
永倉の問いに、峰岸は嗤って。
「敵討ちです」
永倉を射るように見た。その眼は光が届かない海底のような色をしていた。