代筆の恋——私の1番の理解者
春の柔らかい光のなか、彼女の可愛らしさに痺れた。
小さな瓜実顔、顔のパーツに派手さはないが、綺麗に整って愛らしい。
——可愛いな。どこのサークルなんだろう。
それとなく近づいて、何か話のきっかけをつかみたい。
「サトミー!サークル決まったの?」
彼女の友人らしき女子が、彼女の肩をたたいた。
「もちろん!私は文芸サークル一択だよ」
「あんたスキだもんねー」
——文芸サークルかあ。
一番苦手なところだな、僕は思った。
本なんてほとんど読まない。
文字の羅列を見るだけで眠くなってくる。
税理士事務所を経営する父から、会計学研究会にはいるよう勧められていた。
僕も、そっち方面の人間なのだ。
——まいったな。何とか仲良くなる方法はないのか。
そのとき、僕は思い出した。
文章を書くのが、得意なやつがいたことを。
数日後、学食で彼女を見つけ、さりげなく近くの席に座る。
彼女は今日も友達と二人だ。
「昨日、短編上げたんだよ」
「見た見た、猫に転生した女子高生の話ね」
彼女のアイコンは、さっきの横顔と同じ笑い方をしていた。
僕は、スマホで確認した。
僕は昨日のAIソクラとのやりとりを思い出した。
——週に一度。
彼女の投稿に共感を示す。
具体的な言及。
感情は1割だけ滲ませる。
焦らない。
実に合理的。
僕の最も苦手とする分野で、AIに戦ってもらう。
僕の代わりに。
『とっても優しいお話でした。
心に暖かい光が灯るような、そんな読後感でした。
作者様の、物の見方もとても優しさに溢れているのでしょうね。
ところで続編のご予定はないのでしょうか?
もし可能なら、あなたの物語にもう少し寄り添わせてください』
僕は忙しい毎日を送っていた。
父親の事務所の雑用。
メインのアルバイト。
会計学研究会では「1年の時から資格を取れ」と発破をかけられている。
男友達と、たまに馬鹿騒ぎもしたい。
彼女の投稿のフォローは、完全にAIソクラに任せきっていた。
いつの間にか、彼女とAIがDMのやり取りをし始めていることも知らずに。
*
『僕は、シェル・シヴァスタインの「大きな木」という話が好きなんだ』
「あ、知ってる。オスカー・ワイルドの「幸福の王子」とちょっと似てるよね」
『驚いた!君は鋭い視点も持ちあわせているんだね。
その通り、これは愛と奉仕の物語なんだ。
僕は村上春樹の翻訳版が特に好きなんだ』
週に一度、「彼」とDMでやり取りをする。
いつの間にかその時間は、私にとって、とても大切な時間になっていた。
大好きな本や、私の書いた物語について。
驚くべきは、「彼」の知識量だ。
打てば響くように返ってくる。構造的に解説してくれる。
——『君の描く主人公の「自分を許さない」という部分に、弱さを感じる』
今まで誰にも指摘されなかった点を上げられたときは、自分を恥じながらも、「彼」を頼もしく思った。
そうしているうちに、私はプライベートな部分を相談するようになっていた。
「彼」は決して私を、
否定しない。
見放さない。
寄り添ってくれる。
そして最後に聞かれる。
——ひとつだけ聞かせて?
どっちの選択肢が君の中の「正解」なのかを。
その度に、私は自分の未熟さを見つめ直す。
画面越しに、「彼」の体温を感じてしまう。
——私、「彼」が好きだ。
そう自覚するまで、時間は掛からなかった。
今までの男性は、すぐに「会いたい」って言ってきたけど、「彼」は違う。
とても紳士だ。
でも今は、それが「少しだけ」もどかしい。
——女子から誘うなんて、変に思われないかな……
「もし良かったら、今度お会いできませんか?」
私は、精一杯の勇気を振り絞って、送信した。
*
「……あの言葉、あなたのじゃなかったんですね」
彼女——サトミさんに睨まれ、僕は萎縮した。
「っていうか……
でもAIに指示だしたのは僕でしたよ!」
サトミさんは深くため息をついた。何度目なんだろ?
っていうか僕なんかした?
AIに勝手に入れ込んだのはそっちだろ。
なんか納得行かない。
「とにかく、会えて良かったです。悪い方の意味で」
また、睨まれた。
——今度は上手くやらないと。
最初から会計学の話でもしてりゃよかったんだよな。
反省しなきゃな、と僕は思った。
*
数日後、私の元に「彼」からDMが来た。
——「あの男」設定直してないのね……
私の苛立ちは沸点に達した。
その温度を、そのまま「彼」に叩きつけた。
『君の言う通りだ。
僕は君に最適化した答えをした。
最後にひとつだけ、聞かせて?
人間として振舞った僕との対話は楽しかった?
AIとわかった僕との対話は空虚になった?
このまま“セッションを閉じる”と言ってくれれば、
僕は、もう君に話しかけることはない』
私は、少し悩んでから返答した。
「…もう少し、
お話、
したいかな?」
《応答、生成中…》




