拾伍
またまた、ご無沙汰しております。
「紫紺っ」
自分の声で、目が覚めた。
全身に汗をかいていた。
「…あ、…夢、か」
「どうした、峰岸」
「っうわぁっっ!!」
枕元に、斉藤が座っていた。
驚いて跳ね起きる。
寝巻が盛大に乱れたが、それに構ってはいられなかった。
「せ、先生!?ど、どうしてここに!?」
「…見舞いだが」
「わ、わざわざありがとうございます。お忙しいのに」
「…ずいぶんと、うなされていたな」
斉藤の言葉に、峰岸の頬に朱がのぼる。
聞かれていたのか。
「悪い、夢を見て…」
最近斉藤には格好がつかないところばかり見られている気がする。
いや、もとからか。
峰岸はうなだれた。
「……顔を上げろ、峰岸」
頭上から、斉藤のため息が聞こえた。
呆れられたかと、身をこわばらせる。
恐る恐る顔を上げると、いつもの斉藤の顔が見えた。
斉藤は、峰岸の怖々とした様子にもう一度ため息をつきたくなる。
自身に愛想がないことは百も承知だが、こうも怖れられると面白くない。
「…今回は、よくやった」
「え…?」
「副長がそう褒めていた。……俺も同感だ」
「先生」
峰岸の顔が途端に明るくなる。
本当に素直だ。
そんな峰岸にも昏い眼をするほどの過去があるらしい。
しかしそれを尋ねるなんて原田のような不躾なまねはしない。
「先生、あの。…俺、寝言でなんか言っていましたか?」
「………」
なぜそれを俺に聞いてくる。
嘘はつけないから、頷くだけにとどめた。
「ああ、それでは、俺が紫紺と呼んだのも」
「聞こえてはいた」
峰岸は苦笑した。
しかし、その歪んだ顔は泣きそうに見えた。
「生き別れた、妹の名前なんです。俺が、ちゃんと手を離さないようにしていれば」
「そうか」
反応に困る。
この時代、言ってしまえば、峰岸のような境遇のものなど数えきれないほどいるだろう。
だからといって、峰岸の不幸がとるに足りないものだなどとは言えない。
周りがそうだからというのは、何の慰めにもならない。
だから、斉藤は相槌を打つだけしかしない。できない。
峰岸は訥々と続ける。
「先生。俺、もっともっと強くなりたいです。先生みたいに」
「そうか」
「今度はちゃんと、守りたいものを守れるように。…紫紺だって生きていると信じています」
「ああ」
「だから、肩のこの固定が取れたら、稽古つけていただけますか」
「いいだろう」
斉藤を見る峰岸の眼は決意の色に染まっていた。
こちらが何も言わずとも、こいつは進んでいくのだな。
「では、早く治るようにしっかり休め」
「はい。先生、ありがとうございました」
峰岸は布団の上で正座して、頭を下げた。