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拾漆

ご無沙汰しております。

ぴぴぴ、と鳥の鳴く声がする。


「・・・んん。・・・朝、か。うぅぅ、きもぢわるい・・・」


ガンガンする頭を押さえ、やっとの思いで身を起こした。

昨日は無理やり大瓶一本分の酒を流し込まれてあっという間に意識を失ってしまった。


見ると、座敷は惨憺たる有様。

脚付御膳や徳利、お猪口など昨夜の宴会で使われた諸々が散乱し、その中で原田と永倉が腹を出して寝ている。

原田に至っては腹踊り用の化粧を施された腹を惜しげもなく晒していた。


「・・・原田さん、永倉さん、もう朝ですよ。早く屯所に帰らないと」


喋るだけで吐き気がこみ上げてくる。


呼びかけても呻くだけで起きる気配のない二人に溜息をついてフラフラと立ち上がった。


・・・手洗い借りよう。

座敷を出て左に曲がってそのまま直進して突き当たりを右、だったか。


朝日を浴びた朱色の壁が色褪せて見える。

昨夜は艶やかな風情を醸し出していたのに。


少しばかり虚しさを感じながら廊下を歩く。

おそらく舞妓達も帰ったのか、眠っているのか、誰の気配もしなかった。







手洗いを済ませた青藍はまだ寝ぼけている原田と永倉を必死の思いで起こした。

何しろ酔っ払っているとは言え、剣豪の二人だ。

寝ぼけたまま殺気を向けられでもしたら怪我では済まない。


「お二方、もう朝ですよ!!早く帰らないと!」

「・・・んん、も、無理、飲めないって・・・」

「まだ寝ぼけてる・・・」


最悪だ・・・。

屯所ではちゃんと朝起きているのに、どうして外では寝汚いのか。


「あ、もしかして」


青藍は少しひらめいた。

これで無理なら水でもぶっかけてやろうと、息を吸い込んで腹から声を出した。


「あああっ!!鬼副長!!斎藤先生!!」


「なにぃ?!」

「ど、どこだ?!」


ガバっと。

そう音が聞こえるほどの勢いで二人は身を起こした。


「おはようございます。原田さん、永倉さん」

「お、おはよう・・・?土方さんはどうした」

「え?こんなところにいらっしゃるわけ無いでしょう。お二人があまりにも起きてくださらないからこう言えば良いかと思って」


「青藍、お前・・・」

「心臓が縮み上がったぜ・・・。なぁ、ぱっつぁん」

「ああ。土方さんに斎藤の組み合わせはダメだ。斬られかねん」

「いや、まさかそんな。原田さんと永倉さんなら大丈夫ですよ」

「笑いながら言うか・・・。コイツ、大物になるぜ・・・」

「土方さんを鬼副長と呼ぶなんてな・・・」

「え?いえ、それは今だけですよ。流石にご本人の目の前でなんて無理ですって」


青藍は笑いながらやっと起きた二人を急かして、座敷をあとにした。




***



「おぅ、原田、永倉。朝帰りたァ、呑気なもんだな?」


屯所の門をくぐった途端、聞こえたのは地を這うような低い声。


「げ。鬼副長・・・」

「何か言ったか、峰岸?」

「い、いいえ、なにも・・・」


思わず目線をそらす。


その隣で、原田と永倉のふたりはというと。


(うーわ、ホントに言いやがったぜ、青藍のやつ)

(・・・もしかしたら、普段からそう思ってんのかもな)


コソコソと喋っていた。


「おい、何コソコソしてんだ?今日は何があったか分かってんだろうな、あぁん?言ってみやがれ」

「え・・・なんかあったか?ぱっつぁん」

「いや・・・覚えてねぇな・・・あれ?・・・もしかして・・・」

「幹部全員で、会津のお偉方に試合を見せに行く日だ!こんのバカ野郎どもが!!」


土方の怒号が響き渡った。


青藍は思わず頭を抱えた。

生涯初めての二日酔いに大声は厳しいものがある。


しかし原田と永倉は慣れたものだ。


「すまねぇ!今から支度すっから!!瞬きする間に、なぁ!ぱっつぁん!」

「おうよ、先行っててくれていいぜ。土方さん」


そんな二人の様子に土方は諦めたように溜息をついた。


「・・・悪びれねぇ所がまた腹立つ。いいか、ちっとでも遅れてみろ。その場で俺が切り捨てるぞ」

「わーってるよ!」


シッシと原田が手を振ると土方は踵を返した。


他にもきっと用事があるのだろう。

そうでなければまた小言の応酬が始まっていたはずだ。


「・・・悪かったな青藍。先に帰ってりゃ土方さんに怒鳴られずに済んだろ」


チラリと青藍を見て永倉が言った。

青藍は思わず苦笑する。


「いえ、とんでもないです。それに、俺が起こさなかったら、お二人共遅刻で切腹、なんてことになったかもしれないですよ?」

「っは!違いねぇ!」


原田が笑う。笑えない冗談でも笑うのがこの男だ。


「・・・俺はまだ死にたくねぇなぁ」


永倉はそう言って軽く続けた。


「まぁ、昨日飲んだ酒は旨かった。後悔はない」

「永倉さん・・・」


やはりこの二人はどこか似ている・・・。


(こういうのを、悪友、というのだろうか)


どこかで鶏が鳴いた。


「おっと、こうしちゃいられねぇ。青藍、準備手伝ってくれねぇか?いそがねぇとまぁた雷が落ちる」


原田に笑みを含んだ口調で問いかけられて青藍は頷いた。


「はい。俺で出来る事でしたら」

「斎藤はいいのか?」


永倉が聞く。


「先生ですか?俺の手伝いが必要とは思えないですよ。きっともう既に準備を終えて稽古なさっているんじゃないでしょうか」

「まぁそうだろうな。・・・それにしてもお前、俺たちと随分態度が違うじゃねぇか」

「そうですか・・・?まぁ日頃の行い・・」

「俺たちが何したって言うんだ?!青藍!」

「・・・俺の財布で飲んだでしょ」

「うっ・・・お前、結構根に持ってるのな」

「冗談ですよ、半分」

「半分?!」

「・・・原田で遊ぶな、青藍」

「すみません永倉さん。ほら、早く行きましょう原田さん」

「お、おぅ・・・」


(・・・なんか青藍、腹黒くなってないか?・・・ハッもしや斎藤の所為)


「?どうかされましたか原田さん」

「い、いや。なんでもねぇ!」


弟子は師匠に似るというが・・・正直似て欲しくねぇなぁと思う原田だった。




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