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9. 髪が生えたが意識は失われる

「ウチの父ちゃん、羽根の力を使ってるみたいなんだ……」

 ランニング中、夏海が呟いた。

 呟くといっても、確実に聞こえるように言ってるし、言葉を返せという意図が丸見えだ。

 あえて聞こえなかったフリをする。


「ウチの父ちゃん、羽根の力を使ってるみたいなんだ──(チラッ)」

 さっきより少し大きい声、更にチラ見付き。 


「あぁ、ウチの父ちゃん、羽根の力を使ってるみたいなんだ!」

「…………」

「睦兄、聞こえてるんでしょ。反応してよ」

「ゴメンゴメン、夏海の反応が可愛くてさ」

「………………なによ」

「プッ、クククッ」

「だから……なによ!」


 今日は、いつものコースではなく、河川敷を走っている。河川敷でゴブリンを見たという噂を聞いたから。


 夏海の親父さんは、禿頭の大男。大男といっても粗野な感じではなく、大人しめのインテリっぽい印象。確か、俺が小学生だった頃は、フサフサとしていた記憶がある。ハゲのレベルが上がったから、剃り上げたと聞いている。


「それで、何があったんだ?」

 話を戻す。


「父ちゃんの髪が生えてたの!」

「……えっ…………」

「え〜とね、会社行く前とか帰った時とか、家にいる時は生えてないの」

「それは、知ってる」

「でもね、この間、外で父ちゃんを見かけたの。そしたら髪があったの」


 俯く夏海に目をやりながら、思った言葉を心中に留める。

 『カツラじゃね?』


「分かってる。分かってるわよ、言いたい事は。カツラだって言いたいんでしょ。でも違うの。ありえないの。父ちゃん、前にね、母ちゃんに増毛したいって言ってたの。でもね、母ちゃん、金が無いから駄目だって。父ちゃん、小遣い制だからお金無いはずなの!」

 涙目で訴える夏海。

 『カツラ』とか『増毛』とか『小遣い制』とか、ワード的には涙目になる要素がないように思えるが、夏海としては、重大な案件なんだろう。


「なあ、夏海。ちょっと止まって話さないか?」

「あ、うん」

 歩調を弱めて、自販機の前で止まる。

「スポーツドリンクで良いか?」

「炭酸」

 ジュースを渡すと、サンキューと小声で受け取る夏海。


「なぁ夏海、おじさんがどんな方法でカツラを手に入れたか分からない。カツラじゃないかもしれない。本当に羽根の力かもしれない。でも、それを確認する方法を俺たちは持っていない。ここまではいいよな」

「うん」

 チビッと炭酸を口にする夏海。

 そんな小動物みたいな感じは、小さい時のチョコチョコと俺の後を付いてきていた様子が思い出されて、なんとなく可愛い。


「そこでだ、タクトと連絡を取ってみようと思う」

「えっ、今度は『タクトとコンタクト』って、言わないの?」

「そこはいいから、俺もタクトに確認したい事があるし、タクトにおじさんを見てもらったら、一目瞭然だろう」

「うん!そうだね」

 夏海の顔が、一変に明るくなった。

 小動物も良いけど、やっぱり夏海は明るいほうが良い。なんか、親目線?兄目線?


 夏海が飲み終わるのを待って、再び走りだす。



 橋が見える辺りで足を止めた。

 既に結構な距離を走っている。

 今迄なら、ここまで走ったら体力の限界が見えていたのに、まだまだ余力がある。羽根の力を使ってるからなのだろうか。【KARin】で聞いた通り、力により、人ではない存在に変わろうとしているのか?

 それとも、ゲームみたいにレベルというものがあって、ゴブリンを倒す事により、レベルアップしているのか?

 分からない。分からないけど、早く根岸を倒さなくてはいけない気がする。

 既に、夏海の学校の女子の何人かが行方不明になっているらしい。全てが根岸の仕業ではないかもしれない。でも、絶対に根岸に捕まった子がいるはず。



「この辺で呼ぶよ」

 夏海が歌を紡いでいく。


 ──グギッ ギャギャギャ

     ギャグギッグギャギャ

 ──グゲッ ゲシャギャギ

     グギッギャギャギャギ

 ──ギャッ ギャギャギャ

     ギャギャギャギャギャ


 ゴブリン達が集まってきた。

 陰から陰からワラワラと下卑た声が聞こえてくる。


 俺は【百一の利剣】の力で黒塗りのククリナイフを出すと夏海に渡し、自分用に黒い曲刀二本を構える。

 曲刀を使っている。湾刀、シャムシールと呼ばれる先が湾曲した刀。両手で持つ事が基本コンセプトな日本刀と違い、片手で持つ用だから両手に持つ事ができる。つまり、二刀流!

 別に中二病とかじゃなくて、男なら憧れるでしょう二刀流。

 ただ憧れるだけという訳じゃない。手数が増えるという利点がある。日本刀に比べ一振りの力は弱いが、手数で勝負できる。ゴブリン相手なら日本刀程の力は必要ない。複数を撫で切るなら、こちらの方が上だ。

 ちなみに、その前はシミターを使っていた。殆どシャムシールと変わらない、しかし、シャムシールの方が細く感じたので、軽いのかもしれないという思いでシャムシールを使うことにした。


「本当に、睦兄の力って、刀の博物館みたいだね」

 言われてしまった。

 それはちょっと思っている。

 俺も、色んな刀を出して、凄いな~とかした。


 返事もせずに、飛び出した。

 夏海も俺に合わせて、戦闘モードに移行する。

 夏海に渡したククリナイフは、刃渡り45センチ程で先端がくの字に曲がっている。独特の形から、正面の敵の刃に対する距離感を失うと聞いたこともある。厚みもあるので、ナタ的な使い方もできる。何より格好いい。



 ◇


 いつもより数が多いだけの雑魚退治と思っていた。

 戦闘に慣れていた気になっていたのかもしれない。

 どこかで、選ばれた存在だからとか、驕っていたのかもしれない。

 僕たちは、戦いを甘く見ていた。


 十匹を越えた辺りだった。

 刃が滑り始めた。ゴブリンの血油で切れ味が落ちてきたのだ。筋が筋繊維が腸が刃の動きを阻害する。

 片方の刃の動きが滞れば、連動して動かしていたもう片方の動きも滞る。


 切れなくなったシャムシールを消して、シミターを出す。

 と、その時、ゴブリンの動きが変わった事に気が付いた。


 気が付けば、ゴブリン達は遠巻きに俺と夏海を取り囲んでいた。そして、一斉に石を投げ始めたのだ。

 何十と投げつけられる石。一つ一つは小さく、致命傷にはなり難いが、確実に傷付き、体力を奪っていく。更に、動きを封じられた所に、矢が射られた。


 シュッという風切り音が矢を運び、背中に刺さる。

 石に打たれ、両の武器は地面に転がっている。

 夏海も倒れている。

 クソッ、そうだよな、敵だって成長する。


 視界が遮られる。 

 切れた額から流れた血が目に入る。


 夏海。

 夏海。夏海。

 夏海。夏海。夏海。

 夏海だけでも…………。

 俺の方に伸ばしできた夏海の手を掴み、手繰り寄せた。

 

「睦兄、駄目だよ。睦兄……死んじゃうよ」

 抱きしめた身体の内側から声がする。

 力無く泣きじゃくる夏海の声。

 守る。

 俺は、兄ちゃんだから…………。


 意識が失われる寸前、犬が駆けるのを見た気がする。

 

【昊ノ燈】と申します。


読んでいただき、ありがとうございます。

もし、この小説を応援したいと思っていただけたなら、ブクマを宜しくお願い致します。


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  [★★★★★]で、評価くださると幸いです。


 面白くないと思われた方

  [★☆☆☆☆]と、一つ星で教えて下さい。


 ご意見を持たれた方も、遠慮なくお伝え下さい。

 良いも悪いも作者のモチベーションとなります。


 これからも、宜しくお願い致しますお願い。



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