表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/34

魔法

 高い場所にあるレールから、ジェットコースターがヒューと落ちていく。

 どんどん加速をしていき、「キャー」とか叫び声がすげえ聞こえる。

 その後、ドドドドド! と下の方をコースターが駆けていき、すごい勢いで、トンネルの中に突っ込んでいく。

 こわそー……。

 莉加と俊太がワクワクした顔でジェットコースターを見ている。

 空気を壊さないように、そーっと、断らなければいけない気がする。

「俺絶叫系苦手なんだよねー」

 その瞬間、莉加がふっと振り返り、への字に曲がった口を開く。

「えー、絶叫乗ろうよー」

 次のコースターがゆっくりと登り始めた。

「よし、絶叫行くか!」

 俊太がそう言ってジェットコースターの方に体を向ける。

 次の便が、一番上までもう少しで辿り着く。おれの足は動かない。3人は、それが落ちるのをワクワクした顔で見つめる。どうしよう、ガチで無理だ。

 後ろから、声優のような、太く、はっきりした声が聞こえた。

「君たち、次の冒険はどこへ向かうのだい?」

 振り返ると、冒険家のような見た目のキャストさんが立っていた。

「えーとーお、あのアトラクションでーす!」

 夢佳がそう言って指をさす。

 瞬間、ジェットコースターが急降下を始めた!!

「「「「キャーーーーー!」」」」

 声が聞こえてくる。

 やばい。無理無理無理。

「わー、あの恐ろしいトロッコに乗るのですね! 皆さん。無事を祈ります!」


 3人は、ジェットコースターに向けて歩み始める。が、俺の足は止まっている。

 冒険家のお兄さんは、小さな声で言う。

「絶叫系、苦手なんですか」

「はい、どうしても苦手で……」

 離れていく3人を見つめる。

 コソコソ声で、お兄さんは話し始めた。

「乗りたくないけど、みんなと一緒にいたい。いいでしょう。僕が、絶叫系に乗れるようになる魔法の呪文を、教えましょう」

「魔法の呪文……」

 みんなが離れていく。すれ違う他校の修学旅行生たちが、俺とお兄さんを見てくる。少し、悲しい感情が湧いてきた。

「魔法とか、素敵だけど、今はなんかそれじゃ解決できない……」

「ジェットコースターって、ジェットとか言ってますけど、その乗り物自体にエンジンとか付いてるわけじゃないんですよ。ただ、落ちてるんです」

 お兄さんは全然おれの話を聞こうとしない。

「ジェットとか言ってますけどって、さっきあなたあれのことトロッコって……」

「じゃあ、『なぜ』落ちるのが怖いのか。それは、加速をするからです。落ちるものは、加速をしています。だから、落ちる瞬間と比べて、規格外に、予想外に速くなっていくスピードに、体はついていけても、内臓がうまくついていけなくて、浮いてしまう。その、浮いているキューって言う感じが、怖い。しかも、それが急に来るから怖いんですよ」

「はあ……加速、ですか。内臓……ちょっとグロいですね。」

 お兄さんはニコッと笑う。

「じゃあ、怖くなくなる方法はなにか。それは、事前に、この後怖いよー、怖いのくるよー、って、自分にわからせてあげることです。自分ではわかっている。この後怖いのが来るってことを。でも、脳の中でも、『怖い』って感じる部分の脳は、それをわかっていないかもしれません。」

「無意識……」

「そう! 無意識! 自分では知っていても、無意識が、このあと怖いことが起こる、ってわかって準備できてないから、急にすごく怖いんですよ。だから、自分の脳全体に、この後怖いよーって、教えてあげるんですよ」

「……どうやってですか?」

「魔法の呪文です。周りに聞こえないくらいの小さな声で、怖い、怖い、怖いって、のぼってる間ずーっと言い続けるんです。それだけです。すると、あら不思議! 落ちている時、全っ然怖くないじゃないですか!」

 お兄さんは、ヒソヒソ声から普通の声に変え、続ける。

「『なぜ』怖いかを知ったあなたは、その仕組みを知った上で、具体的にイメージして、魔法を唱えられる。魔法は、イメージをしっかりと持たないとちゃんと使えませんからね」

 登ってる間、密かに、怖い怖いと言い続ければ怖くなくなる。本当だったら、俺も、あいつらと一緒に、怖がらずに乗れるかもしれないけど……。

 3人は、こっちを見ている。少し心配そうな顔をしている。

「あなたなら絶対に、この魔法を発動できる。僕にはわかります。信じて」

 夢佳と俊太が手を振っている。莉加は、心配してくれているのだろうか、地図を取り出して他のアトラクションを探している。

「ありがとうございます、やってみます!」

 そう言って振り返り、俺は、3人のもとへと走って行った。

「……なんて言われたーん?」

 俊太がニヤニヤしながら聞く。

「いや、なんでもない」

 さっそく、試してみたい!さっきの方法!

 乗り場に着くと、一番先頭の列に案内された。嫌だ、嫌だ。4人席で、おれはそのまま一番左へと座った。隣には俊太、奥に夢佳と莉加が並んでいる。

 シートベルトを付けろと指示をされ、付けるとその後に、キャストのお姉さんに安全バーを閉められる。ジェットコースターってこんな感じだったっけ。どんどん逃げられなくされるような……こえええええ!

 横から夢佳の声が聞こえる。

「まってーやっぱこわいよー、こわいよー」

 莉加が宥める。

「大丈夫だって」

「そっか。大丈夫か」

 俺は、安全バーをグッと握り締めた。

「……それにしても、よく乗ったな〜、りゅーとー。 ……あれ?隆斗?おーい……」

 外が見える。登っていく。

 どんどん、上がっていく。

 上がって……。

「隆斗、大丈夫……」

 うっすらと俊太の声が聞こえる。

 怖い……。

 怖い……。

 高い……。

 登る……。

 落ちる……。

 落ちる……。

 しn……。

 あれ?冒険家さんが、下で大きく手を振っている……。

 そうだ、魔法!

「怖い、怖い、怖い怖い怖い、怖い……」

 乗り物は勢いを増し、どんどん上へと進んでいく。

「……わあ! ねえ、隆斗、もうすぐ頂上だよ……!」

「怖い怖い怖い……」

「……ねえ、隆斗、前見てよ!」

「……前?」

 ……前を見た。

 そこには、蒼い空と、キラキラと輝く海が見える。

 ジェットコースターに乗る人は、こんなに綺麗な景色を見ていたんだ!

 そのままゆっくりと角度を変え……。


 ドドドドドドドド!


「うああああああ!」

 なんだこれ! すごい勢いで落ちていく!

 レールの振動が直接伝わってくる!

 浮く感じもする!

 でも、怖くない!

 前と違う! 怖くない!

 楽しい!

 楽しい!

 すげええええええ!

「俊太!」

「すげええええええ!」

「マジですげええええええ!」


 ドドドドドドドド!


 一気にカーブする!

 体が持ってかれる!風を全身で感じる!どんどん進んでいく!

 すげー!

 トンネルに入っていく!

 ワクワクが止まらないかも!

 みんな手をあげている! おれも、グッと握り締めた手を、一気に上げた! 解放感がえげつない!

 トンネルを一瞬で抜け、ジェットコースターは、右に左に進んでいく!

「フゥーーー!」

「めっちゃ楽しー!」

 また、急降下が見える!

「わぁぁぁぁぁ!」

 全身持ってかれる! すげえええ!

「やべえええええ!」

「うおおおおお!」

 ゆっくりになっていき、ガン!という音と共に、ジェットコースターは止まった。

 一瞬の出来事。でも、物凄く長い時間の出来事だった。

「あー、疲れたー……。」

「あれ、俊太、怖かったの?」

「……怖くなかったしー……。てか、りゅーとめっちゃビビってたやん」

「ビビってないし、エンジンついてないんだから怖いわけないじゃん」

「2人ともマジで怖がってたのおもろすぎたんだけど〜」

「マジでウケるわ〜」

 夢佳と莉加に言われて、なんかさっきまでの怖がっていた記憶がめちゃくちゃ蘇ってきて、めちゃくちゃ恥ずかしくなってきた。

「……ビビってたの隆斗だけだからー。てか、夢佳もビビってたじゃーん」

「ビビってないし〜」


 恥ずかしいけど、マジで乗れた! めっっっちゃ楽しかった!

 もしかしたら、あのお兄さん、おれがジェットコースターに躊躇する様子を見て、声をかけてくれたのかな。でも、本当に助かった。

 本物の、魔法みたいだったな〜……。

 楽しい音楽も流れてきて、本当に、遊園地って、別の世界みたいだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ