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俊太の想い

「君、バレーとか興味ない?」

 入学式と教室での説明を終え、今日は終了、と思って昇降口を出ると。

 たくさんの先輩方が、ビラを配っていく。

「バレー……」

「俺は城崎! 明日部活やるよ! ぜひ来て!」

 これを断っても、サッカー部、野球部、バスケ部、弓道部……。

「あと、これだけ受け取ってよ」

「はあ……」

 借り上げで短髪、ガタイがよくて背が高い城崎先輩に、チラシを渡された。

 小さな紙に、バレー部、部員募集中!と、大きく描かれている。

 かわいいイラストと活動内容が丸文字で書いてある。

 その左下に、上手な字で、小さく。

「全国目指してます!」

 と、書かれている。

 ……全国、か。

「……城崎先輩」

「お!どうした、質問か? なんでも答えるぞ!」

「この、全国目指してるって……」

「ああ、これね」

 そう言いながら、後ろから、ひょっこり、男子にしては少し髪が長く、地毛で少し茶色、ガタイはひょろい感じの先輩が出てきた。

「まあ、無理なんだけどね。でも。全国大会、憧れなんだけどなー。昔、テレビで春高の決勝戦見てさ。かっけーって思って。もしも出られたらって、願いを込めて、マネージャーにお願いしてこっそり、おれが書かせてもらったんだ。あ、俺は小林。よろしくね」

「やってみましょうよ」

「……え?」

「確かに、春高へ行くのは、とてつもなく難しいかもしれないです。でも、無理だったとしても」

 俺は、小林先輩の目を見た。

「やってみたら、ワクワクするかもしれないじゃないですか」

 先輩の目が、輝いた。

「……お前、名前は?」

「奥寺です。奥寺俊太」

 小林先輩が、驚いた表情に変わる。

「奥寺……思い出した! 小学校の頃、県リーグで優勝した、あのチームの! どれだけ試合が、ラリーが続いても、他の誰もが、もうボール落ちてしまってほしいと思う場面でも、必ずつなぎ、トスには右手をぴったりと合わせ、正確に、そして的確に、確実に相手コート内にぶち込む。最初から最後まで最高のパフォーマンスを見せる怪物みたいな体力の持ち主……」

「俺も知ってる!」

 城崎先輩も、思い出したように目が、輝きだした。

「海咲ボーイズの、エース……」

「あ、えーっと……。まあ、そうですね」

 俺は、半笑いする。

「あ、あのー……」

 振り返ると、俺よりも少し小柄な、同じ新入生が立っていた。

「僕も、春高を夢見てて……。友田っていうんですけど……」

 友田は、城崎先輩を見て、驚く。

「あなたは、全中神奈川代表の城崎選手じゃないですか!」

「え!?」

 全中、代表!?

「なんで、この公立高校にいるんですか! もっと……」

「親の都合で県から出なきゃいけなくなってさ。あと、メンバーと息が合わなかったりとか、して。もう、いいかな、って思って……」

 俺は、すぐに先輩に話した。

「僕も、同じ境遇でした! チームとあんまり息が合わなくて……。でも、途中で気づいたんです。自分が、チームに合わせられていないんだ、って」

「……なるほどな」

「なあ、城崎」

「ああ」

「このメンバーなら、もしかしたら、行けるかもしれないな、春高!」

「もしかしたら……!」

「2人とも、絶対部活来いよ!」

「「はい!」」

 変えられない、そう思っていた未来。

 たぶん、先輩たち2人も、そう思っていたんだろう。

 でも。

 俺は知っている。

 無理だと思っても。

 やってみた方が、ワクワクする。

 それは、俺が1年間、前向きに、ひたむきに努力をした隆斗から、学ばされたことだった。


 春高。

 絶対、行ってやる。

 この、無名の公立高校から。

 俺ではなく。

 俺たち、バレー部、みんなで。

「友田……?」

「うん」

「俺は奥寺。よろしくな」

「奥寺。よろしく!」

 友田のカバンは、やけに大きかった。

「なんかカバン、大きくない?」

「ああ、俺、バレー大好きでさ。いつもバレーボール持ってて」

 

 バレーが、大好き。


 小学校最後の大会。

 3セット目。

 このセットを取ったら、勝ち。

 接戦のなか、セットポイント。

 キュッキュッと、シューズの擦れる音が響く。

 体育館内の時間が、スローモーションになっているみたいだった。

 ネットから、ボールが、智樹に向かって勢いよく飛んでくる。

 智樹は、すぐさまレシーブをする。少し後ろによろける。

 そのボールは、ふんわりと、セッターの勇真へとつながった。

 そして、トスが上がる。

 俺は、後ろにある手を下から前に振り出しながら、右足で思いっきり踏み込み、飛んだ。

 前衛の裕太が、フェイントで、空振りをする。

 そして、俺に、俺の右手に、トスが、ボールが、当たる!

 まるで、俺のために、みんなが支えてくれたような気がした。

 俺は、体力しかない。そう思っていた。

 でも。こうして、最後の力を振り絞って、俺に、パイプを、つないでくれた。

 

『うおおお!』

 相手のブロックの向こう、リベロの少し右。スペースを見つけた。そこをめがけて、最後の力を振り絞って。俺の、最強の体力を持つ、最高のスパイクで。

『うらあああああああああ!』

 ボールと手が、ピッタリとくっつく。

 そのまま、弾丸のようにボールはスペースに向かっていく!

 そして、地面を叩きつけた!

『よっしゃあああああああ!』


 あの時、確かに俺は。

 俺のスパイクが。チームメイトのみんなが。

 そして。

 バレーが、大好きだった。

 今も、バレー、大好きだ。

 高台のこの位置から奥を見渡すと、キラキラした海が見える。

 もう、入学式も終わった。

 帰る人も、ちらほら見える。

「海、行こうぜ!」

「海……?」

「俺も、バレー好きだからさ、今から、やりにいこ!」


 そういうと、友田の目は、みるみる輝いていった。

「うん!」


 俺たちは、キラキラと光る海に向かって、走っていった。

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