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御用改め。


長州の尊王攘夷派の一掃を目的とした宿屋等の家宅捜索である。

市中の巡察とは違い、確実に斬り合いになる。

死に番という制度がのちにできるほど、厳しいものであった。



「…巡察でも俺には厳しいのに…あ、沖田さん」

「やあ、峰岸君。…どうしたの?死にそうな顔してるけど」


永倉、原田のもとから離れて一人歩いていると、縁側に腰掛けた沖田を見かけた。

口に団子櫛をくわえてフラフラ揺らしている。

一つ一つの仕草が子供じみていた。

これで新選組一の遣い手というのだから、人は見かけによらないものだ。


「いえ、あの。明日の御用改めに俺も参加するように土方さんに言われまして…」

「ふぅん。土方さんがねぇ…君なら大丈夫だよ」


そう言って口から櫛を離し、それで峰岸を指して言う。


「え」


まさか沖田から励ましの言葉をかけられるとは思いもしなかった。


「だって、ねぇ?この僕の初太刀を避けられる腕の持ち主なんだから」

「いやいやいや、違いますって。あれは偶々…って」

「何か言ったかな?峰岸君?」


沖田は、表面上はにこやかだが、眼が、笑っていない。


「いいえ。何も。…励ましをありがとうございました沖田さん」


どうやら、あの一件以来沖田から目の敵にされている感がある。

とはいえ、峰岸にはどうしようもない。不可抗力だ。

これ以上嫌味を言われる前に、沖田の前から立ち去った。




一人になりたいとは思ったが、実際一人になってみても不安が広がるだけだった。

こんな調子では、仇討など本当にできるのか分かったものではない。


「…あ、そうだ。あの人に聞いてみよう」


彼なら、年も近い。


早速峰岸は道場に向かった。



「…で、私になるんですか」


他にも君に近い年の人間はいると思うのですが、と戸惑い交じりに言う藤堂。


思った通り、彼は道場にいた。


藤堂は副長助勤の中で、熱心に平隊士の稽古をつけている、数少ないうちの一人だ。

沖田は稽古よりも近所の子供と遊ぶ方を優先するし、斉藤は大勢を相手にしようとしない、一人が好きな人間で、永倉、原田は見ることは見るがどうにも適当な感じが否めない。


実際、稽古よりも実践を積む方が手っ取り早いという風潮が隊内には存在している。


しかし真面目な藤堂は毎回の稽古の指導に手を抜かない。

だからよく道場にいるという印象があったのだ。


「はい。何か助言があればお願いします、藤堂さん」

「助言ねぇ…」

「はい!」


もし可能ならば、ここで稽古をつけてもらえるかもしれない。

そう思って、峰岸は藤堂の言葉を待った。


「え…っと。…気合?」


藤堂は小首を傾げながら言った。


「…すみません、もう一度お願いします」


耳が悪くなったのか、藤堂の口からとは思えない言葉が聞こえたような気がした。


「だから、気合です」


先ほどよりもはっきりと言い切られた。


「気合、ですか」

「そうです。何のために毎日素振りしていると思っているのです?」


ああ、忘れていた。見た目に反してこの人は熱血だったことを。


「怖気づいていても何にもなりません。まずは行く。それだけです」


それで、逝ってしまったらどうするんだろう、とは聞けなかった。




結局、実戦に勝る稽古はない、ということなのだろうか。


「気合か」


そうかもしれない。うじうじ悩んでいても仕方ない。

なるようにしか、ならない。


「一度は仇討を決意したんだ。何を恐れることがある」


明日、とうとう人を斬ることになるかもしれないことを、無理やり頭の隅に追いやって、峰岸は稽古にもどった。









***


「峰岸を明日の御用改めに入れたそうだな、副長」

「なんだ、もう知っていたのか」


まあ、入れよ、と土方は斉藤に言った。

失礼する、と言って斉藤は土方の前に正座した。


「…何故か、聞きたそうだな」


斉藤は頷いた。


「あいつが、いつまでたっても弱いから」

「ああ、やはり」

「…思っていたほど驚かねぇな」

「剣は鍛錬によってうまくなる。だが、実戦でないと無意味に等しい。…特に峰岸の場合は一度生と死の瀬戸際に置いた方が良いかと。副長もそう意図していたのでは」

「分かってるなら、聞くんじゃねぇよ。…斉藤、世話をかけるが頼む。まぁ、つかえねぇ奴はいらねぇがな」


言外に使えなければ放置していいとの意味を含ませてニヤリと土方は笑った。

この笑い方の時、土方は鬼になる。


「…承知した、副長」


俺が見捨てるようなことにならなければよい、と。


斉藤は願った。



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