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見目に関しては同じこと

お読み頂き有難う御座います。

過激ではありませんが、学校内での一方的ないざこざが御座います。苦手な方はご注意を。

 学校に行くと、一斉に白い目を向けられた。

 どうやらあの『元悪友』が色々無いことだらけをと吹き込んだらしい。

 流石に机に落書き等はしていなかったが……イゼロが不愉快なことに変わりはない。


「サイテー……」

「これだから、権力のあるブ男はさあ……」


 いつもと変わらない、としてもやはり口の中に苦みが走る。

 性格悪い、と悪口が加わっただけなのに。

 そもそも、今迄性格等見られていただろうか。

 顔の美しさ、身体能力。

 そればかりが持て囃されている。学生だから仕方ない……のだろうか。

 イゼロは納得がいかない。


「アング伯爵令息、気にすることないですよ」

「そうそう」


 ……態々人の家名と爵位を言って回る輩も、中々のコバンザメ野郎達だった。俺は鮫じゃない。メガロドンの集落にでも行けとイゼロは言いたかった。

 他の爵位持ちは他に伯爵家2家と侯爵家1家がいるが、没落しかけの名ばかり侯爵家なので、家格の件でもイゼロに群がりたいのだろう。

 因みに、取り巻いてくれと頼んだ覚えもない。


 無駄にババア……お祖母様が王宮で女官長なんぞしていたからな……。

 今となっては見る影もない、義務で接する夫以外は寄り付かない哀れなババアなのに。


 そう祖母への悪態を心の中で吐いても、母親が逃げてから生まれ続ける惨めな気持ちは張り付いたままだった。


「……」


 家でも居心地悪く、学校でも更に居心地は悪い。だが、幸いなのか最終学年なので、図書室で過ごす事にしていた。


「ままま、ま! 見ーっけ、ですわ」

「!?」


 耳元で囁かれた声に驚き過ぎて、イゼロは借りていた大地語の辞書を落とすところだった。


「な、な、な……」


 今日は昨日と同じ紫のマントに、ピンク色のドレスだった。

 相変わらずフワフワした美少女に、イゼロは気圧される。

 身長は遥かに小さいのに、だ。


「ままま、大地語ですの! ワタクシ、大地語が母語でしてよ!」

「……そ、そーかよ……」


 目を白黒させて誰もが避ける変顔を晒しているであろうイゼロに、ニコニコと美少女……キュービカは構わず話しかけて来る。

 今日は箱を持って……いや、華奢な肩に紐が下がっていて、その先の網のような鞄の中に入っていた。

 随分とぞんざいだが、割れないのだろうか。


「ま……此処って、制服は御座いませんのね」

「セーフ句?」

「学校でそれしか御召しになれない決まった御服ですわ! メメルでしたら、赤茶の制服が御座いますの、ままま」

「……その、まままって何なんだ」


 昨日から独特の音声に、イゼロは首を傾げた。

 方言か何かだろうか。


「ま、お聞き苦しくて?」

「んなことは、ねーけど……」

「ままま! 貴方にお聞き苦しくなければ、良う御座いました! 深海語は発音難しいですのね。アブク発音、が上手く出来ま、せんの、よ!」

「……成程、いや、上手く喋れてると思う」


 彼女は優秀なのだろう。

 大地語はヤケクソ気味で勉強し出したばかりだが、全然違う。

 イゼロはとても、彼女のように流暢に大地語を操れない。


「お前、は留学生か?」

「ま、忍び込んでますわ」

「……は?」


 感心した途端に今、とんでもない事を聞いた気がする。

 そう言えば、図書室の窓が全開だった。下は断崖絶壁、だからか……。


「ワタクシ、旅する業務中ですの。ま、学校は通った事御座いませんので、興味本位でお邪魔しましたわ」

「いや……セキュリティ……」


 この学校は一応学費が高いので、セキュリティはキッチリしていると思っていた。無駄に彷徨いている警備員は飾りだったのだろうか。


「特技の一つに、鍵開けがございます。ヒミツですわよ」

「……いや、バカか?」

「ままま! 何処の鍵開けとは言ってませんわ! 証拠もなしに疑うお心、良くないですわよ!」


 また、鼻をつつかれた。


「でも、防犯意識高くて、ステキですわ」


 やってることはとんでもない、と今迄の『伯爵家での躾』がイゼロの中で警鐘を鳴らす。

 だが、それ以上に。


 ……俺って面喰いだったのか。嫌すぎる。

 母親の片鱗を己に見た気がして、背筋が寒くなった。


「ままま、お寒くて?」

「お前……俺に何の用なんだ? お前の見た目からして、付き合いたい相手じゃねーだろ?」

「見た目……? ワタクシ見た目、イゼロ様にお気に召しまして? ワタクシ的には父親似のフニャフニャ芯のないこの容貌、イマイチなのですけど嬉しいですわ」

「……」


 父親似でイマイチ……。

 そう言ってのけたキュービカの瞳に、嘘はない。


「父親似でイマイチなのか」

「ままま、中身は母親に似てますと言われます。母親もイマイチですわ」

「……俺の親もイマイチ……どころか嫌いだ」

「ま! ままま、お揃いですわね!」


 裏も、嘘もない。

 そんな笑顔を向けられたのは何時ぶりだろうか。

 イゼロの胸が、少し熱を持った気がした。




キュービカのお父さんも美形ろくでなし系みたいですね。

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