表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/53

第三十三話「街を歩くリズムで」

 カーテンの隙間から差し込む朝の光が、まぶたをくすぐった。


 そっと目を開けて、天井を見つめる。

 今日が、特別な一日になることを、体の奥がちゃんと覚えている。

 昨夜は遅くまで眠れなかった。眠っても、何度も目が覚めてしまって、夢の中でさえ落ち着かなかった。


 ――東雲さんと出かける。

 いや、もう「悠真さん」って呼んでいいんだ。

 先日、そう決めたのに、まだ少し照れくさい。


 ベッドから抜け出し、鏡の前に立つ。

 昨日の夜、何度も服を着替えて悩んだ。カジュアルなワンピースにしようか、それとも落ち着いた色のブラウスにするか。

 結局、選んだのは、薄いベージュのワンピース。上品すぎず、でもどこか背筋が伸びる一着。


 「……これなら、変じゃないよね」


 小さく呟いてから、顔を洗い、髪を整えた。

 いつもより少しだけ丁寧に、まつ毛を整えて、リップを塗る。

 そうしている自分が、どこか少し可笑しくて――でも、ちょっとだけ嬉しい。


 準備ができても、時間はまだ約束の一時間前だった。

 居ても立ってもいられず、リビングに戻ってソファに座る。

 膝の上に置いたスマホを何度も確認して、でも何も通知は来ていない。


 彼は、どう思ってるんだろう。

 十七歳の私と出かけることに、やっぱり気を使っているのかな。

 それとも、ちゃんと楽しみにしてくれてる?


 昨日、あんなふうに言ってくれた。

 「雪村さんの年齢がいくつでも、僕はこのカフェに通い続けますよ」って。


 名前で呼び合うようになっても、まだまだ距離はある。

 でも、その一歩が、こんなに大きいなんて知らなかった。


 もうすぐ、出かける時間。

 胸がどきどきして、落ち着かない。

 このまま何かを期待してしまいそうな自分が、ちょっと怖くもある。


 でも、それでも。

 今日、彼と一緒に歩けることが――心から、嬉しかった。


 スマホを手に取って、バッグにそっとしまう。

 玄関で靴を履きながら、深呼吸をひとつ。


 扉を開けて、光の中に足を踏み出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ