表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/20

19. 泣きそうなバトルジャンキー

 カメラを持ったエリザベス女王を追う俺たちの前に現れたのは、新たなる【一葉軍団】。

 手に持つのは、斧、ナタ、チェンソー、そして丸鋸の刃。どこかで観た殺人鬼の武器オンパレード。

 凶悪感がマシマシなんですけど。


 背後から飛んでくる丸鋸の刃を躱しながら、エリザベス女王を追う。

 前方のエリザベス女王にも沢山の樋口一葉が合流して、追って追われる鬼ごっことなっている。


「はぁ、はぁ、なぁ夏海ちゃん。さっきの歌、もう一度くれへん?もう、息が辛いんやけど……」

「ニッコさん、走りながらだと無理。息が続かない」

「えぇ、楽そうに走ってますやんか──ウワッと!」

「丸鋸の刃って、凶悪」

「夏海ちゃん、あれはね、刈払機の刃ですね。丸鋸の刃ではないですよ」

「はーい」

「はぁ、はぁ、って、どっちでもいいやんか。余裕やな嬢ちゃんら二人共」


 意外と余裕そうな三人。

 俺はスマホをしまいながら、スローイングナイフを後方に飛ばす。


「はぁ、はぁ、ここにも余裕そうな奴がいてるわ。もしかして、俺、足手まとい?」

 ニッコは、俺に足を合わせながら聞いてくる。はぁはぁと息を切らしながらも脚が止まらないニッコも、意外と体力がある。


 俺は、ニッコに問う。

「なぁ、ニッコ。走りながらでいいんで、教えてほしい。お前の能力」

「【衝撃の価値観】かいな?」

「ああ、お金を爆弾にするんだよな?」

「爆弾っていうと、ちょっと違うんやけど、そんな感じや」

「『願い』と『欲するモノ』を覚えてるか?」

「えぇ、こんな時にそんなん聞く?まあええわ、『願い』はな、本当の価値。『欲し』たんは、衝撃や。いやな、俺、こう見えても結構な目利きやねんで。本当に価値あるものはな、衝撃インパクトがあるもんやねん。まぁ、金が無くなったら使えなくなる外れ能力やけどな。せやけど、それがどないしたん?」


 やっぱりそうだ。能力名を聞いたときから違和感があった。


「なぁ、なんなん?人に聞いといて、なんで黙るん?なぁ?なぁ?」

「あ〜あ、睦ちゃん、考え込んじゃった」

「弥生ちゃん、なんなんこの子?いつもこんな感じ?」

「う〜ん、そういうところもあるかな?でも、ニッコ、息切れしてないね」

「あっ、せやった忘れとった。はぁ、はぁ、はぁ」

「「「忘れとったんか〜い!」」



 それにしても、奇妙な事がある。

 公園から商店街に戻って来ても、人の姿を見ない。

 シャッター商店街といっても、土曜日の昼、通行人もいないのは不自然過ぎる。

 この事をニッコに聞いてみても、『奴等のテリトリーだからな』の一言で終わってしまった。

 能力に依るものなのか、暴力に依るものなのか、判断がつかないけど、どちらにしても真っ当な事ではなさそうだ。


 大通りに出ようとしても、一葉軍団が待ち伏せしている。

 商店街、公園、周辺住宅街の中だけでの追いかけっこになっている。

 更には、組織的過ぎる【一葉軍団】の動き。

 一葉達、一人一人に明確な意思というものがあるようには感じられない。どこかに指示を出している者がいるはず。


 商店街のアーケードを抜けた所で、上空から一人の男が降ってきた。飛び降りたという方があっているのだが、印象的には、肉の塊が降ってきた感じである。


「お前らが、走り回ってるネズミか!」

 でっぷりとした腹の大柄な男は、降りてくるなり、大声で言った。

「いっぱい一葉を潰したんだってな。え〜と……」


「二十六です」一葉の一人が耳打ちをする。


 いた!それにあの一葉、イヤホンしてる。

 俺は、そっと横にいたニッコに告げる。

 ニッコも、俺の意図に気づいたようだ。


「二十六か。一人五千円だから……二人で一万円で……六人が三だから……一万三千円」

「十三万円です」また耳打ち。

「おう、十三万円か。えっ、十三万円?高過ぎねぇか?でも、十三万円か」

 この男、かなり頭が悪いみたい。

「まあ、十三万払え。十三万円払うんなら許してやる」


 馬鹿っぽい会話に不釣り合いな威圧感が男から滲み出る。


「ねぇねぇ、この人、大見得張ってるけど、アーケードの上で待ってたんだよね」

 弥生が聞こえる程度のヒソヒソ声で、夏海に話しかけた。夏海も、男に聞こえる程度のヒソヒソ声で言葉を返す。

「そうそう、寂しかったろうね〜。やっとウチらが来たから嬉しそうに降りてきたよね」

「でも、別にアーケードの上で待つ必要なかったんじゃないかな?」

「それは、あれ、男のロマンとかいうやつじゃないかな〜。上半身裸だし」

「ププ……笑える。ロマンって」


 おい、おい、辛辣過ぎるぞ、二人共。

 泣きそうな顔してるじゃんか。


「あ〜泣いちゃいそ〜。でさ、夏海ちゃん、そろそろ行ける?」

「おまたせ〜フゥ〜〜for want of a neil the ♫♫」

 夏海の歌が拡がる。

 二人は、会話で息を整えてたんだ。


 一葉達が武器を落とし、散り散りに動き始める。

 男も握りしめていた手が開きかけ、視点が漫ろになっていく。


「なっ……んだよ……ガアッ!」

 気合一番、男の目が見開かれた。

 一呼吸で、夏海の歌から逃れる。


「悪い、兄やん、あいつ任せた。俺等は、あの一葉を追う」

 ニッコの言葉で、弥生と夏海も走り出す。


 散っていった一葉を追う三人。

 俺は男の前に立つ。

 一対一。

 俺は、右手に剣を顕現する。

 日本刀。


 男はニイッと口角を上げ、再び拳を握りしめる。

「お前、イイナ」


 俺も口角を上げる事で返答とする。


 ──バトルジャンキー


 そんな言葉が頭に浮かぶ。


 男の右手が街灯を掴み、引き抜く。

「お前の力は、剣を出す事か?ショボいなぁ、武器なんざ、そこら中にあるってのにな。どうせなら銃でも出せよ。そしたら、少しは楽しめるのに。所詮、戦いは腕力なんだよ」


 街灯が飛んできた。

 コンクリの土台が付いた街灯は、横向きにすれば長くしゃがむ以外に躱す手がない。

 両手を必要とする日本刀では、動きにくい。早々に日本刀を捨て、レイピアを顕現。

 片手で扱う細剣。

 二本目、三本目と投げ飛ばされる街灯。

 躱しながら近付き、レイピアの先端を揺らし、腹部に裂傷をつける。


「ハッハ〜!攻撃が軽いぞ!」

 振り回す腕を躱し、今度は刺突で太腿を狙う。

 左太腿に刺さり、一瞬動きを止めたが、筋肉を締められて抜けない。

 バックステップで手の届かない所まで逃れる。

 今、自分がいた場所を剛腕が過ぎていく。


「だから軽いんだよ。こんな細い針みたいな物が効くかよ!」

 引き抜いたレイピアを折り曲げて、後方に放り投げながら一歩踏み出してくる。


 再びレイピアを顕現し、構えをとる。


 一進一退の攻防が続く。

 細かく刺突を繰り返す俺に、剛腕で街灯を振り回す男。一撃でも喰らったら戦闘不能、死が見える。刹那の攻防。

 男の脚には、四本のレイピアが刺さっている。上半身は夥しい裂傷による血が流れ、身体を赤く染めている。


「楽しいなぁ!お前、面白いぞ!」

 不意に男が笑った。

「俺の名は稲田明だ。お前は?」


「桐山睦月」

 答えた俺の顔も笑っていた。


「桐山よ、行くぞ!」

 赤く染まった稲田の身体が、更に紅く染まっていく。パンプアップ。

 興奮状態の身体は、一層大きくなり、上体の傷から流血が止まる。額には二本の角が……。

 『角』

 朱に染まった身体に二本の角。『鬼』

 昔話で見た鬼の姿があった。


 武器をレイピアからエストックに変える。

 エストックは、レイピアよりも刺突性に優れ、鎧通しとして用いられてきた武器だ。今まで、レイピアの軽い攻撃に慣らしてきたところで、エストックに変えて一気に貫く。


 エストックを構えて、一気に駆ける。

 稲田は両手を広げ、受けの体制。

 胸に向けて、刺突!

 …………入らなかった…………エストックの一撃が分厚い筋肉に遮られて、入っていない。


「だから、軽いって言ったんだよ」

 斜め上方から振り下ろされた拳が、左上腕ごと胸元に突き刺さる。

 身体が爆ぜたような衝撃。

 吹き飛んだ身体が、地面にバウンドして転がる。

 口中に血が溢れる。


 一歩二歩と歩み寄る稲田が、俺の放っていた日本刀を拾い、片手で上段に構える。

「良い武器じゃねぇか。自分の武器で逝きな!」

 振り下ろされる。


 一瞬だった。

 俺は日本刀を消し、わずかに戸惑った稲田の隙をついて、エストックを稲田の目に突き刺した。


 動きが止まる。


 俺は身構えたまま、稲田を見つめた。

 顔付き、体つきが変わっていた。初め、豚のように歪に上を向きかけていた鼻は形を整え、丸々とした腹部は、割れた腹筋が見えている。白かった肌は、朱に高揚した後、浅黒く日焼けをした肌になっている。ただ、二本の角は尖ったまま。戦闘前と同じ人間なのかと疑ってしまう。


 暫くして、稲田は構えを解き、話しかけてきた。

「お前、良いな。今回は俺の負けだ。でもお前は俺を殺せねぇ、軽いからな。俺はお前を殺せる。わかったな!」

 そう言いながら、左目に突き刺さったエストックを眼球ごと引き抜くと、自分の口に放り込み、飲み込んだ。


 そして、ゆっくりと背を向け去っていった。


 お前は、夏侯惇かよ……。

 俺は、腰を落とした。

【昊ノ燈】と申します。


読んでいただき、ありがとうございます。

もし、この小説を応援したいと思っていただけたなら、ブクマを宜しくお願い致します。


 面白いと思われた方

  [★★★★★]で、評価くださると幸いです。


 面白くないと思われた方

  [★☆☆☆☆]と、一つ星で教えて下さい。


 ご意見を持たれた方も、遠慮なくお伝え下さい。

 良いも悪いも作者のモチベーションとなります。


 これからも、宜しくお願い致しますお願い。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ