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第五章 西のカンバ門

ガラクタシティでマリアとの交渉を終え、基地へ戻る途中、マーマーン族の襲撃に遭った。レイナがシーニー・シェストとマーマーン語で話をつけ、戦闘は回避したものの、車列には緊張が残り、ジープの側面に矢の擦り傷が刻まれていた。基地に着いたのは夜遅く、レイナとサヴィタは執務室に二人だけで入った。薄暗い部屋には地図が広げられ、マリアの情報メモが机に置かれている。蛍光灯がチカチカと点滅し、埃っぽい空気が漂う。


レイナは机の端に立ち、頬の傷—マーマーンの矢で掠めた跡—を指で押さえた。今は絆創膏が貼られ、疲れた目で地図を見ている。サヴィタは地図の前に立ち、Yシャツの袖口が汗で濡れているが、姿勢は崩さない。


「マリアの話です。」レイナが落ち着いて切り出した。「ガラクタシティのボス、マリア。彼女は男の拉致には関与していないと断言しました。ですが、西のカンバ門を出入りしている武器商人から武器を買ったと言っています。西のカンバ門は外交や公益を担う門で、他の門より外部との出入りが多い。壁の外に男性が拉致されたのなら当然、上層部が既に各門を調査したはず。結果は?」

 

「中尉の言うとおりだ。東西南北の門は上層部の指示で秘密裏に調査が行われ、結果はどの門も白。……だ、そうだが……そもそも調査が行われた形跡がまるでない。捜査が形式的な物だったのか、はたまた身内びいきか……上層部が調査した所では壁の外に男性が出ていった痕跡はなかったらしい。だが、我々捜索隊が現場を調べ、さらに目撃情報を整理した所、どう考えても壁の外に出たとしか考えられ拉致された男性は国内のどこを探しても見つからなかった。……マーマーンのシーニー・シェストが『似たような連中が襲ってきた』と証言したのも気にかかる。シティの住人を拉致し、マーマーンを拉致し、都市の男性を拉致した者達が同一犯で、都市防衛隊と同じ装備をしていたのなら、都市防衛隊に所属している者が離反していると捉えるべきだ。そして、東西南北で唯一内外の出入りが多く、かつ出入りの警備がゆるいのは……西のカンバ門。」 サヴィタは顎に手を当てながら思案した。


「はい、その通りかと。」レイナが頷いた。「マリア達ギャングに、ロケットランチャーや銃を売った武器商人とやらも、マリアの言葉を信じれば西門を出入りしてる。だが上層部の調べではそのようなもの存在は確認できなかった。やはりもういちど我々の目で確認しなくては……」サヴィタは冷静に分析した結果を呟く。レイナはそれを聞き、西門の指揮官である自分の同期、ターラの事を思い出した。レイナの知るターナは私と同じで真面目で味方思いのいいやつだったと記憶しており、未だに彼女が賄賂を受け取り、男性拉致に加担したとは思えない。だが、各コミュニティへの聞き取り結果が"彼女が黒である"と思わせる物ばかりで、どこか浮かない顔をしている。


そんなレイナの表情には気づかず、サヴィタが地図を畳み始めた。「決まりだ。明日、西のカンバ門に向かおう。私が捜索隊の権限で門を出入りした業者の記録と物資の流れを確認する。レイナ中尉、ターラ中尉と交渉は可能か?」

「はい、ターラ中尉とは同期です」レイナが静かに答えた。


「では決定だ。」サヴィタが頷き、携帯端末を手に持った。「明日は西のカンバ門へ向かう。私が上層部に報告を入れ、準備を整える。レイナ中尉はターラ中尉との交渉に備えてくれ」 「承知しました。」

サヴィタが敬礼し、執務室から去ると、レイナは窓際に立ち、夜の荒野を見た。「西門か…ターラ…」彼女の呟きは静かで、どこか寂しさを滲ませた。


---


西のカンバ門の監視塔に到着すると、ムリン中隊の隊員たちが武装して迎えた。レイナとサヴィタの目の前に、肩に葉っぱと口を開けた魚の部隊章をつけた指揮官のターラ中尉が現れ、二人に冷たい視線を向けた。

「南門の連中がなんの用だ。」ターラが腕を組んで立ったまま、首を軽く振った。

「ターラ。用があるのは私じゃない。紹介するよ。男性拉致被害者捜索隊のサヴィタ大尉だ。」レイナがサヴィタを指差しながら軽く肩をすくめた。

サヴィタが敬礼し、ターラが片手を上げて返礼した。


「捜索隊隊長のサヴィタだ。単刀直入に聞く。我々はこの門から男性が拉致され、都市外へ運ばれたと考えている。そこで、西門を出入りした業者の記録と拉致被害があった当日の警備記録、それと物資の管理目録を見させていただきたい」

ターラが一瞬目を細め、敬礼した。「大尉殿。都市防衛連帯所属、都市境界線防衛大隊、西門防衛ムリン中隊隊長のターラです。男性拉致とは穏やかじゃありませんな。しかし、既に我らの調査は一度済んでおります。その時に問題なしと出たのです。大尉殿はご存じないかな?」

「存じている。だが、もう一度だ。」

「はぁ…どうぞ、お好きに。」ターラが肩をすくめ、片手で部下を呼んだ。「部下に資料室へ案内させます。…しかし、大尉殿。我らは痛くもない腹を探られているという不愉快な気持ちを理解して頂きたい。」

「…協力感謝する。」サヴィタが頷き、ターラの部下と部屋を出た。


その時、監視塔の隅にいたムリン中隊の女隊員が目を引いた。刈り上げた白髪に緑と白のメッシュが混じった、まるでネギを連想させるような派手な髪型で、貧乳の体型がプレートキャリア越しにもわかる。鼻にはリングピアスが光り、ガムを噛みながらニヤニヤとこちらを見ていた。ホルスターに刺さったハンドガンのグリップには、キラキラと輝く派手な装飾と男の裸体の彫刻が施され、彼女はそれを自慢げにエリカたちに見せつけていた。


レイナがターラに近づき、軽く首を振った。「…ターラ。急に押しかけて済まない。」

「いい。お前は付き添いだろ。」ターラが片手で椅子を指し、レイナに座るよう促した。「お前の苦労はわかる。中佐の推薦か?」

「そうだ。」レイナが椅子に腰掛け、背もたれに寄りかかった。「俺は壁の外の連中と親しいだろってな。」

「そうだな。」ターラが自分の椅子にドカリと座り、腕を組んでニヤリと笑った。「これが解決したら昇進か?それとも妊娠権利の獲得?」

「どちらも断った。」レイナが首を振って笑い、片手で髪をかき上げた。「だが部下に妊娠権を譲渡しようかと思ってる。」

「はっ…お前らしいよ。」ターラが目を細めて笑い、指を鳴らした。「なぁ、お前。ホントにレズビアンじゃないのか?」

「なんだ。誘ってるのか?」レイナが眉を上げ、ターラを指差して笑った。「…バカ言え。男に興味がないのは、世帯に興味がないだけだ。それに、妊娠権といったって人工授精。男と実際にまぐわう訳じゃない。野郎の精液もらったって嬉しいもんかよ。」

「そういうもんかねぇ…」ターラが首をかしげ、片手で顎を叩いた。「お前、ほんとに女か?」

「さぁ、どう見える?」レイナが肩をすくめ、軽く下腹部を撫でた「少なくとも月に一度生理はくる。」

「じゃあ女だな。」ターラが大声で笑い、机を叩いて部屋に明るい空気が流れた。


「…コーヒー飲ませてくれ。」レイナが立ち上がり、肩を回して首を振った。「サヴィタ大尉は質問狂いでな。相手してると肩が凝る。」

「いいぞ。食堂で飲んでこい。」ターラが手を振ってレイナを見送った。

「ありがとうターラ。」

「あぁ。お互い苦労するな。」ターラが椅子に背を預け、軽く手を振った。


レイナがターラの指揮所を去り、食堂へ向かった。そこに部下のエリカが近づき、小声で耳打ちした。

「……隊長。ここ、変です。」

「……変ってなにが。」

「ターラの部下たちの装備です。ハンドガンのグリップ見ました?腰に刺して、ニヤニヤこっち見て自慢するみたいに立ってましたよ。ド派手なラメ入りの飾りがついてて…男の裸体のやつ!あんなの戦略的アドバンテージなんて何にもないのに!しかも、ジープですよ!隊長!奴らのジープがぴっかぴかでほぼ新車です!タイヤの溝も!」

「……おまえ、よく気づいたな…」レイナが目を細め、エリカの肩を軽く叩いた。「そうか、装備が…」

「なーんでアタシらより待遇いいんすかね?」

「さぁね。それも外交なんじゃねえの?」

エリカにはそういったが、彼らが急に羽振りがよくなったのにはきっと裏があるだろう。武器商人や男性を攫った連中の通行料として、かなりの金額を受け取ったに違いなかった。

「いやぁ、ハンドガンのグリップは外交問題っすよ!男の裸体っすよ!?エッチっす!隊長もそう思わないっスか!?」

「あぁ…あとでターラに聞いとくよ。臨時ボーナスでも貰ったのかってな。」 同期を疑いたくないレイナの心情を知ってか知らずか、頼れる副官の鋭い指摘に、レイナの心は一瞬、跳ねるような思いがした。


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