表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/20

14. 弥生とフラさんのショービジネス

「睦ちゃん、元気?」


 ──キュピーン!


 病室に弥生が入ってきたその時、フラさんの瞳が輝いた。同時に弥生の瞳も光を持つ。


 始まるのか…………。


「あら、奥様」

「フラもご機嫌なようで」

 フラさんが弥生を奥様と呼び、弥生がフラと返す。これが、開始の合図。


 始まった…………。


「奥様、本日も見目麗しゅうございますね。本当に御主人様とお似合いですわ」

 今日のフラさんは、女役か。


「あら、ありがとう。フラ、貴女のところもお似合いの夫婦と評判じゃないの」

「いえいえ、宅の亭主なんて、外面だけですよ。家の中では、だらしのない男なんですよ。無愛想で、オイとかアレとかでしか喋りませんの。奥様のところとは比べ物になりませんわ」

「フフ、どの家も亭主なんてそんなモノよ──とか、言わせたいのでしょうね。狡いこと」


 おおっ、出だし直ぐの急展開。


「えっ、なんの事ですの?」

「貴女がた御夫婦の仕事に、私の可愛い旦那様を巻き込まないでと、言いたいの」

 弥生がゆっくりとベッド脇に歩み寄る。

 

「クッ。な、何を仰られているのか」

「ねぇ、何も知らないとでも思ってらっしゃる?貴女が、そこのチェザーレを使って、何を企んでいるのかをネ」

 おお、磯崎さんが巻き込まれた。ってか、外国人設定だったの?


 磯崎さん、戸惑っている。そんな困った顔でこっちを見ないで。


 そんな、困り顔の磯崎さんに、弥生は追い打ちをかける。

「さぁ、チェザーレ、言ってごらんなさい。この女の指示で貴方が何をしたのか。何をさせられたのか。そして、昨日何処にいたのかを」


 磯崎さん、めちゃくちゃ目が泳いでる。もう泣きそうだし…………。


「駄目よチェザーレ。黙ってて!」

 ナイス助け舟、フラさん。


「何を黙る事があるの?チェザーレ、貴方の事よ」

 さらなる追撃。微笑が怖いぞ、弥生。


「…………あ…………あ…………」

 涙目で小刻みに震える磯崎さん。何か言おうとしているが、言葉にならない。


「やめて!私が悪いのよ。ゴメンねチェザーレ、辛い思いをさせてしまって……」

 フラさんが、磯崎さんの前に手を伸ばし、俯きながら話した。


 軽く腕を組む弥生。

「話してくれるわね、フランソワ」

 フラさん、フランソワ!?

「……ええ、Mrs.マーチ」

 ミセスマーチ!?弥生→三月→マーチだけど。


「フランソワ、貴女と出合ったのは、中等部の頃だったわね」

「貴女は、既に社交界の花だったわ。『リトルローズマリー』。そんな風に呼ばれていたわね。私達皆の憧れだった」


 おお、同年代設定。更に、中世、貴族社会なのか?


「懐かしいわね。『ローズマリー伯母様』について回っていた頃。貴女も、可愛かったわ」

「いえ、そんな……」

「いえ、私は、貴女のあどけない瞳が羨ましかった」

「そんな……」

「高等部に入り、私達は、同じ人を好きになった」

 そう言いながら、弥生は、俺の肩に手を乗せた。


 ヤバッ。巻き込まれた。


「そうね、でも選ばれたのは貴女。私が貴方の瞳に映ることは無かった」

 フラさんまで俺の空いたほうの肩に手を乗せる。


「私の方が、貴女より少し近かっただけ」

 弥生の手が、肩から離れ、頬に触れる。


「悔しかった。わかってた、どうしようもないって。でも、悔しかったの……」

 フラさんは手を離し、後ろを向く。

 背中が小刻みに揺れている。


「いいの。いいのよ、フランソワ」

「ゴメン。ゴメンね…………」

 弥生は、静かにベッドの周りを行き、背中を向けるフラさんを後ろから抱きしめる。


 ──ビクッ

 フラさんの肩が微かに揺れる。


「ちょっと間違っただけ。ねぇ、フランソワ」

「ゴメン。ゴメン。ゴメンね……。全部、話してくるわ。罪を償うの……」

「フランソワ…………」

「さようなら。もう貴女達の前に現れないと、誓うわ」

 フラさんは、弥生から離れ、一歩進む。


「フランソワ!」

 弥生が手をとる。

「貴女の罪を知る人はいない」


「えっ!」

「私は何も見ていない。全ては霧の中」

「Mrs.マー──」

 フラさんの言葉を遮り、弥生が正面から抱きしめる。


「いいの。いいのよ」

「Mrs.マーチ…………」

「貴女が償う罪なんてないのよ」

「…………」

「フランソワ、貴女の罪は私の罪。貴女が背負うことはないのよ。これからは私の言う通りにだけ動けばいいの。そう、私の為にネ──貴方は、私の物」

 弥生の瞳が俺を捉え、微笑をこぼした。



 終わった……。

 何なんだよ、毎回の小芝居。


 ──パチパチパチパチパチパチ

「「「ワーー!」」」

「良かった!」

「最高!」

 気が付けば、いつも通りギャラリーが集まっている。

 一日中仕切りのカーテンを閉め、顔を出さない同室のお爺ちゃんも、カーテンを開け、拍手している。

 隣室の患者さん。

 階の違うオバちゃん入院患者さん。

 看護師さん。

 女医さん。

 多くの人が、所狭しと病室に集まっていた。


「弥生さん、最高だったわよ」

「また明日もヨロシクね」

「これ、貰って頂戴」

 観覧料宜しく、弥生とフラさんの手には、沢山のお菓子やらジュースやらが積まれていく。


 弥生とフラさんは、皆を笑顔で見送っていく。


 最後のお客が去り、同室のお爺ちゃんが仕切りのカーテンを閉めたところで、弥生は俺の方を向き、いつものセリフを笑顔で言う。


「睦ちゃん。御見舞の差し入れ」


 俺のベッドの周りは、お菓子とジュースが所狭しと積まれている。


【昊ノ燈】と申します。


読んでいただき、ありがとうございます。

もし、この小説を応援したいと思っていただけたなら、ブクマを宜しくお願い致します。


 面白いと思われた方

  [★★★★★]で、評価くださると幸いです。


 面白くないと思われた方

  [★☆☆☆☆]と、一つ星で教えて下さい。


 ご意見を持たれた方も、遠慮なくお伝え下さい。

 良いも悪いも作者のモチベーションとなります。


 これからも、宜しくお願い致しますお願い。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ