第十ニ章 少年"アディティヤ"
このエピソードが始まって12章目にしてようやく男性の登場です。
夜の高速道路を走る5台の黒い装甲車。その中央車両の車内では、10歳の誕生日を迎えた少年、アディティヤが窓の外を眺めていた。暗闇に浮かぶ遠くのデリーの灯りが、少年の瞳に映り込む。アディティヤは小さな声で呟いた。「ママ、ちゃんと待っててくれるかな。今日、僕の誕生日だもん。」
隣に座る父親、ヴィクラムが苦笑しながら息子の頭を軽く叩いた。「お前のママは忙しい人だよ。だが、今日は特別だ。ちゃんと会場で待ってるさ。ラドゥー(インドの伝統的な丸いお菓子)も用意してるって言ってたぞ。」
アディティヤの顔がぱっと明るくなる。「本当?クルフィ(インドの濃厚なアイスクリーム)もある?僕、クルフィ大好き!」
「ああ、そうだな。お前が喜ぶ顔が見たいからって、わざわざ頼んだらしい。」ヴィクラムは息子の無邪気な笑顔に目を細めたが、その表情にはどこか疲れが滲んでいた。この世界では男性が希少であり、彼のような40代の貴族風の男は常に注目と危険に晒されていた。ヴィクラムは伝統的なクルタを着た姿で、どこかインドの古い名家の風格を漂わせていた。
車内の前方では、護衛の一人である女性兵士、ラクシュミが振り返り、冷静な声で告げた。「これから会場まで護送します。お二人とも、もし襲撃された場合、救難信号を発信しますので、車から決して出ないでください。この車両は内側からロックされます。簡単にはこじ開けられません。」
ヴィクラムが眉を寄せ、不満げに吐き出した。「襲撃だって?そんな物騒な話、あるわけないだろう。こんな物々しい警備、金の無駄だよ。俺はただ息子の誕生日を祝いたいだけなんだ。」
ラクシュミは感情を抑えた声で応じた。「ご心配なく、ヴィクラム・サー。政府からの補償金で賄われています。万が一の備えです。貴重な男性である貴方とアディティヤ様を守るのが我々の役目ですから。」
「補償金か…。それでもなぁ。こんな暮らしじゃ息が詰まるよ。」ヴィクラムは肩をすくめ、アディティヤに目を戻した。「なぁ、アディティヤ。お前は気にせず楽しみにしとけよ。ママが待ってるんだからな。」
「うん!」アディティヤが元気に頷く。その小さな笑顔が、車内の重苦しい空気を一瞬だけ和らげた。
装甲車は水素イオンエンジンの静かな唸りとともに、デリーの外縁を走る舗装路を進む。埃っぽい風が時折窓を叩き、先頭と最後尾にはアンドロイドが搭乗し、中央の3台には卵巣を摘出した女性兵士が混じる。ラクシュミは護衛対象の親子が乗る車のリムジンシートに対列に座り、親子の仲睦まじい様子を微笑みながら見ていた。
ラクシュミは先週、自分が契約する民間警備会社ラクシャ・タクティカルの本社から届いた報告を思い出す――。
「ラクシュミ隊長。悪いニュースだ。」
音声通話の声は彼女の会社のボス、ザラ社長だ。「ジュナを護衛していたアミナの部隊が襲われた。アミナ含む全員が戦死、ジュナは何者かに拉致された…」「アミナ先輩が……」アミナは私より8歳年上の先輩である。カーラケーヤの戦いを生き抜いた熟練の元陸軍であり、片目の負傷をきっかけに軍を退役。ラクシャ・タクティカルに就職した。友に任務をこなす時もあり、彼女は非常に優れた能力の持ち主だったと記憶している。確か、彼女の護衛対象は「俳優アルジュナ」ファンからは愛称でジュナと親しまれている、男性では珍しくメディアによく顔を出していた人物である。そんな彼はとても狙われやすく、ラクシャ・タクティカルの選りすぐりの精鋭が彼を護衛していたはず……。「あのアミナ先輩が……何者かにとは、犯人が特定できていないのですか?」「都市上層部からメディアに圧力がかけられており、ジュナは体調不良により休職中となっている。何者かは私だって知りたい。今、都市の上層部が捜索隊を立ち上げ、血眼になって探しているらしい。……都市上層部の親しい友人の話では、どうやらジュナは都市の外に運ばれた可能性かある。……ラクシュミ。今度の任務、くれぐれも用心してくれ。」「……了解しました」私にはアミナ先輩の死を悔やむ暇も与えられなかった。しかし、私には私の任務がある。商家として名高いヴィクラム一家の仲睦まじい親子を守るのが私の目下の任務だった。私はザラ社長との通信を終えると、部下を招集し、緊急ミーティングを開いた。
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ヘッドライトが闇を切り裂き、遠くに見える会場の灯りを目指していた。「アミナ隊長をヤッた奴ら……きますかね?」運転中の部下が不安そうな顔をしている。「さぁ、だが、用心しろ。もし遭遇しても、訓練を思い出して適切に行動するんだ。私達は、私達の命よりも優先しなければならない立場にあるということを忘れるな」部下に厳しいことを言うが、それはすべて事実だ。この男性希少世界において、私達などいくらでも替えがきく。だが、後部に座る親子の替わりが務まるものなどいないのだから。
私がバックミラー越しに、親子の親密なやり取りを眺めていると、突然、前方の暗闇を切り裂く爆音が響き渡った。先頭車両がロケットランチャーの直撃を受け、装甲が砕け散り、オレンジ色の炎が夜空を染める。車両は横に大きく滑り、舗装路を削りながら横転。金属の軋む音と爆発の衝撃波が周囲を揺らした。Spiritus systemsのチェストリグをバックから取り出して装着し、ラクシュミがMP5のボルトハンドルをスラップしながら即座に叫んだ。「敵襲だ!1号車を避けて進め!」
別の部下が慌てて応じる。「だめです!周囲の車両が!」
「なら後退しろ!」ラクシュミが指示を飛ばすが、その言葉を遮るように後方車両が爆発。轟音とともに黒煙が立ち上り、焼け焦げたゴムの臭いが空気を満たす。「あぁ、くそっ!…出るぞ!車外で迎え撃つ!」ラクシュミと仲間が車から降りると、
ドアを占める直前にヴィクラムとアディティヤに叫んだ。「車から決して出ないでください!サー!救難信号を!」「わっわかった!」ヴィクラムが座席のアームレストのコンソールをいじり始める「ラクシュミ!」アディティヤが不安そうな顔で声をかけてきた。ラクシュミはそっと微笑むと、勢い良く扉を占め、車をロックした。彼女の背後で、別の護衛が叫び声を上げた。「おいラクシュミ!奴ら、プロの軍人だぞ!M4にショットガン!EMPグレネード!ムカつくほど装備の質がいい!死角をカバーしあって連携がとれてるし、射撃が正確だ!こっちのアンドロイドは最初の攻撃でもう半数もいないぞ!もっと悪いことに奴らナイトビジョンをつけてる!このままじゃ数分ともたず全滅だ!」
先に車の外に出ていたラクシュミの仲間が車を盾にして叫んだ。ラクシュミが振り返り、暗闇に目を凝らす。上空を飛んでいたオスプレイ高速道路に降り立ち、そこから数10人の不埒者共が降りてきた。確かに、襲ってきた部隊は迷彩柄の戦闘服に緑の目を光らせている。ラクシュミはそれがナイトビジョンの光だと気づき、顔を歪ませた。敵の部隊は高速道路の両側から音もなく迫っていた。上空では再びオスプレイが低空飛行で旋回し、重機関銃がけたたましく咆哮。50口径の弾丸が周囲の一般市民の乗る車両を蜂の巣にし、舗装路を粉砕し、コンクリート片が飛び散る。盾にしている護衛車両の装甲に命中した弾丸は火花を散らし、耳をつんざく金属音が響き渡った。
アンドロイドたちが車両から飛び出し、機械的な正確さでP90を構えて応戦している。だが、オスプレイの重機関銃が容赦なく彼らを薙ぎ払う。鋼鉄の体が弾丸に貫かれ、火花とオイルが飛び散りながら次々と倒れる。一体のアンドロイドが膝をついた瞬間、ターラの部下が投擲したEMPグレネードが炸裂。青白い電磁波が広がり、アンドロイドの動きが一瞬止まる。その隙を突いて、ターラが叫んだ。「頭部を確実に破壊しろ!録画データを残すな!」
部下が素早く動き、M4カービンのフルオート射撃でアンドロイドの頭部を蜂の巣に。破壊された頭部から火花が飛び、機械の残骸が地面に転がった。
地上では、ターラの部隊が護衛を次々と殲滅。ショットガンを構えた兵士が至近距離で人間の護衛に発砲し、散弾がチェストリグごと胸部を抉り、血と肉片が飛び散る。別の兵士がマチェーテを手にアンドロイドに飛びかかり、首の回路を切り裂いて機能を停止させた。ターラ自身も冷酷に動き、M4を手に護衛の一人を蜂の巣に。弾丸が頭蓋骨を貫き、脳漿が舗装路に飛び散った。
ラクシュミはMP5を乱射しながら応戦しつつ、オスプレイの動きを見極める。「奴らの航空支援が厄介ね……」と呟き、倒れた仲間のチェストリグからフックを拾い上げる。ネギ女が不気味な笑みを浮かべて近づき、ビンディを額につけた姿で装飾過多のハンドガンを構える。ラクシュミを狙った一発が頬をかすめ、血が滴るが、彼女は咄嗟に身を翻し、オスプレイが低空で通過する瞬間を見計らう。フックを手に、オスプレイの着陸ギアにしがみつき、風圧に耐えながら身を隠した。
別の護衛が絶叫しながらMP5を乱射するが、ターラの部下が冷静にショットガンを構え、至近距離で発砲。散弾が顔面を直撃し、頭部が粉々に吹き飛び、首から上が消し飛んだ。血溜まりが広がり、混乱の中で護衛たちは次々と倒れる。アンドロイドの一体が最後の抵抗を試み、ターラに突進するが、彼女の一斉射撃で胴体が蜂の巣になり、膝から崩れ落ちた。
やがて、護衛はラクシュミを除いて全滅。ターラが中央車両に近づき、鋼鉄のドアを爆弾でこじ開けた。車内では、ヴィクラムとアディティヤが怯えて縮こまっている。ヴィクラムが息子を抱き寄せ、震える声で叫んだ。「やめろ!俺に何の用だ!頼む、息子だけは…!」彼の声は恐怖で上ずり、クルタの袖を握り潰す手が震えていた。「用があるのは俺だろう!だが、アディティヤには手を出すな!」
ターラが無表情で言い放つ。「黙れ。息子がここにいるのが悪い。」部下に手錠をかけるよう指示すると、ネギ女ががアディティヤの腕を掴み、「動くなよ、チビ」と嘲笑しながら引き立てる。アディティヤが泣き叫ぶ。「パパ!助けて!」
ヴィクラムが抵抗しようとするが、部下の銃床が腹部に叩き込まれ、うめきながら膝をつく。「くそっ…やめろ…!」と呻くが、ターラの部下に両脇を抱えられ、ヴィクラムもオスプレイに引きづられていく。そして泣き叫ぶアディティヤを力なく見つめるしかなかった。
ターラが周囲を見回し、最後の指示を出した。「アンドロイドの頭部は全て破壊しろ。証拠は残すな。」
部下が動き、アンドロイドの頭部をハンマーで叩き潰し、人間の死体に追加の弾を撃ち込んで確認作業を終えた。焼け焦げたアンドロイドの残骸からは火花が散り、血とオイルが混ざった異様な臭いが漂う。オスプレイが再び離陸し、ターラの部隊は拉致したヴィクラムとアディティヤを乗せてその場を去った。ラクシュミはオスプレイの下部にしがみついたまま、風に耐えながら追跡を続けていた。高速道路には、燃え盛る車両の残骸と血溜まりだけが残され、静寂が戻った。
ショタっ子アディティヤ可愛いね。
ヴィクラムもハンサムなおじさま。
ラクシュミは巨乳。