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第三章 "ドン・マリア"

車列がバリケードを抜け、ガラクタシティの中心へ。マリア・マルティネスの本部は鉄板とコンクリートで補強された二階建てだ。入り口には重機関銃付きピックアップが停まり、ギャングが警戒している。車を留め、降りると孤児たちが群がってきた。ボロボロの服を着た子供たちが、錆びた缶や怪しげな緑色の葉っぱを手に持って近づいてくる。


レイナはジープから降りると、鋭い目つきで周囲を一瞥した。その冷たい雰囲気に孤児たちは一瞬ひるみ、こいつは買わないな…といった冷めた表情を見せた。一方、サヴィタとその部下たちは、車から降りると初めてのガラクタシティに戸惑いながらキョロキョロと辺りを見回す。その隙だらけな様子を見て、孤児たちが一斉にサヴィタに群がった。


「おい、姐さん! いい葉っぱだよ、吸ってみな!」瘦せこけた少女がサヴィタに擦り寄り、彼女のポーチをベタベタと触りながらしつこく葉っぱを差し出す。別の少女がサヴィタの腕に掴みつき、「水だよ! きれいな水! 一口でいいから買えよ!」と叫ぶ。埃っぽい手には、濁った液体が入ったプラスチックボトルが握られている。さらに、小さな女の子がサヴィタの足元にしゃがみ込み、潤んだ目で囁いた。「お姉さん…ママが病気でさ…この缶、たった一個でいいから買ってくれない? お願い…」彼女の手には潰れた缶詰が握られ、ラベルは剥がれて中身が分からない。


サヴィタが眉を寄せて困惑した。「何だこいつら…?」と呟きながら手を振り払おうとするが、孤児たちは諦めずまとわりつく。レイナが冷たく一瞥し、「忠告したろ。何も買うな。麻薬だ」と言うと、「確かに言われたが…まさかこんな子供が…」と呟きつつ、サヴィタが部下に鋭く指示した。「全員、触るな! 隊から離れるな!」


その隙に、小柄な少女がサヴィタのポーチに手を伸ばそうとしたが、エリカがすかさずその腕を掴んでひねり上げる。「あだっ! 離せよ!」と叫ぶ少女を、エリカが「隊長の言うこと聞けよ、ガキ」と突き放す。小さな女の子は地面に座り込んで泣き出し、「お姉ちゃんひどい…ママ死んじゃうよ…」と呟きながら缶を握り潰した。サヴィタが苛立ちを隠せず、「しつこいな…!」と吐き捨てる。


騒ぎの中、ギャングの護衛が近づいてきて、空に銃を撃ち、子供たちを蹴散らした。「うぜえぞガキども!どっか行け!」女の子の泣き声が遠ざかり、埃と焦げたゴムの匂いが漂う中、レイナとサヴィタは護衛に導かれ本部の中へ入った。


建物に入ると、サヴィタがレイナに目を向けた。「孤児たちはお前には売り込みをかけなかったな。なぜだ? 追い返すコツでもあるのか?」

レイナが肩をすくめて言った。「簡単なことです。彼女たちも客を選ぶんですよ。」

サヴィタが一瞬ムッとした顔をしたが、何も言い返さず唇を噛んだ。


ギャングに連れられ、建物の奥の部屋に通される。部屋の奥、台所ではマリアが香辛料を刻んでいる。40代の女傑で、右腕は肩からなく、左腕だけで包丁を操る。赤いシャツに金のネックレスが揺れる。隣のベッドでは娘が咳き込み、弱々しく横たわっている。マリアがレイナを見て目を細めた。

「レイナ。一人じゃないんだね。何のようだ?」

「そう警戒しないでくれマリア。昔みたいに気楽に話したいだけだ。」レイナが小さく笑った。

「……昔か。まあいい。座れ。」マリアが包丁を置いて顎で椅子を指した。


マリアがサヴィタを一瞥した。

「で、そっちの堅物は誰だ?」

「紹介する。サヴィタ大尉、捜索隊の指揮官だ。」

サヴィタが一礼した。

「初めまして、マルティネスさん。」

「ここを仕切ってるマリアだ。大尉殿。堅苦しいのは嫌いだ。」

 

マリアが鼻を鳴らした。「で、レイナ。何の用だ?捜索隊といったが。」

レイナが切り出した。「都市から男が攫われた。情報が欲しい。」

マリアが目を細めた。「……男だと? ありえない。都市の警備は厳重だ。あたし達にそんな事できるわけ無いじゃないか!」

「待ってくれマリア。別に貴方を疑ってるわけじゃないんだ。ただ、情報が欲しいんだ。」

「わかってるんならいい。……情報ねぇ?情報も貴重な金だよ。見返りに何がもらえるんだい?」

レイナが具合の悪そうな娘を見る。

「お前の娘の病気だ。病気なんだろ?情報の報酬代わりに治療してやるよ。都市の医療チームを連れてきたんだ。」

「…治るのか?嘘なら殺す。」

マリアが娘を見てレイナを睨んだ。

「都市の医療技術だ。死んでも直してやれるよ」

それを聞き、マリアが表情を崩した。

「……さすがレイナだ。やっぱりあんたは話が早いね」

レイナがサヴィタに振り返った。

「大尉、医療チームを頼む。」

「わかった。医療チーム。こちらサヴィタ。交渉は成立した。入れ。」


交渉がまとまり、サヴィタが医療チームを引き連れて再び部屋へ入ってきた。椅子にもたれ掛かるようにしてすわるマリアの娘に、彼女たちは優しく声をかけ、点滴や抗生剤の準備を始めた。レイナとマリアは彼女たちの治療の邪魔にならないよう外に出て、砦のバルコニーで話す。給水タンクを警備するギャングが見え、遠くの荒野が広がる。


マリアが煙草に火をつけた。「娘の事はありがとうね。部下の周りじゃあんな態度だったけど、正直助かったよ。なんせここには薬もない。あたしが独学で得た知識で薬草や香辛料なんかでなんとか治療できないかと思ってたんだ。」「いいんだよマリア。助け合っていこう。」肩の力を抜いたマリアがレイナに話しかけてきた。「井戸水はまだ枯れる気配がない。だが、ガソリンは奪い合いだ。この前、70人規模の盗賊団がシティを襲ってきた。水を狙ったんだよ。返り討ちにしたがな。」

レイナが頷いた。「強くなったな、マリア。」

「アンタのおかげさ。それに、今は守る家族をもできた。……レイナ、最近は妙だ。シティの外に出てた連中の子供が行方不明になってる。あたしの末娘もな。都市の事件とは違う、男じゃねえから関係ないと思うけど、皆ピリピリしてる。」

レイナが目を細めた。「子供か…何か知ってる?」

「あたしも調べてる。どこの誰だか知らないが、あたしの末娘をさらいやがって…。誰の娘に手を出したか思い知らせてやらなきゃね。しかし、男じゃなくて女だよ?最初はあたしに脅しをかけるのかと思ってた。でも、他の女も連れてかれてるし、脅迫文も届きゃしない。何の目的かもわからないし、どんな連中がさらったのかも見当がつかない。酔っ払いがシティの中で緑目のバケモノが女をさらっていく所を見たって聞いて、若い奴らがマーマーンの仕業だと騒いでたがね?あたしがマーマーンの目は緑じゃないとぶん殴っておいたさ」

「緑目?」レイナが聞き返す。

「――いったろ?酔っ払ってる奴の話だよ。まともに信じちゃいないよ。」マリアが煙を吐いた。


レイナが本題に入る。

「都市から男が拉致された件なんだが」

「……あぁ。アンタには娘の命を救ってくれた借りがある。それに、昔あたしの命を救ってくれた借りだってまだ返せてない。できれば力になってやりたいがね…」「借りって…あれは貸しじゃないっていったじゃないか」レイナが苦笑しながらマリアの肩を叩いた。「あんたにそのつもりがなくてもあたしにはあるんだよ!……でも、あんたのそういう所、嫌いじゃないよ。だからこそ力になってやりたいんだがねぇ……都市の中と外で繋がってて、一番警備がゆるいのは西のカンバ門だ。あたし達もそこから来る武器商人から武器を買ってる」

「そこが怪しいと?」

「わからない。だけど、もし都市の外に男を連れ出すのならそこしかないんじゃないかね」

「西か…わかった。ありがとう」


---


マリアの娘の治療が終わり、マリアの事情聴取が終わると、車列がガラクタシティを後にした。帰路の途中、インドの荒野を進む車列に異変が起きた。突如、周囲の草むらから銃弾と矢が打ち込まれ、ジープの側面に火花が散る。レイナが叫んだ。「敵襲だ! 車を縦にしろ!」

部下が慌てて応戦するが、草むらに隠れた敵が見えない。「マホロバー!」と叫ぶ声が響き、草むらが揺れている。エリカが「隊長!マーマーンだ!」と叫び、即座に銃を構えた。サヴィタが「敵襲!?、マーマーン!?」と聞き慣れない名前に困惑しているみたいだが、今は彼女にかまっている暇はない。「突然撃ってきやがって!そっちがその気なら!――」「まて!様子を見る!ジープは防弾だ!窓から顔を出すな!」色めき立つ部下たちにそう指示し、私は草むらの中に目を凝らした。草むらには弓を引き絞り、銃をかまえ、槍の穂先をこちらに向ける異形の戦士たちが顔を覗かせていた。「中尉――」サヴィタが話しかけてきたが、私は自分の唇に人差し指をあて、"静かに"とジェスチャーを送ると、彼女は不安そうな顔を浮かべながらも大人しくしている。車の中ではサヴィタとその部下、エリカ達が緊張しながら銃を構え、ジープ矢や銃弾が絶えず当たり、激しい音が車内に響く。


その時レイナは、草むらから顔を覗かせる異形の戦士の中に見知った顔を見つけた。エリカ達に、「私が外に出る!決して撃ち返すな」と言って危険を顧みずジープから飛び出し、マーマーン語で叫んだ。

«Я Лейна! Синий Шестой! Прекратите бой!(私だ!レイナだ!青の6号!戦闘をやめてくれ!)»

矢がレイナを掠め、頬を切り、一房の金髪が地面に落ちた。血が滴るが、レイナは動じず立ち続ける。


私の声が銃声の響き渡る中で彼らに届いたのか不明だが、私が外を出てから矢と銃弾は飛んでこなくなった。

サヴィタとエリカ達が、車の中から不安そうに成り行きを見守っている。


静寂と緊張があたりを包む中、マーマーンの一団から魚のような顔に手足が生え、体は濡れて光る青い鱗に覆われて、貝殻や海藻が装飾として絡みつき、巨大な口から長い舌が覗き、片手に棍棒、もう片手に弓を持った異形の男が現れた。彼こそマーマーンのリーダー。青の6号、シーニー・シェストだ。鋭い目でレイナを見据え、彼がマーマーン語で応じた。

«Лейна? Настоящая?(レイナ?本物か?)»


---

**ガラクタシティのキャラクター**


-**マリア・マルティネス**

- ガラクタシティの統治者。ボスまたは姐さん。

- 42歳。金髪ルーズサイドテール。

- 元ドイツ貴族の生き残り。

- 赤いシャツに金のネックレスが揺れる。


- **リリー**

- マリアの末娘。

- 14歳。金髪ショート。

- 貴族の血を感じさせる凛とした顔立ち。

- 親譲りの鋭い目つき。現在行方不明。


- **エルザ**

- マリアの長女。

- 19歳。金髪サイドテール。

- ガラクタシティの統治者補佐。

- 肺炎→完治。

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