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第二章 黄色い給水タンク

後日、捜索隊のリーダーとの顔合わせの日が来た。基地の会議室に現れたのは、サヴィタ大尉。インド系の女性で、私と同い年くらいだろう。黒髪が肩に掛かり、理知的な目つきが印象的だ。

「私がこの捜索隊を指揮するサヴィタ大尉だ。」彼女が落ち着いた声で自己紹介した。

「自己紹介ありがとうございます。私が都市防衛連帯所属、都市境界線防衛大隊、南門防衛カスク中隊レイナ中尉です。隊のことはカスク中隊と呼んでください。」私は敬礼を返した。


「貴殿の隊は都市境界線の壁の防衛隊の中で唯一、外部のコミュニティと交流できているそうだな。早速聞かせてくれ。今、ここから一番近いコミュニティは何処だ?」

「承知しました。ではまず、私の部下をご紹介します。その後、壁外についてご説明いたします。サヴィタ大尉は捜索隊に自ら志願したとか?危険な任務です。」

「危険度は理解している。だが重要な任務であることも同じく理解している。貴殿は?」

「任務の重要性は理解しています。」私は淡々と答え「なるほど…」サヴィタは私の態度に何かを感じ取ったようだ。おそらく彼女の上官から、私が男性救出に乗り気でないことは伝わっているらしい。だが、彼女は表情を変えず、次の質問に移った。

「ここから近いのは通称"ガラクタシティ"です。都市に入れない者や、都市から追い出された者が集まってできた町です。時折夜盗にもなりますが中立の立場を保っている。まずはそこから当たってみるのがいいでしょう。」

「了解した。では、早速準備を進めよう。」


彼女の声はどこか落ち着いた、人を安心させる穏やかさがある。壁の外がどんな所か知っても、彼女は同じ態度でいられるだろうか?私は内心ため息をつきながら、次の行動を考え始めた。


私はサヴィタとそのメンバーを伴い、南門(キジムワ門)の基地広場に向かった。広場には既に私のカスク中隊のメンバー12人が、お揃いのFerro Concepts製プレートキャリアを装備し、胸と腰のベルトに5.56mm弾マガジンが詰まり、M4をスリングからぶら下げ、姿勢を正して屹立し、私の言葉を待っていた。エリカだけはいつも通り少し気の抜けた顔をして笑顔を浮かべている。彼女たちは壁の外での経験を共有する、私の信頼できる仲間だ。


そして向かいに、サヴィタの捜索隊4人が並ぶ。5.11 Tactical製のプレートキャリアにYシャツという都市風の装備で、SIG Sauer MPXサブマシンガンを手に持つ。隊員の半数は緊張した顔でこちらを見ているが、サヴィタ自身は落ち着いている。彼女達は都市育ちらしい整った装備だが、壁の外ではどう動くか未知数だ。そして後方には、白衣を羽織った医療チームの2人。手術用のバッグを肩に提げている。


サヴィタが一歩前に出て、穏やかな声で語りかけた。「皆さん、私は捜索隊を指揮するサヴィタ大尉です。この任務は極秘かつ重要で、男性拉致事件の解決を目指します。私達は壁の外での経験がない。あなたたちに案内と協力をお願いします。」

彼女は柔和な笑みを浮かべ、軽く頭を下げた。


私も前に進み出て、「私はレイナ中尉。ここ、キジムワ門を防衛するカスク中隊の指揮官だ。サヴィタ大尉の言う通り、私たちはこれから捜索隊をサポートし壁の外で拉致された男性達の捜索にあたる、道中ミュータントや夜盗の襲撃が予想されるため、各員は今一度装備の点検を行うように。」

捜索隊のメンバーが私の「壁の外に出る」という言葉を聞き、明らかに緊張した顔をしている。サヴィタだけはこちらに大げさでは?と言いたげな顔をしていた。


「レイナ中尉。具体的な指示を。壁の外にはどのような装備で向かいますか?」「私達はこれから6台の車列でガラクタシティへ向かいます。先頭と後方にM2重機関銃付きのピックアップ、残りはジープです。壁の外では、常に無線はオンライン。ここからガラクタシティは徒歩でも移動できますが、無事に帰ってこれる保証はありません。」 私は捜索隊のメンバーにできるだけ恐怖を感じさせる言葉を選んで説明した。壁の外は危険な野生動物のほかに、言葉の通じないミュータントが彷徨い、血も涙もない夜盗もいる。間違ったことは何一つ言ってない。楽観的に動けば死につながるからだ。


その時、私の視線が医療チームに移った。私はサヴィタに目を戻し、口を開いた。「大尉、そこの医療班は?」

サヴィタは後方を指して言った。「彼女らは我々が拉致された男性を保護した後、その場で迅速に応急手当てとメンタルケアを行い、速やかな都市への搬送をサポートします、男性が壁の外になんのために拉致され、どのような目にあっているのか、健康状態、精神状態、全てが不明なための必要なバックアップです。男性保護後の対応は全て彼女らに任せます。」 サヴィタは簡単に説明し、医療メンバー必要性を説いた。私がお荷物が増えると思っていると感じたのかもしれない。

「了解。顔合わせはこのくらいでいいでしょう。では、出発前に装備の確認を。」「"Sawa!!"(了解!!)」隊のメンバーの元気な返事に対し、私は小さく頷き、話を締めた。


数分後、車列が南門を後にする。ジープとピックアップトラックが砂塵を巻き上げながら進み、インドの荒野が広がる。遠くには乾いた大地に点在する低木と、戦争で崩れたコンクリートの残骸が見える。空は薄曇りで、湿った熱気が肌にまとわりつく。


---


「レイナ中尉。ガラクタシティとはどんなところだ。」

レイナは目を細めて前方を眺めながら答えた。

「都市の外で暮らす奴らの楽園でもあり、砦でもあります。ミュータントから自衛できるほどの戦力を有していて、他所のコミュニティとも交流してる。廃材とコンクリートでシティを覆う壁を作り、ミュータントからシティを守っています。内部は木造とレンガの家が立ち並び、ギャング達がピックアップトラックでシティを巡回。ボス・マリアを筆頭としたギャングとその庇護下にある住人たちで、およそ12万人がそこで暮らしています。シティの中心にはきれいな井戸水がありますが、シティを守る自警団が水の売買を管理してます。自警団といっても、麻薬も売ってますし、売春もします。ほとんどギャングに近い。」


サヴィタが眉を上げた。「売春? 外に男が?」

レイナはサヴィタの意外な食いつきに少し笑い、肩をすくめた「サヴィタ大尉は男に興味が? やめといたほうがいいですよ。いるのは都市を追い出された男。それに、ほとんどが性病持ちか種無しです。」

「え?…あ、いや、別に男に興味があるとかではない。都市の管理していない男性がいるのかと驚いただけだ。」 サヴィタは少し頬を赤らめている。

「あ〜、…まぁ、わからなくもないですが。大尉、問題はギャングの連中です。ほとんどがチンピラなので、こちらが装備をちらつかせてれば襲ってくることはありませんが、それは、私達が団体行動してるからです。チームメンバーに隊から離れないように伝えてください。」

彼女の初心な反応に少し可哀想に感じ、話題を戻してやると、「…わかった。」とサヴィタは頷いた。


レイナはさらに続けた。「奴らが葉っぱを勧めても買わないように。というか、何も買わないほうがいい。どうせ全部壊れてるかガラクタです。水も買ったり飲んだりしてはいけません。飲食物はほとんど麻薬が混入されてます。」

「なるほど。危険だな。」

「連中にとって麻薬は香辛料の感覚に近い。犯罪という認識がないのです。咎めるような素振りは辞めてください。それに、都市の外では我々のルールは通用しない。」

「無論理解している。無法地帯だということは。」

「そうです。」


サヴィタが少し考え込むように黙った後、再び口を開いた。「カルテルの武装はどんなやつだ?」

「それなりに整っています。殆どがチェストリグで弾薬を吊るし、ライフルとロケットランチャーを所持。重機関銃を搭載したピックアップトラックも多いので機動力があります。しかも厄介なことに奴らは自前で作った装甲車がある。」

「ライフルはわかる。ロケットランチャーだと? 自作か?」

「西のカンバ門から武器商人が来てるらしいです。そいつが、銃やらなんやらを横流ししてる。既にかなり出回ってる。誰だかわかりませんが。」

「ばかな、確かな情報なのか?」

「大尉。事実として奴らは出どころ不明のロケットランチャーを持ってるんです。信管がしっかり機能するやつをね。情報は確かに不明瞭ですが、それも今日、マリアに問いただせばわかるでしょう。」

「…わかった。」サヴィタが渋々納得したように息をついた。


レイナは話を切り替えた。「ボスの名前はマリア・マルティネス。先週パトロールに行った際に聞いた話ですが、ボス・マリアの愛娘が感染症に疾患してるらしいです。症状を聞くにおそらく重度の肺炎でしょう。治療してやれば上手く話が進みます。」

「注意点はわかった。交渉は任せる。私は医療チームに準備させよう。」

「宜しくおねがいします。――今度は私から質問をしても?」レイナはいい機会だと思い、気になってた事を聞いてみることにした。

「中尉から?いいだろう。答えられることかな?」

「簡単です。――なぜこの危険な任務に志願を?」

レイナは単刀直入に聞いた。壁の中しか知らぬ者は、壁の外の危険性を軽視している。単純な理由で来たのなら、その安易な考えを正してもらわねば。レイナの負担が減るか増えるかの重大な質問だった。

「――簡単だ。妊娠券の獲得さ。この任務は危険だが、それだけの価値がある。」

「……なるほど。あなたも女って訳ですね。大尉殿」

「おい、中尉が興味ないのはわかるが、あまり茶化さないでくれ!私は真剣なんだ!私は23だそ?都市の指定する妊娠適齢期がもうすぐ過ぎてしまうんだ。……ここしかない。」

「まぁ、せいぜい頑張ってください」

サヴィタがこの任務に意欲を見せる一方、レイナは非常に冷めた気持ちだった。妊娠券。それはこの世界では誰もが憧れる権利。自分には理解の及ばない思想だ。


唐突に、車列が道路の真ん中で停車した。無線から「こちら一号車。周囲にミュータントの影あり。おそらくチャンドラです。」「なに、ミュータント!?」サヴィタが慌て始めたので、私は落ち着いてサヴィタを静止し、「落ち着いて大尉。チャンドラとはシカ系草食動物です。変異して体長が膨れ、角が発光するユニークなミュータントですが、害獣ではありません。大人しくしていれば去ります。」そう言い、しばらくするとチャンドラの群れがが草むらからのそりと顔をだし、車列の横を通り過ぎていく。角を発行させるシカという原始的な光景をサヴィタ達が口を開けて惚けながら見つめている様子をみながら「ようこそ壁外へ」と声をかけた。


車列がガラクタシティの入り口に到着した。廃車と鉄板のバリケードがそびえ、黄色く装飾され、黒字で顔のペイントがされた給水タンクの周りをチェストリグにライフルを吊るしたギャングが警備している。タンクの周りではギャングが談笑しており、近づくと笑い声が聞こえてきた。埃と焦げたゴムの匂いが漂う中、レイナがジープから降りた。「隊から離れるな。武器は手に持て。」エリカたちが頷き、迷彩のプレートキャリアを叩いて準備を整える。サヴィタも捜索隊に指示を出し、Yシャツの袖をまくって並んだ。


シティの入り口は簡易的なバリケードが敷かれている。その入り口を守るギャングは、龍の入れ墨を服の裾から覗かせた女だ。ライフルを肩に担ぎ、レイナを見て目を細めた。

「ぺっ……都市の犬め。何の用だ?」

道路にツバを吐きながら近づいてきた女が、暴言と共に用を尋ねてきた。

「マリアに会いに来た。レイナが来たと伝えてくれ。」

「レイナだと?」女がホルスターからハンドガンを抜き、レイナに銃口を向けた。部下たちがとっさに銃を構えるが、レイナが片手で銃を下げるよう指示した。二人は無言で見つめ合い、場に緊張が走る。「……姐さんを馴れ馴れしく呼ぶな。レイナ…レイナね。本物なら証明してみせな」「証明?必要ないだろ。早く無線でマリアに連絡してくれ」レイナは淡々とそう答えた。


「あんたが本物のレイナだっていうんなら、湿地帯に住むマーマーンの戦士長の名前もわかるよな?」

レイナは冷静に答えた。「青の6号。マーマーン語で『シーニー・シェスト』だ。」

女は更に見つめ合った後、ゆっくりと銃口をさげた「……そうだ。本物だな。…おい!バリケードをどかせ!姐さんの客だ!」


ギャングたちが入り口のバリケードを開けたので、私も車に乗り込む。エリカが入れ墨女に「ジャンボ〜♪」と薬指と人差し指をあげて揶揄っていた。車列がバリケードを抜け、ガラクタシティの中心へ向かった。


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初めての執筆になります。宜しければ感想お願いします。パート2の執筆の励みになります。

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