表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/34

ファンタジスタ

試合時間残り2分。0対0。

 相手のフォワード、サッカー部の岳人がゴール前まで攻めてきた。

 そこを。

 長身バスケ部のディフェンダー、太雅が止める。

 そのまま、ボールは一番後ろの大雅から、真ん中の隆斗へと送られた。

 フォワードの俺は、それを見る。

 周りを見る。オフサイドは取られなさそうだ。

 そして。

 隆斗から、縦パスが送られる。

 ボールが、俺の右足に……。

 少しズレた。

 大丈夫。

 俺は、足を思いっきり伸ばした。

 そして、ボールは、おれの右足に……。

 


 小学校最後の大会。

 3セット目。

 このセットを取ったら、勝ち。

 接戦のなか、セットポイント。

 キュッキュッと、シューズの擦れる音が響く。

 体育館内の時間が、スローモーションになっているみたいだった。

 ネットから、ボールが、智樹に向かって勢いよく飛んでくる。

 智樹は、すぐさまレシーブをする。少し後ろによろける。

 そのボールは、ふんわりと、セッターの勇真へとつながった。

 そして、トスが上がる。

 俺は、後ろにある手を下から前に振り出しながら、右足で思いっきり踏み込み、飛んだ。

 前衛の裕太が、フェイントで、空振りをする。

 そして、俺に、俺の右手に、トスが、ボールが、当たる……。



 ……まるで、俺のために、みんなが支えてくれたような気がした。

 こうして、最後の力を振り絞って、俺に、パイプを、つないでくれた。

 今も、そうだ。

 太雅も、隆斗も。

 俺に、ボールをつないでくれた。


 俺の右足に、なんとか、サッカーボールが当たる。

 瞬間。

 サッカー部の天野が、無理やりボールを奪いに来る。

 足が、引っかかる。

 俺は、そのままバランスを崩し、倒れこんだ。


「ピィーッ! P K!」

 先生は、ペナルティマークを指さしている。

 そのまま天野に注意をした後、ボールをマークの上に置いた。

 隆斗が俺に告げた。

「俺はお前に、最高のパスを出したんだ」

「……当たり前。決めるよ」


 俺は、位置に着いた。

「ピィーッ!」

 助走をつけ、足を振りかぶった。

 


『うおおお!』

 相手のブロックの向こう、リベロの少し右。スペースを見つけた。そこをめがけて、最後の力を振り絞って。おれの、最強の体力を持つ、最高のスパイクで。

『うらあああああああああ!』

 そのまま、弾丸のようにボールはスペースに向かっていく。

 そして、地面を叩きつけた……!

『よっしゃあああああああ!』


 ……そんな夢、叶わないのに。

 なんで、今。

 俺は。

 こんなに、熱くなっているんだろう。

「うおおおおおおおお!」

 隆斗の、最高のパスを。

 血液のように繋がれた、その最高のパスを。

 俺の、最高のシュートで。

 

 ボールは、枠内の左上へと、弾丸のように飛んだ。

 そして。


 ゴールに、入った。


「やったあああああああ!」

 おれは後ろを向き、みんなのところに走っていった。

 隆斗が来てくれた。

「おれたちの最高の連係プレーだぜ!」

「……ああ! 最高! ……ねえ、隆斗」

「なんだよー!」

「俺、今、久々に……めっちゃ、ドキドキしてる」

「それ、最高の感情だよ! 俊太!」

「……ああ!」

 俺たちは、ハイタッチをした。

 

 みんなから血液のようにして送られてきたボールを、最後に自分が、決める。


 なんかわかんないけど。


 マジで、快感。

 でも。


 マジで辛い。

 

「でもさー、りゅーと、なんでだろー、なんか、こんな感情を思い出すたびに、すごく、ものすごく……辛く、悲しくなる……」

「俊太……?」

「……いや、なんでもねー。ごめん。いいパスありがとな」

「……ああ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ