15. 父さん最強説
しばらくして、退院の日が決まった。
看護師の人に、退院日をいつにしますか?と言われ、正直、フラさんと別れるのは辛かったけど、一番近い土曜日である三日後にした。
夏海の事が気になっていたからだ。
夏海は、自分が退院した日に見舞いに来てくれてから、一度も見舞いに来てくれていない。寂しいというのではなく、心配。俺が怪我をした事に責任を感じているのではないか?男勝りで強がりたがるけど、実際、弱い所を見せるのが苦手なだけだって事を知ってる。世話のかかる妹分。
まぁ、実の弟の皐月も来ていないんだけどね。
ともあれ、退院までの間は、フラさんとたくさん話をした。結局、フラさんが何者か分からなかったけど、とても頭が良い人ってのは良くわかった。
磯崎さんとは、一足先にお別れした。
警察の警護は、退院後も暫く警護がつく予定だったけど、状況が変わったらしく、一週間前に突然のお別れとなった。
そして、退院の日。
迎えに来たのは、父さんと皐月。
久しぶりに見た弟は、何か疲れていた。
「荷物はこれだけか?」
父さんは、車と病室を行き来しながら聞いてくる。
「ちゃんと、同室の人に挨拶をしてから出るんだぞ」
父さんは挨拶にうるさい。
ごつい体に七三分けの銀縁眼鏡。白髪は多いがハゲそうにない、和製クラー○・ケントといった風体だ。
正直、父さんの髪を見て、そっちの遺伝子を頂戴って思う。母さんの方なら輝く未来しかない……。
帰りの車の中、運転する父さんに聞いてみる。
「如月のおじさん、カツラデビューしたって本当?」
──ブホッ!
「お前な、怪我して入院して、やっと退院したと思ったら、車内の第一声がそれか?」
「いや、入院前に夏海に聞いててさ、そのままになってたから気になってさ」
父さんは、見た目ほど固い人ではない。
どちらかといえば、話しやすいラフな人だ。
以前、もっとラフで若い格好にしたら?と聞いたら、この方が都合が良い。モテるんだって言ってた。実際、ご近所マダムからの人気も高い。スー○ーマン世代と、アベン○ャーズ世代の差なんだろう。
「あっ、俺もそれは気になってた」
後部座席から身を乗り出して来たのは、皐月。
「お前らなぁ〜。確かに父さんも気になっているけどな、主婦と違って、お父さん同士の繋がりって殆どないんだぞ。そんな中で、カツラとかデリケートな話が聞けるか?」
「でも、聞いたんでしょ?」
「そうそう、絶対父さんなら聞いてるハズ。母さんも言ってたもん。如月のおじさんと父さんが仲良しで、昔はよく二人で飲み歩いていたって」
「う、うん、昔はな…………」
言葉を濁す父さん。
確かに、以前、父さんは、如月のおじさんと、弥生の親父さんの三人で、よく遊んでいた。飲み歩いていたし、家族ぐるみでキャンプにも海水浴にも行っていた。弥生の姉、葉月が死ぬまでは……。
「まぁ、お父さんも気になってな、本庄に聞いてみたんだ」
お父さん同士は繋がっている。
ただ、子供ぐるみの付き合いが薄くなっただけ。
昔は、三人でやんちゃしてたらしいし。
「聞いたんだ!」
「なになに、どうだったの?」
「カツラじゃなかった。触っても、引っ張っても、ズレなかったらしい」
「「増毛?」」
「いや、本人曰く、魔法って言ってたそうだ」
「「魔法?」」
「良く分からんが、そんな事を言ってたってさ。いい大人が魔法だぞ」
魔法と聞いて、羽根の力と思った。
おじさんも羽根に触れてたんだ。でも、望みが増毛なんて…………。
「そう言えば、皐月。お前、如月の所の娘が好きなんだろ?」
「えっ、なんで!?」
父さんの変化球が、皐月にクリティカルヒット。
「まぁ、若いからな。一緒に遊ぶ分には文句は言わない。でも、結婚は許さんぞ」
「えっ、えっ、何?好きとか、結婚とかって、何だよ」
「大体、魔法がウンダラカンダラ言う奴と親族になりたいと思うか?その上、アレの顔は娘とそっくりだろ、お前は自分の嫁そっくりな頭頂部ハゲにお義父さんって言えるのか?」
父さん、ただの悪口になってますよ。
皐月も目が点になってるじゃありませんか。
確かに、夏海とおじさんは似てるけど──てっぺんハゲの夏海──笑える。
不意に車が止まった。
家には遠いし、コンビニとかでもない。
病院と家を繋ぐ最短ルートから大きく逸脱した田舎道。父さんが言うには、中心部の道は荒れているので、迂回しているとか。
そして、今いるのは、国道という名の田舎道。
寂れた道沿いに見えるのは、小さな二つの人影。
えっ、ゴブリン?
しゃがみこんだ二匹のゴブリンが、一心不乱に何かを貪り喰っている。
父さんは車から出ると、トランクからボコボコの金属バットを取り出し、トントンとバットで肩を叩きながらゴブリンの所に歩いていく。
──危ない!
不用意にゴブリンに近付いては駄目だ!と、言う間もなく、ゴブリンの後ろに立った父さん。
──三塁線ライナー!
そんな勢いで振られたバットは、二振りで二匹のゴブリンの頭部を砕いた。
何事もなかったようにバットをしまい、運転席に戻ってくる。
スマホを取り出し、
『──あ、はい。国道の──です。ゴブリン二体。回収お願いします。──あ、はい──頭を打ってます──じゃあ、宜しくお願いします』
何が行われているのか理解できなかった。
いや、父さんが何をしたかはわかる。でも、わからない。
「父さん、今の…………?」
「犬を喰ってた」
「じゃなくて」
「ああ、電話か?市役所だよ、回収をお願いしとかないと、腐ると臭いからな──ああ、睦月は知らないんだな。お前が入院してからな、ゴブリンが増えてな。色んな悪さするから、見つけたら駆除してもいいようになったんだよ」
「…………いや、駆除って…………危ないよ」
「何、軽いもんだよ。それにうちの可愛い長男坊をイジメたのもコイツラだろ?」
「だからって…………」
「兄貴、無駄だ。父さんは表彰受けてる」
「表彰?」
「ゴブリンいっぱい殺したからって、市長賞受けてた」
「ハッハッハ。百体殺った記念だ。もう既に百五十は殺ったぞ!一日二十体ペースだな」
「夜も近所回って殺してるんだよ。警察からは危険だから、やり過ぎるなって注意されてる……」
「警察で駆除しきれないから、父さんが動いてるんだ。自衛だよ」
「俺も毎晩付き合わされてさ……。兄貴、退院してくれて良かったよ」
いや、俺と夏海が能力使って一日十数匹なのに……。鉄バットで二十匹って……。
もしかして、父さん最強?
それから家までの間に、三匹のゴブリンを見た。
その度に父さんは、鉄バットで始末する。
まるで、素振りするように軽い感じで打っていく。
こんな簡単に殺せるものだったんだ……。
それにしても、こんな昼間からゴブリンが出るなんて……。根岸の仕業か?刑事さんは三箇所でゴブリンが目撃されてるって言ってた。根岸以外にもゴブリンを増やしてる奴がいるのかもしれない。
この日から、父さんの夜のお供は俺になった。
マジヤバいです、うちの親父。
俺は、念の為に持たされた金属バットを、一度も振ることはなかった。
トコトコトコ──ブンッ──バキッ!っで、全て終わっていく。
「ほお、で、本庄とこの──ブンッバキッ!──弥生ちゃんが──ブンッバキッ!──毎日、来てくれてたのか。オットト──ブンッバキッ!──あそこは嫁さん綺麗だ──ブンッバキッ!──から、美人になる──ブンッバキッ!──だろうな。っと、五体駆除」
父さん、凄すぎです。
【昊ノ燈】と申します。
読んでいただき、ありがとうございます。
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