最高の感情
サッカーの試合。
攻防が続き、試合時間は、残り2分。点数は、いまだ0対0。
後ろにいるディフェンスの、太雅がボールを持った。
よし。
「ヘイ!」
俺は、太雅を呼んだ。
太雅は、パスをくれた。
それを俺はトラップした。
前で、俊太が、待ってくれている。
俊太の目は、いつものように、あまり何を考えているのかわからない。
しかし、少し、口角が、上がっている。
サッカーを、楽しんでいるように見えるけど……。
オフサイドを確認する。
大丈夫。
俺は、俊太の右足をめがけてパスした。
そのボールを、俊太は、獲物を追うハイエナのように見ながら、前へと走り出す。
そして、俊太の右足に……。
あれ……?
まって……!?
コースが、少し、右すぎ……。
いや、大丈夫! あいつなら!
機転を効かせることができる、あいつなら!
俊太が右足を伸ばし、しっかりと、ボールをトラップした!
途端!
サッカー部の天野が、無理やり奪いにきた!
俊太は、思いっきり、ズサーッと倒れ込んだ!
「ピィーッ!PK!」
俺は、俊太のところにすぐに駆け寄った。
「大丈夫か!? すまん、俺が取りづらいパスを出して」
天野も駆け寄る。
「俺もすまん」
俊太は、足をパッパと払い、立ち上がった。
「2人とも、おれは、全然大丈夫だよ」
俊太は、笑顔でそう言った。
「よかった……」
おれは、ボールに向かう俊太の肩を叩いた。
「お前、大丈夫か……?」
俊太は、背中を向けながら言う。
「大丈夫だよ。PKも決めてやる」
俊太は、ボールをペナルティマークに置いた。
どうなる。この緊張感の中、ゴールを貫けるのか、俊太は。
俊太が、位置に着く。
「ピィーッ!!」
俊太が、ゆっくりと進み始める。
大丈夫。
俊太なら。
あの、運動神経抜群の俊太なら。
「うおおおおおおおお!」
俊太が、足を振りかぶる。
そして、すごいスピードで振り下ろす。
インステップは、ボールの芯を捉える。
そして、ボールがすごいスピードで。
ものすごいスピードで。
枠内の左上へと、弾丸のように飛んだ。
そして。
ゴールを貫いた!
……決めた……!
このプレッシャーを、軽々と打ち砕いて。
……決めやがった!!
よくよく考えたら、コースがずれたのにキャッチしたのもめちゃくちゃすげーし。
てか、試合残り時間2分でこんだけ動けるって、体力めっちゃすげえし。
やっぱ、俊太。
バケモンだわ……。
「よっしゃあああああああ!」
俺は、俊太のところに駆け寄った。
「俺たちの最高の連係プレーだぜ!」
「……ああ! 最高だ! なあ、隆斗」
「なんだよー!」
「俺、今、久々に、めっちゃドキドキしてる」
何でだろう。少しだけ、背筋がゾクっとした。
でも。
俊太がそんな感情になってくれて。
嬉しい!
めちゃくちゃ嬉しい!
あの、めんどくさがりの俊太が!
……1年の頃の俊太に。
戻りつつ、あるのかもしれない!!
「それ、最高の感情だよ! 俊太!」
「……ああ!」
ハイタッチの音は、グラウンド全体に響いた。
その後、俊太は、口を開く。
「でもさー、りゅーと、なんでだろー、なんか、こんな感情を思い出すたびに、すごく、ものすごく……辛く、悲しくなる……」
「俊太……?」
「……いや、なんでもねー。ごめん。いいパスありがとな」
「……ああ」




