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目指せ借金完済!~ウェイトレスサクヤ~4

「ハア…ハア…ハア…。落ち着いたか、アケミ」

「…ええ、なんとかね…」


 遺跡内部のどことも知れぬ場所。なんとか追いついたアキラがアケミを必死に正気に戻すまでに、貴重な遺跡が三区画にわたって粉砕された。


「…もう二度と、あんなもの見たくないわ」


 まだ青い顔をしたアケミが、口元を押さえて呻くように言う。


「俺もこんな経験は、二度としたくないがな」


 暴走するアケミの火焔魔法を食らい、至る所が焼け焦げた装甲服を身にまとったアキラが、疲れ切った口調で言った。


「ン~~~!」

「………」


 ついでサキは個人結界を敷いて引きこもり、上半身だけ巻き込まれたサツキは必死に脱出を図っている。


「それより、ここはどこなんだ?」


 サツキの脱出を手助けしながら、アキラが疑問を投げかける。


「…かなりの深部に踏み込んだのは間違いないわね…」


 周りを見て、アケミが答える。

 いつの間にか、周囲の壁の材質は入口の金剛装甲から旧式とはいえど積層ミスリル装甲に代わっている。


「わざわざミスリル装甲を使用しているのなら、明らかに索敵系の魔法防御のためよ。ただの物理破壊に対応するなら、金剛装甲で十分だわ」

「確かに。通信術式が不安定になっているな」


 アキラが装甲服のバックパックに積まれているデータリンク術式の起動状況を確かめる。すでに通常のリンク4は途絶し、代わりにリンク22が起動している。どうやら通信も妨害されるようだ。


「できれば透過波長を調べておきたいけど、専用の装備が無いとさすがに厳しいわね」

「一応リンク11以上は正常稼働に支障が無い範囲に収まっている。索敵術式はさすがにダメだが、そこは専門家に…よっと…頼もう」


 サツキを助け出したアキラが言う。助け出されたサツキは涙目でサキが籠っている結界を殴りつけている。


「サキ!早く出てきなさい!お説教なのです!」

「おい、サツキ。下手に結界に触れると…」

「嫌ぁーーー!」


 アキラの警告も空しく、結界に触れたサツキは湧きだした粘液に絡め取られる。


「サクヤさんと同じ目に遭うのは嫌です!」

「ていうか、その粘液マジでヤバイじゃない!」


 なんとその粘液、床のミスリル装甲を腐食し始めた!

 アキラとアケミが慌ててサツキを救出する。


「サツキ、大丈夫!?」

「ふ、服だけです…!」


 半裸になったサツキが、涙目で答える。

 その間も、床の穴は急速に拡大している。


「ていうか、このままじゃ私達も…!」

「総員退避!」


 アキラが切羽詰まった声で全員に叫ぶ。

 だが、一歩遅かった。

 老朽化した床は、謎粘液の腐食のダメージに耐えきれず一気に崩壊する!

 四人はそのまま床の穴に真っ逆さまに落ちていった。


「なんか懐かしいわね…。サクヤともよくこんな目にあったわね」

「そうだな」

「サキの馬鹿ーーー!」

「ZZZ…ZZZ…」






「なんなんだ、これは…!」


 ガルシアは、目の前の光景に絶句していた。

 場所は彼らが入ってきた入口付近。傭兵団は大量のゴキブリ相手に奮闘したが、圧倒的数を前に後退を余儀なくされたのだ。

 装備も至る所が破損してしまい、とりあえず態勢を整えるため外に置いてある予備の装備に換装しようと思ったのだ。

 だが、その扉は閉ざされていた。

 まるで遥か昔からそうであったかのように堅く閉ざされた扉は、屈強な傭兵達の体当たりなどでも小揺るぎもしない。

 どうするか必死に考えるガルシア。

 その時、背後からカサコソという先ほどまで嫌というほど聞いた音が聞こえて来た。


「まさか、もう奴らが…!」


 すでに退路は断たれた。

 数瞬後、剣戟の音が狭い通路に木霊した。






「ん?これは一体なんじゃ?」


 レイモンドは、傭兵と分かれた後巨大ゴキブリの群れをかき分け、粉砕し、粉砕しながら遺跡の奥深くまで侵入していた。

 その体にはいくつかの擦り傷があるがほぼ無傷で、手に持った槌が魔物の緑色の血で汚れている以外外見の変化はない。むしろレイモンドが魔物だ。

 その目の前に現れたのは、うっすらと蒼い光を放つ巨大な水晶のような柱だった。

 柱は天井と床を貫き、そのまま上下階へとつながっているようであった。


「………?」


 その時、何かの気配を感じたレイモンドは一瞬でこれまでいた場所から飛びのく。

 次の瞬間、頭上から巨大な蜘蛛のような魔物がレイモンドめがけて突っ込んでくる!


「ふんっ!」


 その一撃を、両手で支えた槌で耐えるレイモンド。


「その程度で、このわしを倒せるか!」


 そのまま相手を押し返し、よろめいた巨大な胴体に向かって真横から槌を振りぬく!

 だが、


「ぬっ!」


 金剛装甲すら粉砕するレイモンドの一撃を、その巨大蜘蛛は八本足で衝撃を吸収して耐え抜いたのだ!

 そのまま鎌のような足の一本でレイモンドの頭部を刈り取ろうとする大蜘蛛。

 そこで初めて、レイモンドは服の袖に仕込まれた装甲で、攻撃を受け止めた。


「フム…。多少は手ごたえがありそうじゃな」


 そのまま腰を落として、これまで見られなかった苛烈な戦意を噴出させながら、レイモンドは魔物と対峙した。


「我が破城の鉄槌、受け切れるものなら受けてみよ!」


 死闘が、始まった。






 ズンっ…!


「今の衝撃はなにかしら?」

「またレイモンドさんが暴走したんじゃないか?」


 そんな事を話しながら、アケミ達四人は遺跡の最下層を出口を探して徘徊していた。

 ここまで深い区画に潜れば、もうトラップなどはあまり考えなくてもいいので(こんな最下層に敵の侵入を許したら、その時点で終わりである)装甲服はアケミとアキラ二人とも拡張鞄マジック・バックにしまって、普段と同じ格好をしている。


「しかし、この施設は外見こそかなり劣化しているが、中身はそれほど古くなさそうだな」

「そうね。どんなに遅く見積もっても三百年、たぶんここ二百年ぐらいの間に築かれたんじゃないかしら」


 きっと放棄する時に、劣化魔法でわざと施設を壊したんだわ。

 そんな事を話しながら、ゆっくりと、トラップなどを一応警戒しながら進んでいく。

 その時、


「…なにか大きな魔力がある…」


 サキが立ち止り、小さく言った。


「本当?私には探知できないけど…」

「いや、サキは魔法研究の専門家だ。我々の中で一番探知に長けているだろう」


 さらに、サツキの方も意識を集中すれば僅かに魔力を感じるという。


「これは何かありそうね…。サキ、今すぐ広域探査ワイドエリア・サーチで座標を割り出して。私達は白兵戦でそれが終わるまでサキを護衛」

「「了解」」

「…(こくり)…」


 うなずいたサキは、そのままトンッ、と手に持っていた機杖で床をつく。

 次の瞬間、高密度の魔方陣が現れ、それが一瞬で一つ一つの文字が把握できないほどに薄く広く広がっていく。

 その間、他の三人は周囲を警戒している。

 そして数秒。


「…見つけた…」

「ありがとう、サキ。先導してくれる?」

「…(こくり)…」


 四人はそのままゆっくりと、サキに続いて慎重に前進を再開する。

 そして、


「これは…、『言伝石ことづていし』?」


 たどり着いた部屋に安置されていたもの。

 それは蒼い光を放つ、巨大な円柱状の水晶のようなものだった。


「…おそらく間違いないだろう。これは最高度の皇室の秘術で時間停止がかけられてるから劣化魔法でも破壊出来なかったんだろう」


 驚いた表情で呟くアケミに、表面を指でなでながらアキラが応えた。

『言伝石』

 かつて通信用術式である『電電』が開発される前に、大規模司令部間で使用された高度通信システム。

 もとは同じ巨大な魔法石の原石から削りだされた魔法石に暗号化の魔法回路を彫り込み、さらにそれを時間停止魔法で保護して完成する巨大なシステム。

 最新の『電電』と比べても圧倒的な通信容量と暗号化による傍受への対策など優れた点は多いが、その設置にかかる費用と移動の困難さから今では廃止された通信体系。


「…これは予想外の大物ね…」


 深刻な表情で考え込むアケミ。

 これは本来ならとっくの昔に廃棄処分されていなければいけない代物。正確にはここに存在するはずがなかった。

 なぜならこれの回収は近衛と陸軍が共同で行い、実際皇室に残された術式の使用記録と照らし合わせて完全に回収された事が確認されていた。

 つまりこれは、それを通していない非正規品、もしくはどういう手段を用いたかは知らないが回収から逃れた品だということだ。


「そういえば、西回廊で数基、十年前の戦役での混乱で、司令部ごと放棄されて発見されていない物があると聞いた事がある」


 アキラが告げる。


「あ、それ私も知ってます!確か中島中隊長が戦った場所ですよね?」


 それを聞き、アケミとアキラがはっとした表情になる。


「確かに、あそこで殿を務めたのは中島隊長の部隊だったわね」

「しかもあそこは今特務部隊に改編されている部隊だぞ。なにか関係しているのか…」


 二人とも魔法士官学校の成績は優秀だった。戦史に関してもかなりの知識を持っている。

 その時、サキが言伝石に触れて言った。


「…ここになに未読の通信が入っている…」

「サキ、あなたもしかしてこの暗号解けるの?」

「…(こくり)…」

「なら今すぐ解読して頂戴」

「…(こくり)…」


 サキは触れたまま目を閉じる。

 そして数秒後。


「おお!」


 アキラが感嘆の声を上げる。

 そこには、言伝石から投射されるような形でひとつの立体映像が浮かび上がっていた。

 場所はどこかの室内のようだった。背後に掛け軸が飾ってある事から皇国だとわかる。

 そして、そこに一人の老人が現れた。


「…!中島隊長…」


 その老人は何やら咳払いやら発声練習やらを始めている。どうやらすでに送信が始まっているのに気がついていないようだ。


「…この人ってホント抜けてるわよね…」

「言うな。こんな狸でも、一応俺達の上官だ」

「なんか馬鹿だよね」

「…(こくり)…」


 部下達にボロクソ言われる中島隊長。

 しばらくして、ようやく送信が始まっている事に気がついたのか、慌てて表情を整えて、改めてゴホンと咳払いする。


『諸君、これを見ているという事は諸君らはゴンドワナ大陸の西の果て、つまり皇国本土からもっとも離れた地にいるという事だろう』

『すでに気がついていると思うが、今回の事の黒幕は全て私だ。やむなき事情があり、諸君らをそのような僻地に単独で送り込んだ事を許してほしい』


 真面目な話をしているのだが、明らかに視線がこちらを向いておらず、間違った方向を向いている。シリアスな空気が台無しである。


『現状で他派閥からの各種傍受・・・・に備えるため、この通信では核心的内容は触れないでおく。諸君ならこの事を理解できるだろう』

『さしあたり、最初に向かってほしいのは北の果て『ノルトベルフェン』だ。おそらくそこである程度の事が分かるだろう』

『この通信設備は、皇室が有事の際の亡命拠点として残したものである。おそらく各地に類似の施設があるだろう。そこに私からのメッセージを託してある』


 そこで、中島は再度表情を改めて、申し訳ないさそうな表情をした。


『今回の事は、本当に…』


 ブチンッ…

 そこで映像は唐突に途切れた。


「どうしたのサキ?」

「…石の調子がおかしい…」


 その時、真上から大きな衝撃が伝わってきた。


「なんだ?」


 答えは、次の瞬間はっきりした。

 ドーンッ!

 轟音とともに、天井が粉砕されたのだ。


「ゴホゴホ…。ちょっと、一体何なのよ!?」


 埃にむせながら、アケミが叫ぶ。


「いや~、すまんの。思ったより奴が強くての。勢い余って床を砕いてしまったわ!」


 はっはっは!と現れたのは…


「レイモンド!あんた生きてたの!?」


 無骨な槌を構えたレイモンドだった。


「あんたのせいで、私がどんな目にあったか…!」


 怒り心頭の様子でレイモンドに詰め寄るアケミ。

 しかし、


「…!危ない!」


 直後、アキラがレイモンドとアケミの間に入り、腰から抜いた刀で粉塵の中から振り下ろされた巨大な鎌のような一撃を受け止めた。

 同時に、動きを止めた相手にレイモンドが槌で強烈な一撃を叩きこむが、その衝撃は残る七本の足で柔軟に吸収され十分な打撃を与えられない。

 そのまま相手は一気に粉塵の向こうに消える。


「な…な…な…!」


 アケミはその光景を震えながら見ている。正確には、粉塵の向こうに見えた影に対してだが。


「く…く…」


 鳥肌を立てながら、ため込んだものを一気に吐き出す。


「蜘蛛ーーー!」


 アケミは、蜘蛛も苦手だった。

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