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骸欠血損する食品群に関する一連の報告書  作者: 初枝れんげ(『追放嬉しい』7巻3/12発売)


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31/33

自衛隊による殲滅(後編)

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タイトル

「骸欠血損する食品群に関する一連の報告書」


キャッチコピー

「 関係者はメニュー表にない料理を絶対に出さないでください 」


ジャンル

「ホラー(モキュメンタリー)」


作品リンク

https://kakuyomu.jp/works/822139836343947661

■ 巨大蝙蝠の出現


作戦行動記録によれば、爆撃ヘリ部隊が●●基地を離陸したのは早朝である。


まだ太陽が山の稜線から半分ほどしか顔を出していない時間帯であった。


濃い朝靄の中、ローターの回転音だけが滑走路一帯を震わせる。


「エンジン出力安定。油圧正常。航法システム、グリーン!」


「こちら1番機(アルファ1)。これより●●山方面へ向け離陸する」


無線は平静を装っていたが、機体に乗り込んだ隊員たちの顔はこわばっていた。


彼らはすでに知っている。


先行した特殊部隊が、十三名全員、頭部を切断された状態で発見されたことを。


さらにその頭部が、後に渓流沿いで供物のように並べられていたことも。


上官からは「任務に集中しろ」という指示が下る。


そうこの作戦は絶対に失敗できない。


佐倉 山羽。


現在日本国で発生している異常事態の犯人。


彼女の抹殺はこの国の平和のため急務であった。


3機は編隊を組み、ゆっくりと上昇する。


基地の建物が徐々に小さくなった。


代わりに、徐々に目的地である●●山の黒いシルエットが大きくなる。


やがて、視界の大部分を占める。


「レーダー反応、異常なし。風速、問題なし」


「雲量少なめ。視程も良好だ。――やれる。いい感じだ」


だが高度が上がるにつれ、山を包む空の色がどこか不自然にくすんでいった。


天気予報では快晴のはずだった。


だが、●●山の上空だけ、なぜか薄い墨汁を流したような灰色に染まっているのだ。


「……本当にここだけ、色が違うな」


「温度計、確認しろ。寒気の境目かもしれん」


「外気温、ここまでの高度なら、まだ本来プラスのはずですが、すでに零度近くまで下がっています!」


「管制からの報告と違うな。記録しておけ」


ヘリは慎重に高度と速度を調整しながら、山の中心部へと進んでいく。


その場所にこの猟奇事件の犯人が潜伏しているのだ。


眼下には、過去に発生した土砂崩れの跡と思しき、茶色い傷あとがいくつも走っている。


その合間に、うっすらと円形に裸地となった斜面が点在しているのが見えた。


全員が奇妙な違和感を覚える。


「……なんだ、あの丸い地面。爆ぜたみたいに木がないが」


「人的な伐採には見えんな。だが、炎の跡もない。土の色がおかしいな。赤?」


斜面のあちこちに、赤い点が散らばっていた。


よく見るとそれは車両の残骸だった。


ひしゃげたフレーム。裏返ったままの車だ。


その周囲に人影はなかった。


「! 地上部隊の車両か……?」


「そのようだ。だが、回収は後だ。まずは目標地点で目的を完遂する」


「おお!」


緊張を押し殺すように編隊はさらに山の奥へと侵入して行った。




そうして、●●山の主稜線を越えた。


その瞬間であった。


気流が、突然、逆向きになった。


上から下に流れていた気流が、なぜか上空へと急激に吹き上げたのだ。


「ぐ! お、おい、なんだ! 上に引っ張られてるぞ⁉」


「高度に異常! い、いや、これは上昇気流じゃない。機体が何かの力で物理的に持ち上げられている!」


計器上では風速の大きな変化は出ていなかった。


しかし、操縦桿を押し込んでも、機体の浮き上がる力が勝っている。


「まるで……上から誰かに掴まれているみたいだなっ……」


誰かが、引きつった声で呟いた瞬間、前方の空間が裏返ったかのように、真っ黒な影で満たされた。


一瞬、全員が雲かと思ったという。


だが違った。


それは無数の存在が連なった生き物の集合だったのだ。



■ 巨大蝙蝠と交戦


●●山上空に到達した瞬間、機体の周囲に体長5メートルほどの巨大蝙蝠の大群が出現。


翼は薄膜ではなく、半透明の膜と黒い糸状の物が絡み合った奇妙な模様を示していた。


「アルファ1より全機。接触物体を確認。……数が多い。おい、あれは!」


「蝙蝠……ですか? 大きさが……馬くらいある……」


無数の影が、編隊の上下左右から押し寄せてきた。


ただ、奇妙なことに蝙蝠たちは普通に羽ばたいているのではなかった。


羽ばたきにタイムラグがあるのだ。


羽の動きと飛翔が一致しておらず、奇妙な力で浮遊しているとしか思えなかった。


翼は半透明で、その内部を黒い糸状のものが、まるで血管のように走っている。


翼の中を走る糸は時折、翼の表面から飛び出し、空中へと漂い出ては、また中へともぐりこむという動作を繰り返していた。


「きょ、距離を取れ!接触される前に高度を上げろ!」


3機のヘリは即座に散開行動に移る。


しかし蝙蝠たちは、まるであらかじめその機動を知っていたかのように、上昇した機体のさらに上へと回り込んだ。


そして、そこから一斉に舞い降りてきた。


キャノピーに最初の一体がとりついた。


馬ほどもある巨体の突撃による衝撃に操縦士が短く悲鳴をあげる。


「し、視界が……!」


蝙蝠の腹部はドロリとした黒い液体で濡れていた。


それが風防全体へとベッタリと広がっていくのだ。


ワイパーを最大にしても、粘度の高い液体はこそぎ落とせない。


「前が見えない、計器飛行に切り替える!」


だが、計器もまた乱れ始めていた。


高度計が異常な速度で上下し、コンパスはありえない角度を示し続けている。


「ジャイロにノイズ!姿勢基準が狂っていく! た、助けっ」


「落ち着け! なんとか目視で視界を確保するんだっ!」


そのとき、2番機の機関砲が火を吹いた。


蝙蝠の群れに向けて、連射された弾が空中に赤い筋を描く。


何発かは、確かに標的を捉えた。


蝙蝠の翼が裂け、黒い液体と肉片が空中に飛び散った。


だが、信じられない光景を自衛隊員は目にすることになった。


彼らは落ちなかった。


裂けたはずの翼が、ぬるりと形を変えたのだ。


そして、その裂け目からギョロリとした目玉が飛び出て、自衛隊員をニヤリと見つめた。


「……さ、再生している? こんな速度で――」


「アルファ2より。効果が薄い。接近される前に距離を取る!」


だが、蝙蝠たちのほうが早かった。


一体がヘリの左側面に張り付いた。


ガギン!


鈍い音が同時に響く。


しかし、その音の原因は爪ではなかった。


奴らが翼から伸ばした糸の束が装甲板に接触した音だった。


そして。


束になった黒い糸が外板の隙間に入り込み、内部へと侵入していく。


その瞬間、警報ランプが一斉に点滅した。


「警告!外板の変形反応!素材の歪曲が発生しています!」


パネルが、内側から押し出されるようにぼこぼこと膨れ始める。


まるで、金属そのものが腐って行くかのように変化しているのだ。


「装甲が……腐って……溶けている?」


触れた蝙蝠の糸の周りだけが、じわりと波紋のように柔らかくなり、ヘリの骨格が形を失っていくのが分かった。


「は、ははは、悪い冗談だろ……これ、お、落ちるぞ!」


3番機は、早々に姿勢制御を失いかけていた。


糸による攻撃もさることながら、ローターに蝙蝠が張り付いていた。


回転とは逆方向へ引っ張るように翼を伸ばして、ローターの回転数を強引に落としているのだ。


「ローターに負荷が……! くそが! 離れろ!」


「メインローターの回転数が規定値以下だ! このままでは落ちる! ああ⁉」


次の瞬間。


ローターは悲鳴のような金属音を立てて折れた。


折れた羽は空中でぐにゃりと曲がる。


まるで雑巾か何かのように揉み込まれるようにしてクシャクシャになり、地面へと吸い込まれて行った。


3番機はバランスを崩したまま、機体を右に傾けてスピンに入る。


機内からは、短い叫びと、そのあとに続く意味の分からない言葉が交じり合った悲鳴が記録されていた。


「だ、だれか……たすけ……」


そして、爆音。


3番機は山中の樹海へと、黒煙を上げながら消えていった。




残された2機は、必死に高度を上げて山から離れようとした。


巨大蝙蝠たちはなおも追いすがろうとする。


「後方カメラに複数接近!距離 50、40っ……!」


「対地ミサイルは使えないか! こんな高度じゃ巻き込まれる!」


ならば、と副操縦士は側面機銃に切り替えた。


蝙蝠の群れへ再び弾丸の雨を浴びせることに成功する。


今度は狙いを、翼ではなく頭部へと集中させた。


いくつかの個体が、ようやく空中でバランスを崩し、そのまま落下していった。


よし! と内心でガッツポーズをとる。


その攻撃にひるんだのか、蝙蝠たちの数は徐々に減っていく。


霧の濃度が増す。


山の輪郭が見えなくなったあたりで、ようやく追跡は止まった。


「……離脱に成功。作戦は一時中断。●●基地へ一旦帰投する」


機内には、安堵と疲労と、説明のつかない違和感が混じり合った沈黙が流れた。


誰もさきほどの光景について感想を口にしようとはしなかった。


しかし、その時間は わずか15秒しか続かなかった。


「……アルファ2より直後方、影、再接近! か、数……数が増えているぞ!」


後方カメラの映像がノイズまみれのまま復帰した。


映ったのは、暗い霧の塊のようだった。


だが、もちろんそれは先ほどの蝙蝠たちだ。


しかし、さきほどの蝙蝠とは動きが違ったのである。


「なんで……さっきのより速いぞっ!」


第二波の群れは、最初の群れより明らかに速度が速かった。


羽ばたきのリズムも均一なのに、どんどん加速する。


どう見ても、空気抵抗を無視しているようであった。


「やべぇぞ! 距離が縮むのが早すぎる!」


操縦士が緊急で上昇をさせようとした。


だが、第二波はその軌道を読み切ったように、編隊の さらに上空 に回り込んでいた。


「また上から来るぞ!散開いいいいいいいいい!」


散開の指示……だがその前に、群れの一体が急降下した。


それはアルファ2の上部ハッチへ、 針のような嘴 を突き刺した。


金属板が裂ける乾いた音が響く。


「か、貫通した!?嘘だろ!」


そこから、液状の黒い糸が雨のように流れ込む。


計器パネルへ、乗員のヘルメット、その内部を侵していく。


「頭が……!なにか……声が……っ、きこえます」


副操縦士が耳を押さえながら、意味のわからない単語を早口で繰り返し始めた。


「ごちそうさまでした おなかがいっぱいです しあわせです ありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうしあわせな」


「副操縦士、応答しろ! 声を出すな、抑えろ!」


だが彼は座席ベルトを外し、立ち上がろうとしていた。


足元に滴った黒い糸が、まるで操り糸のようにその手を引いた。


操縦桿が倒れる。


機体が急に左へ傾く。


パイロットが必死で操縦桿にしがみつく。


しかし。


「制御が……取れない! 糸が、内部で。駆動系をおかしくしてる! あああああああああああああああ!」


一方で機体の後方では別の個体が、翼を生き物の触手のように伸ばし、ローターの回転へ絡むように巻き付いていた。


ローターの回転音が一瞬高まった。


そして、次の瞬間、バキィン!! と破断音が山間に響いた。


「ローターが止まった!」


もう一機。


アルファ1の側からも悲鳴が上がった。


「右舷エンジン温度急上昇!何か貼り付いてる熱がっ……!」


外部カメラの映像には、胴体に貼りついた蝙蝠の群れが映っていた。


その腹が脈打つたび、黒い粘膜がジュクジュクと膿のように広がり、機体表面が溶けた飴のように垂れていく。


「くそっ、外装が……!!」


みるみるうちに金属の形状が崩れる。


空中に糸状に引き伸ばされて霧の中へ吸い込まれていくかのようだ。


その時、前方に新たな一体が回り込み、キャノピーの真正面で静止した。


操縦士は思った。


その顔面は異様に人間に近いのだと。


まるで、誰かが蝙蝠の骨に人間の皮を無理矢理引き伸ばしてくっつけたようじゃないかと。


目だけが赤黒く濁って光っていた。


操縦士と視線が合った。


「……嘘だろ……これ、人の……」


言い切る前に、蝙蝠の顔がゆっくりと笑った。


キャノピーに口を押し当てるようにし、その歯がガラスを削るようにして擦れた。


ギイイイィ……と金属音にも似た不快な摩擦音が響く。


「落ち着け!前を向け!撃つな、機首がブレる!」


操縦士は強引にヨー軸をずらす。ヘリでは極めて無茶な軌道だ。


蝙蝠を振り落とそうと機体を横回転させたのである。


一瞬、蝙蝠が離れる。


その隙を狙って、ガンナーが機関銃を斉射した。


弾丸が群れの中心を貫く。


数体がミンチ状になって吹き飛ぶ。


黒い液体が霧のように周囲へ広がった。


だが、またしても落ちない。


肉片は空中でまとまって、別の形へ変わりながら再び翼を形成し始めたのである。


「斉射やめろ……無理だ。再生している……!」


蝙蝠の集合体が蠢きながら形を整えるその様子は、もはや飛行する動物というより、

空中で増殖する癌細胞のようだった。


「アルファ1より!追加の個体が接近!距離20!」


蝙蝠たちは突然散開する。


そして、空中で不可能としか思えない立体軌道を描きながら、ボロボロの両機を挟み撃ちにする位置へと移動した。


「挟まれた⁉ まずいぞ!」


避けようとしたが遅い。


左右から迫る群れは壁のようだった。


無数の糸状の触手が空中をズルズルと泳いでいた。


「避けられない!!」


その時である。


上空に突如、轟音が響いた。


雷にも似た空気が裂けるような音であった。


蝙蝠たちがその音に一瞬怯んだ。


身体を震わせ、動きを止める。


「……何だ?風か?」


いや、違う。


音の発生源は風ではない。


山の下。


もっと深い場所から聞こえてくる。


その何かの異音に反応したように、蝙蝠たちは一斉に撤退を始めたのである。


まるで、別の誰かの声に従っているかのように。


群れは霧へ溶け込み数秒後には完全に消えていた。


操縦士は震える息を吐いた。


「……助かった……のか……?」


だが、彼らはまだ知らない。


この時点で機体内部の多くの装甲が、すでに飴のように柔らかく変質していたことを。


そして、その変質は、ゆっくりと、しかし確実に内部の制御系統へ広がり始めていた。




基地上空に戻る頃には、太陽は完全に昇り切っていた。


滑走路と格納庫が見えたとき、機内に初めて微かな笑いが漏れた。


被害は甚大だった。


だが、死地から生還したことも事実だったからだ。


「帰ってきたな……」


「ああ。だが終わりじゃない。アルファ3の弔い合戦をしないとな。一旦作戦を立て直して、もう一度……」


だが、その瞬間、最後の異変が起きた。


「……おい、何だ。操縦桿が重い!」


高度も速度も問題ないはずだった。


着陸進入コースに入ったとたん、機体の重心が、わずかに前へと引かれる感覚があったのだ。それは山に入った時に感じた、何かに上へと引っ張られる感じと似ていた。


「ト、トリムが効かない……? 舵が遅れている⁉」


計器は正常。


しかし操縦桿の手応えが変だ。


まるで機体そのものが、見えない何かに前方へ押されているような感触なのである。


「姿勢制御がっ……」


ほんの数秒の乱れだった。


だが、そのぐらつきは、低高度、低速での着陸態勢には致命的だった。


機体は予定した接地ポイントの手前で、機首から落ち込むように滑走路へ叩きつけられた。


固い衝撃が走る。


脚が折れ、機体が跳ね、次の瞬間、燃料と搭載ミサイルが『偶然』連鎖的に爆ぜた。


周囲の隊員を多数巻き添えに大爆発を起こした。



■ 事後処理


焼け跡に残された遺体は、通常の焼死体とは異なり、飴のように柔らかく糸を引く半液状の物体になっていたという証言がある。


DNA採取も不能であった。


死因は現代の医学で判定不可能とされた。



■ 1週間が経過しても、有効な対策はなし


佐倉 山羽確保の命令から1週間が経過したものの、依然として政府は有効な対策を確立できず、全国ではさらに新たな欠損事件が増加し続けている。


政府はこれら一連の事件・事故報告について以下と呼称することを決定。


『骸欠血損する食品群に関する一連の報告書』


日本国の全精力を上げて解決する旨を国民に伝達した。


だが、誰の目から見ても事態が鎮静化すると思うことはできなかった。

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