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ガリレオ

 国語のテストが終わり、次は理科のテスト。

「なあ、学年1位の隆斗。理科、どこが出ると思う」

「だからその学年1位のってやつ、ちょっと恥ずかしいからやめて。いや、わからん……等加速度直線運動とか?」

 ノートに載っていた言葉だ。等加速度、直線運動。

「なんだそれ、等速直線運動と違うのか?」

「いや、おれも実はよくわからん……けど、ノートの端の方に書いてあったから、この言葉が出るかもしれない……」

「意味を教えてくれよー」

「それは……わからん。けど、矢印が横に書いてあって、物が落ちるとき、って書いてある」

 物が落ちる時……。

「始め」

 テストが開始した。

 力学の問題が並んでいる。

 順調に上から解いていった。


 そして、最後の問題にたどり着いた。

第5問

 ガリレオ・ガリレイは、イタリア・ピサの斜塔から、質量が違う2つの物体を同じ高さから同時に手を放して落とす実験を行った、という伝説がある。その時、2つの物体は、等しい時間で地面に着いた。その理由を答えよ。

 

 難問だ。

 明らかに、難問だ。

「考える」必要がある。

 つまり。

 理科で5を取るには……「思考・判断・表現」で、Aを取るには……! この問題で、正解するのが、一番近道だ!

 外の雨は、土砂降りだ。

 問題を、何回か読み返す。

 ガリレオ。昔、伝記で読んだ。

 質量が違う2つの球体を同時に塔の上で手放した。そして、同時に落ちた。

 ……あれ?

 ……重いものの方が、速く落ちるよな、普通に考えて。

 質量が大きい方が落ちる速度は高いイメージなのに。

 なんで、同時に落ちた……?

 なぜ。

 なぜ、質量が違う2つのものが、同時に落ちた!?

 重い物が早く落ちるはずなのに!

 なんで!

 なぜ。

 なぜ。

 速度が、同じだった……?

 同じ速度で、落ちていた……?

 同じ、ずーっと一定の速度で、落ちていた……?

 問題文を見返す。

「質量が違う2つの物体を同じ高さから同時に手を放して落とす……2つの物体は、等しい時間で地面に着いた。その理由を応えよ」

 そうなると……。

 物体が落ちるときの速度は一定だから、か。

 そっか……。

 確かに。

 そうなる。

 そうとしか、考えられない。

 ……物は、落ちる時に、全く同じ速度を保って落ちている。

 物は、落ちる時に、全く同じ速度を保って落ちているんだ……!

 だから、重いものでも、軽いものでも、同じ高さから、同時に落ちる。

 確かに、消しゴムを落とした時も、黒板消しを落とした時も、落とし始めから地面に着くまで、同じ速度な感じはするな……。


 問題用紙に、「質量の大きさに関係なく、物体は一定の速度を保って落ちるから」と書いた。


 すべて解き終わったから、そのままペンを置き、一呼吸ついた。外の土砂降りの音が再びはっきりと聞こえてくる。緊張感が解けた証拠だ。

 ……待てよ。

 よくよく考えたら、物体が全く同じ速度を保って落ちるんだったら。

 土砂降りって、おかしくないか……?

 そう思い、そのまま窓に目を向けた。海が荒れている。グラウンドがずぶ濡れで、水たまりを勢いよく雨が打ち付ける。

 すごい勢いで、雨が降っている。

 パラパラ降る雨もあれば、ザーザー降る雨もある。

 ……それって、ザーザー降る雨の方が、水が速く落ちてる、ってことだよな……!

 おかしい。じゃあ、落ちる速度は全く同じではない。全く同じではない……?

 じゃあ、ガリレオが落とした2つの物体は、なぜ同時に落ちた。

『「なぜ、リンゴは落ちるのか」と、考えた。人々にとって、下に物が落ちることは当たり前。でも、彼は、そこに「なぜ」という疑問を投げかけ、「引力」を、発見したんだ』

 落ちる。

 引力。

 引力と言えば、重力。

 重力……。

 G……。

 よく、ジェットコースターって、Gがかかる、とかいうよな。

 そういえば、ジェットコースターって、なんで、あんなに浮遊感があって、怖いんだろうか。

 内部からキューって、浮いている感じ、するよな。

 内臓が、浮いている……?

 そんなこと、あのお兄さん言ってたな……。

 内臓が、もともとあった状態から、移動するから、急に、移動するから、脳が、危険信号を出している……。

 ジェットコースターって、どんどん速くなっていくよな。一番上から。

 それに、内臓がやられる。

 あれ。

 ジェットコースターって、エンジンとか、入ってないんじゃなかったっけ。

 そんなことも言ってたな……。

 あのジェットコースター、エンジン、入ってない……。

 なら、ただ落ちているだけだ……。

 もし、落ちているときに速度が一定なら、等速直線運動なら、あんなことには、絶対にならない。

 ってことは……。

 

 落ちている物体は、加速をしている……!?

『いや、わからん……等加速度直線運動とか?』

『なんだそれ、等速直線運動と違うのか?』

『いや、おれも実はよくわからん……けど、ノートの端の方に書いてあったから、この言葉が出るかもしれない……』

『意味を教えてくれよ!』

『それは……わからん。けど、矢印が横に書いてあって、物が落ちるとき、って書いてある』

 物が落ちるとき……!

 ……やっぱりそうだ。雨は、等速直線運動をしているわけではない。一定の速度で落ちているわけではない。加速をしている……!

 だから、土砂降りは、たくさん加速をしているから、あんなに速く、落ちるのか……!

 だから、ジェットコースターは、どんどん速くなるのか!

『じゃあ、「なぜ」落ちるのが怖いのか。それは、加速をするからです。落ちるものは、加速をしています。だから、落ちる瞬間と比べて、規格外に、予想外に速くなっていくスピードに、体はついていけても、内臓がうまくついていけなくて、浮いてしまう』

『落ちるものは、加速をしています』

 でも、「はじき」の式にあてはめたら。

 距離÷時間が速さになるから、おかしくないか……?

 加速はしていない前提の、速さを求める式だよな……。

 いや、違う。

 この式は、たぶん、一定の速度で歩いた時、走った時に使う式。

 つまり、等速直線運動に使う式。

 加速をする、落ちる物体には使わない。

 と、いうことは……。

 まだ、習っていない、別の式が、速さを求める別の式が、存在する……!

 そうか。

 ジェットコースターは、レールの摩擦、抵抗が多少、存在する。

 でも、今回は、一切の、空気抵抗さえも、考えない場合。

 力を加えることなく、落としている。

 同じタイミングで落ちる。 

 そして、さっきの隆斗の言葉。

 『等加速度直線運動』。

 たぶん、これが起こっている、ということだ。

 加速度。

 これは、どれだけ速度が変化するかを表す言葉。だよな。加速をする度合い、だから。

 そして、一緒に落ちたってことは。

 ってことは……。

 

 なぜ、ガリレオがピサの斜塔から落とした質量の違う2つの球体が同時に落ちたのか。

 その答えは。


 力を加えることなく落とした、落下する物体は、「一定の加速度で、加速をしているから」。


 これだ……!解けた!物体は、一定の速度で落ちているわけではない。一定の加速度で、加速をしているんだ……!


 解けた……!

「なぜ」って考え続けたら、解けたぞ!

 理科の、難問……!

 これで、理科も「5」確定だ!

 ……いいぞ、いい傾向だ。

 どんどん、秋楽園高校に、日本音芸大学に近づいていっている……!

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