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第六章 カメレオン小隊!

一方その頃。レイナの部下、リサとミナはガラクタシティへの定期パトロールに出ていた。実際はパトロールとは名ばかりのただのサボりである。


レイナ率いるカスク中隊は通信兵、補給兵、車両の整備等に従事する兵士を含め、延べ150人になる。南門は3交代制で守られ、8時間の歩哨、8時間の睡眠、8時間の訓練があった。しかし1週間に一度だけ、8時間の自由時間が与えられる。都市の外を守る仕事とあって、彼女達の給料は高いが、都市での暮らしは縛りも厳しい。さらに都市に戻るには1ヶ月前に申請書を提出し、消毒と予防検査を行い、検査結果が出るまで待機しなければならない。当然結果で異常と出れば都市に入ることなどできない。汚染された空気の中での彼女らの任務はそれほど過酷な環境だった。家族の面会も分厚い窓ガラス越しであり、さながら犯罪者のごとき扱いだと不満の声があがっているが、これは汚染された空気を都市内に持ち込まないための必要な措置なのだった。――つまり彼女たちは思春期の大半をこの過酷な環境での職務に費やし、彼女たちの自由時間がは1週間にたったの8時間しかないのだ。


抑圧された厳しい環境での任務から頭と体をリフレッシュさせるのに、ガラクタシティへのパトロールという名のドライブは、彼女たちのお決まりの仕事をボイコットする言い訳だった。


ガラクタシティから基地への帰路、二人の部下、リサとミナがジープを走らせていた。ミナが運転席で笑いながら口を開いた。

「いやぁ、やっぱソフィアの店のタコスは最高だなぁ。ねぇ、あれってカメレオンの肉使ってるって知ってた?」

「…えーなんで今それ言うの?」リサが青ざめた表情でミナを睨んだ。「せっかくいい気分だったのに…」

「え?やっぱ知らないで食べてたの?わりわり。」ミナが手を振って笑った。「あたし、そういうの気にしないし。少なくとも、ソフィアの店の料理は葉っぱが使われてないし、ミュータントの肉じゃない。それで十分。」

「ねぇ、隊の皆の分も買ってきたけど…これ、隊長達に食べさせるの嫌になってきたんだけど…」リサがタコスの包みを不安そうに握った。

「いやー、気にすんなよ!」ミナが肩を叩き、リサのほっぺに付いたマスタードを指差した。「お前だって知らずにうまいうまいって食ってたじゃん!ほっぺにマスタードつけて。」

「うっさいばか!」リサが顔を赤らめてミナを押した。「ちゃんと前見て運転しろ!」

「ばか!見えてるって!」ミナがハンドルを軽く叩いた。「なぁ、ちゃんと領収書書いてた?流石に自腹は嫌だよ!」

「切ったよちゃんと。けど…これ、本当に領収書通るの?」

「大丈夫だって!タピオカティーがいけたんだからいけるっしょ!」 ミナが笑いながらアクセルを踏んだ。

「そのうち怒られるよー…?…!?ねぇ前見て!?」リサが慌てて前方を示した。

「ちゃんと見えてるって!」ミナがハンドルを切りかけた瞬間、「ばかばかばか!前方12時の方向にマーマーン!」

「え!?マーマーン!?!?」


ミナが慌ててハンドルを切り、ドリフトしながらジープを停車させた。目の前でマーマーン戦士がフラフラと歩き、パタリと倒れた。緑がかった鱗に覆われ、背中に棘や海藻のような突起が目立つ。大きな口から鋭い歯が覗き、爬虫類的な手足が土に沈んでいる。傷だらけで衰弱しきった姿だった。

「やばいやばい!あ、あ、あたし、マーマーンを轢いちゃった!」ミナが青ざめてハンドルを握り込んだ。

「轢いてないよ!このスピードで突っ込んだら吹っ飛んでるでしょ!」とリサが叫んで車から飛び出す

「そ、そうか…じゃあ免許取り消しにならないよね…よかった…」と、ミナがハンドルから手離し、安堵のため息をつき、ぼけっとしていると、

「ミナ!早く来て!」

と、リサが大声でミナを呼ぶ声で、ミナは正気に戻った。

「いや、よくないか!おーい!大丈夫かー!」


リサとミナが慌ててマーマーンに駆け寄った。

ミナがマーマーンの傷を確認し、真剣な表情で言った。「ミュータントに襲われた傷じゃない……撃たれてるみたい…」「どうする?こんな時、隊長ならマーマーンを見捨てないよな……」リサがあたりを警戒しながら、ミナに問いかけた。「……そうだね、相手を理解して、戦う必要がないなら戦うなって。このマーマーンは怪我してるだけだし……、手当てしてあげれば他のマーマーンとの戦闘はおきないよね?」ミナは不安そうな顔を浮かべた。二人はこの時、壁の外のコミュニティとの友好を大切にしている隊長の言葉を思い出していた。


――話は数年前の過去に遡る。

「壁の外では敵か味方かを決めつける前にまず理解しろ」

朝から隊長の命令で訓練所で基礎トレーニングと格闘技の訓練を実施し、レイナ隊長に散々投げ飛ばされ、起き上がる事すらできない二人に対して隊長は問いかける。

「ハァ……ハァ……?」

「ゼェ……ゼェ……ど、どういう意味ですか?」

訓練所の床で寝転がったまま、二人はレイナ隊長の言った言葉の意味を考えるが、どういう意図があるのか、ふたりは理解できないでいた。そんな二人に対して、レイナ隊長は微笑みながら言葉の意味を説明する。「たとえ言葉が通じなくても、相手の動きや状況をよく見て、観察しろ。そして相手の目的を読み取れ。戦う必要がないなら戦うな。命は一人につき1つ。無駄にはできないんだから。」「そんなの、どうやったらわかるんですか?」リサが息を整え、レイナに問いかける。「簡単さ、相手のほしいもの。取りたい行動を予測するんだ。脱水してたら水が欲しい。傷ついてたら手当したい。お腹が空いてそうなら飯を分け与えてやればいい。渡せる水も、食料もない。それを説明しても、相手がこちらから奪おうとしてくる。その時初めて相手を敵とみなしなさい。」――


リサとミナは傷だらけのマーマーンを引きずり、ジープに詰め込むと慌てて車を発車した。リサはジープの中で、マーマーンの傷をみてウロウロし始める。

「ど、どうしよう…あたし、マーマーンの止血なんてわかんないよ!ミナ、隊長から何か聞いてない?」

「そんなのあたしも聞いたことないよ!…とにかく血を止めればいいんでしょ!?CAT巻こう!」

CATとは止血帯ベルトであり、静脈を圧迫する形で巻きつけることで一時的に止血するキットである。リサは止血帯を取り出し、マーマーンの一番重症な足に巻き付けた。「これで血を止められるはず…!」

マーマーンの足から出血がとまったが、マーマーンの腹部からは血がにじみ、魚の生臭い匂いとマーマーンの血がジープを汚している。

「ん…ジャァ…まほ、ろば…」

意識を取り戻したマーマーンがつぶやくように呻いた。

「気がついた!え?ンジャー!?あなたスワヒリ語が喋れるの?ねぇ!お腹が空いたって言ったの!?」

意識が戻ったマーマーンにリサが聞き返す。

「えっなに!?そいつ腹減ってんの!?リサ!ソフィアのタコスくわせろ!」

ミナの言葉を信じ、リサがタコスの包みを取り出し、少し迷いを隠しながらも真剣にマーマーンの口に近づけた。

「ほら!タコス!…」


マーマーンが弱々しく呻き、「Что это… воняет…(なにこれ?臭い…)」とつぶやいた後、気絶したように動かなくなった。リサが、「…………だってNjaa(スワヒリ語で「腹が減った」)っていうから…」と小声で呟いた。

 

ミナがジープに搭載された無線を手にとり、逼迫した状況を基地に伝える。「基地、基地、こちらリサとミナ。負傷したマーマーンを護送中。医療班の準備を頼みます!」「こちら南門基地!負傷したマーマーン?状況を詳しく説明せよ!」と返され、ミナが口をパクパクと開閉した、自分でもどういう状況か理解しきれていないまま、ミナはありのまま起こったことを無線で叫ぶように話す。「ガラクタシティから基地に向かう途中、突如ジープの前方に負傷したマーマーン1匹…一人?を発見!傷はおそらく銃によるもの!レイナ隊長からの指示を請う!」「…………」おそらく基地でも突然の自体に慌てているのだろう、無線にはなかなか指示は来ない。しびれを切らし、もう一度ミナが何か言おうと無線を口に近づけたとき「現在レイナ隊長は西門に訪問中につき不在!レイナ隊長にはこちらから連絡を入れたため、間もなく基地に帰還する!リサとミナも至急帰還せよ!」

「こんな時に限って!」ミナは隊長不在を悔やんだ。

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