第四十七話「とある帰り道の分岐点」
週末の午後。大学からの帰り道、悠真はふと前を歩く少女の姿に気づいた。
「……遥ちゃん?」
制服姿の遥が、駅のホームの柱にもたれかかっていた。
「悠真さん!偶然ですね」
「今日は学校、早く終わったんですか?」
「ええ。でも、まっすぐ帰る気分じゃなくて」
少し風が吹いた。髪が揺れる。いつも大人びて見える遥だが、制服姿から覗く無邪気な笑顔は17歳という年齢を思い出させる。
「悠真さん、少しだけ……付き合ってくれませんか?」
「……もちろん」
電車に乗り、言葉少なに並んで座る二人。
降り立ったのは、郊外の小さな駅。そこから10分ほど歩いた先に、こぢんまりとした公園があった。
「ここ、昔よく兄と来てたんです。小さい頃はよく、ブランコの順番で喧嘩して……」
ぽつりぽつりと語る遥に、悠真は黙って耳を傾けた。
木々の間から、斜めに傾いた陽が差し込む。
「……私、あの夜のことを思い出さない日はないんです。でも、最近は少し違ってきました」
「違う?」
「ええ。記憶が、苦しいだけじゃなくて……今につながっている感じがしてきて」
遥は振り返り、悠真を見つめた。
「それは、きっと悠真さんのおかげです」
「……僕は何もしてませんよ」
「そんなこと、ないです。悠真さんは、私の知らない世界をたくさん持っていて、でも私にそれを押しつけようとしない。だからこそ、私も少しずつ……前に進めてる気がします」
彼女のまっすぐな言葉が、胸にじんわりと沁みた。
風が、また吹いた。
二人の距離を、少しだけ縮めるように。
「ありがとう、遥ちゃん」
悠真は、ほんの少し照れくさそうに名前を呼んだ。
遥もまた、静かに笑った。
「また、来てくれますか? ……ここ」
「ええ。何度でも」
陽が傾き、影が伸びる。
季節の中で、ふたりの歩幅がそっとそろっていくのを感じながら――。




