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隆斗の想い

 4人で、理科室に向かう途中。

 俺は、打ち明けた。

 ゆきとPは、音大の中でも超難関、日本音楽芸術大学を出ているのだ。

 作曲の授業を取れば、あんなにカッコいい曲を、作れるようになる。

 声楽を専攻すれば、たくさんの声を使いこなせるようになるかもしれない。

「おれ、秋楽園高校の音楽科のほうに行きたくて……」

 一斉に、みんなに見られた。

 冬月さんみたいに、自分で曲を作って、俺みたいな恥ずかしがり屋でも、歌う時には思いっきり歌って。そんなことが、出来るかもしれない。

「まじか!」

 大雅の驚く顔を見て少し不安になったが、昌磨が、笑顔になっている。それで、安心できた。

「……まじ!? すげー! すげーじゃん! おれ、あん時、修学旅行の時、マジで感動した!」 

 昌磨がそう言ってくれた。

 俺のあの歌声は、ちゃんと、伝わってたんだ。

 それを、あんなにたくさんの人に、伝えることができる。

「マジか。お前、すげーな……」

 俊太は、唖然としている。そして、また発言する。

「隆斗お前さあ、内申40超えたことなくない?」

 胸がズキっと痛む。

「まあ、超えたことないけど……」

「あそこって確か、オール5じゃきゃダメなんじゃなかったっけー」

「まあ、そうだけど……」

「……何でそんな無理なことしようとしてるの? てか、隆斗ってそんなに音楽詳しかったっけー」

「まあ、最近作曲とかしてるけど」

 俊太は俺が作曲という言葉を出しても表情ひとつ変えない。

「……その程度でついていけんの?」

「……無理かもしれないけど、やってみた方が、ワクワクすることない?」

「そうかな。俺は、無理なことを理想に掲げると、叶わないのに、って思っちゃうから、あんまり好きじゃないんだよね」

「そっか……」

「隆斗さ、お前、諦めた方がいいよ」

 そうなのかな……。

 やっぱ、諦めた方がいいのかな……。

 大雅が割って入る。

「まてよ俊太、そんな言い方しなくていいだろ」

「だって、無理なことを追いかけたって意味ない……」

 俊太の言葉をかき消すようにして、理科室の扉は開かれた。

 

 終業式は、緊張する。だって、この後、通知表が返されるわけだから。

 校長先生のお話も、体育館を出る時も、渡り廊下を渡る時も、教室で雑談をしている時も。

 緊張してる。

 

「岩田」

 呼ばれた。通知表が返される。

 それを受け取る。自分の席に戻る。

 誰にも見られていないことを確認する。

 窓の外を見つめる。海がとても綺麗にキラキラと輝いている。

 通知表を開く。

 結果は。

 音楽、体育、数学、理科が4。それ以外全て5の、合計41だった。

 41、か。

 高校に提出する内申点は、1年の総合評価である3学期の内申。それを45にするには。

 そう考えると。

 2学期、3学期連続でオール5の成績を納めなければならない。

 2連続で、オール5を取らなければならない。

 オール5なんて、取ったことないのに……。


 強い風が吹いた。

 そして、俺の通知表は……。

 大雅のところに飛んでいく……!

 大雅が、それを拾い、俺の方へ持って来た。

 大雅は、背の高い、その細く長い目で俺を見つめる。

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