01 - 山田くん
掲載日:2026/04/05
山田くんは私の上履きを手に履いて、アメンボのように廊下を泳いでいる。
「『浦島太郎』にアキレスが出てきたら、僕は亀を観測しても竜宮城にたどり着けるんでしょうか?」
「分かりませんが、上履き返してくれませんか?」
「スナアラシのジェンガですね」
「アメフラシのカリンバかも」
「ああー、なるほど。一本取られました」
これは私の自信に繋がった。今なら苦手なピーマンも食べられる気がする。
「…やっぱり私はパブロフの犬ごときには負けないと思います」
「ははっ、手ごわいですよ?」
そんな訳ない。犬より私の方が絶対賢いのに。Tシャツも買えるし。
「山田くんこそ『シュレーディンガーの猫助けようとしたら僕も重ね合わせの状態になるのかな?』って、なんですかワン」
「あー…ワン? にゃ、にゃんにゃん!」
山田くんは唐突に立ち上がって反復横跳びを始めた。
「ど、どうしたの急に」
「ハ、ハァハァ…どうですか、今重ね合わせの状態に見えますか? ハァ、ハァ」
「いや全然」
「ですよね。あーくそっ、惜しいな、もうちょっと速さが足りなかったか」
どこが惜しいのだろう。今日も山田くんは変な人だった。
早く上履きを返して欲しい。




