玖
かなり、短いです。
あれだけ暑かった京の夏も終わりが近づいていた。
峰岸は斉藤にきつく言われてから、それまで以上に鍛錬に励んでいた。
今では、平隊士同士の打ち合いで3本に1本は取れるようになった。
「ってことは、3本に2本は取られてるってわけだ。全然成長しねぇなぁ、青藍?」
「微々たるものですが成長していると思っていますが。原田さん。…それに、3本に1本は勝ちで、もう1本は引き分けです」
「おいおいおいおい。引き分けってぇ、馬鹿言ってんじゃねぇよ。そんなの、実戦じゃあ死んでるも同然だ。自分のケツぐらい自分でふけよな」
一度は言い返した峰岸だったが、原田のさらなる追い討ちに、うつむいて、唇をかんだ。
あまりにもその通り過ぎて、それが自分でもわかっているから余計に歯がゆいのだ。
「…はい。そうですね。やはり自分が甘かったです」
「いや、青藍。お前さんは確かに成長してるぜ。…左之、あんまりいじめてやるな」
「分かってるって八っつあん。でもよ、青藍の奴が真に受けすぎるんだ」
こっちは半分軽口だってぇのに、と原田は不満げに呟く。
「とはいえ、原田の言う事には一理ある」
「っ!びびったぁ。あんたか、土方さん」
いつの間にか、三人の背後に土方がいた。
「決めたぞ。峰岸、お前明日の巡察取り止めろ。代わりに、御用改めに入れ」
「えっ」
「しくじったら、即死ぬと思え」
言うだけ言って土方は歩き去った。
「おいおい、マジかよ」
「…御用改め、ですか」
「聞いた話じゃあ、今回は当たりらしい。青藍、…大丈夫だ斉藤がいる…はず」
「…ちょっと、一人になってきます」
心なしか、峰岸の顔色は青ざめていた。
「相変わらず、鬼だな。土方さんは」
「まあ、あの人のことだから、何か考えがあるのだろうが」
不憫だな、青藍。
言葉にせずとも、二人ともそう思っていることは明らかだった。