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夏の終わり

 窓の外は、少し雨が降っている。

 その雨のせいで、海が氾濫している。

 ……俺は、いつからこんなふうになっちゃったんだろーなー……。……結局、全中予選は一回戦で敗退した。……俺は、うちの部活のエースだった。……でも、負けた。……一回戦で、負けた。……わからない。確かに、俺のせいかもしれないし、他の奴らのせいかもしれない。でも、誰も、勝とうとなんてしていなかった。誰も、バレーにそんなに本気で取り組んでいなかった。顧問の先生も初心者でたまにしか来なかった。確かに、最初に部長に就任した時は、頑張ったと思う。でも、正直、1人で頑張っていた。

『ついていけんわ』

『無理』

『何でお前そんなに声でかいの?』

『だる』

 そんな声が、今でも頭の中に響く。……俺以外、全員、ネットを立てるだけで、あとは地面に座って雑談してた。だから、俺は。

『なあ、練習、しようよ……』

『1人でやれば?』

『そうそう、俺ら、見とくからさ』

 ……そんな中で、俺も頑張る理由なんて、ないよなー、普通に考えて。そんなことは、思った。よくよく考えたら、何で部長に就任できたかって言われても、別に、ただ偶然、部員の中で俺が一番上手かったから……。ただ、それだけ。俺より上手い奴がいなかった……。ただ、それだけ。何が楽しくてバレーをしているのかも、よくわからないまま、俺は、全中の予選を戦っていた。

 ……もう、正直全てがどうでもいい。部活も、勉強も、友達関係も、恋愛だって、将来だって、どうでもいい。下らないし。

 ノートがあるから、コードを書き続ける。

 ……あ、この進行いいじゃん。

「人権とは何だ」

 手を挙げているのは、2、3人。もちろん俺は、手を挙げていない方の大多数にいる。

 俺の目の前の隆斗は、手を挙げているという超少数派の方に属しているみたいだ。

 1学期、こいつ、音楽の道を目指すとか言ってたっけ。

 何かに目覚めたのかな。

 秋楽園って確か、3学期の内申オール5じゃないとは入れないんじゃなかったっけ。それだからこんなに必死になって手を上げているのか。

 よくわかんないけど、オール5とか無理ゲーだろ。

 夏休みは、確かにぼーっと過ごしてたなあ。

 新作のゲームがあって。結構面白くて。なんか、そんなふうに何も考えずに生きていきたいなー……。

「岩田」

「はい」

 隆斗は席を立った。

「人が生まれながらにして持つ、個人として尊重されながら平等に扱われ、自由に生きる権利のことです」

「はい、正解」


 午後2時43分、階段を上がって2階、窓が開いた渡り廊下は、西陽が紅葉の間から差し込み、幻想的に輝いている。

「なあ、隆斗、1学期の期末で理科100点取ってたよな」

「うん。取った」

 隆斗と2人で理科室に向かっている。

 隆斗は、確かにめちゃくちゃ頭がいい。でも、理系教科は、そんなにめちゃくちゃ得意ってわけでもなかった記憶があるんだよな。だから聞いてみたわけなんだけど、多分、隆斗の中で理科で100点を取ったのって、これが初なんじゃねえかな。

「なんでそんな高得点取れたの?」

「ああ、イオン式とかを全部暗記したからだよ」

「そういうことか。計算じゃなくて暗記で全て済ませたのか」

「そういうこと」

 木の葉がひらひらと廊下に落ちてくる。

「部活、終わっちまったなぁ」

 隆斗は少し下を向きながらそう呟いた。

「そうだなぁ。あ、今度さ、ボーリング行かね?大雅と昌磨も誘ってさ」

「ボーリングか! いいね! いこう!」

 隆斗は目を輝かせながら、曲がり角を曲がった。

 理科の時間は、外を、ぼーっと見ていた。サッカーがやっている。

 サッカーって、地味に楽しかったりするから、別に嫌いではないんだよな。バレーと比べると……。比べるもんでもないよな。


 理科室からの帰り道。太雅と昌磨は、すぐにトイレに行ってしまった。

 隆斗と2人で帰っていた。

「なあ、隆斗」

「ん?」

「今日月曜じゃん?」

「うん」

「全部活なしじゃん。だからさ、体育のサッカーのパス練習、2人でしない?」

「……ええ、めんどくさい」

「いいじゃん、ジュース奢るから」

「……ジュース奢ってくれんの? てか、学校に金持ってきてんの?」

「持ってきてるよ」

「学年1位なのに校則破ったりするんだね」

「その学年1位なのにってやつ、やめてくんない?」

「ああ、ごめん」

「てかさ、俊太、いっつもめんどくさ〜いとか言ってるけど、夢とかなんかないの?」

「そんなのねえよ」

「1年の頃からそんな感じだったっけ」

「……そうなんじゃね」

「まあいいや、ちゃんとサッカーこいよ」

 ……ちょっとだるいけど。ジュースくれるなら。

「あーわーったよ」

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