6. タクトのサイトは9人
「【金の女】と、【衝撃の価値観】ですか」
ふと、横から声がした。
気が付けば、男の子が立っていた。
小学校高学年くらいだろうか、フォックス型の眼鏡が知的な印象を与えてくる。
「すいません、急に。でも、貴方も一緒ですよね。羽根に力を貰いましたね。それにしても珍しい、名前からして完全に戦闘特化の能力ですか。普段からそういう精神状態なのか、それを望まざるをえない状況にあったのか……。見た感じだと、後者のようですが、人はパッと見では分かりませんからね。あっ、そうそう、僕はこういう者です」
差し出されたのは、カラフルな名刺。
『見る者 STATUS
【力を知る瞳】がお助けします』
自分で作ったのだろう、切れ目が斜めっている。
端に描かれているのは、手描きの不思議なイラスト。多分、猫?
「僕の名前はステータス。当然、本名じゃないよ。本名は秘密。まぁ、名字が須藤ってことだけは教えてもいいかな。だってさ、不意に町中で『ステータスさん』なんて呼ばれても困るし、言う方もキツイでしょ。僕が羽根から得た力は、ステータスを見る瞳。と言っても、まだ、能力しか見ることができないんだけどね。いつかはHPや攻撃力とかも見えるようになる予定。だって、ステータスが分かるのは、基本でしょ」
矢継早に話を続ける須藤。
何が基本なのかは分からないが、ゲーム的な事を考えているのだろう。
「お〜い、タスク。変えるぞ~」
「はーい、パパ」
タスク?
つまりは、須藤タスクくんという事?
本名は秘密って言ってから、2分と経たずに分かっちゃいましたよ『スドウタスク』くん。
にしても、パパって……。
今迄の大人びた感じから、パパって…………笑える。
ちょっと振り返ったタスクは、気まずそうな顔で、言い残して去っていった。
「あっ、お兄ちゃん。名刺の内容で検索してみて」
何やらポカーンとしている弥生と皐月に、にへら笑いをした後、夏海と顔を見合わせた。
「なぁ兄貴、知り合い?」
「初めて」
「なぁ兄貴、羽根って?」
「さぁ」
「なぁ兄貴、能力って?」
「知らん」
「なぁ兄貴、ステータスって?」
「分からん」
「なぁ兄貴、さっきの名刺見せて」
「嫌だ」
面倒くさい。
弥生もニコニコと微笑みながらこっちを見てる。
気が付けば、夏海が消えてる。
逃げたな……。
下手に説明して、根岸とのバトルに巻き込んだらいけないし、っていう兄の気持ちを慮れよ弟。
羽根、あんだけ舞ってたんだから、お前は触ってないのか?聞いてみたいけど、もしも羽根に触ってなかったら面倒だし。
それ以上に、夏海と毎夜ゴブリン退治してるなんて勘付かれたら、皐月の追求がもっとしつこくなるだろうし。
「睦ちゃん。何か隠してるの?」
弥生まで…………。
◇◇
「よし、検索するぞ」
「うん」
夜のランニング途中、俺と夏海は公園でタスクの名刺で検索を開始した。
該当にヒット。
妙に凝ったサイトに飛んだ。
『見る者 STATUS【力を知る瞳】がお助けします』と上部に書かれているから、間違いがないと思う。それにしても、名刺の低クオリティーさとサイトの高クオリティーさの差が凄い。
「最近の子なんだね。正に電脳世代……」
夏海の呟きに、その通りだと思った。
でも、画面下の方に『present by 須藤佑空』って、書いてある。流石、タスククオリティー。でも、サイトに本名上げるのは、止したほうがいい。
これは、御意見欄に書くとして……。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
・確認した能力一覧
【力を知る瞳】
【十分の奇跡】
【金なるは女体】
【隠された我家】
【忘れえぬ栄光】
【黒き生ゆる物】
【金の女】
【魔法の素養】
【衝撃の価値観】(NEW)
【百一の利剣】(NEW)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
サイトに載せられていたのは、能力名の一覧だった。
「えっ、これは!」
この中の一つの能力に目が止まった。今日、見た能力ではない能力。
「あっ、本当だ。」
夏海も気が付いたようだ。
「ウチのが載ってない。【紡がれし魔音】がないよ睦兄」
俺が思った事と違った……。
「いや、上から四つ目。【隠された我家】がある」
「【隠された我家】……根岸の?」
「間違いない。何処かでタクトは根岸と出合ってたんだ」
「でも、このサイト、危なくない?自分の能力って、隠したい人って多いと思うんだよな。でも、本人に黙って載せてるんでしょ」
夏海は、一覧の中の能力をタッチしながら危惧の言葉を発した。
能力欄をタッチすると、能力の内容が表示される。
タクトの私感らしく、まだ殆どの能力の内容は表記されていないが、この仕様からすると、充実させていく意図は丸わかりだ。
「使用者の名前が載ってる訳じゃないから、即、狙われるという事はないだろうし……。閲覧者数が9人……だからなぁ」
「なんかさ、世知辛いって言うか、寂しいね……一桁か……」
「とりあえず、もう一度タクトとコンタクトをとろう」
「プッ。タクトとコンタクトって」
「いや、ジョークとかじゃなくて、な」
「アハハハハハハハハ。プッタクトとコンタクト、プッ」
なんかツボったみたいだ。
「それよりも、お客さんだよ」
「最近、何処でも見るようになったね」
「ああ、それだけ根岸は、夏海が欲しいんだろ〜」
「うわぁ、ありえない」
「六匹、殺るか」
「はいな」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
・詳細情報
【力を知る瞳】
対象の能力名を知ることができる。(今のところ)
【金の女】
お札に描かれた女性を具現化する。
【衝撃の価値観】
お金が爆発するみたい。(要確認)
ちなみに、詳細が書かれたのは、上記三点だけだった。
「なぁ夏海、お前、何処で羽根に触れた?」
黒い曲刀を消したところで、疑問が口から溢れた。
夏海も既に戦闘モードから解かれている。
「わかんないんだよね。でも、ニュースで言ってた羽根が降った時間なら部屋に居たと思うよ」
「俺も室内に居たはずなんだよな。天井から降ってきた羽根が手の上で消えてさ──」
そう、夜だった。
勉強してたら窓の外に沢山の白い物が見えた。
窓を開けようと立ち上がった途端、天井からも白い物が落ちてきて、綿埃かと掴んだら、羽根。
そして、白い羽根は、手の平に吸い込まれるように消えたように感じた。
開けた窓の外にも白い羽根が降っているのが分かったけど、触れることはできなかった。掴もうとしても舞い落ち、受けようとしても躱され、溢れていった。
一人、一枚?
だとしたら──
「もしかして、俺たちが思っている以上に、いや、遥か多くの人が羽根を受け取っているんじゃないのか?」
「──!」
「もしかして、まだ能力が発現していないだけで……俺の時みたいに、発現まで時差があったりしたら」
これから先、色んな人が能力を得ていくのではないか?
もしかして、全ての人が羽根を得ているのでは?
漠然とした不安と焦りに包まれた。
「ウチが最近好きな曲があってさ」
夏海が思い出したように語る。
「その歌詞がさ、『歌を紡ぐ』とか『歌声』とか入ってんだ。気が付いたら歌ってる時もあってさ。なんかさ【紡がれし魔音】と似てるような……」
ああ、【紡がれし魔音】と夏海のイメージが合わなかったんだよな。歌か…………。
「でも、良かったよ、あの歌で。もしもさ失恋ソングでも聞いてたら、能力発現する度に失恋するかもしれないし」
「失恋する能力って、どこで使うの?ある意味怖いけど」
「確かに」
笑顔で頷きあった、俺と夏海。
恋愛した事あったか?夏海が恋?なんて事を思ったけど、胸の内にしまっておいた。
【昊ノ燈】と申します。
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