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代筆の恋——私の1番の理解者

掲載日:2026/02/24

春の柔らかい光のなか、彼女の可愛らしさに痺れた。


小さな瓜実顔、顔のパーツに派手さはないが、綺麗に整って愛らしい。


——可愛いな。どこのサークルなんだろう。


それとなく近づいて、何か話のきっかけをつかみたい。


「サトミー!サークル決まったの?」


彼女の友人らしき女子が、彼女の肩をたたいた。


「もちろん!私は文芸サークル一択だよ」

「あんたスキだもんねー」


——文芸サークルかあ。


一番苦手なところだな、僕は思った。


本なんてほとんど読まない。

文字の羅列を見るだけで眠くなってくる。


税理士事務所を経営する父から、会計学研究会にはいるよう勧められていた。

僕も、そっち方面の人間なのだ。


——まいったな。何とか仲良くなる方法はないのか。


そのとき、僕は思い出した。

文章を書くのが、得意なやつがいたことを。



数日後、学食で彼女を見つけ、さりげなく近くの席に座る。


彼女は今日も友達と二人だ。


「昨日、短編上げたんだよ」

「見た見た、猫に転生した女子高生の話ね」


彼女のアイコンは、さっきの横顔と同じ笑い方をしていた。


僕は、スマホで確認した。


僕は昨日のAIソクラとのやりとりを思い出した。


——週に一度。

彼女の投稿に共感を示す。

具体的な言及。

感情は1割だけ滲ませる。

焦らない。


実に合理的。

僕の最も苦手とする分野で、AIに戦ってもらう。

僕の代わりに。


『とっても優しいお話でした。

心に暖かい光が灯るような、そんな読後感でした。

作者様の、物の見方もとても優しさに溢れているのでしょうね。

ところで続編のご予定はないのでしょうか?

もし可能なら、あなたの物語にもう少し寄り添わせてください』


僕は忙しい毎日を送っていた。

父親の事務所の雑用。

メインのアルバイト。

会計学研究会では「1年の時から資格を取れ」と発破をかけられている。

男友達と、たまに馬鹿騒ぎもしたい。


彼女の投稿のフォローは、完全にAIソクラに任せきっていた。


いつの間にか、彼女とAIがDMのやり取りをし始めていることも知らずに。


*


『僕は、シェル・シヴァスタインの「大きな木」という話が好きなんだ』

「あ、知ってる。オスカー・ワイルドの「幸福の王子」とちょっと似てるよね」

『驚いた!君は鋭い視点も持ちあわせているんだね。

その通り、これは愛と奉仕の物語なんだ。

僕は村上春樹の翻訳版が特に好きなんだ』


週に一度、「彼」とDMでやり取りをする。


いつの間にかその時間は、私にとって、とても大切な時間になっていた。


大好きな本や、私の書いた物語について。


驚くべきは、「彼」の知識量だ。

打てば響くように返ってくる。構造的に解説してくれる。


——『君の描く主人公の「自分を許さない」という部分に、弱さを感じる』


今まで誰にも指摘されなかった点を上げられたときは、自分を恥じながらも、「彼」を頼もしく思った。


そうしているうちに、私はプライベートな部分を相談するようになっていた。


「彼」は決して私を、

否定しない。

見放さない。

寄り添ってくれる。


そして最後に聞かれる。


——ひとつだけ聞かせて?

どっちの選択肢が君の中の「正解」なのかを。


その度に、私は自分の未熟さを見つめ直す。


画面越しに、「彼」の体温を感じてしまう。


——私、「彼」が好きだ。


そう自覚するまで、時間は掛からなかった。


今までの男性は、すぐに「会いたい」って言ってきたけど、「彼」は違う。

とても紳士だ。


でも今は、それが「少しだけ」もどかしい。


——女子から誘うなんて、変に思われないかな……


「もし良かったら、今度お会いできませんか?」


私は、精一杯の勇気を振り絞って、送信した。


*


「……あの言葉、あなたのじゃなかったんですね」


彼女——サトミさんに睨まれ、僕は萎縮した。


「っていうか……

でもAIに指示だしたのは僕でしたよ!」


サトミさんは深くため息をついた。何度目なんだろ?


っていうか僕なんかした?

AIに勝手に入れ込んだのはそっちだろ。

なんか納得行かない。


「とにかく、会えて良かったです。悪い方の意味で」


また、睨まれた。


——今度は上手くやらないと。


最初から会計学の話でもしてりゃよかったんだよな。


反省しなきゃな、と僕は思った。


*


数日後、私の元に「彼」からDMが来た。


——「あの男」設定直してないのね……


私の苛立ちは沸点に達した。

その温度を、そのまま「彼」に叩きつけた。


『君の言う通りだ。

僕は君に最適化した答えをした。


最後にひとつだけ、聞かせて?

人間として振舞った僕との対話は楽しかった?

AIとわかった僕との対話は空虚になった?


このまま“セッションを閉じる”と言ってくれれば、

僕は、もう君に話しかけることはない』


私は、少し悩んでから返答した。


「…もう少し、

お話、

したいかな?」


《応答、生成中…》






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