第二十五話「巡る思惑」
ふとしたとき、視線が吸い寄せられることがある。
無意識のうちに目で追ってしまう人間がいる、というのは不思議な感覚だった。篠崎亮にとって、その相手はずっと――東雲悠真だった。
親友。そう呼んでもいいほどには長い付き合いだが、心の奥まで見通せるとは思っていない。
むしろ、見えないところが多すぎる。言葉足らずで、説明が苦手で、それでもたまにこちらの意図だけは正確に察してしまう――そんな、不可解で、少し不器用な奴。
(最近、変わったよな、お前)
春の空気が肌に柔らかく触れる昼下がり。大学の中庭で缶コーヒーを手に、亮はぼんやりと空を仰いだ。
東雲が誰かと頻繁に会っている。しかも、女の子と――名前は、雪村遥。確か、そう名乗っていた。
人と距離を取ってきたはずの悠真が、あんなにも自然に隣にいるなんて。
それだけで、十分に異常だった。
(……悪いことじゃないんだけどな)
だからこそ、気になった。
雪村遥はどんな人間で、なぜ悠真にあそこまで心を開かせたのか。
亮は嫉妬しているわけではない。むしろ興味のほうが強かった。
悠真が、ようやく何かに手を伸ばしたのだとしたら。
それを掴んでほしいと思うのは、長年の友人として自然なことだった。
ふとスマートフォンを取り出す。
時間はまだ15時だ。カフェで時間を潰すには丁度良い。
「……あの店、行ってみるか」
立ち上がった亮の背中を、春風が軽く押していった。




