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目指せ借金完済!~ウェイトレスサクヤ~2

今回は、同時並行して行っている遺跡探検編なのです!

 サクヤが奴隷になろうとしていた頃、アケミ達は…


「へ~、これが遺跡ね。思ったより新しいのね」

「…元々ゴンドワナ帝国時代に建設された代物らしい。制御できる人間が絶えて久しいから、こうして放置されて魔物の巣になったんだ…」


 アケミの感心したような声に、どんよりとしたガルシアの声が応える。

 場所は今回『フツの神剣』が依頼・・された遺跡調査任務の目的地である。

 遺跡と言えばなんとなくジャングルの中にそびえたつピラミッドのようなものを想像しがちだが、この遺跡の入口は蔦や雑草に覆われはしていたものの、いまだに錆びる気配もない未知の金属でできていた。本体は地下にあるらしい。


「うわ~。第二種金剛装甲なんて初めて見ました!」

「…これなら最新の薄層ミスリル装甲の方が強度は高い…」


 それを見てサキとサツキが感想を言う。どちらかと言うととんでもない骨董品を目にした一般人の感想だ。


「なんという物だ…!ぜひ引き剥がして持って帰りたい…!」


 感動の面持ちで呟くのはアキラ。実は隠れ武器マニアである。


「どうでもいいから早く仕事を終えて町に戻りましょう~」


 やる気なさげなのはもちろんアケミ。周囲のじめついた空気に、シャツの襟をパタパタやっている。

 ここまでの道は最寄りの街道筋からけもの道に入り、さらにそこから道なき道を延々半日歩くという非常にめんどくさいものだった。ついでに各種魔物も生息。

 そのため、わざわざ山登りの装備まで整えた傭兵団(依頼内容は自分たちで全部やるとアケミはいったが、そこは傭兵団のプライドが許さなかった)だが、歩くのを嫌がったアケミは、サツキの大規模支援魔法『天翔』で全員を浮遊させ空を直行するという選択をした。

 突然の事態に驚愕する傭兵団員といななきを上げる馬達。それを一切無視して、サキの空力防御魔法の保護の元、半時で街道から遺跡まで着いてしまった。

 今は混乱した馬達を団員がなだめ、山登りのため軽装にしていた鎧を馬車に積んである重装備の物に換装している(元々見張りとともに街道に置いておく予定だったが、まとめて運んでしまった)。

 団員達はそれほど衝撃を受けているようには見えない。正確には、考えても無駄だと思考停止している。基本的にガルシア以外脳筋連中なのだ。


「いや~!まさかこれほどの魔導師どのを抱えているとは。この傭兵団は素晴らしいな!」


 まだ衝撃が抜けきらないガルシアに声をかけて来たのは、今回の依頼者で同行する調査要員であるレイモンド・バーク。がっしりとした体格の戦士のような初老の男であるが、実際は大商会の会長を務めている。

 すでに第一線は退き、今は趣味の遺跡探検を行っているそうだ。


「なにしろここの護衛はなかなかみつからなくてな!貴殿らがようやく名乗り出てくれて助かったぞ!」


 もし後一日出てこなかったら取り下げようとおもっとった所じゃ、というレイモンドの言葉を聞いてなぜ後一日早く撤去してくれなかった!と、内心悲鳴を上げるガルシア。時は金なり…少し違うか…。


「いいえ。私達は傭兵団の所属じゃないの。今回だけの雇われよ」


 そう訂正したのはアケミだ。


「今回だけ、竜種の対応を任されてるわ」


 そう、事前の相談でアケミ達は基本的に竜が現れた時だけ対応する事になっている。どうせ傭兵団がついてくるなら目いっぱい使い尽くそう(使い潰そう?)という魂胆である。


「おお!それほどの実力をお持ちなのか!できればお名前をよろしいかな?」

「私はアケミ。部隊名は42…『戦場の絆』よ」


 一瞬、部隊名を言いそうになるアケミ。みなさん気がついていると思うが、この部隊番号『死になよ』とも読める非常に不吉な、普通なら欠番扱いの部隊番号なのである。とても人に言えるものではない。


「なるほど、これから覚えておこう!面倒な依頼はお前達に回すぞ!」

「まあ、適当に受けてあげるわ」


 熱烈なレイモンドを、軽くあしらうアケミ。トラブルシューターはごめんだ。


「それにしても、不思議な鎧を身につけておるな!」


 ハイテンションなレオモンドが、今度はアケミ達の鎧に注目した。

 アケミ達の鎧は全て拡張鞄マジック・バックから取り出した物だ。

 それは普段の魔法防御服や物理防御服とは全く異なる物騒な印象の物だった。全体の印象としては、西洋の重装騎兵が身につける全身鎧フルプレートメイルを角ばらせたようなものだ。しかし、その背中の部分には大きな金属製の箱形の背面装備バック・パックが取り付けられ、中には各種観測機器と攻防両用の多目的魔法戦闘補助システムが積まれ、それ用の魔法石は正・副・予備と三系統そろえた万全の態勢である。

 肌は頭部しか露出しておらず、意志対応型三次元ディスプレイが顔の前に開いたり閉じたりを繰り返している。

 皇国軍第一種特殊装甲防御服『岩鎧がんがい

 その高価さから独立魔装小隊以外では、各隊の指揮官クラスにのみ支給されている特殊兵装。

 もはや鎧を着るというより着られているに近い。

 実際、背が高いアケミとアキラはそれなりに似合っているが、サキとサツキは完全に着られている。というか、XSサイズでもまだ大きすぎるようである。


「アケミさん!前が、前が見えないです!」

「…ずっと夜…」

「はいはい。あんた達は無理してこれ着ないでもいいから。壁役は私達二人でするわ」

「君達がそこまで装備を整えるという事は、それだけ竜が危険と言う事か?」


 がちゃがちゃ鎧を脱ごうとする二人を助けるアケミ。こういったところは面倒見がいい。

 そこにガルシアが声をかけた。


「ケルベロスをあれほど容易に撃退していたのに。それでも…」

「いいえ。これはむしろ遺跡のトラップ対策ね」

「なに?」


 怪訝そうな表情のガルシアに、アケミが答える。


「いや、以前これに似た遺跡に進入した事があるんだけど、もうとんでもないトラップの山。サクヤなんて落とし穴の申し子みたいになってたし、とにかく致死系のトラップが異常に多いのよ。だから、その用心」

「なんだって…!」


 二人の取り決めでは、竜が出るまでは傭兵団が先行する事になっている。


「君達、それを知って…!」

「事前に情報収集してないあんたが悪いのよ」


 のうのうと言い放つアケミ。騙されたと呆然とするガルシア。とても突破できる気がしない。

 そこに、依頼主のレイモンドが肩を叩く。


「ははは!安心しろ、これでもわしは百の選択肢があったら一の正解を選ぶ強運の持ち主じゃ」

「レイモンドさん…」

「もっとも、一つだけのトラップだったがな!」

「それじゃ意味ないでしょ!?」


 さらに不安を高めて終わった。

 そうこうしているうちに、全員の準備が整った。

 アケミとアキラはダークグリーンの装甲服『岩鎧』を身にまとい、サキとサツキはいつも通りの軽装。

 ガルシア達傭兵団は、地上でまともに動ける最大限の装備を身にまとい、レイモンドは巨大な槌をもっている。

 全員の準備が整ったところで、レイモンドが演説を行う。


「よし!今回はわしのために集まってくれてありがとう!これより、第一次遺跡探検を開始する!」

「おおおおおっ!」

「よし、わしに続け!」


 そしていきなり遺跡に突っ込んだ!


「はぁあああ!?」


 突然の突撃に驚愕の叫びを漏らすガルシア達傭兵団。


「ねえ、私この依頼受けたのやっぱり失敗だったかも…」

「いまさら言うな…」


 アケミとアキラは空を見て嘆いている。


「は、早く追いかけないと見失っちゃいます!」


 サツキが慌てた様子で叫ぶ。


「ぜ、全員!急いでレイモンドさんを追うぞ!」

「応!」


 ガルシアの叫びに応じて、傭兵団の全員が狭い入口からメタリックな輝きを放つ地下の遺跡へと突っ込んでいった。


「私達もいきましょう」

「そうだな」

「やった!迷宮探検ですね!」


 体力のないサキとサツキをアケミとアキラの肩に乗せ、アケミ達も走り出した。一斉に迷宮に飛び込んでいく。

 その全員が、最初の曲がり角を曲がった直後。


 ガコンッ…


 鈍い稼働音と共に、迷宮の入口は封鎖された。

 もちろん、この事はだれも知らない。

 同時に、迷宮の最深部で動き出したデジタル時計の存在も。

 表示されている時間は二時間三十分を示し、着実にその針を刻んでいた。






「はぁ…はぁ…はぁ…。やっと追い付いた…」

「ははは!この程度で息切れするなんて、騎士として失格だぞ!?」


 優に十分以上全力疾走したガルシア達は、ようやくレイモンドに追いついた。

 フル装備状態で狭い遺跡の通路で全周囲に注意を向けながら全力疾走というのは、ガルシア達傭兵団にとってかなりスリリングかつ精神的な耐久力を削る苦行だった。

 ここまでトラップは予想に反して全くなかった。代わりに、無数の魔物とエンカウントする羽目になったのだ。三歩歩けばワームが現れ、五歩進めばスネーク。十歩以上進めばそれの混成グループといった状況である。

 はっきり言って雑魚ばかりだが、この数は馬鹿にならなかった。しかも、本来ならやり過ごせるはずの魔物までレイモンドが叩き起こして行くせいで余計面倒になっていた(ついでにレイモンドは全力疾走してスルー。最悪のトレインもどき行為である)。


「みなさん御苦労さま。ここから先も先導よろしくお願いね?」


 そう言って後ろから現れたのは、涼しい顔をして装甲服を身にまとったアケミとアキラ。その肩にはクッションを敷いてサキとサツキが乗っている。

 この四人は、ガルシア達が完全に魔物を掃討した後をついて行っただけなので大して疲労していない。というか、装甲服には運動アシスト機能も付いているので全力疾走でも大してつかれないように出来ている。


「君は私達のこの状態を見て、よくそんな事を言えるな!?」


 ガルシアが叫ぶような調子で言う。

 すでに傭兵団の鎧はワームの吐き出した酸性の粘液で一部が腐食し、スネークの牙に傷つけられてとボロボロになっている。負傷者がいないのが奇跡だ。


「安心して。本当に危険だと思ったらすぐ前線に出るから」


 ここでアケミがウィンンク。脳筋の傭兵団員は一発でKO。やる気百二十パーセントである。


「うぉおおお!やってやるぜ!」

「姉さん、前線は任せて下さい!」

「姉さんには指一本、いや、触手一本触れさせませんぜ!」


 気勢をあげる部下達に、いろいろあきらめた表情を向けるガルシア。どうして僕の部下はこんな脳筋ばかりなんだ…!


「それより、ここから先はどうするの?」


 アケミが前面の通路を指して言う。

 そこは道が二つに分かれたT字路だった。どちらの通路も大きな違いはなく、どちらを進むか迷うところである。


「こういう場合は基本的に戦力の分散は危険だ。どちらか一方を進んでなにもなければ引き返してこちらの道を確認するのが定石だ」

「さすがに慣れてるわね」


 同じ意見のアケミもうなずく。もしここで二手に分かれるという意見が出たら、ここでガルシアとの縁は切るつもりだった。この先の状況が掴めないのに闇雲に戦力を分散させるのは自殺行為だ。馬鹿に巻き込まれるのはごめんである。


「それじゃ、進む方向はレイモンドさんに決めてもらいましょうか」

「そうするか」


 レイモンドは、任せろと胸を叩いている。


「わしはこういうとき、必ずこうやって決めるのじゃ」


 そう言って、手に持っている槌を床に立てる。


「なるほど。倒れた方に進むのですね」

「案外普通の方法ね」


 もっと凄まじい方法を取ると思っていたアケミとガルシアは感心の声を漏らす。

 そして、

 ガタンッ!

 槌は真正面に倒れた。


「…これはやり直しか」

「そうね」


 周りの傭兵達とアケミ達は、次の一手に注目する。

 そして、


「ふぉおおおーーー!」


 いきなりレイモンドは、槌に魔力を込め始めた。


「ちょっ!何するつもりですか!?」

「アキラ、取り押さえて!」


 ガルシアとアケミの悲鳴が木霊し、アキラがダッシュでレイモンドにタックルを仕掛けようとする。装甲服でそんな事をしたら大惨事だが、そんな事気にしてられない。

 だが、その決断は一歩遅かった。


「『破城キャッスル・バスター』!」


 次の瞬間、放たれた一撃は遺跡の壁面を貫通し、内部の機器を粉砕して反対側の並行して走っている隠し通路まで達した。

 そして、

 ガサゴソ…

 その先から響く、妙に神経に障る音。

 そして…

 現れたのは、黒い脂ぎった甲殻を持った台所などの水場の悪魔。

 その異名『G』『ジョニーさん』など数知れず、恐竜より長生きしている地上最強の生物の一つ。

 ゴキブリである。

 しかも、完全に魔物化しており、その体長は一メートルを超え、口のあたりにはクワガタの顎みたいなものまでついている。

 そんなのが、貫通した穴から出て来たのだ。


「ヒッ…!」


 さすがのアケミも顔をひきつらせ、完全に硬直している。


「消し飛べ!」


 そこにガルシアが剣を叩きつける。

 一撃で頭を粉砕された巨大Gは、しばらく足を蠢かしたあと完全に停止した。

 一息つくガルシア。そのまま貫通した穴に背を向ける。

 そこに、

 ガサゴソ…ガサゴソ…ガサゴソ…

 さらなる不吉な気配がやってきた。


「ま、まさか…!」


 アケミが口元を押さえながら、悲鳴のような声を漏らす。

 予感は、最悪の形で当たった。


「嫌ぁーーー!」


 向こうから、出て来る出て来るゴキブリの群れ。あまりの数ゆえに隠し通路の向こう側で十重二十重に積み重なっている状態だった巨大ゴキブリ達は、唐突に開かれた楽園への扉に即座に殺到。黒い奔流となってアケミやガルシア達に押し寄せた!


「前衛急げ!盾で穴をふさげ!」

「火だ!火で一気に焼き尽くせ!」

「馬鹿!遺跡の中でそんな事すれば俺達が蒸し焼きだ!」


 大混乱に陥りながらも迎撃の姿勢を整える傭兵団。さすがに手慣れている。

 一方、アケミ達独立魔装小隊は…


「きゃあぁぁぁーーー!」


 悲鳴を上げたアケミが、肩にサツキを乗せたまま一目散に左の通路に逃走。


「待てアケミ!落ち付け!」


 それを必死に追いかける、肩にサキを乗せたアキラ。サツキとサキは振り落とされないように捕まるのがやっとである。


「はっはっは!ワシの行く手を阻むなど、十年、いや、百年早いわ!」


 そしてハンマーを振り回しながら、自分で開けた穴に突っ込んでゴキブリの群れに消えていく、この状況の元凶たるレイモンド。

 部隊は、ばらばらになった。

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