拾陸
お久しぶりです。
やっとタイトル変更しました。
「若人は黎明の空を仰ぐ」です。
よろしくお願いします。
今回の御用改めは、十数人の隊士のうち、負傷者4名、重傷者1名、死者なし、捕縛者・浪士側の死者合わせて40名という成果に終わった。
それに対して、会津藩から報奨金が出た。
負傷したものに対してはさらに追加で見舞金も出るという。
「嘘だろ?ああ、俺もいっときゃあよかったぜ」
原田などはそれを聞いて悔しがった。
「…動機が不純ですよ、原田さん」
「いいじゃねぇか。だってよ、そんだけの金ありゃあ島原で豪遊し放題だぜ?羨ましいっ!羨ましすぎるっ!…おい、そうだ、青藍、お前のおごりで島原行こうぜ!」
「は?なにいって」
この前はあんなに心配してくれたのに。
「我ながら名案だ。おぅい、八つぁん!一緒に行こうぜ」
「お、酒が飲めるなら、いいぜ」
「な、永倉さんまで…」
新選組の良心と、峰岸がひそかに当てにしていた、その永倉までも、酒の誘惑にあっけなく陥落した。
「よぉしっ!今夜は豪遊だ、豪遊!」
「ちょ、ちょっと待ってくださいっ」
峰岸は原田に半分引きずられていった。
「はぁーっ、もうマジで天国だなっ!!青藍、お前も楽しめよ!」
「いや、あの、俺こんなところ初めてですし。楽しむったって」
「酒飲めばいいじゃねえの?ほら、いれてやるから」
「いえ、お気持ちだけで結構です。永倉さん、お酒本当にお好きなんですね」
「美味い酒はいいぞお、青藍。お前がいける口ならなあ」
「すみません。下戸で」
「まあ、仕方ねえな。…っと。始まったぜ、いつもの余興が」
「え?」
「左之の腹踊り。あの切腹の傷跡を口に見立てて上に目を書いてやるんだ」
「はあ。原田さんって、なんか、すごい人ですね」
あとで恥ずかしくならないのだろうか。
「おぅい、青藍。こっち来いよ!綺麗な姐さん方が舞ってるぞ」
自分の腹踊りが終わって満足げに手招きする原田。
舞妓の舞を見るのは初めてだ。
実際見ると確かに美しいが、この代金が自分の財布から出ているのだと考えると冷や汗が流れるほど恐ろしい。
呑気に満喫している二人を締め上げたい欲求に駆られる。
「どうだ?いいところだろう?」
「お金が飛んでいかなければそう言えますね」
「なんだ。気にするな、小さいことだ」
「月末になるとつけの催促に追われているお二方には言われたくありません」
「言うな、青藍」
「耳が痛いぜ」
「お客はん、せっかくいらしたんやし、楽しんでいっとくんなまし」
一人の舞妓が声をかけてきた。
「あ、すみません。無粋なまねを…」
その舞妓は妖艶にほほ笑んでいった。
「可愛らしいお人やなぁ。うち、夕霧いいます。どうぞよしなに」
「え…っと。あ、ありがとうございます。ご丁寧に。俺は峰岸といいます」
「峰岸はんどすか。原田はんや永倉はんとは違いますなあ。凛々しいというのやろか」
「おい、夕霧?!」
「やはり、若い者には負けるな、左之」
「いや、八っつあん!あんたも言われたんだぜ?」
「俺はうまい酒が飲めればそれでいい」
「なんだその無駄に潔いのは」
「…峰岸はんとおっしゃるんどすか、あのお侍はんは」
原田と永倉の後ろから声がした。
舞妓の一人だろう。赤い着物が色白の肌によく映えている。
「そう、峰岸青藍。この間入隊した若手ってやつだな。っと、あんた見かけねえ顔だな。新入りかい?」
「失礼いたしました。紅緋と申します。…どうぞよしなに」
頭を下げる仕草がまっすぐで美しい。
たおやかさには少し欠けるが、そこは新入りだからなのだろう。
「いやあ、すんげえ別嬪だな」
「…ありがとうございます」
「あんたも青藍に興味あんのか?いいよなぁ、若い奴ってのは」
「いえ、そういうわけでは。…奥の用事あるのん忘れてました。堪忍え。」
そそくさと去っていった後ろ姿を見ながら酒を煽る。
「なんだったんだろうな、あの娘。なあ、八っつあん」
「さあ?・・・おい俺にも酒よこせ」
「ちょっと、お二人共。俺の財布から出ているからって飲みすぎないでくださいよ。それでなくても日頃から節制しろって副長から言われているじゃあありませんか」
「俺の数少ない娯楽を取り上げるってのか、青藍?」
「・・・はぁ。俺は、お二人のお体を思って申し上げてます。せっかく剣客で知られておられるのに、酒に殺されるなんて・・・。ああ、なんていたわしい」
涙を拭う素振りをする青藍。
それを見た原田の目が据わる。
「ふぅん?言うようになったじゃねぇか、あぁん?青藍よぉ。・・・八っつあん、そこの大瓶、かしてくんな」
「・・・程々にしとけよ、左之」
「ちょ、な、何ですか原田さん?!俺飲めないって言ってるじゃあありませんかっ・・・て!え?永倉さん?!」
がしっと後ろから永倉に羽交い絞めにされた。
表情には出ていないが、青藍の言葉に思うところでもあったのか。
正面からは、ニヤニヤと嫌らしく笑う原田が近づいてくる。
「いいねぇ八っつあん。そのまま押さえといてくれよ」
「ホントに勘弁してくださいってば!」
「・・・俺もこれ以上酒を不味くさせられんのはゴメンなんでな。ま、許せ青藍」
いつの間にか永倉の地雷を踏んでしまっていたのか?!と、青藍は青くなった。
原田がますます近づいてくる。
青藍は自分の顔は引きつっていくのを自覚した。
「・・・っぎゃぁぁあぁぁあぁあっ!!」
夜の遊郭に青藍の悲鳴が木霊したのだった。
かなり久しぶりに書いたので地の文の人称が峰岸から青藍に変わっていますが、あまりお気になさらないでください・・・。
夕霧と紅緋はオリジナルです。