表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/9

予期せぬ帰宅者

間が空きまして申し訳なく。

お読み頂き有難う御座います。

「……気を付けてらして、イゼロ様……」

「キュービカ、俺は」

「坊ちゃま、お早く!」

「イゼロ様、何か有っても平常心と身の安全ですわよ! 他のご心配は、二の次に! 御身お大事に! でないとワタクシが泣きますわよ!」


 大袈裟なまでに不安な目をして見送ってくれたキュービカと別れを惜しむ間もなく、イゼロは自家用高速艇に押し込まれた。

 何事か問い質そうにも、使用人のいる運転席とは壁を隔てている。

 余程の火急の用なのだろうか。

 しかし、あの祖母が牛耳る家がピンチに陥ったとは、とても考えにくい。

 家人は老人しか居ないとはいえ、使用人も護衛も矢鱈居るのだ。

 恨みを買っている者が押し寄せるにしても……負けるとは思えない。

 思えないのだが……。


 しかし、イゼロの不安は的中した。


「これは、どういう事だ……」


 一応、イゼロの家……深海にも陸かぶれの門がある。本当に形だけなのだが、何時もはちゃんと閉まっているそれが、無理矢理抉じ開けられて歪んでいた。


「賊が押し入ったようなのです!」

「警備騎士は」

「近所で強盗が入ったらしく……」

「治安いいのがこのド田舎の売りだろうに……」


 イゼロは種族柄強いわけでもないし、個人的に武術はからっきしだ。

 これならテンパった使用人を殴ってでも、帰って来なければ良かった、と心の内で毒づく。

 どう見ても危険ではないか。


「……戦略的撤退を」

「し、しかし……」

「どう見ても、強盗が入り込んでるだろうが。警備騎士を待つぞ……。安全な所で」


 キュービカの先程の助言が耳の奥で蘇る。確かに、身の安全が大事だ。この中に暴漢が居ても決して勝てなどしないのだから。


「そ、そうですな……」

「やだ、お兄様ったら。強盗だなんて」


 ……不愉快な迄に、鼓膜が震えた。

 過去に聞いたことがある。


 まだ、イゼロがほんの稚魚だった頃。

 この声で地獄に叩きのめされた。心臓の鼓動が早まって、呼吸もしにくくなった気がする。


「……かあ、さん……?」

「あたしの声って、母さんに似てる? やっだ、やっぱあたしが跡取り決定よね!」


 耳障りな、二度と聞きたくない声。

 しかし、少し違う。

 イゼロが不愉快に思う内容には変わりなかったのだが。


 深海には不自然な銀色の髪が靡く。殆ど記憶にない、父親の色だった。


「イマータよ、お兄様! お金と、家督頂戴!」

「……」


 大柄な魚獣人が、ノタノタと偉そうにやってきた。

 しかも、意味不明な妄言を吐きながら。

 見覚えがない。過去の記憶の父親とも似ても似つかない。

 落ち着け、とイゼロは自らに言い聞かせ呼吸を整える。


「……誰だ?」

「……坊ちゃま、賊です」

「アレがか……」


 落ち着いてよく見れば、誰にも似ていない。声が母親と似ているだけだ。

 後ろに控えている使用人がアタフタしているようだが、玄関扉は無事だ。流石に鍵を開けなかったらしい。


 あの、変で大きい銀色の魚獣人は何だろうか。

 妹の名前と同じ名前を名乗ってはいたが。

 ただ、妹はもう居ない。


 両親と妹が出ていってから、三年して。

 恐ろしいものが送り付けられてきたのだから。

 叩き割られた稚魚の骨が、一匹分。

 箱を開けた祖母の悲鳴が、未だ耳に残っている。


中々イゼロは女難の相ですね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ