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勇者パーティを追放されたエルフは魔族のショタを連れて、のんびりスローライフを送る〜決してショタコンではない〜  作者: 沢田美


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5/9

勇者パーティの現状

  リアを勇者パーティから追放して、二年と半年が経った。

 ここ最近、俺はろくに眠れていない。


 理由は明白だ。

 魔族と魔獣が引き起こす問題が、加速している。


 リアがいれば簡単に済む案件も山ほどあった。

 だが、その肝心の彼女は不在だ。


 勇者パーティとしての士気も下がっている。

 ダルフは、持ち味だった機敏さを失い始めた。

 神童と呼ばれたセシルスに至っては、ここぞという時に寝不足と過労で倒れる始末。


 新しく迎えた魔法使い候補――金髪のメリア。

 実力はある。そこらの魔法使いよりは上だ。普通以上と言っていい。


 ……ただし、リアと比べなければ、の話だ。


 メリアが魔法使いになってから、まだ半年。

 “若くしての天才”という評判を理由に、パーティへ引き入れた。


 大人しく、リアほど余計なことを喋らない。

 それはそれで助かるはずなのに――連携が取りづらい。


 困ったな。

 リアとは、あの決別以来、顔も合わせていない。連絡も取っていない。


 当たり前だ。

 公然の場で追放した。俺の信念が招いた結果が、これなのだから。


「ユリウス様! また魔族共が!」


 王国兵が俺を呼び起こす。

 俺は重い体を起こし、剣を掴んだ。


 どうにかして、このパーティを――かつての「リアがいた時」の形に戻さなければならない。


 ※ ※ ※


 魔族の群れが襲撃してきたのは、王都から北に位置する小さな村だった。


 到着した時には、すでに村の半分が炎に包まれていた。

 村人の悲鳴。魔族の嘲笑。燃える木と土の匂い。


「メリア、支援を! ダルフ、左翼の魔族を抑えろ! セシルス、治療と避難誘導だ!」


 俺は指示を飛ばしながら、剣を構えて群れへ斬り込んだ。


 剣閃が魔族を両断する。

 だが――遅い。


 かつてリアがいた頃なら、この程度の襲撃は一瞬で終わっていた。

 彼女の「燐光葬送グレン」があれば、この規模の魔族など、息をする間もなく灰にできた。


「ユリウス様、お気をつけて!」


 メリアの声。

 放たれた火の魔法が、俺の背後へ迫っていた魔族を焼き払った。


「助かる」


 短く礼を言い、俺は再び剣を振るう。


 メリアは真面目で、努力家だ。

 魔法の精度も悪くない。


 だが――それだけだ。

 戦場を塗り替えるような圧倒的な魔力はない。


 彼女に罪はない。

 比べる方が間違っている。


 それでも、脳裏に浮かぶのは――青い髪を翻し、余裕で戦場を支配していたリアの姿だった。


 ※ ※ ※


 討伐を終えた頃には、日が暮れていた。


 村は半壊。死傷者も出た。

 セシルスが必死に治療にあたっているが、疲労の色が濃い。

 ダルフは黙々と瓦礫を動かし、村人の手を借りながら撤去を進めていた。


 俺は広場に腰を下ろし、剣を磨いていた。


「ユリウス様……」


 メリアが遠慮がちに声をかけてくる。


「どうした」


「私……やはり、足を引っ張っているのでしょうか」


 暗い表情。

 自信を失っているのが分かる。


「そんなことはない。お前は十分にやっている」


「でも……リア様なら、もっと――」


「リアの話はするな」


 少し強い口調になった。

 メリアがびくりと肩を震わせる。


「すまない。お前に当たるつもりはなかった」


「いえ……私が、出過ぎたことを」


 メリアは頭を下げ、その場を去った。


 俺は深く息を吐く。


 リアがいない。

 ただそれだけの事実が、パーティ全体を蝕んでいる。


 あの日、俺は彼女を追放した。

 魔族の少年を連れてきたリアを――。


 俺の信念を貫いた結果だ。

 魔族は許せない。家族を、村を奪った存在だけは。


 ……だが。


 本当に、あれでよかったのだろうか。


 ※ ※ ※


 夜。

 宿屋の一室で、俺は一人考え込んでいた。


 脳裏に浮かぶのは、あの日のリアの顔。

 剣先を突きつけられても、顔色ひとつ変えなかった彼女。


 そして――震えていた魔族の少年。


 あの少年は、今どうしている。

 リアは、守り通せたのか。


「……くそ」


 俺は頭を抱えた。


 考えても仕方がない。

 追放したのは俺だ。俺の決断だ。


 それでも――現実は残酷だ。

 リアがいない今、勇者パーティは明らかに機能不全に陥っている。


 ダルフは切れ味を失い、セシルスは倒れ、メリアは潰れかけている。

 そして俺は――


「俺は、何をしているんだ……」


 勇者として魔族を討伐する。

 それは変わらない。


 だが、あの日の追放を境に、何かが狂い始めた。

 歯車が噛み合わなくなった。


 コンコン、とドアがノックされた。


「ユリウス。入るぞ」


 ダルフの声だ。


「ああ」


 短く返す。


 ダルフが部屋へ入ってくる。

 いつもの豪快な笑顔はない。疲れた表情だ。


「お前も眠れないのか」


「……ああ」


 ダルフは俺の隣に腰を下ろした。

 しばらく沈黙が続く。


「なぁ、ユリウス」


「なんだ」


「リアは……今、どうしてるんだろうな」


 その言葉に、俺は答えられなかった。


「俺も考えてたんだ。あの日のこと」


 ダルフが続ける。


「お前の気持ちは分かる。魔族に家族を奪われた憎しみは消えない」

「でも……リアも、俺たちの仲間だった」


「……」


「八年間、一緒に戦ってきた。笑い合った。支え合った。それは事実だ」


 胸が痛む。

 反論の言葉が出てこない。


「あの日、もっと別の方法はなかったのか……そう思うことがある」


「ダルフ……」


「責めてるわけじゃない。お前の信念も理解してる」

「でも――リアがいない今、俺たちは弱くなった」


 その通りだ。


 リアがいた頃の勇者パーティは、無敵だった。

 どんな強敵が現れても、彼女の魔法があれば越えられた。


 そして、彼女のあの余裕が――不思議と戦場の空気を軽くしていた。


「俺は……間違えたのかもしれない」


 初めて、口に出した。


「お前がそう言うとは思わなかった」


 ダルフが苦笑する。


「でも、もう遅い」

「リアはどこかへ行ってしまった。俺たちは――彼女を失った」


「……探すか?」


 ダルフの提案に、俺は首を振った。


「探したところで、何を言えばいい」

「『戻ってきてくれ』か? 俺が追放したんだ。今さら言えるわけがない」


「そうか……」


 ダルフはため息をついた。


「でも、いつかは会えるかもな。世界は広いようで狭い」


「……そうだな」


 もしリアに会えたら、何を言えばいい。

 謝罪か。後悔か。感謝か。


 ――いや。

 彼女はきっと、あの時と同じ顔で笑うだろう。


『ユリウス、君は正しいことをしたよ』


 責めることなく、そしてまた去っていく。

 そんな気がしてならない。


「……眠るか」


「ああ、そうだな」


 ダルフが立ち上がる。


「おやすみ、ユリウス」


「ああ」


 ダルフが部屋を出ていく。

 俺は再び一人になった。


 リア。お前は今、どこで何をしている。

 あの少年は無事なのか。


 お前は――幸せか。


 答えのない問いを胸に、俺は目を閉じた。


 ※ ※ ※


 翌朝。


 俺たちは王都へ戻る準備を始めた。

 村の復興は支援部隊に任せ、俺たちは次の任務へ向かう。


「ユリウス様、次の任務の詳細が届いています」


 メリアが報告書を持ってくる。


「魔王軍残党の討伐……か」


 報告書には、ひとつの名が記されていた。

 冥導の賢者ノクティス。


 新たな魔王候補として、各地で暗躍しているらしい。


「厄介だな……」


「ユリウス様、大丈夫でしょうか」


「ああ。問題ない」


 俺は剣を鞘に収めた。


 リアがいなくても、俺は勇者だ。

 勇者として魔族を討伐する。それが俺の使命。


 ……だが心のどこかで、いつかリアに会えることを願っている。


 ちゃんと話をしたい。

 謝罪なのか、感謝なのか――それはまだ分からない。


 ただ、もう一度。

 あの青い髪の魔法使いと、言葉を交わしたい。


 それだけだ。


「行くぞ、みんな」


 俺は仲間に声をかけた。


 ダルフ、セシルス、メリア――そして、心の中にいるリア。


 勇者パーティは、まだ終わっていない。

 いや――終わらせるわけにはいかない。


 リアがいつか戻ってきた時、誇れる勇者でいるために。


 俺は前を向き、歩き出した。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

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