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目指せ借金完済!~ウェイトレスサクヤ~完結!

「今回は迷惑かけたわね、ガルシア」

「いや、気にしないでくれ。それよりできればこいつを痛い痛い!噛むなコラ!」


 子供を残して(託して?)飛び立っていった龍を見送り、アケミとレイモンドは帰路についていた。傭兵団『フツの神剣』は目の前で繰り広げられた吟遊詩人の英雄譚もかくやの大激闘を興奮気味に語りあい、団長であるガルシアになついたらしい竜の子供にはノータッチである。というか、下手に手を出すと激しく噛まれる。

 レイモンドは報酬の支払いまでついてくる気満々だったのだが、街道に出た時点で商会から派遣された黒服の方々が強引に連行していった。どうやら仕事をすっぽかしてきていたらしい。ガルシアとの男の友情が暑苦しかった。

 ガルシアの方は竜の子供をアケミに押し付けようとしているのだが、そういう行動をとると竜の方が即座に気が付き、ガルシアの頭をこれでもかと噛みまくっていた。腰のベルトに挟むような形で、形状の変化した魔剣を指している。鞘に収まらなくなったからだ。アキラとサキが街でこれが何か鑑定する事になっている。

 そんな感じでにぎやかな一行は、依頼を受けた小さな街ではなくサクヤを残していったイースに向かっていた。これほどの額の依頼になると地方の傭兵ギルド支部では支払いが困難で、慣例的にイースなどの大都市まで出向いて報酬を受け取るようになっている。これには報酬の金を使うような店屋が地方の街だと少ないという事情もある。

 そんなこんなで、リーボンの街に入ったアケミ達。まずは報酬を受け取るべく街の中心部のギルドを目指す。それに併設されているサクヤを放置した酒場を見るためでもある。監視がわりにおいてきたロイドの反応はサキが確認済みである。

 小さな竜を肩に乗せたガルシアに向けられる驚きの視線を浴びながら、一同は市街地中心部に入る。しかし、そこで妙な感じを受ける。


「ねえ、あの建物ってあんなにきれいだったかしら?」

「武器屋の看板が新しくなっているな」

「あ、石畳が張り替えてあります!」

「…都市改造…?」


 以前短期間滞在しただけの都市の変わりように、首をかしげるアケミ達。

 ガルシア達傭兵団も、周囲の街並みに違和感を感じていた。

 そう、なんだか中心部に近づけば近づくほど、真新しい建物が増えて行くのだ。普通こういった石造りの都市は建物の建て替えがほとんど行われない。数百年の昔から変わらずに残っているのだ。そして街は中心部から発展するから、中心部に行けばいくほど街並みは古くなっていくのである。

 それが、一週間足らずの間に、まだ槌音が響いてきそうな真新しい建物が増えているのである。奇妙に思うのは当然だった。

 その違和感は、街の中心部のギルドに到着した時点で頂点に達した。

 元々大通りの角地にあったギルドだが、その頑丈な石組は至る所に出っ張りが生じ、隣り合っていた建物は完全に倒壊して立ち入り禁止の立て看板が立っている。向かい合っていた行政庁舎は、正面玄関にバリケードを築き、建物の隣の面にある裏口から人々が出入りしている。道行く人々も、行政庁舎の建物に沿って置いてある盾の影に隠れるようにしてギルドの前を横切っている。


「…一体何があったの…?」


 呆然としている一同を代表して、アケミが呟く。

 その時、恐る恐るギルドに入ろうとしていた傭兵の二入組が、アケミ達の事を見つけて声を上げる。


「お、おい!あれアケミじゃないのか!」

「本当だ、間違いない!」


 そのまま駆けよって来る二人組。脳裏で警鐘がガンガン響いていたが、状況を把握するために二人を待つ。


「な、なあ。あんたらあのサクヤの仲間だよな?」

「ええ、そうよ」


 借金を押し付けて置き去りにしていたのだが、そんな事は些細な事である。


「だったら頼む!いますぐあいつを連れてこの街から出て行ってくれ!」

「…一体サクヤは何をしでかしたの…?」


 すでに周囲の状況から、なんとなく推測はついているアケミ。それでも一応口に出す。


「あいつ、酔っ払いが絡むたびに攻撃魔法ぶっ放してきやがったんだ!それで周りの建物は倒壊するし、流れ弾で周りの建物も壊れる!今すぐ出てってくれ!」


 その言葉に唖然とする一同。アキラがぽつりとつぶやく。


「あいつは慎重な性格のくせに、行動が脊髄反射だからな…」


 その時、背後で鎧をがちゃつかせる音が聞こえて来た。

 何事かと振り返った傭兵団の目に映ったのは、イーシア首都イースの治安を守る国王直属の衛兵隊の一団だった。手にしたクロスボウにはすでに魔矢が装填され、衛兵達は普段の剣ではなく明らかに実戦を想定した槍を構えている。どう見ても治安維持部隊の装備ではない。

 その先頭の男が、緊張した様子で声を上げる。


「一同、ギルドチーム『戦場の絆』リーダー、サクヤ・坂下の関係者で間違いないか!」

「ちが「ええ、そうよ!」


 とっさに違うと言おうとしたガルシアを押さえて、声を上げるアケミ。サキが素早く無詠唱魔法でガルシアの喉を潰す。道連れは一人でも多い方がいい。どっちにしろ、ギルドの情報でこっちの面は割れているのだ。


「では、今すぐ詰め所に出向いてもらいたい!彼女の引き渡しを行う!」


 そう言うと、衛兵達はアケミと(巻き込まれた)ガルシアを挟むように二隊に分かれると、そのまま槍の穂先で突く様に前進を促した。


「…完全に犯罪者の扱い…」


 サキがぽつりと不満そうに呟く。


「まあ、仕方ないだろ。あいつに借金押し付けたのはこっちなんだからな」


 そう言ってサキの頭をポンポンとなでるアキラ。アケミも内心すこし悪い事をしたと思っているので、アキラと同じ意見だった。

 そう、あの時までは。






「…サクヤ、あんた一体どんだけのことしたのよ…」

「ム~~~!」


 詰め所に着いたアケミ達が見たのは、なかなか衝撃的な光景だった。

 石造りの衛兵詰め所の地下の牢屋。その鉄格子の向こうには、粗末なベッドに腰掛けて絶望のため息を漏らしているロイドと共に、手枷足枷を嵌められて、それをさらに背中で手錠で結ばれエビ反り状態にして床に転がされているサクヤがいた。ついでに口にも猿轡をかまされている。


「彼女は今日の朝、店内に残っていた泥酔した客に攻撃魔法を使用。余波で行政庁舎正面玄関を破壊。流れ弾で周辺の商店三軒が半壊した」


 アケミ達の背後に控えていた衛兵隊の隊長が、無表情に告げる。特に何も感じていないというよりも感情を摩耗し尽くしたという感じの声だった。ついでに彼は非番なのに早朝から行政庁舎のバリケード構築に駆り出され、連続三十六時間勤務という状況であり、今も部下ともども衛兵隊の連続勤務時間を更新し続けている。

 それを聞いて、これまでの街の違和感に納得する。街の改造等ではなくサクヤの破壊された街の再建事業だったのだ。


「君達には、街からの追放令が出た」


 そう言いながら、衛兵達が牢に入りサクヤの拘束を解いていく。ロイドも一緒になって拘束を外している。

 そして、それが外れた瞬間。


「ア、アケミのせいで…!」


 一気に無数の魔方陣が跳ね起きたサクヤの指先から飛び出し、多重魔方陣を構築する。

 それを見て、衛兵達が一斉に逃走する。なんだか行動がこなれているが、それだけ頻繁にトラブルを起こしたのである。


「サ、サクヤ。落ち着いて!」

「待て、早まるな!」


 アケミとアキラが慌てた声を出すが、蜘蛛の子を散らすように逃げだす衛兵が邪魔で攻撃出来ない。

 その時サキが、同じようにあたふたしていたサツキに言った。


「…サツキ、『加護ブースト』…」

「えっ…?」

「早く…」


 そのまま言われるままに、サキに能力向上の魔法をかける。

 かけられたサキは、無言で杖を構える。

 その時、サクヤの魔法がとうとう完成した。


「みんな吹っ飛「『反射結界リフレクション』」


 次の瞬間、サツキの目の前に反射結界が展開。放たれた各種攻撃魔法をそのままサクヤに突き返した。


「キャアアアァァァ―――!」


 狭い牢を埋め尽くす色とりどりの閃光の中でサクヤの悲鳴が聞こえて来た。そして、それが収まった時。


「キュウ…」


 牢の中では、サクヤがマンガのような声を上げて気絶していた。服が色々破けて大変な事になっている。ついでにロイドも巻き込まれて、サクヤの下敷きになって気絶していた。

 そのサクヤに、申し訳なさそうな表情をしたアキラが、拡張鞄マジックバックから取り出したマントを巻き付けて荷物のように担ぎあげる。ロイドの方はサキが浮遊魔法で持ち上げている。

 そんな光景を背後に、アケミが衛兵隊長に言う。


「迷惑かけたみたいね。いいわ、今すぐここを出て行く事にするわ」


 そう言って、アケミ以下四人が二人を抱えながらさっさと地下牢を出て行く。ついでに衛兵長に何か耳打ちすると共に懐に何かを突っ込んだ。状況の激変にちょっと付いて行けない衛兵隊。


「あ、そうそう。賠償の方はガルシアにつけておいたから」

「…はぁ!?」


 そう言い置いてそのまま素早く詰め所から脱出するアケミ達を慌てて追いかけようするガルシア。だが、その両腕を衛兵達ががっちりとホールドする。


「な、何をするんだ!」


 慌てて振り払おうとするガルシアに、衛兵長が血走った眼で微笑む。


「ガルシア殿、『フツの神剣』の名はこちらも聞き及んでおります。慈悲深き正義感あふれる勇者だと」

「ほう。それは嬉しいな…」


 そういいながら振りほどこうと動いてみるが、後ろの衛兵はびくとも動かない。


「そのあなたが、お金に困った少女を救いに来てくれるなんて何という美談でしょうね」

「…一体何の話をしている?」


 すると衛兵長。さも驚いたという表情で手元の書類を差し出した。嫌な予感と共にそれを見るガルシア。


「な、なんだこれは!」


 それはいつの間にか奴隷になっていたサクヤの完全な身請け証書だった。どういう手段を用いたのか、ガルシアの署名が勝手にされている。その身請け金額は…。


「三万シルビー!?」


 人一人、余裕で遊んで暮らせる額である。というか、今回の依頼の報酬を全部持って行かれた。

 呆然としながら証書を見ていると、隅になにやら小さな文字が書いてある。読む端から消えて行くという器用な細工を施されたそれは、次のような文章だった。


『あなたに借金押し付けちゃった❤今度なんでも依頼助けてあげるから、よろしくね(^^)』


「ふ、ふざけるな~~~!」

「キュ~~~!」


 叫びを上げるガルシアの肩で、何も知らない幼竜が楽しそうに鳴いていた。

次回はまた幕間なのです!

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