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オレンジ色の空

「なんかいいな、こういうの」

「確かに」

 空がオレンジに光っている。

 オレンジ色が、俺たちを包み込む。

「国語の授業で先生なんか変なこと言ってなかった?」

 言ってた。

 すごく気になることを、言っていた。

「なんだっけ、コペルニクス的転回? なんか難しいこと言ってたよな。地球が宇宙の中心という考え方、天動説から、地球が動いているという地動説という考え方に変えたコペルニクスになぞらえ、全然根っこから違うように考える考え方を、コペルニクス的転回と言う、みたいな」

 そう。根っこから違うように考えるっていう考え方。

 全く、意味がわからない。

 根っこから。

 根っこから、違うように考える考え方……。

 発想の転換、的な?

 的な、感じ?

「何で全部暗記してんだよ」

「これが学年1位の力です」

「うるせえよ」

 少し強めのボールが飛んできた。

「てかさー、内申、上がんねーんだけど」

 苛立ちをボールにこめて、少しボールを強めに蹴る。

「内申かー。うーん、俺は正直高くても低くても、どうでもいいかなー。でも、オール5は無理だと思うよ。いくら学年1位を取ってたって言っても、一回も40超えたことないんでしょ?」

「前回の内申41だったけど……」

「4が4つもあるじゃん。3学期の総合評価でオール5で揃えないといけないんでしょー? 無理じゃん」

「無理じゃないし」

「無理じゃん」

「無理だったとしても! 別に、頑張ってもいいでしょ」

「無理なのに頑張ったら辛くなるだけだよ」

「……ワクワクしてくるかもしれないじゃん」

「……俺は、そういうふうに無理なのに出来るって思っちゃうと無理って感情が勝っちゃって辛くなっちゃうからさ」

「でもさ、秋楽園高校に入ったら、そのまま日本音芸いけて、素晴らしい環境で大好きな音楽を学べるんだよ! そうしたらさ、もしかしたら、本当にもしかしたら、すごい人になれるかもしれない……」

「……無理だと思う。俺がこの弱小校に来た時点で結果はもう決まっているように、お前だって、その夢の結果は、もう決まってるんだよ」

「……そっか。じゃあ、無理だってわかった上で、やってみる」

「……勝手にすれば」

「……てか、俊太今日は来てくれてありがとね」

「だってジュース奢ってくれるんでしょー」

「お前、どんだけジュース好きなんだよー」

 俺はそう言いながら俊太にパスをした。


 瞬間。

 俊太は、ボールをフワッとトラップするなり、足を一気に振り上げ、すごい速度で足を振り下ろし、そのまま足の甲にボールを当てて、ゴールに向かって一気にシュートをした。

 ボールは、そのままゴールの枠内、それも。

 右上の角に。

 一気に、飛んで行った。

 何気なく撃ったシュートが、こんなにも強く、そして、コースも完璧……。

 無理だとか言われて嫌な気分だったけど、やっぱり、俊太を選んでよかった、と、この時、まだ早いけど、そう、思ってしまった。

「お前さ、うまくね!?」

「……あー、そう?」

「まじでまじで! うめえよ! てか、俊太って本当に運動神経いいよな!」

「そうかなー……」

「そうだよ! てか、1学期の体育の内申なんだった?」

「……うーん、5かなぁ」

「やっぱり!」

 俺より高え。やっぱ、5、持ってたんだ。

 ……思考・判断・表現、A取れてるってことじゃん……!

 俺は、すぐにボールを拾い、俊太の後ろへと走っていった。

 多分、俊太なら。

 決められる。

「サッカーで一番面白い展開って、縦パスなんだよ」

「……縦パス?」

「そう、縦パス!」

 俊太は、ペナルティキックを撃つ位置に立っている。

 俺は、そこから結構離れた、縦方向に真後ろのところに立った。

「おれが、コートの真ん中からパスを出すから、それを受け取ったら振り返って、シュートしてみてよ」

 本当に、うまくいくかな。

 ボールをトラップして、180度ターンするって、結構高難易度だぞ。視界も変わるし。

 ……でも。

 俊太なら。

 行ける。

 多分。

 行ける!

「じゃあ、いくぞー!」

 俺は、足を振り上げ、俊太の右足へとボールを蹴った。

 俊太はそれを、恐ろしいほどにフワッと、トラップする。

「ターン!」


 スッ、と。


 華麗に。俊太は、180度、何の無駄な力も加えずに、ターンをした。

 

「シュート」

「よっしゃ!」

 すぐに左足で踏切、右足を大きく振り上げ、そして、物凄い速さで振り下ろす。

 ボールの芯を捉える。

 ボールは、そのまますごい速さでゴールの枠内の左上目掛けて飛んでいった。

 コース、スピード、タイミング。全てが、完璧だった。

 すぐに、俊太のところに走って行った。

「大成功じゃん!」

「……何が?」

「何がって、縦パスシュートがだよ! これが試合で使えたら、サッカー部にも楽勝に勝てるよ! 俊太、お前本当にサッカーの才能あるじゃん! すげえ!」

 すごい! マジですごい!

 こんなに、何のスポーツでもこなせるなんて!

 てか! こんな時! マジで!

「なあ、めっちゃワクワクしない……?」

「……確かに、少しだけ」

 めんどくさがりの。

 いつも、何も考えていなさそうな、俊太の口角が。

 少しだけ、上がった。

「ワクワクする」

「……だろ! だろ! ワクワクするだろ! 次の体育では、おれは真ん中のポジションに着く! だから」

「じゃあおれは、フォワードについてやる。隆斗、最高のパスをくれよ」

 わあ!

 俺、本当に! 次の体育のサッカーで、成功できるかもしれない!

「当たり前だ。その代わり、最高のシュートを打てよ!」

「ああ」

 拳を俊太に突きつけた。

 俊太は、その拳に、タン、と、グータッチをかました。

「よっしゃ、もう1回縦パスの練習だ!」

 それから30分くらい、縦パスを練習した。

「ねー、隆斗ぉー、もう疲れたー、帰ろー」

「オッケー、今日は本当にありがと」


 自販機の前まで来た。

「何のみたい?」

「コーラー」

「了解」

 ゴトっとコーラが落ちる。

 俊太が蓋を開ける。

 プシュッと音がする。

 それをゴクゴクと飲む。

「あー、うめー」

「うまいだろ? 練習の後のジュースは最高だろ」

「ああ、マジで最高。てか、サッカーって楽しいのな。初めて知った」

「……俺も、こんなにサッカーが楽しいなんて、思ったことなかったよ。俊太のおかげだよ」

「俺のおかげかー、感謝しろよー」

 うっ、上から目線……。

「ああ、感謝するさ」

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