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目指せ借金完済!~ウェイトレスサクヤ~8

 誰もが沈黙する中、戦闘の余波で焼かれた森では過密になった空気中の魔力が起こすバチバチとう音だけが響いている。


「レイモンドさん…!」


 ガルシアの泣きそうな声が響く。

 アケミ達は声をかける事もなく、ただ静かにそれを見守っている。救った命、救えなかった命、絶った命、絶たれた命。過去の戦いの記憶がアケミとアキラの中で静かによみがえっていた。

 その時、シリアスな空気をぶち壊しにする存在が現れた。


「いやあ、死ぬかと思ったわい!」

「レイモンド!?」


 なんと、死んだと思われたレイモンドが、龍のブレスで出来た森の裂け目に沿って平然と歩いてくるではないか。しかも手には砕けたはずの鎚を持っている。

 残っていた五人はもはや唖然呆然。ガルシアは緊張が解けて地面に手をつき、アケミとアキラは一緒になって口をぽかんとあけている。サツキは幽霊だと思い気を失い、サキは一人マイペースに睡眠に突入している。


「あ、あんた。なんであれ食らって生きてるのよ!」


 普段は余裕のあるアケミも、今回ばかりは動揺しまくっている。

 アケミの動揺をよそに、レイモンドはいつも通りの無駄に頼もしげな笑みを浮かべている。


「なに、この鎚とわしの鍛え上げられた肉体があれば、いかなる攻撃も耐えれるのじゃ!」


 それを聞き、はっとした表情を浮かべるアケミ。


「まさか、『加護』…?」


 加護とは、ある特定の能力を一定以上鍛え上げると極まれに得る事がある神からの祝福だ。はっきり言ってその基準に達しただけですでに人外のレベルだが、その中でも実力より運が必要といわれる加護を得ると、加護の種類によっては都市を殲滅するレベルに達する。

 さらに、アキラの方も驚愕の、というより羨望のまなざしをレイモンドの手にしている鎚に向けている。それはかつてのくすんだ灰色の外装がはげ落ち、内に秘めていた光り輝く銀色へと変化していた。


「もしやそれは『無名神器アンネイムド・ウェポン』か!」


 無名神器とは、神より授けられる究極の武器。それは不朽にして欠ける事なく、唯一にして無二であるゆえに名前すら持たない。武器オタクのアキラにはたまらない一品である。


「そ、その武器はどこで手に入れられたのか?」


 アキラが尋ねる。


「これはかつての戦友から餞別に受け取ったものじゃ。共に戦った最後の冒険の唯一の収穫でな」


 そう言って懐かしげな眼をするレイモンド。おそらく古代の遺跡で祀られていた物を手に入れたのだろう。

 さすがにそんなものをよこせとは言えないアキラ。残念そうな表情をしている。


「それよりも、妙なものを見つけたのじゃが」


 そう言って、鎚を持っていない方の手で抱えていたある物をアケミ達に見せる。

 猛烈に嫌な予感を覚えるアケミ。


「それ、もしかして…」


 その時、背後から笛のなる様な細くて甲高い音が聞こえる。音の発信源は倒したはずの龍だった。


「まだ生きて…!」


 とっさに振り返って射撃を放とうとするアケミ。

 その頭上を巨大な何かが通り過ぎて行った。

 そして、

 ズゥン…!


「…まあ、卵があったんだから当然だな」


 一度は鞘におさめた刀を抜き放ちながら、あきらめを含んだ声でアキラが呟く。

 現れたのは、先ほどの龍よりさらに一回りは大きい、オスの龍だった。


「サキ、加護ブースト!サツキは砲撃準備!」


 アケミが素早く戦列を整える。サキとサツキも素早くそれに応える。皇国軍最精鋭の独立魔装小隊である、たとえ戦闘直後の一番気が緩んでいる時でも、その動きに乱れはない。

 対する龍は、こちらの様子など無視して、先ほど仕留めたと思っていた龍に治癒ヒーリングを施している。龍の癖になんだか甘々な空気を作っているのが独り身のアケミの気に障る。

 しかし、サツキが砲撃術式を起動した瞬間、その空気は一瞬で吹き飛び、一気に張りつめた空気が漂う。

 龍の方も対抗して、各種術式を起動している。強力なヒーリングを施された最初の一頭も、まだよろめきながらも立ち上がり、戦意を高めている。

 そして、お互いの準備が整い、緊張が極限まで高まった瞬間。


「おっと!」


 ガツンッ!

 場が凍りついた。

 正確には、アケミ達の後ろでガルシアと共に居たレイモンドの様子に、二頭の龍が凍りついたのだ。

 嫌な予感を感じつつ、ゆっくり後ろを振り返るアケミ達。

 そこでは、ころんだレイモンドが、抱えていた巨大な卵に強烈な頭突きをかました光景があった。

 さらに、その卵が光を放ち始めたのだ!

 龍の卵は親の魔力と周囲の空間魔力を吸収して成長する。それが、戦闘によって魔力濃度が極限まで高まっているここで孵ろうとしているのだ!

 レイモンドの頭突きはいったヒビ(龍の卵はダイヤより堅い)が光を放ち、さらに亀裂が広がっていく。

 最早場の緊張感は吹っ飛んでいる。レイモンドは自らの腕の中で光を放つ卵に「おお~!」と驚いているし、ガルシアは混乱のあまり右往左往。アケミ達はどうすればいいか分からず、龍二頭は我が子の誕生をハラハラ見守っている。

 そうこうしているうちにも、卵の放つ光は急激に大きくなり、もはや卵を直視する事が出来ない。

 そして、次の瞬間。

 バギッ!


「ぬわっ!」


 卵から飛び出した何かの頭突きをあごに食らい、レイモンドが一撃でノックアウトされる。同時に放り出される卵。それをガルシアがヘッドスライディングで慌ててキャッチする。

 すると、


「キュイ?」

「…かわいい…」


 卵から首を突き出して自分を見降ろしてくる生物に、ガルシアは呆然と呟く。

 中から出て来たのは、まだ鱗などまったくない蒼い色の幼竜だった。

 翼とは別に四本の足を持ち、背中からはまだ小さく飛ぶことのできない翼を広げている。

 それは卵の殻から飛び出すと、ヘッドスライディングの姿勢のまま倒れているガルシアの背中に素早く移動して可愛らしく鳴き出した。


「キュ~~~!」


 それを聞いた親二頭、慌てた様子で口笛のような甲高い音を出して呼びかける。足をドンドン地面に叩きつけてなんとか気を引こうとしているようにも見える。龍にとっては抱っこや高い高いと同じ感覚なのだろうが、なんともダイナミックである。

 しかし、幼竜はまったく動こうとしない。それどころか、肩当てが吹き飛んでいるガルシアの左肩に甘がみなどしている。きっと竜は甘がみのつもりなのだろうが、ガルシアは普通に肩の肉を食いちぎられそうになっている。


「痛い痛い痛い!」


 悲鳴を上げるガルシアを無視して、龍の家族会議?は続けられている。

 そしてとうとう結論が出たのか、後から来たオスの龍はがっくりと落ち込んだ様子になり、傷ついたメスはそれを慰めている。幼竜の方は鼻高々に胸を張って鳴いている。

 直後、オスの龍が激しく咆哮する。

 一瞬応戦態勢をとるアケミ達だが、それを尻目に巨大な龍二頭は翼を広げ空へと消えて行った。


「…で、それどうするの?」

「私に聞くな…痛い痛い!止めろ!」

「キュ~~~!」


 後に残されたのは、アケミ達とレイモンド、そして小さな幼竜と、それに気に入られ甘がみされているガルシアだった。

次回でウェイトレス編完結なのです!

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