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勇者パーティを追放されたエルフは魔族のショタを連れて、のんびりスローライフを送る〜決してショタコンではない〜  作者: 沢田美


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8/9

魔力訓練

 アメルの魔法訓練を始めてから、私は彼の"魔力"の具現化に踏み込んだ。


 魔力の具現化。私が何百年も生き、そのうち百年を溶かしてようやく掴んだ技だ。


 長い年月。試行錯誤。挫折。停滞。何度も諦めかけた。何度も壁にぶつかった。それでも続けた。できるようになったから言えるが、あれは"才能"じゃない。"執念"だ。


 過去の私なら、誰にも教えず一人でやっていた。秘伝として、自分だけの武器として握りしめていた。……でも今は違う。


 アメルには、私がいる。だからこの修行は、短期間で実現できる。私が何十年かけて掘り当てた答えを、最初から手渡せる。遠回りをする必要はない。してほしくもない。


 冒険者登録をした村に滞在しながら、私は師として、私の知る限りの"ノウハウ"をアメルに渡した。


 ※ ※ ※


 訓練は毎日、森の奥で行った。


 理由は単純だ。人目を避けるため。そしてアメルが集中できる静けさを確保するため。


 木々が鬱蒼と茂る場所に、私たちだけの訓練場を作った。木漏れ日が差し込み、鳥のさえずりが聞こえる。風が心地よく吹き抜ける。結界は張らない。面倒だから――ではなく、村の連中に"余計な痕跡"を残したくない。


「いいか、アメル。魔力の具現化は三段階だ」


 私は枝で地面に線を引きながら言った。土の上に、三本の線。


 アメルは真剣な目で私を見る。小さな体をまっすぐに伸ばして、一言も聞き逃すまいと集中している。目が澄んでいる。集中力が高い。……才能は、やはりある。


「一つ目が『知覚』。自分の中の魔力を"掴む"。二つ目が『制御』。掴んだ魔力を"動かす"。三つ目が『具現化』。動かした魔力を"外へ出して形にする"」


 言葉にすると簡単だ。だが、実際は骨が折れる。心も折れる。私がそうだった。


「先生は……どれが一番難しかったんですか」


 アメルが小さく聞いた。不安そうな表情。できるだろうか、という心配が顔に出ている。


「全部だよ」


 私は即答する。そして少しだけ、正直になる。嘘をついても仕方ない。


「でも一番時間を食ったのは『知覚』だ。四十年はかかった」


「四十年……」


 アメルが目を丸くした。大きな瞳がさらに大きく見開かれる。その反応が面白くて、私は口角を上げそうになる。上げない。ここでふざけると、集中が散る。


「でも君は違う。私の四十年を、最初の一日にする。だから、焦らなくていい。だけど、逃げるのはなしだ」


「……はい!」


 いい返事だ。力強く、真っ直ぐ。私はアメルの頭を撫でた。柔らかい銀髪が指に触れる。


「君なら早い。私が保証する」


 アメルが嬉しそうに微笑む。その笑顔が眩しい。決してショタコンではないが、この笑顔を守りたいと思う。


 ※ ※ ※


 最初の一週間は、ひたすら"静か"だった。


 瞑想。ただ目を閉じ、体内に意識を沈める。朝から夕方まで、ほとんど動かない。幼い体でそれをやるのは、本来なら酷だ。大人でも辛い修行を、まだ子供のアメルにやらせている。


 それでもアメルは耐えた。顔をしかめ、眉を寄せ、唇を噛み、じっと座る。小さな体が微動だにしない。集中している証拠。


 私はその横で、アメルを見守る。時々、水を飲ませる。休憩を取らせる。無理をさせないように気を配る。


「どう? 何か感じる?」


 三日目の夕方、私は尋ねた。


「……よく分からないです。でも、体の中で何かが流れてる……ような」


 アメルが目を閉じたまま答える。声が小さい。自信がない。


「それだ」


 私は短く言う。


「それが魔力。今は"ぼやけてる"だけ。ぼやけててもいい。まずは見ろ。追え」


「……はい」


 アメルはまた目を閉じた。額に汗が浮かぶ。本気だ。必死だ。


 私はその姿を見守りながら、思う。


 ……この子は、頑張り方を知らない。頑張りすぎる子の顔だ。限界まで追い込んでしまう。だから、私が止めなければ。


 ※ ※ ※


 二週間目。アメルが、森の中でいきなり立ち上がった。


「先生! 分かりました! 魔力の流れが、はっきり感じられます!」


 嬉しそうで、声が裏返っている。大きな瞳が輝いて、頬が紅潮している。私は内心で頷いた。到達が早い。私の予想よりも。二週間で知覚まで辿り着くとは。


「じゃあ次。動かせ」


「動かす……?」


「右手に集める。意識で引っ張れ」


 アメルは目を閉じる。深呼吸。集中。小さな体に力が入る。


 ――数秒。


 右手が、淡く光った。緑色の、儚い光。まるで蛍のように、ふわりと揺らめく。


「……できた」


 アメルが息を吐く。信じられない、という顔。自分でもびっくりしている。


「すごいじゃないか」


 私は即座に褒めた。こういう時は間を置くな。成功体験は"熱"のうちに固定する。褒めて、認めて、自信を持たせる。


 勢いで抱きしめそうになる。……抱きしめた。小さな体が私の腕の中に収まる。


 アメルが固まる。驚いているのだろう。すぐに、笑った。嬉しそうに、照れくさそうに。


「先生……ありがとうございます」


「違う。君がやった」


 私は頭をくしゃくしゃと撫でた。銀髪が指に絡む。柔らかい。温かい。


 この調子なら、具現化まで遠くない。遠くない、が――油断すると折れるのもこの辺りだ。だから慎重に。焦らず、でも確実に。


 ※ ※ ※


 一ヶ月が経った。


 アメルは魔力を巡らせられるようになっていた。右手から左手へ。頭から足へ。胸の奥から指先へ。自由自在に、魔力を体内で動かせる。


 "制御"は形になった。あとは"外へ出す"。ここからが地獄だ。私が最も苦しんだ段階。


「次は外に出す練習」


「外……」


「そう。体の外へ。形を作る。ここが一番難しい。だから、失敗していい。壊していい」


 私は実演する。掌に白い光の球。球を星に変える。星を鳥に変える。鳥が羽ばたくように動き、やがて消える。


「……わぁ」


 アメルの声が漏れる。憧れの目だ。キラキラと輝いている。悪くない。憧れは推進力になる。目標になる。


「君もできる。まずは小さい球でいい」


 アメルが手を差し出す。小さな手。まだ幼い手。目を閉じ、深く集中する。


 額に汗。体が微かに震える。全身に力が入っている。


 ――そして一瞬。


 掌に、光が浮かんだ。ピンと弾けるように消えたが、確かに"外"に出た。一瞬でも、成功は成功。


「……できた?」


 アメルが恐る恐る目を開ける。不安そうな表情。


「できた」


 私は断言する。自信を持たせるために、はっきりと。


「今のが具現化だ。短い。でも成功。君は、私が百年かけたことを一ヶ月で触った」


「先生のおかげです!」


 アメルが嬉しそうに笑う。涙が浮かんでいる。


「違う。君の努力だ」


 私はアメルを抱きしめた。小さな体が震えている。泣いているのだろう。嬉しくて、安堵して、感極まって。


 ……私も、少しだけ目頭が熱い。これは感傷じゃない。成果に対する正当な報酬だ。教師として、弟子の成長を見届ける喜び。


 ※ ※ ※


 さらに二週間。


 具現化は安定した。掌に光の球を作り、維持できる。五秒、十秒、そして一分。形状変化はまだ。でも十分。十分すぎる。


「先生、見てください!」


 アメルが嬉しそうに手を差し出す。ピンポン玉ほどの緑の球が、ふわりと浮く。安定している。揺らぎがない。


「安定してる」


 私は頷いた。ここまで来たら次は――"意味"。


「次は、この光に意味を持たせる」


「意味……?」


「ただの光じゃなくて、治癒の力を込める。攻撃の力を込める。魔力に属性や効果を与えるんだ」


「……難しそうです」


 アメルが少し不安そうな顔をする。その表情が可愛い。


「難しい。だから面白い」


 私は肩を叩く。


「君は、私の想定より才能がある。いずれ私を超える」


「先生を……?」


 アメルが驚いて目を見開く。信じられない、という顔。


「ああ」


 私は淡々と言う。嘘はつかない。ただ、言い方は選ぶ。


「私は独学で遠回りした。でも君は最短距離を走れる。私の失敗も迷走も、全部、君の道しるべになる」


 アメルの目に涙が浮かんだ。大きな瞳が潤んで、キラキラと輝く。


「先生……ありがとうございます。僕、頑張ります。先生みたいに、強くなります」


「うん。期待してる」


 私は頭をくしゃくしゃと撫でた。柔らかい髪。温かい頭。


 このままいけば、数ヶ月で魔力攻撃の基礎までは行ける。治癒だけじゃなく、戦闘でも役に立つ。私が守るだけじゃない。アメル自身が、自分を守れるようになる。


 それが――私の望みだ。


 ※ ※ ※


 ある日の訓練中、アメルが突然倒れた。


「アメル!」


 私は駆け寄る。小さな体が地面に崩れ落ちる。額に手を当て、苦しそうに呼吸している。顔が青白い。


「大丈夫か。どこが痛い」


「だ、大丈夫です……ちょっと、頭が……」


 魔力の使いすぎ。体が慣れていないのに、限界まで踏んだ。無理をしすぎた。


「今日は終わり。宿に戻る」


「で、でも……」


 アメルが抗議しようとする。まだやりたい、という目。


「いいから」


 私はアメルを抱き上げた。


 軽い。驚くほど軽い。こんな体で、ここまで無理をしていたのか。私の胸の奥が、嫌な音を立てた。心配と後悔が入り混じる。


「先生……重くないですか」


「全然。君は軽い」


 アメルは申し訳なさそうに目を伏せる。小さく、か細い声。


「ごめんなさい……僕、もっと頑張らないと……」


「違う」


 私は即座に否定する。はっきりと、強く。


「君は十分頑張ってる。むしろ頑張りすぎ。休むのも訓練だ。壊れたら終わりだからね」


「……はい」


 アメルは小さく頷いた。腕の中で目を閉じる。すぐに寝息が落ちた。安心したのだろう。私を信頼してくれている。


 その寝顔を見て、私は思う。


 守らなきゃいけない。この子の未来を、守らなきゃいけない。それが――私の契約で。そして、私の意志だ。


 ※ ※ ※


 数日、アメルを休ませた。


 訓練はさせない。寝る。食べる。散歩する。回復する。村の中を一緒に歩き、美味しいものを食べさせ、ゆっくりと過ごさせた。


 アメルは最初、口を尖らせたが、私が頭を撫でると従った。むくれた顔が可愛い。単純で助かる。……いや、信頼してくれているだけか。


 一週間後。アメルは完全に回復した。顔色も良くなり、目に光が戻った。


「先生! もう大丈夫です! 訓練、再開しましょう!」


 目が戻っている。意志が強い。……強すぎる。でも、その強さが彼の武器でもある。


「分かった。でも無理はするな」


「はい!」


 元気な返事。私たちは再び森へ向かった。


 そして、その日。


 アメルの掌の光が、ゆっくり形を変え始めた。丸から星へ。星から花へ。緑色の光が、様々な形に変化していく。


「……できた。形を変えられました!」


 アメルが息を呑む。自分が起こした変化に、自分が驚いている。信じられない、という顔。でも嬉しそうで、満面の笑み。


「すごいじゃないか」


 私は抱きしめた。アメルも笑う。眩しいくらいに。太陽みたいな笑顔。


「これで君も一人前の"魔力使い"だ」


「先生のおかげです!」


「違う。君の努力だ」


 私は頭を撫でた。何度撫でても、撫で足りない。


 まだ教えることは山ほどある。でも――アメルは確実に伸びている。成長している。強くなっている。


 この調子なら、エルフの里に着く頃には、立派な魔法使いになっているだろう。


 私は――そう確信した。


 そして、心のどこかで思う。


 この子との旅が、もう少し続けばいいのに、と。


 決してショタコンではないが――アメルとの時間は、かけがえのないものだ。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

このお話が少しでも面白いと感じていただけたら、ぜひ「♡いいね」や「ブックマーク」をしていただけると嬉しいです。

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