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波間の宝箱にはたっぷりの愛を詰め込んで  作者: 宇和マチカ


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5/9

少しの信頼と疑惑

お読み頂き有難う御座います。

イゼロとキュービカは、図書室から別の場所に移動したようです。

「ワタクシ、お商売で各国を回っておりますの」

「旅商人か」


 あんな気持ち悪いお話の後はお外の空気を吸うべきです! 校庭でお話しましょう! とキュービカが言うので。

 イゼロとキュービカは校庭……と言っても、魚の額程の苔庭に出てきていた。此処は冬でも湿気ていて、苔が青々としている。魚の獣人には有難い湿気だ。だが、蝶の羽には大丈夫だろうか、と目をやるとキュービカの羽はしんなり萎れている。


「羽は濡れても大丈夫なのか?」

「ま? ええ。雨の中飛びさえしなければ何処へでも行きますわ」

「そうか、いーな。遠くへ行くのか?」

「ま! ええ、ええ。旅行に興味がお有りで?」

「俺は、此処か深海しか行った事ねーな。……何せ、このツラだから」

「まま!? 外気に長く触れるとお顔が痛むとかですの?」

「いや、違う。……深海魚はあんまり外じゃ好かれねーから」

「ままま! さっきの鱈の方がかーなーり! 大変不細工な見苦しいマナーでしたわ! 低位とはいえ! 貴族として見るに耐えませんわ! 見逃せませんわ!」


 キュービカの憤慨ぶりに、イゼロは有り難く思いながらも少し違和感を持った。

 彼女は貴族と近しいのだろうか?


「貴族のマナーに詳しいのか? 外国で爵位持ち?」

「ま、ままま……す、鋭いですわ」

「陸のご婦人の服飾は判らんが、多分いい素材の服だろ」


 水中でもヒラヒラとよく揺れるだろう、曇り空の下でも柔らかな服は優しく光沢を放っている。明るい笑顔のキュービカによく似合っていた。

 商人の装いは詳しくないが、普段着にするにはかなり高価そうである。


「ま、服でバレましたの……。お喋りは貴族らしくないとよくバカにされますのよ」

「……陸の発音は未だよく解らねーが、俺はその、悪くないと思う」

「お優しいですわ、ままま……」


 あまりにも普通に友好的に接してくるので、誤解しそうになる。

 同族ですら嫌厭されてばかりなのに。


「……商人なら、取り引きとかか……」

「お取り引き? 何かご入用のお品が? ま、ですがワタクシ、仕入れの方はやっておりませんの」

「そ、そーなのか。家でやってるのか? 商会とか」

「まま? 商会、では御座いませんわね。あ、何かお売りする的な事はしておりませんが」


 売りつけられる訳では無いらしい。

 だが、疑う気持ちがチクチクとイゼロの心を刺す。

 自分の容姿が、キュービカのような可愛らしい少女に好かれる筈がないと。

 過去が迫ってきて、耳元で囁く。


「やはり先程の鱈が……」

「いや、そーじゃなくて……悪い。いや、まあ、気にしてる、かもしれねーな」

「お嫁様をお探しでしたら、ワタクシ立候補しますのに……」

「は?」


 随分と都合の良い聞き間違いが、イゼロの耳に入った。


「いや、冗談だよな?」

「まま、何故ですの? イゼロ様ったら、世間的にもハイスペ殿方ですわよ?」

「……初めて言われた、そんな事」

「ままままま! 見る目の無い……! 周りの皆様のお目々は、失礼ですが節穴ですの?」

「節穴……」

「密かに探らせて頂きましたが」

「探る?」

「ま! 其処は問題では有りません。

 まず頭脳明晰で成績優秀、健康かつ体格も御立派で素晴らしい、無為に避けられても人助けを為さる性格も素晴らしい、それから」

「待て待て、おい!」

「家格の高さは個人の品格では有りませんし、あまりお気に召しませんわよね」


 小首を傾げて見上げられると、余計にイゼロの顔に熱が溜まった。

 こんなに褒められた事は、親族でも一切ない。


「周りに恵まれてらっしゃらないのが、ドアマット気味ですわよね……」

「ドアマットって何だ」

「お魚はあまり使われませんかしら。学校の……ああ、あの足ふき織物ですわ」

「……」


 あのマットが何なのだろう。とてもイゼロに似ているとは思えない。続きを聞こうとすると、悲鳴のようなな声がイゼロを呼ぶ。


「ああ、いらっしゃった! お坊ちゃま、大変です! 直ぐにご帰宅ください!」

「……何?」

「ままま……?」


 突然帰宅しろ、だなんて。とても嫌な予感がする。


旅する蝶々はアサギマダラとかオオカバマダラとかおりますが、美しいですよね。


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